第131話 土浦城での会合
主人公の輩行名を『太郎次郎』にしました。意味合いとしては、『義弘の長男』だけど『義頼(※養子)がいるから次男』ということで。それに伴って、129話のルビを若干変更してあります。
天正10年(1582年) 1月 常陸国 新治郡 土浦城
穏やかな新春の光に包まれながら、俺の頭に烏帽子が乗る。
その瞬間、大広間に「「「「わっ!!」」」」と歓声が上がった。
皆さんこんにちは、梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。
家臣や従属大名家の皆さんを前に、3度目の元服披露をしてるところだよ。
烏帽子を被せてくれたのは、当初の予定どおり足利頼淳さん。これで積もり積もった義理は、しっかり果たしたんじゃないかな?
この後? 宴会だよ宴会!
みんな、何かあったら飲まないとやってられない人たちなんだもん。
いや~、こういう時だけは信長さんの有り難さが身に染みるよ。なにせ、飲まされずに済むからね(笑)
酔えもしないのに酒を飲まなきゃいけないのはキツいけど、主賓が逃げるわけにもいかないから、頑張ってくるよ。
え? 鶴姫さんの披露はどうした、って?
え~と……。ちょっとおめでたでね(笑)
どうやら、1回目で当たっちゃったらしいんだよ。
なんでそんなことが分かるんだ、って?
うん、初夜の後、「参考までに」って、月の物のサイクルを聞いてみたら、ちょうど『確率の高い日』だったんだよ。とりあえず、「しばらくは無理をさせたくないから」って理由を付けて、『危ない日』をやりすごしてから2回目をしたんだ。
……もうお察しの通りだよ。鶴姫さんに次の生理は来なかったってわけだ。
それにしても、こんなに相性が良かった(?)とは、ね。
まあ、できちゃったものは仕方ない。いろいろと調べて、しっかりと栄養を取ってもらって、体に良いことを実践してもらってるところなんだ。
幸い悪阻も軽く済んだし、このまま無事に出産を迎えてほしいもんだよ。
「ワハハハハ! 信義様! 何をブツブツ呟いておられるのですかな? ぜひワシからも一献」
「おお、酒井忠次すまん。ちと考え事をしておってな」
「さては、奥方様のことでも考えていらしたのではありませぬか?」
「な!」
「図星ですか! いや~、お熱いですな!」
注がれた酒を一息に飲み干すと、杯の縁を懐紙で拭い、忠次に返す。
「返杯だ! さて、忠次」
「はっ!」
「知らぬ土地で日々大変だと思うが、よろしく頼むぞ。なるべく早く帰してつかわすゆえ」
「いやいや、嬉しきお言葉かな! 若様の御配慮、常々『有り難きこと』と感謝いたしております。されど、我ら里見家で骨を埋めるつもりで参りました。遠慮は無用にござる。ビシビシこき使うてくだされ」
「その方こそ嬉しいことを言ってくれるではないか! さ、さ、もう1杯!」
「おお、これは催促したようで!」
忠次は、なみなみと注がれた杯を飲み干すと、やおら立ち上がり。皆に口上を述べ始めた。
「御参会の皆様。三州は井田郷の出、酒井左衛門尉にござる。新参者なれど若様から2度も杯を頂戴いたした。御礼として『えび掬い』を披露申し上げる。さあさあ手拍子をお願いいたしまする!」
「よ!」
「待ってました」
もうみんな、かなりできあがってたんで、大盛り上がりだった。
それにしても、伝説の『えび掬い』を生で見られるとはね。後で絵に描いて残しとかなきゃ!
そんなこんなで、この日は終わった。
で、次の日。
土浦城の大広間には、昨日の面々が全て集まってた。最後に小姓を引き連れた義頼さんが高座に座ると、会議が始まった。
「皆の衆。正月早々、我が義息信義の元服披露に集まってもらい感謝いたす。さて、今日は2つ伝えることがある。まず1つ目じゃ。政宗殿、これへ」
「はっ!」
俺の隣に座ってた政宗くんが、高座に上がる。
「既に見知っている者も多いかと思うが、こちらは伊達政宗殿じゃ」
「伊達輝宗が嫡男、政宗と申します。皆様お見知りおきを」
「政宗殿は人質として伊達家より当家に遣わされておるが、実は、当主の輝宗殿からの御要望もあり、当家において初陣をなさることとあいなった。
伊達家は何代にもわたって奥州探題を務められた名門じゃ。伊達殿の期待に応えるためには、我らも総力を挙げねばなるまい。よって、正月早々で申し訳ないが、皆にも出陣の支度を頼みたい。
下総、常陸、下野の衆は2月1日までに、ここ土浦に参集せよ。
上総、安房の衆は船を使う。上総湊城に同じく2月1日までに参集いたせ。
陸奥の衆はまだ雪も残っておろうから、こちらの軍が陸奥に入ったときに合流してくれればよい」
「殿!」
「真壁氏幹いかがした?」
「新年早々出陣とは腕が鳴りますな! して、どちらに出陣いたすので?」
「悪いが相手に準備の機会を与えるわけには参らぬゆえ、出陣先はまだ秘する。ただし、短くても凱旋まで2か月程度はかかるであろうから、しっかりと準備は整えるように」
「「「「「「はっ!」」」」」」」
「さて、2つ目じゃ。此度は、このように陣触れを出したが、皆の衆は面倒には思わぬか?
以前であれば、触れが出ても5日もすれば集まることができた。ところが今では、参集場所を分けても10日では集まることが難しくなっておる。
そこでじゃ。ここ土浦に屋敷を与えるゆえ、家臣の半分程度を土浦に住まわせぬか?
確かに国元が手薄になる心配はあるが、現在、我らの分国のほとんどは、外敵と直接境を接しておらぬ。だから、多少手薄になっても大事はあるまい。
ま、初めての試みゆえ、色々と考えることはあろう。質問があれば何なりと申せ」
「殿。よろしいでしょうか?」
「おお、小田氏治。何じゃ?」
「我らの所領、小田郷は、ここ土浦の目と鼻の先にござる。そんな我らも土浦に住んだ方がよいのでしょうか?」
「うむ。この試みの目的は、戦における兵の参集を早めるためじゃ。
今でもすぐに参集できる小田氏治や大掾清幹まで、無理に土浦に住む必要は無いぞ。
まあ、住まずとも屋敷は与えるし、住むのであれば、そちらの方が多少なりとも伝達が早まるゆえ、こちらとしてはありがたいことではあるがな」
「なるほど。わかり申した」
「ならば良し。ま、急な話ゆえ、こちらについては参集時に改めて意志を聞くことにする。皆の衆、それまでにしっかりと一族の考えをまとめておくように。解散!」
「「「「「「応!」」」」」」」
こうして、諸将は自分の領地に戻っていった。
さあ、次は政宗くんの初陣だよ! 親友として、俺がしっかり露払いをしてあげなきゃね!