第104話 婚約者との交流
時期的には『2023歴史企画』に投稿した『番外編』直後のエピソードになります。
天正7年(1579年)11月 相模国 西郡(足柄下郡) 小田原城
皆さんこんにちは、上総介 里見梅王丸こと酒井政明です。今日は小田原城に来たんで、婚約者の鶴姫さんと交流を深めてるとこだよ。
え?「イチャイチャしやがって!」だって?
おいおい、俺が幾つだと思ってるの? まだ11歳、早生まれだから現代なら小学5年生だよ?
ま、俺も中身は大人だから、素敵な女性とイチャイチャしたい気持ちは無くはないよ。だけど、肉体に精神が引きずられてるところもあるみたいで、まだそんな気にはならないんだよね。
それにさ、鶴姫さんは梅王丸から見れば年上だけど、まだ13歳だぜ? とてもそんな対象には見られないよ。
まあ、今はこんなことを言ってるけど、もう少し経って俺が二次性徴を迎えるころになって、同じこと言ってられるかどうか分かんないけどね(笑)
話を戻そう。離れて暮らしてるんで会う機会は限定的なんだけど、こうやって定期的に交流を深めてるし、色々と贈り物もしてるから、関係は至って良好だと思う。それに、鶴姫さんは俺のことを六韜三略に通じ、新當流の使い手で、眉目秀麗(笑)だって思ってるみたいだから、初めて会った時から好感度が高いんだよね。
これがテンプレ展開だと伊達男にコロッと騙されちゃう心配があるんで、風魔小太郎たちには定期的に情報を上げさせてる。ただ、北条家自体が俺を強く推してくれてるんで、この調子なら心配はないかな?
え? 状況が動いたんだから、信長さんの娘とかを嫁にもらった方が良かったんじゃないか、って?
里見家の将来を見たら、確かにそっちの方が有利かもしんないんだけど、それは無いかな。だって、目先の利益に目が眩んで婚姻同盟をどんどん切っていった武田とか見てみなよ。今は織田・徳川・北条に3方から攻められて四苦八苦してるじゃん?
だから、里見としては、相手から切られない限り、こっちから婚姻を破棄はしないよ。
……ちなみにこっちは表向きの理由ね。表には出せない理由に、「結婚相手は鶴姫さんが良い」っていう、『前世の想い』があるんだ。
里見義重は別人格なんじゃないか、って?
そうだよ。このとおり、基本的な精神や思考は、20世紀生まれの酒井政明のものだよ。だけど、最初に記憶をコピーしてもらったんで、16世紀に生きた義重さんの記憶も俺の中に生きてるんだよ。だから、戦国の常識を確認しようすると義重さんの記憶を掘り返すじゃん。そのたびに、鶴姫さんとの素晴らしい思い出が出てくるんだ。
日常的にそんな生活をしてたら、俺自身が惹かれてってもおかしくないだろ?
そんなこんなで、お互い慕い合ってるから、婚約自体は全く問題ないの。
ただなぁ、最近悩みがあるんだよね……。
「梅王丸様。いつも美味しいものをありがとうございます。ほれ、おかげさまでこのように、しっかりふくよかに」
あ、ちなみに、これ、イヤミを言われてるわけじゃないから! 彼女、真剣に太ったことを喜んでるんだよ。
「貧困な地域では太っている方が好まれる」って話を聞いたことないかな? 日本だって昭和の中期ぐらいまでは、『痩せ=貧乏、太り=裕福』の象徴だからね。当然、この時代だって同じだよ。
はい、鶴姫さん。来るたびに『ぽっちゃり』してきてます。
実は、鶴姫さん義重さんに嫁げなかった時は、義頼さんに嫁いで毎回早死にしてるんだ。
義重さん、最初は『義頼さんの元の奥さんに虐められたせいじゃないか?』って疑ってた。だけど、成り行きに任せた人生で調べてみたら、かなり大事にされてた。それどころか、食べ物に関しては、自分と結婚した時より、よっぽど良いものを食べさせてもらってたんだって。
まあ、考えてみれば、家督争いの真っ只中にあった義頼さんにとってみれば、大事な北条との伝手だから当然だよね。
ところが、そんなに大事にされてたのに12歳で死んじゃった。だから、不思議でしょうがなかったみたい。
でも、その記憶を知った俺はピンときたんだ。
脚気じゃないかって。
白米中心でおかずが殆どない生活をしてれば、放っておけば間違いなく脚気衝心になる。それにタンパク質が足りなかったら、身体の成長が抑制される。早婚が求められる戦国時代には、よりリスクが高いんだ。
だから今生は、彼女の健全な成長のため、鯨だけじゃなく薬扱いで山鯨とかも贈ってたの。さらに、御機嫌伺いでお菓子とか蜜芋とか甘いものもバンバン贈ってた。
うん、この成果が如実に体重として出ちゃったんだな……。
気に入られたのは良かったけど、このまま放っておいたら、逆に病気になっちゃう。これはどうにかしないと。
成長期だし食べる方は控えてもらいたくないから、ここは運動してもらう方向で行きたいね。あ、そうだ!
一計を案じた俺は、鶴姫さんを誘ってみることにした。
「鶴殿は益々ふくよかになられたようで、私も婚約者として嬉しいです」
「ま、お上手な」
「実は鶴殿に食べていただこうと、最近、鰻の蒲焼きと申す料理を開発いたしまして」
「以前に佐倉で御馳走になりました白焼きも大変美味しゅうございましたが、蒲焼きとはどのようなものでございましょうか?」
「はい、塩味と甘味が絶妙に混じり合い、その芳しい香りだけでも飯が食えるような絶品です。少なくても白焼き以上に飯が進む料理であることは私が保証いたします」
「まあ! それは楽しみです」
「ただ、今のところ作れる人間が数名しかおらず、調味料も房総か上方でしか入手ができぬもので……。今ここで御披露できぬことは誠に残念です。来春以降、鰻が獲れる時期になりましたら次回は必ずお持ちいたしますので、楽しみになさっていてください」
「……すると、良くて来春、場合によっては来秋になるということですか?」
「はい。鰻はこれから冬眠してしまいますから、簡単には獲れません。なにせ生き物相手ですから。あ、でも大丈夫です。春先より冬眠前の秋の方が美味しいですから、春の時期に獲れなくても、より美味しいものを秋に召し上がっていただけますので」
「梅王丸様? 今ならば上総まで行けば、蒲焼きとやらをいただくことはできるのでしょうか?」
「はい。上総であれば」
「わかりました。父 北条氏政に許可を取って参りますので、ぜひ私を上総にお連れくださいませ」
「(よし! 掛かった!!)鶴殿と一緒にいられるのはとても嬉しいのですが、旅は危険もございます。本当によろしいのですか?」
「はい! 嫁ぎ先との関係を深めることは大切であると、祖母 瑞渓院も申しておりました。ですから父とて異存はございますまい」
「では、上総にお越しになることを前提に、こちらも準備に入りますね」
「はい。よろしくお願いいたします」
この後、すぐ鶴姫さんは氏政さんに許可を取ってきた。どんだけ食いしん坊なんだよ! 俺もいっぱい食べる女の子は嫌いじゃないからまあいいけど。そもそも原因は俺だしね(笑)
氏政さんも、よくもまあそんなに簡単に許可を出したもんだなって感心したんだけど、聞いたら何のことはない。ごねてたのを瑞渓院さんの名前を出して黙らせたんだって。
母親に頭が上がらない氏政さんもどうかと思うけど、13歳にして氏政さんの操縦方法を心得てる鶴姫さんも相当強かだわ。俺も気を付けないと……。
さて、これで鶴姫さんをこっちのテリトリーに引きずり込む算段が付いた。しっかりと準備を整えて、迎え撃たないとね!
※ちなみに鶴姫さんですが、現時点では健康診断には引っかからないレベルです。




