第16話 親の説得
元亀元年(1570年)6月 上総国天羽郡 佐貫城
こんにちは、酒井政明こと里見梅王丸です。
さっきまで、義継さんと、里見家の今後について、じっくりと善後策を話し合ってたんだ。で、『善(?)は急げ』って言うし、義継さんが佐貫城にいるうちに、早速、最初の策を実行してくるよ!
「ちちうえ!」
「何じゃ? 梅王丸」
「かとうのばあやは、たろうざえもんの、ばあさまだとききました」
「そうだの。加藤のばあやは加藤弘景のばあさまじゃな」
「ちちうえ! わたくしは、おじいさまと、おあいしましたが、おばあさまには、おあいしていりません。いちどおめにかかりたいです」
「梅王丸。お前のお祖母様は、おらんのだ」
「なぜいないのですか!?」
「お前が生まれてすぐ、はやり病で亡くなってしまってな……」
俺は下を向くと、はらはらと涙をこぼす。
いきなり泣き始めた我が子を見た義弘さんは、おろおろと慌て始めた。
「ど、どうしたのじゃ!? 梅王丸!」
「はい。いままで、おばあさまがなくなられていることもしらず、のうのうとくようもせずにいきてきたわたくしは、なんというふこうものなのかと……」
「い、いや、泣くでない梅王丸。そなたが悪いわけではないぞ! 父が教えていなかったのが悪いのじゃ!!」
と、そこにすかざす義継さんが口を挟んできた。
「御屋形様」
「義継、いかがした?」
「梅王丸殿の孝心は、まことに得がたきもの。とても3つの子のものとは思えませぬ。流石は御屋形様の血筋にございます。この義継、感服いたしました」
「ワハハハハ! そうであろう、そうであろう!!」
「さればでございます、間もなく母上の3回忌です。法要まではあと一月半ほどございますが、我らの出陣に合わせて梅王丸殿は久留里に赴き、法要まで滞在されてはいかがでしょう? そうすれば母上の供養が出来るのみならず、祖父である里見義堯様との交流も図れましょう」
「しかしのう、まだ梅王丸は3つじゃ。あちこち連れ回すのは……」
「御屋形様。梅王丸殿は里見の将来を背負って立つ者でござる。一度じっくりと岱叟院様に、その才能をお目にかけることに決して損はございませぬ」
「なるほど! 確かにそうかもしれん……」
流石は義継さん! あっという間に義弘さんを丸め込んじゃった!
「しかしのぉ。松が何と言うか……」
「くるりには、いぜんすんでいたではありませんか。しかもちちうえたちといっしょにあんぜんなりょうないをいどうするだけです。そうもうせば、きっと、ははうえもわかってくださいましょう」
「ううむ。そうだのう……」
「さ、ちちうえ。さっそくいきましょう!」
「ま、待つのだ! 梅王丸!!」
俺は、ぶつぶつとぐずる義弘さんを置いて広間を飛び出した。
松の方さんは若いし、俺が初めての子どもってこともあって、ちょっと過保護気味なところもあるんだよね。だから、こっちの方がちょっと時間がかかった。
ここでも大活躍したのは義継さんだった。
不安がる松の方さんに、義継さんは
「源家の正統、新田と足利の血を引く梅王丸殿が、その程度で何とかなるはずがございません」
「梅王丸殿の優秀さを岱叟院様に認めていただくまたとない機会ではございませんか。まさか、松の方さまは梅王丸殿の能力を疑っておいでなのですか!?」
なんてプライドをくすぐるような話をして、気付いたら陥落させてた。
義継さん、なんて優秀なんだろう! この人と敵対するとか、本気でナイトメアモードだよ! よくもまあ義重さんは、敵対状態で何度も頑張ったもんだね。俺はさっさと味方に付けられて、本当に良かったよ。
義弘さん?
「いや」とか「ううむ」とか「そうじゃ」とか、時々合いの手を入れてくれてたかな? おかげで、義弘さんが家族思いなのは良くわかったよ。それから、単独で、交渉ごとを任せちゃいけないってこともね!
それにしても、義弘さんと松の方さんのチョロさ。コレ、どうにかならないもんかね。策が上手くいったのはよかったけど、今後の里見家のことが心配になるよ……。




