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第102話 戦の裏側と後始末

天正6年(1579年)9月



 皆さんこんにちは、上総介 里見梅王丸こと酒井政明です。

 昨年末から蠢動が始まってた奥羽の混乱が、やっと一息ついたよ。


 うーん長かった。……いや、間違えた。これ、規模から見たら、どう考えても『短かった』だわ。



 最初から説明すると、こっちが戦場に選んだのは那須の伊王野。ここは、奥州街道と旧東山道がぶつかる交通の要衝だ。そんな重要な場所だから、強化してても不自然じゃないっていうのが第1のポイントだった。


 その伊王野城。人海戦術でめっちゃ強化して、そう簡単には落ちないようにすると同時に、街道沿いの宿場町全体を土塁で囲んで、一見『惣構え』風のものを造ったんだ。でも、この土塁、高さは1mぐらいしかなくて、すぐに乗り越えられるんで、正直なところ防衛にはあんまり役に立たない。



 何でそんな物を造ったか、って?


 敵の陣地にさせるためだよ!


 だって、事前に相手が陣を張る場所がわかってれば、細工し放題だろ? 低いとは言え土塁に守られてて、しかも家が何軒も残ってるんだ。使いたくなるのが人情ってもんだ。



 それに、わざわざ土塁を作ったのは、もう一つ理由がある。


 追撃を遅らせるためさ。たった1mの土塁だから、人間は何とか乗り越えられるけど、馬はそうはいかない。馬が使えなかったら、それだけでかなり追撃速度は鈍るから、反撃されても簡単に逃げられるって寸法だ。



 ここまで準備したら、近隣の住民は全員後方の大田原に避難させた。これは、敵の略奪を防ぐためと、情報漏洩を防ぐための2つの目的がある。ちなみに大田原城下には、プレハブみたいな工法で長屋を何軒も建てといた。戦が終わった後、ばらして戦場跡に持ち込めば、焼けちゃった家の代わりにもなるようにってアイディアだよ。



 で、住民がいなくなった伊王野で何をしてたか? 四方の山に大砲を運び上げて、無人の宿場に向かって散々砲弾を打ち込んでたんだよ。大砲の仰角を調整して、戦の時にピンポイントで陣地に集中砲火をかけるためにね。これ、実は副次的な効果があって、バカバカ弾を撃ち込んだせいで、家がいい感じに焼けてくれて、大軍が駐屯できるだけの更地ができちゃったんだ。おかげで手間が1つ減ったよ(笑)



 それから、内応を呼びかける使者が送られてた、佐竹義重さん、大田原綱清さん、大関高増さんといった諸将には、内応を応諾してもらった。


 うん。当然芝居だよ。まあ、こっちが負けそうになったら、本気で裏切れば良いんで、美味しい役割だけどね。



 それから、領地を没収されてた伊王野資信さんには、“伊王野情報”を連合軍に流してもらって、伊王野がいかに重要で、しかも、未だに防備が不十分だってことを印象づけてもらった。資信さんは最後まで頑張ってくれたから、その功績は大きい。これで返り咲きは確定かな。






 奥羽連合の侵攻が確定的になると、こっちも動員を始めた。動員したのは従属的な立場の諸将を含め、総勢6万。


 ただし、そのうち4千は、里見義政(叔父)さんを主将に、援軍として北条に送ってる。実はこの時期、武田の圧力がなぜか関東方面にばっかり向かってきてたんだ。だから、北条がだいぶ苦しいことになっちゃって、送らざるを得なかったんだよ。



 で、残りの5万6千の内訳だ。


 伊王野城に籠城するのが蘆野資康さんを主将とする4千(●●)。追加で戦場に派遣したのが、里見義頼(義父)さん以下2万6千(●●●●)の合計3万。


 さらに、戦が始まったら棚倉経由で旧東山道を封じちゃう部隊が、正木時長さん、佐竹義重さん以下8千。間道を伝って白河に出て、奥州街道を封じちゃう部隊が、土岐頼春さんなど下野の諸将1万。


 大洗・那珂湊から船を使って松川浦に入り、相馬義胤さんと合流して伊達領に逆侵攻をかける部隊が、正木堯盛、栗林義長以下4千。


 後の4千は、里見義弘さん(父ちゃん)が率いて後詰めをする。こんな計画だった。



 しかも、戦場に向かう兵はわざと少なく偽装するのも忘れてない。これで敵は油断して、まんまと死地に嵌まってくれたよ。


 一つ誤算だったのは、伊達輝宗さんの部隊が遅れたこと。このせいで、初期段階では戦力が拮抗したように見えちゃって、相手がなかなか手を出してくれなかったんだ。おかげで対陣が長引いちゃって、戦力を少なく偽装し続けるのが大変だったみたい。



 数日経って、やっと輝宗さんが到着したんで、大田原綱清さん、大関高増さんに


『奥羽連合は大軍で、里見はこのままだと勝ち目がないと考えてる。だから、日の出前に奇襲をかけて、混乱した隙に城兵を救出する計画だ』


って偽情報を流してもらった。



 で、その翌朝、一部の部隊を前進させて、伊王野の陣内に火箭をさんざん撃ち込んだんだ。


 でも、連合軍はこっちが来るのがわかってるから、慌てず反撃する。里見軍こっちはビックリした風で、なぜか持っていた竹把や矢楯を放り出して逃走を始める。


 連合軍はかさに掛かって追撃しようとするけど、土塁を乗り越えるのに時間が掛かる上、竹把なんかが邪魔で、なかなか追いつけない。それでも追いに追って里見の陣内に殺到し、柵の内側まで侵入した。そこで、待ち構えていたのは、8千挺の鉄砲による一斉射撃だ。


 さらには、伊王野城から里見本陣から左右の山から、奥羽連合本陣の伊王野宿に榴弾・榴散弾がバカバカ降り注ぐ。これで連合軍は一気に瓦解した。


 さらに、瓦解した連合軍は雪崩をうったように逃走を図ったんだけど、陸奥への街道が2本とも遮断されてるから、逃げようにも逃げられず、1万人以上の将兵が、国境の峠で捕虜になったんだって。



 残念だったのは、伊達輝宗さんを取り逃がしちゃったことかな? 遅れてきたんで、宿場内に入れず、しかも、本隊の惨劇を見て陣幕や兵糧までうち捨てて逃げたんで、包囲が完成する前に、峠を抜けられちゃったんだって。


 でも、しっかり追撃をかけたんで、率いていた部隊はボロボロにできたし、里見うちが得意とする渡海攻撃で、相馬義胤さんと一緒に伊達領の2郡を奪ってやったから、しばらくは立ち直れないんじゃないかな?



 戦いに大勝利した結果、海道(浜通り)の独立大名は、同盟してる相馬家だけになったし、中立だった田村家が使者を送って従属を申し出てきたんで、仙道(中通り)も福島より南までは里見の勢力圏に組み込まれたんだ。


 残った会津だけど、里見の快進撃も猪苗代湖畔までだった。一円を支配する蘆名家の当主、盛隆さんは伊王野で討ち取ってたんだけど、義父で隠居の蘆名盛氏さんが会津黒川城に健在だったんだ。


 会津への攻撃は10年後ぐらいに政宗さんがやって大成功したんだけど、今の里見うちは当時の伊達よりも動員兵力が多い。だから、このまま強引に戦ったら、まず勝ててたとは思うんだ。


 でも、里見うちの選択はそっちじゃない。『北条に和睦の仲介を要請する』だったんだ。



 理由? 一番の理由は、『勝ちすぎた』ことだね。

 周囲の妬み? それも無いとは言わないよ。でもさ、それより、こんなに一気に勢力範囲が広がると、ウチには配置する武将がいないんだよ!

 だから、はっきり言って手ぇ出したくなかったんだよ。それが身の程知らずにも攻めこんでくるからさ! ホント、くっそ忌々しい連中だよ!!






 ごめん、興奮しちゃった。


 和睦の条件は、里見・蘆名に北条を加えた同盟の締結。それに付帯して、里見に人質に来てた北条氏光さんを、一度義頼さんの養子にした上で、改めて蘆名家の嫡子として養子に入れること。


 蘆名にとって北条は、『善意の第三者』。だから、里見と違って全くわだかまりはない。しかも、養子を得たことで強力な後ろ盾も得られる。


 北条にとって蘆名は、景虎さんを殺した仇敵の上杉景勝に直接圧力を加えることができる大名家。しかも当主に復帰した盛氏さんは高齢で、近々、氏光さんが家督を継承するのは確実。濡れ手に粟で一国を手に入れたとなれば、それは喜びでしかない。


 里見うち? 会津は上杉・伊達との緩衝地帯と割り切ったんだよ。北条、蘆名、相馬に恩を売って、その隙に領内の開発を進めるんだ!


 鉱山や技術開発だって途半ばだし、伊豆・小笠原の開発も始まったばっかり。マリアナ開発に至っては手すら付けられてない。こんな状況で領地ばっかり増えちゃっても困りごとでしかないからね。


 それにしても、こっちは大人しくしてても勝手に襲ってくるって何だろうね……。

 あーあ、きっとまた同じようなことが起こるんだろうな。ホント先が思いやられるよ。





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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[一言] ということは、蘆名とは同盟という形で和睦したけど、伊達とはまだ和睦していない、つまり停戦しておらず、建前上はいつでも攻め込める状態ということですね。さすがに将兵7千の内4千を失い、2郡を奪わ…
[一言] 伊達が混乱してるから、今のうちに政宗排除しといたほうが将来の戦乱が減りそう
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