表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/297

第118話 関東への帰途にて

天正8年(1580年)12月 紀伊国 牟婁むろ郡 那智勝浦沖



 皆さんこんにちは、梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。

 関東に帰るため、紀伊半島沖を航行中だよ。


 淡路全島の攻略が終わった後、俺はすぐに安土に向かったので。そして、信長さんに拝謁して、お褒めの言葉をいただいたんだ。


 あ、安土に行ったのは俺だけね! 秀勝さんは秀吉さんと姫路に行ったし、信澄さんは「戦後処理があるから」って、淡路島に残ってる。



 そんな感じで、俺だけが拝謁することになったんだけど、信長さんとしては、ひ弱な秀勝さん(4男)の初陣も済んだし、優秀な信澄さん(甥っ子)に箔を付けてやれたしで、終始上機嫌だったんだ。


 これで、無事にミッション終了。やっと俺は関東に帰れることになったの。もう、出発してから3か月近くが経ってるんだ。いや~、長かった!


 あ、そうだ、信長さんが上機嫌な理由がもう一つあった! 行きに乗ってきたガレオン船なんだけど、そのうち3隻を「関東にお越しの際にはお使いください」って献上しといたんだ。



 技術差が縮まるんじゃないか、って?


 いや、ガレオン船自体はマニラでも造船してるような『枯れた技術』なんだ。だから、本気で造ろうと思えば、それほど難しくはないんだよ。下手に秘匿して、信長さんに猜疑心を持たれるほうがよっぽど問題がでかいはず。だから、気前よくあげちゃったの。なにせ、中古だしね!


 こんな感じなんで、帰りのガレオン船は7隻になっちゃった。



 3割減で全員乗り切れたのか、って?


 うん。行きは引き出物とかも積んでたからね。それに元々ある程度冗長性をもたせた編成だったから、余裕だったよ。



 ちなみに、信長さんにあげた船だけど、大砲は付けてない。


里見うちの技術だけでは鋳造砲までしか作れません。今まで最短3射目で破裂したことがありますけど、どうしますか?」って聞いたら、「そんな危険物は要らないから持って帰れ!」だってさ。



 既に日立に高炉を作ってあるんで、鋳鉄自体の生産量は飛躍的に上がってるんだけど、反射炉だと効率が悪くて、鋼鉄の生産量はなかなか増えてないんだ。だから鋼鉄製の大砲なんか作ってる余裕はまだない。


 そもそも、基本的に里見うちの大砲は青銅製。これも鋳造ではあるから嘘は吐いてないよ。で、そっちの生産については秘密にしてるから、みんなは『元々付いてたスペイン製を使い回してる』って思ってるはず。


 何時いつかはバレるだろうけど、少なくてもあと数年、ここぞって時までは秘匿しておきたいもんだよ。






 取りあえず、用事も済んだし、さあ関東に帰ろう! って大坂を出たのが12月20日だった。


 ちょっと遅くなっちゃったけど、よっぽどの天候不順とかがない限り、年内には関東に戻れるはず。






 ……って、予定だったんだけどね。





 出やがったんですよ。アホどもがぞろぞろと!


 俺たちは、7隻のガレオン船と随伴の複数の関船で大坂を出帆し、昼過ぎに潮岬を越えたんの。そしたら、熊野水軍の連中が性懲りもなく襲ってきやがったんだ!!



 流石に堪忍袋の緒が切れた。前回は俺の初陣に支障が出るから、遠間から大砲を撃って追い払うだけだったけど、今回は初陣も終わったからもうなんの遠慮も必要ない。




正木堯盛(淡路守)、学ばぬアホはどうすべきだ?」


「しっかり調教してやらねばなりますまい」


「よし、信号旗を揚げよ。20けんまで引きつけて砲撃! その後追撃戦に入る。恐いもの知らずの熊野水軍アホどもに里見の怖さを思い知らせてやれ!!」


「はっ! よし! 野郎ども! 若様のお許しが出たぜ! 思いっきり暴れてやろうじゃねぇか!」


「「「「応!!」」」」



梅津道金(長右衛門)。馬廻衆もいつでも斬り込みをかけられるように準備を怠るな」


「はっ!」





 数分後、熊野水軍の軍船およそ50艘が、弓鉄砲を放ちながら近寄ってくる。こちらからの反撃がないことを見くびってか、「通行税(関銭)を払えば許してやるぜ!」とか叫んでるのも聞こえてくる。


 くそ! ふざけやがって!! でもまだ我慢だ、我慢!




 そして、奴らが接舷をしようと鍵縄を振り回し始めたとき、新たな信号旗が翻る。それを合図に、ガレオン船の大砲が一斉に火を噴いた。


 さあ、反撃開始だ!! しっかりと鬱憤を晴らしてやらないとね!!!!



 この至近距離じゃあ、全く当てない方が逆に難しい。砲撃が終わった時には、敵船の甲板上では将兵が何人も吹き飛ばされ、10艘以上の船腹に穴が開いてた。よくよく見れば、喫水線下に穴が開いたみたいで既に傾き始めた船もある。


 当然ながら熊野水軍()は大混乱をきたしてた。呆然とする者あり、泣き叫ぶ者あり。中々気の毒なことになってるね。でも、ここはさらに石打つ場面だ。




「大砲は次弾の装填を急げ。装填ができた砲から射撃を開始せよ」


「「「はっ!」」」


「鉄砲隊、弓隊。船上に顔を出している粗忽者にたんと御馳走してやれ! 立派そうな身なりのヤツこそ入念にな」


「「「はっ!」」」




 大砲の轟音の狭間で、弓鉄砲が雨霰と降り注ぐ。手も足も出ずに何隻もの船を沈められた熊野水軍は恐慌を来し、港に向かって逃げ始める。




「追えや!!」




 里見水軍こちらは、それを追って湾内に突入する。そして、南から順番に太地、森浦、湯川、勝浦、那智と、次々に熊野水軍の港を焼き討ちしていったんだ。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[気になる点] 熊野は熊野大社と朝廷と、と言うか帝と繋がってるから気をつけてねー!
[良い点] > 次々に熊野水軍の港を焼き討ち 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ! とはいえ、倍返しどころじゃないですね。 [一言] 熊野水軍「おかしいですよカテジナさん!」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ