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双葉  作者: よる
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始まり

学校に行かなくなったのはこれで一体何日目だろうか。

僕はまだ起きたばかりで、頭がぼんやりとしている放心状態の中考える。

布団からはみ出した足が外の気温を伝えてくれる。

冬になったばかりだが凍てつく寒さだった。

ズレた布団をしっかりかけ直しながらまたベッドに横になり時計を見る。時刻は午後13時を指していた。

元々行く気もなかったが、やはり学校に行かなかった罪悪感は心の奥底で日を追う事に積み重なる。別に虐められている訳では無い。ただの気まぐれなのだ。

そうただの気まぐれ。

行こうとすればいつでも行ける、ただ今はまだそのときではない。

そんなことを毎日考えている自分に嫌気がさしたが、外からの騒音で思考が逸れる。布団を持ち、引きずりながら窓の外を見る。窓から見えた空はとても快晴とは言えない曇天で僕を更に憂鬱な気持ちにさせた。

音の正体は平日のお昼頃に来る移動販売だった。

周囲の家から続々と主婦らしき人が出てくる。

その人ごみを見ているうちに何故か自分だけこの世界から除外されている気持ちになった。

急いで窓から目を背ける。

特にすることもないので、ダラダラと部屋着から普段着に着替え、自室からリビングに向かう。

机の上にはラッピングされたお昼ご飯と数行書かれたメモ用紙が置かれていた。

毎日ご苦労な事だと思いながら冷蔵庫をあけ、中を物色する。

いつものように紙パックの牛乳が常備されていることを確認し、コップに移し一気に飲む。

牛乳の冷たさのおかげで朦朧としていた頭がはっきりし目が覚めてきた。机の上に置かれたお昼ご飯はいつも全く手をつけない。今日もそのつもりだ。

学校に行かなくなってからは自分で食事を取っている。

とは言っても自分では作ることが出来ないので基本コンビニ弁当なのだが。


それは親に対する些細な反抗心からその行動を起こしている。

今までコツコツとバイトをし続けてきたおかげでお金は結構溜まってきている。しかしさすがに毎日自分で食費を維持するとなるとそろそろ限界に近い。

またバイト始めなきゃかな。

そんなことを思いながら今日も不登校になってから、お世話になっている近くのコンビニに向かおうと決めた。

ほぼ毎日の頻度で行っているのでそろそろ店員に顔が割れてきているだろう。

靴を履き、玄関の扉を開ける。

「さむ…」

扉を開けた瞬間、風が体に強くふきつけてくる。

思わず声が出てしまうほどの寒さだった。

今年の冬は5年ぶりの極寒らしい。

そういえば最近見たニュースで、天気予報のキャスターの人が厚着をして、寒そうに外で放送していた。

こんなことならコートを羽織ってくればよかった。


鍵を閉め、数歩歩いたところで折りたたみの傘も持ってくるのを忘れたことに気づく。

空は今にも雨が降ってきそうで、どんよりとしている。

急いで買って帰ろう。

そう思い、早足でコンビニへ向かう。

しかし、予想外なことが起きた。

コンビニの前に見たことがある服装を着ている人達がたむろしていた。


最悪だ…制服を着ている。高校の男子の制服は大して学校ごとに違いは無いが、ここら辺に高校は僕が通っている高校しかない。

きっと僕の高校の人達だろう。

顔は見たことがない人だった。あっちも僕のことを知らないはずだから別に気にしなくていい事なのに、僕の意志とは反対に何故か足はすくみ動く気配を見せなかった。

なるべく近くに行きたくない。

仕方なく今来た道を引き返し、少し遠いが違うコンビニに行くことにした。

またこんな自分に無性に腹が立っていた。

降り始めた小雨が僕のからだを突き抜けて心を冷たくしていくようで吐き気がした。


ひたすら長い間下を向いて早足で歩いていたので、気づいた時には自分が一体どこにいるのか見当もつかなかった。

周りを見渡すと寂れた工場が曇天の空と合わさって一層不気味に感じた。知らないうちに雨は上がっているみたいだった。

工場に近づき名前を確認してみる。

「四ノ宮工場…聞いたことないな」

きっと今は潰れてしまった会社なのだろう。

少し錆がかっている名前のフレームから年季が窺えられる。

だんだん太陽が沈み始め辺りが薄暗くなってきた。

そろそら帰らないと両親に外に出ていた事がバレてしまう。

そしたらどんなに心配されることか。

そこで不意に気付いてしまった。気づかなくてもいいことに。

すっと心が冷たくなる。その感覚はどんどん全身に広がって一瞬体の動かし方が分からなくなる。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

呼吸が荒くなる。ヤバい、自分が自分じゃなくなる。抑えなきゃ。違うことを考えろ。そう思うほど、ど壺にハマっていき頭が重くなってくる。もう限界だ。倒れる。

体が傾きかけ、衝撃に耐えようと目をつぶった。

が、いくら待っても衝撃は来なかった。その代わりに暖かく柔らかい感触が僕の体を包み込んだ。

これはなんだ。そう思っている間にも、僕の意識は遠のいていった。








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