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第152話 前哨戦

天正10年(1582年)6月4日 美濃国 本巣郡 北方城外



「撃て!」




 ドンッ ドンッ ドンッ


 俺の号令とともに、耳をつんざくような爆発音が轟くと、3門の臼砲から砲弾が撃ち出される。撃ち出された砲弾は、しばしの滞空時間を経て、城内に落下、炸裂した。




「第二撃、及び、カルバリン砲準備!」


「「「はっ!」」」


「各部隊、第二撃の着弾に合わせ、一斉攻撃を開始する。出遅れるなよ!」


「「「「「応!」」」」」




 城では火災も起こっているようだ。城外からも旗指物が乱れるのがわかるくらい混乱しているのが見て取れる。

 味方の将兵たちは、下知が出るのを、今か今かと固唾を呑んで見守っている。そして、ついに、砲兵隊から声が上がった。




信義様(若様)、臼砲、発射準備完了いたしました!」


「よし、撃て!」




 二度目の轟音が山々に木霊する。数瞬の後、カルバリン砲の一発の弾丸が城門の扉を弾き飛ばし、続けて城内に落下した臼砲の弾が炸裂した。




「突撃! 押せやッ!!」


「「「「「「「うおおおおおおおおっ!!」」」」」」




 割れんばかりの喚声を上げて、城を囲む8千の兵が突撃を開始する。




 半刻後、呆気なく北方城は落ち、西美濃三人衆の一人として強勢を誇った安藤守就(伊賀守)は物言わぬ首となって、俺の前に現れた。




稲葉一鉄(伊予守)殿、早く決着を付けるためとは言え、持ち城を壊してしまい申し訳ない」


「いやいや、元はこの安藤めの持ち城、後生大事にとっておいたことで、斯くなる失態を演じました。里見信義(上総介)殿に謝られては、こちらも立つ瀬がござらん」


「一鉄殿の武勇にかかれば、安藤守就(伊賀守)など、我らが助太刀などなくても余裕で討ち果たせたのでしょうが、明智(惟任)退治のためには、一鉄殿の力は欠かせぬと考え、無理を申して参陣いたしましたもので……」


「……そこまで儂のことを! いや、このような益体もない城など、元々壊すつもりだったのでござる。此度こたびいくさで壊す手間が省けましたわ!」


「そう言っていただければ幸いにござる。斎藤利堯(玄蕃助)殿も、御助力かたじけのうござる」


「いや、我らは叔父の援軍に出たまでのこと。里見殿こそ、はるばる助太刀にお越しいただき、感謝いたします。それにしても、高遠の戦の話は噂に聞いておりましたが、大砲おおづつの力は目を見張るものでござるな!」


「いや、今回は上手くいきましたが、なかなか狙いを付けるのが難しく、野戦では使いづらい代物にござる。城攻めならばこのように役に立つのですが、やはり、最後は人の力。此度の勝利も稲葉一鉄(伊予守)殿と斎藤利堯(玄蕃助)殿のお力あってこそにござる」


「そこまで我らを買って頂けるとは! 我らは美濃を守り抜くことで精一杯と思うておりましたが、是非とも陣の末席にでも加えてくださいませ」


「嬉しきお言葉! 既に我が先鋒隊が不破関を押さえてござる。紀州に攻め入る途上であったため、兵糧もふんだんに準備してございますので、準備が済み次第、順次近江にお越し下され」


「「応!」」




 皆さんこんにちは、梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。

 本能寺の変が起こってまだ2日しか経たないのに、もう美濃で反乱が起こってたんだ。起こしたのは安藤守就あんどうもりなり。元西美濃三人衆の一人で、2年前に信長さんの不興を買って追放されてた。それが、目ざとく乱後の混乱を見越して挙兵して、旧領の北方城を奪回してたの。もう80近いはずなのに凄い執念だよね。


 だけど、そんなの俺が許さない。現領主の稲葉一鉄さんと、岐阜城の留守を任されてた斎藤利堯さいとうとしたかさんを誘って、1時間で制圧してやった。


 ちなみに誘った2人だけど、日和見を図ろうとしてた節がある。だから、里見こっちの力を見せつけた上で、おだて上げて“光秀討伐軍”に参加させたよ。



 日和見とか、役に立つのか、って?


 不安が無いわけじゃないよ。でも、こういうのは数が物を言う世界でもあるんだ。敵を罠に引きずり込んだ第3次国府台合戦とか伊王野合戦とかとは違って、今回はこっちが攻める側。アウェーの戦いにしないためにも、一人でも多くの味方が欲しいとこだからね。



 今のところは、他に、大垣城主の氏家直昌うじいえなおまささんや、竹中半兵衛さんの弟の重矩しげのりさんなんかが味方として参陣、既に近江に出陣してる。


 里見勢1万5千と併せると、こっち方面の総兵力は2万2千ぐらいにはなるはず。徳川勢が何人ぐらいになってるかは、距離があるんではっきりしないけど、史実どおりなら甲賀あっち方面は、蒲生賢秀さんや山岡景隆さんたちと合流できるずだし、場合によっては北畠信雄さん(バカぼん)の兵も加わるから、最低でも1万5千は行くと思う。ここまで増えれば各個撃破は無いだろう。何せ徳川勢だからね!



 さて、その近江方面なんだけど、実はちょっと侵攻が遅れ気味。なんと、山本山城主の阿閉貞征あつじさだゆきが、秀吉さんの居城長浜城を狙って攻め寄せるってアクシデントがあったの。彼、信長さんの直属だったはずなんだけどね。


 そのせいで、半日ぐらい遅れちゃった。現在の先鋒隊は佐和山城を出てさらに南下中。今日中には愛知えち川の線まで到達したいって報告が入ってる。できれば安土まで到達したかったけど……。この調子だと、明智の方が先に到着しちゃうかな?












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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[良い点] 今後の展開、史実からどんどん外れていきそうなのが凄く楽しみです。 [気になる点] ず~っと気にはなっていたんです。 誰かツッコまねぇかな、と思っていたんですが、誰もツッコまないので一言。 …
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