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第110話 免許皆伝!

11/2『秋の歴史2023』に投稿した短編を103話に挿入しました。未読の方はぜひご覧ください。なお、後書き部分に新エピソードを追加してありますので、既読の方は後書き部分だけでもぜひ!

天正8年(1580年)4月 常陸国 鹿島郡 松岡則方まつおかのりかた



「ヤァッ!」

「トォッ!!」

「ヤァッ!」

「トォッ!!」


 ピンと張り詰めた空気の中、2人のかけ声に合わせて、カッカッと木刀が打ち合わされる音が響く。


 十人以上の益荒男が固唾を呑んで見守る中、打ち合いは、面ノ太刀、中極意と進み、10を超える大極意をもって幕を閉じた。



 別れた2人が神棚に礼をし、下がるのを見て、溜息のような長い息が、観覧者から吐き出される。




「いやはや驚いた。まさに師の太刀に瓜二つであった。のう、松岡則方(兵庫助)殿!」



諸岡常成(一羽)殿、まさにその通りでござる。


 この則方(兵庫助)、10年前に梅王丸様3歳のみぎりに、いきなり初見で形を習得された時は、それはもう驚いたものでござる。ところが、今日拝見いたしましたところ、あの時からさらに洗練されておりまする。この10年、正しい修行を積まれてきたようですな。


 して、真壁氏幹(安芸守)殿、実際に打太刀うちたちを務めていかがでござった?」



「いやはや驚き申した! 正直なところ、則方殿から手紙をいただいた時には疑うばかりで……。失礼を承知で申しますと、『まだ、13の小童ができるはずもない』と思うておりました。己の不明を恥じるばかりでござる」


「知らねばそう思うのも致し方なかろう。が、知らば、間違いと気付いたでござろう?」


「いかにも! 打太刀として押されることも多く、どちらが先達やら、わからぬほどでござった」


「では?」


「新當流免許皆伝にふさわしゅうござる」


「異議無し!」


「うむ、わしも異議無しじゃ!」




 皆さんこんにちは、上総介 里見梅王丸こと酒井政明です。

 今日は、新當流の免許をもらうために鹿島の松岡則方さんの家に来てるよ。ご覧のとおり、新當流の皆伝は貰えたみたい。正直言ってホッとしてるよ。


 実は、先月、則方さんに『稽古を積んだからみてほしい』って手紙を送っておいたんだ。だから則方さんが修行の成果を見てくれるもんだと思ってたんだよ。


 ところが、鹿島に来てみたら、諸岡一羽もろおかいっぱさんに真壁氏幹(鬼真壁)さんまで揃ってるじゃん! しかもだよ、試験(?)相手は氏幹さんってことになってるんだ。そんなの聞いてないよ! さらに見届け人が則方さんだけじゃなくて、一羽さんもとか、どんだけ重厚な布陣!?


 まあ、考えてみれば、12歳の俺に免許を与えたとなったら、普通は騒ぎになる。当然知らないヤツは『主筋の大名家の御曹司に忖度したせいだ』って勘ぐってくるだろう。だから、卜伝師匠の高弟を何人も並べて、少しでも批判を減らそうとしてくれたんだろうね。それは感謝しなきゃいけないと思うよ。



 でもね、流派を興すような人が何人もいる上、馬廻(部下)の連中にも見られてる中での試験(?)なんて、とんでもない罰ゲームだと思わない?


 だから、メッチャ気合いを入れて頑張ったよ、俺。



 まあ、終わってみれば、剣豪の皆さんたちがべた褒めだし、馬廻連中からの尊敬の目差しも凄い。頑張った甲斐があったね!



 さて、そうなると、ここからもう一勝負だ。




「有り難き幸せ! これからも精進して参ります」


「期待しておりますぞ! ……それにしても惜しい。梅王丸様が大名家の若君でなけどれだけの剣客になったことか」




 則方さんの言葉に、一羽さん、氏幹さんが頷く。


 うーん義重さん(前世)の積み重ねはともかく、チートを誉められるのはなんか複雑。

 さて、気を取り直して。




則方(兵庫助)殿、皆伝をいただきましたばかりの者が烏滸おこがましいとは存じますが、塚原卜伝(お師匠)様との約束でもございます。ぜひ、例の件につきましても御教授願いたく存じます」


「わかり申した。此度こたびそれがしが打太刀を務めるゆえ、諸岡殿と真壁殿に、見届けをお願いしたく存ずる」


「「心得もうした」」


「それから……」


「心得ております」




 俺は則方さんの言葉に頷くと、馬廻(お供)の連中に、屋敷の外に出ているように指示を出す。


 当然、家臣達は抵抗したけど、『門外不出』の奥義は誰にでも見せられるわけがないじゃん。だから、しっかり追い出したよ。言って聞かせるのに時間がかかったけどね。







 しばらくして、家臣たちの退出も済み、たすきを巻いた則方さんが木刀を持って立つ。


 礼をし、互いに木刀を正眼に構える。



 俺は全てを見逃さないよう、1か所に視点を集中させず、ぼんやりと全体を包むような目付けで則方さんを観察した。則方さんの息づかいが、心臓の鼓動が伝わってくる。



 永遠に続くかと思われたその対峙。しかし、俺の目は、耳は、肌は、則方さんの技の起こりを見逃さなかった。



 瞬間、俺の木刀は則方さんの額から紙一重の所に載っていた。







「「見事!!」」


「よくぞ神髄を会得なされた。」




 兄弟子達の賞賛の言葉に包まれながら、頭の中では、10年前の師の言葉が響いていた。




「一日も早い皆伝取得、楽しみにしておりますぞ!」




 師匠! 俺、やりました!


 一筋、涙がこぼれた。










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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[良い点] 地元の歴史小説が読めるのは本当に楽しみです。 毎回更新楽しみしています。 [気になる点] 剣道において、打太刀が師範、仕太刀は弟子にあたります 勝つのが仕太刀なので、勘違いしやすいのですが…
[一言] 第26話の続編回でしたが、塚原卜伝が見せてくれた鹿島新當流の奥義『一之太刀』を10年越しに再現してみせた訳ですね。「無拍子」で「後の先」を取る極意という感じでしょうか。卜伝は足利義輝や北畠具…
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