第13話 型の披露 ※地図あり
※後書きに当時の勢力図を載せてあります。
永禄13年(1570年)2月 上総国天羽郡 佐貫城
こんにちは、里見梅王丸こと酒井政明です。戦に出ていた義弘さんが帰ってくるらしいですよ。
ほら! 足音が……。
「松、梅王丸! 今、帰ったぞ!」
「殿 、おめでとうございます」
「さすがは ちちうえです」
「おう! ここまで骨を折ってまいったが、やっと勝浦の正木時忠を下すことが出来たわい。これで下総も切り取りにかかれるというものじゃ。今年こそは北条の奴原に目に物見せてくれようぞ!」
「それは素晴らしいことでございますね」
「下総を押さえれば、関宿城の梁田殿と呼応して、藤政様を古河の御所にお連れすることも出来よう」
「まあ! 嬉しいお話ですこと。聞けば必ずや、藤政も喜びましょう! 殿、ありがとうございます!」
「うむ。お喜びいただければ何よりじゃ。それにしても、最近体の動きが特によい。いくら槍を振るっても息が上がることがない。まるで若返ったようじゃ。この塩梅なら、百戦も容易そうじゃわい!」
「これも梅王丸のおかげでございますね」
「なぜ梅王丸なのじゃ?」
「梅王丸が嫌がるからと、殿は御酒を控えられるようになったではございませんか。あの当時の殿と比べますと、今は大変顔色がよろしゅうございます」
「そうか! ワシはそれほど酒毒に侵されておったか! それでは、今後も控えねばならぬのぉ」
「はい、お家のため、我々母子のためでございます。殿お一人の体ではございません。くれぐれもお体をお労りくださいませ」
「あいわかった! して、梅王丸。息災であったか?」
おっと、来なすった!
ここは上手く話を持っていかなくちゃいけないところだ。上手におねだりしないとな!
「はい、ちちうえ! うめおうまるは いつもげんきでございます」
「おお! 立派に挨拶が出来るではないか! しばらく会わない間にずいぶん成長したの! 流石は八幡太郎義家公に連なる里見の子じゃ!」
「ええ、八幡太郎義家公に連なる足利の子でございます!」
「「ははははははは」」
……いい加減にしてほしいぜ! 義弘さんも松の方さんもそれしか無いのかよ。
気を取り直して、ちょっと転生者の片鱗を見せますかね。
「あいさつだけではございません! さいきんは かたなのけいこもはじめました。ごらんください」
腰に差した特製の幼児用木刀を使って、一刀流の型を披露する。
前世?の記憶だから、2歳の俺が再現できるかは怪しかったけど、それなりに動けるようになってから毎日稽古を続けたら、だいぶ形になってきた。一刀流免許皆伝の記憶は伊達じゃないね!
最初は松の方さんたちと一緒に、幼い我が子の微笑ましい行動に、ただまなじりを下げていた義弘さん。流石はこういうところは武闘派の戦国大名だ。途中から目の色が変わってきた。
「……奥よ。梅王丸は天下無双の武士になるやもしれん」
「ほほほ。さすがは足利の子……」
「梅王丸! その型は誰に教わった?」
「? わたしがおそわったものは、ありません」
うん、義重さんが教わったんであって、俺が教わったわけじゃないからな!
「なんと! 独学でこれか!! よし、梅王丸。誰ぞ高名な剣術の師匠を付けてやろう。希望はあるか?」
よし! とりあえずふっかけてやれ!
「では、『つかはらぼくでん』さまを」
「な! 塚原卜伝とな!? また、難儀なところを!」
「……できませぬか?」
「まあ、鹿島は正木時忠の所領、小見川城の対岸じゃ。数日後に、一門・重臣の多くが久留里で一堂に会し、里見義堯に、戦勝と帰参の報告をいたすことになっておる。その折にでも話してやろう」
お! ツいてる! もっとおねだりしちゃえ!
「ちちうえ! わたしも つれていってくださいませ!」
「いきなりどうしたのじゃ?」
「はい、わたしも おじいさまや おにいさまに おめにかかりたいのです!」
「お兄さま? ああ、義兄のことか! 良いぞ! 連れて行ってやろう!」
「殿!?」
「(大丈夫じゃ! 梅王丸のこの姿を見せれば、父上も義継もその才を見抜くであろう。そうすれば、父上が因果を含めて、義継が自ら身を退くように話してくださるかもしれぬ)」
「(なるほど! 流石は殿)」
「「ははははははは」」
……この人たち本当に脳筋だよな。そんなに上手くいくかっての!
でも、これで里見義堯と里見義継に面会できるんだ。
さあ、また作戦を考えないとね!




