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第127話 北条家への挨拶

天正9年(1581年)6月 相模国 西郡(足柄下郡) 小田原城



北条氏政(左京大夫)様、此度こたびは元服の挨拶が大変に遅れ申しわけございません」


「それほどかしこまらずともよい。書状にてあらましは伝わっておるが、色々と大変だったらしいの。それにしても、信義(上総介)殿は、上方では初陣だけでなく、各地を色々と転戦なさったそうではないか。『び』と言うのもなんじゃが、その時の活躍を聞かせてはくれぬか?」


「歴戦の皆様方の前で、12の若造が何かを申すは、誠に恥ずかしきことなれど、これがお詫びになるのでしたら、いくらでもお話しいたしましょう。とりあえず、初陣の淡路岩屋城のことを………………」







 皆さんこんにちは、梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。

 なんか、氏政さんにせがまれて、俺の武勇伝を語らされてるとこだよ。ちょっと恥ずかしいんだけど、これで機嫌が良くなってくれるんなら、まあ良いんじゃないかな?


 本当だったら、これを年始に行う予定だったんだけどね。思い返せば、熊野の狂犬どもが、身の程もわきまえず喧嘩を売ってきやがったのがミソの付き始めだったよ。そこから始まった怒濤の日々のおかげで、約半年遅れての『ご挨拶』になっちゃった。


 それでも、ガレオン船2隻に、みんや南蛮渡りの珍品も手土産に持ってきたから、北条家を軽視してるわけじゃないってことはわかってくれたと思う。それに、俺、三河から直接、相模さがみに乗り込んでるんだぜ? まだ里見家(家族)への挨拶どころか、上総(本領)に帰ることすらしてないんだ。ここまでしてるんだから誠意は伝わってるものと信じたいよ。






「…………………我らが本丸へ乗り込みますと、目の前に敵将が現れ、槍をしごいて一直線に我が方に向かって参ります。しかし、その時は生憎、我らに槍はございませんでした」


「なんと! それでは如何様いかようにいたしたのじゃ?」


「はい。敵将の槍筋は誠に鋭いものがございましたが、幸いなことに、かの槍は十文字槍ではございませんでした。刺突に沿って太刀を被せれば、穂先はスルリと我が体の芯から外れていきます。そうなれば、もう太刀の間合い。一気にを詰めれば、それにて勝負は決まっておりました」


「槍をものともせぬとは! 流石は新當流皆伝の腕前じゃな!」


「ありがとうございます。『槍は難敵なれど、間合いに入りさえすれば、刀が強い』という師匠の言葉を守ったまででございます」


「いやいや、なかなかできることではない。して、その後はいかがいたした?」


「岩屋の城が落ちますと、摂津から津田信澄(七兵衛尉)殿、播磨から、羽柴秀吉(筑前守)殿の大軍が上陸しましたので、後は、両軍の後を付いていくだけ。活躍どころかいくさすら……」


「いや、そうではない。熊野や遠州でも活躍だったそうではないか。そちらはどうだったのじゃ?」


「そちらでございますか? 淡路の平定が済み、我らが関東に戻ろうと、紀州沖を航行しておりますと…………………」







 結局、1刻(2時間)以上しゃべらされて、やっと解放されたよ。それにしても、大砲を撃つ話をすると北条家の面々が『頭がおかしい人を見る顔』になるのは何とかしてほしい。そう考えるように仕向けたのは里見こっちのせいだけど、話をさせときながら、そんな顔をするのは流石に失礼だと思うんだけどね。



 ちなみに、今回小田原城に来たのは、元服の挨拶だけじゃない。俺と鶴姫さんの祝言の日取りを決めるためでもあったんだよ。


 だから、氏政さんとの面談を終えるとすぐ、鶴姫さんたちのとこに向かったんだ。けど、男性陣が話を引っ張りまくったおかげで、奥の間に入ったら長々と待たされてた女房衆(女性陣)は大変御機嫌斜めだった。




瑞渓院ずいけいいん様、ご挨拶が遅れ、誠に申しわけございません」


「事情を聞けば致し方ないこととは思いますが、ちと、遅れすぎではございませぬか? まあ、今日のことは、氏政(左京大夫)殿を始めとする男衆の責任ですから、そなたに四の五の申しませぬが、まさか、半年も帰還が遅れるとは」


「はい。全くもって、申し開きのできぬことでございます。私にできることでしたら、どのような償いでもいたします」


「鶴や、信義(上総介)殿は斯様かようにおっしゃっているが、いかがいたす?」


「はい。鶴は、信義様にお越しいただけただけでも嬉しいのですが……。せっかくですからお言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」



 おお! 嬉しいこと言ってくれるじゃん! ここまで言われちゃったら、かわいい婚約者のためにも一肌脱がないとね。


 気持ちが高揚した俺はこう答えた。




「ええ、何でもおっしゃって下さい。私にできることでしたら何でもいたしますので!」


「まあ! 嬉しい! では、まずは私の半年の長刀なぎなた修行の成果をご覧いただきとうございます。それから、父上や兄上に話した、上方かみがたでのお話をお聞かせいただきとうございます。あ! せっかくですから、信義(上総介)の焼く鰻の蒲焼も食べとうございます……」


「……ハ、ハイ、ヨロコンデー」





 この後?


 もちろん、鶴姫さんの要望を1つずつ叶えていったよ。


 まずは、長刀の稽古ね。『稽古をするからにはきちんとしよう』ってことで道場に移動したんだけど、ゾロゾロと侍女さんとかがいっぱい付いてくるんだよ。「あれ?」って思ってたら、付いてきた全員が稽古の支度をし始めるじゃん! 俺、この人数相手にするの!?



 結局、20人の女房衆に2時間稽古を付けた。……いや、付けさせられた。


 確かに、武術の師範でもある俺が『稽古を付ける』ってていではあったんだけどさ、相手は20人いるからいくらでもインターバルを取れるけど、こっちは休み無しだからね。



 鶴姫さんの腕はどうだった、って?


 うん、かなり強いよ。全く手を抜けなかったよ。だいぶスリムになったとは思ってたんだけど、これは相当しっかり修行をしてるね。



 2時間休み無しでの稽古が終わったと思ったら、今度は2時間半、上方かみがたでの話を披露させられた。話してるうちに日が傾いてきたんで解放されたけど、当然、これで終わりじゃない。


 うん、きちんと鰻まで焼いてきたよ。



 最後は鶴姫さんたちも上機嫌。今回の接待は大成功だったんじゃないかな?


 でも、俺にとっては、今日がこの半年で一番の苦行だったけどね。





 女は怖い!!





 あ、ちなみに氏政さんたちは、瑞渓院(実母)に呼び出されてメッチャ怒られてました。罰として俺が焼いた鰻も食べさせて貰えなかったんで、かなりしょんぼりしてたよ。









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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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