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猫不足の王子様にご指名されました  作者: 白峰暁
第二章 私、猫として暮らします
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18 ミーシャを補給しないといけない

ハイネさんに防護魔法の状態について確認してもらって、念の為に王宮の警備担当の方に魔法を掛け直してもらった。結界の一部が弱まっていた原因はわからないけれど、一先ずこれで問題ないだろう。

そして、猫の姿で気ままに振る舞うクロードを日々観察している事もあってか、前よりも猫に対する解像度が上がった気がする。

私はアーサーの私室でアーサーと戯れながらそう考えていた。



「ほら、ミーシャ。いくぞ~」

「う~」



アーサーは棒を手にしている。棒に紐がついてその先に魚が括り付けられている、猫の狩猟本能を刺激するタイプのおもちゃだ。

アーサーはそれをカシャカシャ、シャカシャカと細かく振り、私はそれを爛々と光る目で追った。

今の私は猫だ。

鳥やら虫やらをハンティングする、クロードと同じ猫なのだ。



「よしよし、ミーシャ。……はあ!」

「――!」



アーサーがギリギリまでおもちゃで引き付け、そしてばっと引いた。

私は獲物を捉えようとするが、逃げていくおもちゃの方がギリギリ速く、獲物が消えた事を察して床にへたりこんだ。

アーサーがおもちゃを床に置いて、笑顔で私の髪を撫でた。



「よーしよしよし。頑張ったな、ミーシャ。運動して疲れただろうからお茶を入れよう」

「あ、殿下。お忙しいでしょうからお気遣いなく。私はそろそろ退室しますので……」

「……!?何故だ。折角来てくれたんだから時間の許す限りここにいてくれてもいいじゃないか。今日は予定の無い日なのだから。……あ、だが……ミーシャが外に出てやりたい事があるのなら、強制は出来ないが……」

「……あの。ですけど、そこに読みかけの本が沢山あって……、殿下はそちらに集中したいのでは?」



アーサーの部屋を訪れた時、アーサーは机で本を読んでいた。だから帰ろうとしたのだが、アーサーに出迎えられて、おもちゃを取り出されて今に至る。

一日一回は触れ合いたいというアーサーの要望が頭にあったから、それには従った。でも、触れ合いが一段落したら帰った方がいいのではないかと思ったのだが……。

そう思って質問したけど、アーサーは首を振る。



「ミーシャ。確かに俺は本を読んでいた。普通に考えれば本に集中したいものだと思えるかもしれない。だが、俺は猫のいる部屋に来たんだぞ?」

「はあ」

「猫のいる部屋で本を読むというのは、それはもう、猫に邪魔されたいという願望の裏返しだといってもいい。だから俺の事はどんどん邪魔してくれて構わない。むしろそれが本望なのだ」

「そ、そうなのですか……」



ほわほわと輝きを身に纏いながらアーサーが熱弁する。

……考えてみれば、アーサーが本気で読書をしたいと思うのならば、それ専用の部屋はいくらでもあるのだろう。ここに来る時点で猫と触れ合いたいという気持ちがあるというのは、まあおかしくはないのか。

……今日は、アーサーとずっと一緒にいられるんだ。

時間があるなら――と、私は荷物からあるものを取り出す。



「殿下。その、前から殿下に渡したいと思っていたものがあったのです。……確認してくださいますか?」

「?ああ。……!こ、これは……!」


目を見開くアーサーを見て、私の口元は緩む。初めての試みだったからうまくいくかどうか不安だったけど、やはり作ったものを喜んでもらえると嬉しくなるものだ。

私は咳払いをして説明する。


「私、前に王都の猫がいる店に行ってきたんです。そこで、猫の抜け毛でぬいぐるみを作ってみたらどうだろうと思いまして。店の人にお願いして抜け毛を集めてもらって、それで作ったんです」

「むう……」

「どうですか?猫と直接会うのは駄目でも、これなら……」

「う、うう……。ううううう」

「……あれっ!?」


両手でぬいぐるみを包んでいたアーサーは、やがてぶるぶると震えだした。ぬいぐるみを取り落とし、胸に手を当ててふらふらと床に座り込む。

私は座り込んだアーサーを抱きとめ、必死に声をかけた。


「で、殿下……!大丈夫ですか!?わ、私のぬいぐるみのせいで……!?」

「……ミーシャ。あのぬいぐるみはまことにふわふわで、触っていて心地のいいものだが……、どうやら、猫の抜けた毛でも呪いは発動するようだな……」

「そ、そうなのですか。……すみません!余計な事をしてしまいました!」

「……そんなに落ち込まないでくれ。ミーシャが俺の為にプレゼントしてくれたものというだけで俺は嬉しいよ。あのぬいぐるみはケースにしまって保存しておく事にしよう」

「……申し訳ありません。猫の呪いがどこまで根を張っているものなのかわからず……。あ、そうだ。それなら、私が見てきた猫の話でもしましょうか」

「猫の……話」

「そうです。流石に思い出話をするだけなら呪いは発動しないですよね?」

「ふ、ふふ。ふふふふふ」

「!?」


アーサーは笑みを浮かべつつも、その顔色はどんどん青ざめている。私は彼の肩を抱きとめながら慌てて聞いた。


「……も、もしかして……猫の話をするのも駄目なんですか!?呪いとはそんなにも強力なものなのですね……」

「いや、違う。これは俺の精神状態の問題だ」

「精神状態……!?」

「……例えば、料理を食べられない状態で美味しいご馳走の話をされたら、どう思うか。場合によっては更に腹が空く者もいるだろう。俺はそういうタイプの人間なんだ……。ミーシャが猫と触れ合うのは喜ばしい事だが、それは俺には話さずに心に留めてくれると俺は嬉しい」


そうなんだ……。

という事は、店の猫たちの事は勿論、クロードの事も話さない方がいいんだろうな。

私は時折森に行っては仕事がてらクロードに会って、ご飯を渡したり、撫でたりブラッシングしたりと様々な交流をしている。でも、その事は胸にしまっておかなきゃ……。

私はそう決意して、アーサーに答える。



「わかりました。すみません。また余計なことを……」

「そう悲しい顔をしないでくれ。それよりも……ミーシャ。今は、君に触れたい」

「わ。私……?」

「君に触って猫分を補充したら、弱まった魔力も回復するだろう……」

「では……殿下!私に触れてください!」

「ああ!」



アーサーは頷き、私を抱き直し、わしゃわしゃ、わしわし、なでなでなでと私の頭に触れた。触れ倒した。アーサーの血色はみるみるうちにつやつやになっていき、辺りにはきらきらと輝きが満ちている。

異様といえば異様な光景だが、今の私にとっては満たされるような感覚がした。

――アーサーが元気を取り戻すなら、それに越した事はない。

にこにこしながら私をモフモフとするアーサーを見ていると、自然と私の方も笑みが溢れてくる。



……信頼している飼い主と接している猫というのはこのような感覚なのだろうか。

私は猫、アーサーの猫。

アーサーの猫なら――、こちらからアーサーに触れてもなんら問題は無いだろう。

頭の片隅でそう考えて、私の指は自然とアーサーの方に伸びて――。


――トントン。


「!」


部屋の扉をノックする音がして、私の頭を撫でていたアーサーはばっと姿勢を正した。



「すまない。急用のようだ。ミーシャはここにいてくれ」

「……は、はい。わかりました」


扉を開けたアーサーは、外で何者かと話し込んでいるようだ。そして、服装を正しながら切羽詰まった様子で言う。


「……どうやら厄災が発生したらしい。俺は至急出ることにする」

「そ……そうなのですか!?」

「帰りがいつになるかわからない。ミーシャは自由に過ごしていてくれ」

そう言い残すと、アーサーはばたばたと外に飛んでいった。


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