第128話 元服披露と婚礼の儀
天正9年(1581年)7月 相模国 東郡(鎌倉郡) 鶴岡八幡宮
皆さんこんにちは、梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。
今日は俺の元服披露と、鶴姫さんとの祝言が行われるんだ。
里見家からの参加者は義頼さんと、松の方さん、土岐為頼さんといった一門衆が中心だよ。でも、石清水八幡宮での本来の元服式に参加した義弘さんたちは、今回は土浦でお留守番だ。
義弘さん、ずいぶんと来たがってたみたいだけど、義頼さんに「では、私の代わりに参加なさいますか?」って聞かれて諦めたんだって。当主の嫡男のお披露目に、当主自身がいないってのは流石に拙いって理解したみたい。
なにせ、俺は嫡男とは言え、義頼さんの養子。同盟国を交えた元服披露と婚礼の式に当主不在は拙い。『当主と嫡男の仲が冷え込んでる』って思われて、余所から変な勘ぐりを受けることになりかねないからね。
あと、時期も悪い。
何が悪いんだ、って?
今は完全な農閑期なんだよ。そんな時期に守りを手薄にしてたら、どこから戦をふっかけられるか分かったもんじゃないだろ? まあ、正月とかだったら慣例的に許されるかもしれないけど、残念ながら今は夏。誰かが残って対応にあたるのが当然だよね。
だから、今回は重臣衆を含め、家臣団からの参加は基本的に『無し』ってことになってる。
ちなみに、これは北条家も一緒、って言うか、こっちの方が、より『重い』。
例えば、当主の氏政さんと世継の氏直さんは参加してるけど、氏照さんは武蔵、氏邦さんは上野、氏規さんは駿河で、それぞれ武田と対峙してるんだ。
里見は色々と討伐しちゃったんで、隣接してる大敵は実質的にいない状況だけど、北条は武田と長い国境線を挟んで睨み合ってるから大変だよね。
そんな状況なんで、氏政さんには「次の正月にしませんか?」って振ったんだけど、「何が起こるか分からないから」って断られちゃった。
こっちとしては前科があるから何も言えなかったよ(笑)
ちなみに、次の正月には重臣衆や小田天庵さん、佐竹信義さんみたいな東関東から南東北にかけての従属大名、千葉良胤さんや、武田豊信さん、簗田晴助さんみたいな同盟者も招待して、里見家中でのお披露目もする予定だよ。
本来はそこまでしなくても良いんだけどね。でも、かつての敵対者に見せておいて、古くからの同盟者や譜代の家臣たちに紹介しないのも、どうなんだろうって、ってことで、決まったらしいよ。
ただ、俺はこの『お披露目会』、やるからには後の領地経営の安定化のため、上手く使えないか、ちょっと頭を捻ってる。まだ完全にはまとまってないんだけど、良い感じの案も出てるんで、土浦に帰ったら義頼さんと相談かな?
いや~、長かった!
元服披露から、結婚式へのコンボだから仕方ないっちゃあ仕方ないけど、それにしても長かった!!
まずは鶴岡八幡宮に参詣して、改めて八幡様に御挨拶。それから、古河公方の足利義氏さんに烏帽子を被せてもらった。
ちなみに正月に領内でお披露目するときには、その役を小弓公方の足利頼淳さんにお願いする予定だよ。面倒くさいけど、何事もバランスを取らないと上手くいかないからね。
足利藤政さんはどうした、って?
実は、去年の冬に疱瘡にかかって、呆気なくお亡くなりになってた。正木憲時さんの死を乗り越えて、人としてずいぶん成長してたらしいんで、ここで亡くなっちゃったのは本当に残念だよ。
俺の領地では、試験的に馬痘を使った種痘を始めてたんだけど、流石にいきなり他家の人には施せないからね。ちなみに義氏さんの長男だった梅千代王丸さんも、前後して亡くなっちゃってる。だから関東公方家に関しては、本格的に史実どおりの展開になりそうな気配がプンプンしてるんだ。
いかんいかん、また話が脱線しちゃった! 話を戻そう。
小田原から鶴姫さんを乗せた輿が到着するのを待って、婚礼が行われたのは午後からだった。媒酌人は、やっぱり義氏さん。なんせ一番都合が良かったからね。
だって、義氏さんは、俺と血が繋がった伯父さんであると同時に、鶴姫さんにとっても大叔父さん兼、義理の叔父さんなんだよ。そう考えるとかなりの適役だろ?
え? なかなかエグい血縁関係してるな、だって?
その辺は戦国思考だから仕方ないよ。でも、南関東の諸家は、まだマシな方で、東北とか北関東とかマジでシャレにならないんだからね? ウソだと思ったら調べてみると良いよ。俺なんか調べてて頭が痛くなってきたからね。
本当は媒酌人なんかも信長さんあたりに頼んだ方が箔も付くんだろうけどね。たぶん信長さんも頼めばやってくれると思うし……。
でも、頼むからには、こっちが上洛しなきゃいけないし、上洛なんてしようもんなら、次はいつ帰ってこれるか、わからないから、頼むに頼めないって話もある(笑)
さて、里見家礼法奉行の小笠原秀清さんプロデュースの婚礼は、古礼に則って厳かで、大大名同士を縁づけるのに相応しいものになってたと思う。流石は小笠原流の家元(?)だね。
そのせいで儀式部分がメッチャ長くなっちゃったんだけどね(笑)
長い儀式が終わると、そのままの流れで宴会が始まった。
色々な意味でじらされてたこともあって、みんなよく飲んだ。それはもう飲んだ。俺も、しこたま飲まされた。前にも言ったけど、俺、酔えない体質になってるんで、飲んでも楽しくないんだ。でも、我慢して飲んだよ。だって俺たちのことを祝ってくれてるんだからね。
で、飲ませに来た連中は全員酔い潰しておいた(笑)。これで、無闇に俺に飲ませに来る奴はいなくなるだろ(ニヤリ)。
鶴姫さんはどうした、って?
早々に宿所に避難させたよ。俺はチートで何人でも相手にできるけど、フツーの娘が付き合って飲んでたら死んじゃうからね!
さて、大人のあしらいをしてたら、だいぶ遅くなっちゃった。でも、何とか抜けることができたんで、やっと鶴姫さんの所に行けるよ。
さあ、夜はココからが本番だよ!