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ウクライナ救国騎士団ヒマワリ

作者: 順慶 碧琉

何の前触れもなく独立国であるウクライナ共和国に攻め入り、勝手に帰属化を進めるロシア。

そんなロシアに対して、国連はなすすべもない。

米国をはじめとするNATO各国も表立った支援が出来ず、良心を持つ人たちはウクライナを球威する方法を模索。

そして、ついにウクライナ救国騎士団ヒマワリが創設され立ち上がった。

深夜未明トルコ海軍のボスポラス海峡警備隊のレーダーにマルマラ海から北上してくる正体不明の巨大な船が映し出されていた。今夜は、上層部からの、いかなる船舶もボスポラス海峡の航行を禁止するという異例の命令が出ていたのだった。海峡にかかる幾つかの橋も今夜は諸々の理由で通行止めとなっている。

「こちらは、トルコ海軍ボスポラス海峡警備隊である。国籍不明の船舶に告ぐ。今夜は、全ての船舶の通過を認めていない。即刻停船せよ。」と無線を通じて停船命令を出すとともに、数隻の高速沿岸警備艇と海軍の魚雷艇が緊急出港していった。

すると、トルコ海軍の秘匿無線チャンネルに「こちらは、日本海軍第一艦隊司令長官の有賀である。東郷平八郎の子弟として、貴君らの平和を切に願う。尚、艦名は「大和」。」と一方的に打診してくると、巨大なシルエットがボスポラス海峡を通過していった。

ボスポラス海峡警備艦隊司令は、即座に沿岸警備艇ならびに魚雷艇を呼び戻すとともに、サーチライトも全て消灯するように命令を下し、通過していく巨大な戦艦のシルエットに対して敬意をこめて敬礼したのであった。

若い隊員の中には、司令官の命令に不服を抱く者もおり、今すぐ後を追いかけ停船させるべきである。伝統あるトルコ海軍をなめるな。と色めき立つ者もいた。司令官は、ボスポラス海峡警備隊の隊員に対して、「今の無線を聞かんかったか?あれが我々に対する礼をつくした、最大限の譲歩だ。我が国の上層部はとっくに承知しておる。全ての記録を消去し、お前たちも今夜のことは忘れろ」というと、既に闇夜へと消え去った戦艦に対して再度敬礼し、ロシア軍に降りかかる災いを思い浮かべると身震いした。そして、我々は何も見なかった、何も知らないという立場であることを伝え、厳戒体制の解除を命じた。


ロシアが不法占拠を始めて数年が経つウクライナ共和国のクリミア半島は、ロシア軍にとって、黒海を北から支配する重要拠点であると同時に、ロシアの避寒地として、多くの軍人が転属を希望する場所であった。そんな場所であることもあり、ロシア軍は、空軍、海軍、陸軍が争うように基地が建設された。更に、大量の基地建設資材が横流しされ、上級将校たちが住む高級住宅や別荘ダーチャも建築された。そんな、クリミア半島のほぼ中央になるシンフェローポリ国際空港はロシア空軍の基地としての機能が付加された空港となっている。民間機の多くはロシア国内便で、ロシア占領目の国際空港としてのにぎやかさはない。


ある日の深夜、守備隊の当直兵たちは何も不審な影も映っていないレーダースクリーンをちらりと見ると、夜勤が明けたら何をしようとウオッカをあおりながら不謹慎な話に花を咲かせていた。交代まで後数時間あるにも関わらず、「今夜も特に報告することなし」と書いてしまったためすることがなくなり、大あくびをした途端、地下にあるレーダー監視室が地震の様な揺れに見舞われた。一気に電源が落ち、非常用ランプの赤い光だけとなった地下室から、ふらふらと這い出たレーダー要員たちが見たのは、もうもうと立ち上る黒煙と、巨大なクレーターが出来た誘導路と滑走路であった。管制塔も根元から倒れ、空港機能は完全に失われている。その夜未明には、クリミア半島でロシア空軍管理下にある空港のみならず、陸軍のヘリが駐屯する小型空港までもが復旧のめどが立たないほど、完全に破壊された。この惨劇は空港施設にとどまらず、セバストポリ(ロシア名セヴァストポリ海軍基地)でも発生した。停泊していたロシア黒海艦隊所属のミサイル艦4隻と揚陸艦3隻が大音響とともに爆沈してしまった。停泊していた潜水艦も巻き込まれ、被害は甚大なものとなった。春先には、ウクライナ軍の攻撃により、ロシア黒海艦隊旗艦のモスクワを沈められているため、艦船数で62%、戦力にして83%を失い、ロシア黒海艦隊は全滅状態となった。


一晩に起きた大事件にもかかわらず、ロシア政府は重大な事故が発生したと発表するに留まっていた。SNSなどを通じて、その被害の大きさが知れ渡るにつれ、クリミア半島において「テロ攻撃」があったと発表内容を修正した。また、ロシア国内のSNSは全て削除されたのだが、甚大な被害が出ていることは、世界中に知れ渡っていた。

ロシア政府も、表面上は反政府団体によるテロ攻撃を非難しながらも、被害は軽微であるという公式発表を繰り返している。しかし、水面下では、これがどこからの攻撃によるものなのか、必死で探していた。


軍部や連邦保安庁(FSB:旧KGB)は、米国の艦対地ミサイルか巡航ミサイル(トマホーク)であろうと目星をつけて調査が行われていた。現地では、爆発音の後に空砲の様な音(ソニックブームと思われる)が聞こえたとの証言が数多く寄せられたため、亜音速でしか飛行できない巡航ミサイルが消去法で可能性から外された。しかし、超音速で飛ぶ艦対地ミサイルを米国や西欧諸国が保有しているという情報は無い。そこで、目を向けたのが地上発射型のミサイルである。通常弾頭のICBMが該当するが、ロシアのどのレーダーサイトにも、クリミア半島を攻撃したと思われる超音速ミサイルの痕跡は残っていなかった。

ウクライナ政府も、本件については一切関与していないとのコメントを出すにとどまっている。ロシア当局はこのコメントを100%信じることはなかったが、ロシアのみならず、親ロシア国や共産国全てのインテリジェンス機構も情報がなく、ロシア大統領の古巣であるFSBは窮地に追いやられていた。しかし、、意外なところ破口があった。トルコから発せられた、「トーゴーの子弟たちが、100年の時を経てやってきた。溜飲が下がる思い出る。」という短いSNSだった。調査してみたところ、日本海軍第一艦隊が、インド海軍との合同演習後帰路についていないことが判明。衛星により、艦隊はスリランカ沖をマラッカ海峡に向けて航行していることが判る。しかし、旗艦である「大和」の姿が見あたらない。あの、世界最大の戦艦を見落とすはずがない。NFSの参謀は即刻黒海に何機もの偵察機送り込むよう命じた。すると、クリミア半島から南西250キロ付近を遊弋する大和を発見したのだった。


ロシア政府は、偵察機の映像を世界に公表し日本政府に対し「だまし討ち国家」、「重大なる国際法違反」、「即時の猛省と賠償を要求する」と強い語調で日本を非難した。そして、国連安保理の招集開催と、国際法に則り訴訟を行うと大々的に発表した。

世界中が、日本政府がどう対応するのか固唾を呑むは見守っていた。ロシアの抗議を受けて、日本政府が緊急記者会見を開催したが、日本国政府の発表はそっけないものであった。日本国政府代表として、報道官が読み下駄内容は、「『元』日本海軍第一艦隊旗艦の大和はインドとの合同演習後、日本国海軍より除籍されている。また、第一艦隊司令官であった有賀『元』海軍中将も除隊しており、我が国とは一切関係ない。」と言うものであった。報道官は、『元』という所を強調し、発表文を2度読み上げると、一切の質問を受けずに記者会見を終了させたのであった。

世界中があっけにとられていると、「私は、ウクライナ救国騎士団ヒマワリの作戦本部長有賀である。私が所属していた、伝統ある日本海軍の意気込みの象徴である『ゼット(旗)』を他国侵略の象徴に貶める行為は許しがたきものである。私は、戦艦大和の日本国海軍除籍を機に、日本海軍を辞し、ウクライナ共和国を救済し、ゼット(旗)の名誉挽回に立ち上がったものである。この行動については、日本国は一切関係ない。」とハックしたネットを使い世界同時発表が行われた。その際、有賀作戦本部長が来ていた二種軍装(白い軍服)と制帽には、ヒマワリをモチーフとし円形の中央に海軍の象徴である錨のデザインが縫い付けられていた。この錨のマークはウクライナ国旗の2色となり、ウクライナ救国騎士団ヒマワリの象徴的色使いであった。また、戦艦大和には、日章旗ではなく、上半分が鮮やかなブルー、下半分が黄色に塗られたハートのマークが描かれた物になっていた。


黒海に現れたウクライナ救国騎士団ヒマワリ」に属する『ヤマト』とは、第二次世界大戦初期に建造された戦艦大和をベースに近代化大改装が行われた物である。46㎝砲は55口径となり、15㎝副砲やカタパルトは撤去されている。ヴァイタルパートは自砲で撃たれても問題が無いという戦艦の基本に則り大幅に強化されている。そもそも46㎝砲を搭載した艦が大和以外無いので、防御装備過剰ともいえる。また、高速化や操艦性向上の改装も行われている世界最強の戦艦である。


日本政府の発表に対して、そんな無法があるか!と罵詈雑言を並べたかと思うと、「日本国が関与していないというのであれば、ヤマトが沈んでも文句言うな!」と捨て台詞を残し、ヤマトに対して即報復攻撃を行うと発表した。地対艦ミサイル(K-300P)は、対地攻撃では450キロの射程を持つが、移動する海上の標的に対しては射程が350キロしかない。このスペックでは今回の作戦には使えない。そこで、ロシア軍は、ウクライナで空対地ミサイルとして使用していたKH-22/32の使用を中止し、全て対ヤマト攻撃に使うこととなった。この、KH-22/32空対地ミサイルだと、射程が600キロある。それでも射程が足りない部分は、航空機で運ぶことで補うことが出来る。地上発射型のK-300Pは、親子型で、1基のミサイルがレーダーえ標的を探し、残り2発の子ミサイルと情報共有するので、被迎撃率が下がり、命中率が上がるとされているが、目標まで届かなければ何の役にも立たない。なので、KH-22/32のみでの攻撃が決定された。

緊急でかき集められたKH-22/32は31基である。31基による同時攻撃は十分飽和攻撃と呼べる規模で、戦果が期待できるものと考えられた。

ロシアの統合幕僚本部におも、ちょっと気の利いた人材がいた。今回の作戦立案の責任者に人目入れている、カミンスキー大佐がその人である。

カミンスキー大佐は、完璧を期するため3段構えの波状攻撃を行うことで戦果を確実なものにするよう作戦書に書き加え具申した結果、上層部に採用されたのだった。

日本海軍に所属していたころ、21世紀の大改装を行った戦艦大和は、その大きさと堅牢さを活用し、多数のミサイルセルも装備するに至っている。どういった種類のミサイルを何発装備しているかは公表されていないが、無尽蔵という訳ではない。これを打ち尽くしてしまえば、砲による近接迎撃しか手段がなくなる。カミンスキー大佐が考えた三段構えのミサイル攻撃は下手な鉄砲数撃ちゃ当たると言ってしまえばそれまでだが、効果が見込めるのであればやらない手はない。しかも、カミンスキー大佐の波状攻撃には、秘策があったのだった。


「九鬼艦長、北東500キロに50機近い機影を捉えたようです。」このレーダー手の報告は、有賀にも伝わっており、「九鬼艦長、全て任せる。」と言いい、長官席にどっかりと腰をおろした。「有賀長官、もとい、作戦本部長。了解いたしました。総員対空戦闘配備。」と伝えると有賀には小声で、「艦内では、長官と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?作戦本部長というのはなじみがなくて…」と九鬼艦長が小声で聞くと。「私も、今一ピンとこないんだよ。作戦行動中は好きにしたらよい。大佐。」とはにかみながら、返答したのであった。

「距離、450キロで多数の対艦ミサイルと思われる飛翔体を確認。TU-22と思われる敵機は全て引き返し始めました。続いて、第2波と思わる機影を同じく北東の距離500キロに確認。」

九鬼は、対空戦闘のエキスパートである神田大尉に「敵さんの動きをどう思う?」と聞くと、

「なんか、おっとり刀で駆け付けた感がありますね。こちらには、護衛空母が居ないのですが、まだウクライナ空軍も頑張ってますからね、重たい荷物を抱えてヨタヨタ飛ぶのは嫌なんでしょうね。とはいえ、飽和攻撃ではなく、波状攻撃と言うのが気になります。まぁ、第一波ミサイルの速度も遅いのもなんか裏がありそうですね。一般的な巡行ミサイルタイプですね。AMMで十分対処できます。何なら、AMM温存のために、全部砲でやっちゃいましょうか?」と半分冗談を言う余裕すらあった。

本来、戦艦単艦で作戦行動を行うことはなく、護衛空母や重巡洋艦、駆逐艦が陣形を組んで同行する。しかし、今回は単独行動となっているので、対空戦も変則的にならざるを得ない。本来ならば、護衛空母の戦闘機隊が長距離での迎撃を担うことになっている。しかし、今回はいきなり中距離(50キロ程度)防衛から始まることになる。

「敵巡航ミサイルと思われる飛翔体第1波が間もなく中距離防衛圏に達します。」という報告を受けた九鬼は、「迎撃戦闘開始せよ。」と命令を下した。

最初発射されたのは中距離迎撃ミサイルであった。何発物ミサイルが白い煙を引きながら飛んでいく様は圧巻であり、発射煙でヤマト全体が見えなくなる程であった。続いて、左舷90度に向けられていた9門の46㎝砲が火を噴いた。55口径の滑空砲から発射された砲弾は中距離の迎撃ミサイル群を一気に追い抜き、ヤマトに向かう飛翔体の群れへと向かっていった。

迎撃に使用されたのは、新型三式弾であった。大改装前の45口径ライフル砲では、安定した弾道を飛ばすため砲弾を高速回転させるが、現在の55口径滑空砲だと、砲弾は回転していない。そこで、砲弾から小型のフィンが飛び出し、弾道を安定せる。しかも、レーダー誘導で軌道修正を行いながら目標に向かっていく。最も効果が出るとAIが判断したところで空中爆発し、敵ミサイルを破壊する。この新型三式弾の2斉射(18発)で29機の飛翔体を撃墜。後に続いた迎撃ミサイルによって、第一波は演習よりもスムーズに全て撃墜された。

有賀、九鬼そして、神田はこの迎撃成果に違和感を覚えた。いくら巡行ミサイルとはいえ、動きが妙に鈍いのだ。発射した中距離迎撃ミサイルの半数近くが無駄玉となり、自爆措置が取られたのだった。

第二波への迎撃も既に、主砲、迎撃ミサイル発射まで完了。中距離迎撃ミサイルの数が不足するため、再度の主砲の一斉射と短距離迎撃ミサイルの発射で対応することとなった。

しかし、レーダー上には既に第三波のミサイルを搭載しているとみられる航空機が映し出されていた。第一波と第二波は、その速度からプロペラ機のベアや、大型爆撃機に属するバジャーが用いられたようだったが、第三波はMig-31戦闘機と思われる、高速戦闘機が母機となっているようで、みるみる射程距離へと距離を縮めてくる。

第三波に対する迎撃の諸元を入力中に、母機からミサイルが一斉に発射された。既に、第2波で迎撃ミサイルは殆ど打ち尽くしているため、頼りになるのは主砲の新型三式弾と近接防衛システムが頼りである。

主砲が自動発射した瞬間、ここまで冷静だった迎撃担当オペレーターが、「は、速い!第三波、マッハ4を超え、さらに増速中。ロシアの極超音速対艦ミサイル・キンジャールと思われます。三式弾全段迎撃失敗。」

CICからの報告がスピーカーから流れると、「長官、ここは危険です。我々も、CICへ移動しましょう。」と九鬼が言うと、無言で有賀はうなずき、エレベーターに乗り込むとCICへと向かった。

有賀が長官席に腰を下ろすと、「艦長の九鬼である。今から、緊急操艦を行う。総員対操艦防御態勢をとれ!」とマイクで叫ぶと。「面舵、超信地旋回開始!先行ミサイル群に対して正対せよ。」と命令を下した。一般的に、超信地旋回とは、戦車等が左右の無限軌道を逆方向に動かし、その場で方向転換する操縦の事を言う。バルバス・バウの形状変更などを行った結果270mを少し超える近い長さとなっている戦艦で超信地旋回というのは、基本あり得ないのだが、戦艦ヤマトには秘策があった。

艦首から、第一砲塔に至る部分には、投錨設備程度しか無かった所に、スラスターを装備したのだった。これにより、艦首の回頭性能が向上し、小回りが利くようになっている。さらに、ディーゼル・エレクトリック化された4基の推進機のうち、2基はアジポッド推進機となっており、スクリューの方向自体を変えることができる。普段は、このアジポッドの方向を操作することで操艦するのだが、今回の様な緊急事態では、艦首スラスターも併用することで、超信地旋回に近い操艦が可能となっている。ただし、これは船体に対して負荷がかかるため多用出来る者ではない。また、乗員も船内で振り回されることとなるため、旋回中における人的作業はい一切できない。

ロシア軍が満を持して発射した極超音速ミサイル・キンジャールは、ヤマトが超信地旋回を行い正対したため、突然レーダー面積が小さくなったことでヤマトをロストしあらぬ方向に飛び去ったり、極超音速が災いし、方向修正が間に合わず、最初に飛来したキンジャール7機はヤマトに命中することはなかった。操艦で全てかわし、ほっとした雰囲気が流れた瞬間、「第四波21発が来ます。距離、30万。両舷から挟まれています。」

超低空飛行で、ヤマトを挟むように近づいたMig-31戦闘機21機は一気に急上昇し、極超音速ミサイル・キンジャールを一斉したのだった。発射成功の報告を受けたロシアのカミンスキー大佐は「これで、勲章はもらった。少将の席もいけるかな?」と独り言をいうと、ほくそ笑んだのだった。この4弾構えの攻撃こそ、彼が発案した波状攻撃だったのだ。いくらロシアと言え、対艦ミサイルが無尽蔵にあるわけではない。そこで、カミンスキー大佐はヤマトのAMMの具体的な保有数は判らないが、ヤマトにAMMの無駄遣いさせる作戦を立てたのであった。


最初に爆撃機から発射されたのは、演習等で使う巡行型標的機であった。動きが単純なため、迎撃されると弱いのだが、航空機支援の無いヤマトは自己防衛迎撃戦闘を行うしかない。第2波は正式な対艦ミサイルではあるが、半数以上が張りぼてで、全数撃墜されることを前提としていた。本命は、極超音速対艦ミサイルだったのだ。まず、おとりとしてのキンジャールで攻撃。当たればラッキー位に考えていた。ヤマトを仕留めるのは、異なる方向より挟み撃ちにする最後の21発であった。極超音速ミサイル・キンジャールは、空母や重巡洋艦クラスであれば一発で文字通り轟沈できる性能が確認されている。いくら近代化改装された戦艦とはいえ、基本設計が80年も前の物だけに過去の遺物だとカミンスキー大佐は考えていたのである。


ちなみに、ロシアはソ連時代から、まともな戦艦や空母を持たない陸軍主体国家である。空母は20世紀の終わりに作ってみたが、運用の難しさと財政難から中国に売却している。ソビエト時代の汚点として公式記録はないが、一度だけ砲艦を試作している。巨砲戦車好きのロシア(ソビエト時代)らしい発想で、第二次世界大戦後ナチスドイツから押収した、シュヴェラー・グスタフと、ドーラの衣装で呼ばれていた80㎝列車砲を搭載した砲艦(旧ソビエトでは、戦艦と言った)を作ったことがある。これは、『巨大な砲を搭載した船が戦艦である』という単純明快な巨砲ドクトリンに基づいており、ジムニャポーリャ(冬の嵐)という暗号名がつけられた戦艦(砲艦)建造事業である。

数少ない資料と証言によると、世界に類を見ない双胴型砲艦であったという。旧ナチスドイツから奪い取った2基の80㎝砲は、二つの胴体を繋ぐ中央甲板に背負い式で配置されていたという。

戦艦大和の46㎝3連装砲塔が2500トン(装甲込み)と当時の駆逐艦よりも重いのだが、この80㎝砲は単装で1250トンもある。戦艦大和の砲弾は1.5トンであるのに対して、1発で4.5トンもある。このような巨大な砲を発射するためには、1砲あたり、1400名程度が必要だったとされ、砲を操作するだけで、2800名との大所帯となるしろものであった。

これほどの巨大砲を搭載した艦建造ジムニャポーリャ(冬の嵐)の記録は全て処分されただけでなく、関係者の多くはシベリアへと送られた。なぜならば、バレンツ海で処女航海を行い80㎝砲を試射した際に、砲の巨大な衝撃で右側の船体が割れ、横転沈没してしまったのだ。(旧ソビエトの公式記録には、ナチスから押収した弾頭が爆発し、『輸送船』が沈没した事故と記載されている)


「着弾まで後1分。」とヤマトのCICでは、レーダー員が刻一刻と近づいてくるロシアのミサイルについて報告した。九鬼艦長は冷静に、「射程に入る30秒前より近接防空戦闘開始。」と命令を下した。一瞬の静寂の後、射程20キロ前後で1分間に100発前後打てる76ミリ砲が真っ先に火を噴いた。これを突破されると、1分間に550発を打ち出す35ミリ砲。そして、射程は2キロほどだが、最後の砦となる1秒に100発もの20㎜砲弾を打ち出すファランクス(通称ゴールキーパー)が頼りとなる。


第四波のキンジャールには、小型TVカメラが取り付けられていた。カミンスキー大佐や作戦本部部員らは固唾をのんで送られてくるライブ映像を見ていた。マッハ10の速度だと、1秒間に3.4キロ進むことになる。カメラがヤマトの姿を捉えるのは一瞬ではあったが、映像がヤマトの大写しで終わっていることから命中した物と判断された。そこへ、ブルガリア沖に展開していた漁船に偽装したスパイ船から、「遠方に巨大な黒煙を認。遅れて、爆発音を確認。」との緊急電が入り、本部では、ハラショーやウラーといった歓声が上がった。

ヤマト撃沈の知らせは、「ウクライナ救国騎士団だか何だか知らんが、ロシアに逆らうも者はみな同じ運命をたどることにある。」というロシア大統領のコメントと共に映像が世界を駆け巡った。ルーマニアや、ブルガリアの漁民たちからも、ものすごい爆発音が聞こえ、その方角には、ものすごい黒煙見えたといったSNS情報も飛び交い、「ヤマト撃沈さる?」という見出しの号外が世界各地で発行されたのだった。


この報道に世界は驚愕し、『ロシア恐るべし』と多くの人が落胆したが、ほくそ笑んだ人達もいた。その一人が、シンガポールのリー・シェンロン氏だった。「オープニングとしては、最高の出来だな。」と独り言をいうと、秘書に書類を持ってくるように命じた。


ロシアとしては、ヤマトを撃沈したことで溜飲を下げたわけだが、黒海艦隊が全滅した上に、クリミア半島に展開していた航空機もその7割が失われていた。また、攻撃を受けた空港は全く復旧の目途が立っていない。小さな空港が、2つ残っていたが、ジェット戦闘機が離陸するのにギリギリの長さしかなく、対艦ミサイル等の重量がかさむ兵器を搭載しての離陸はできないため、せいぜい偵察機や緊急着陸を行う空港としての位置づけでしかなかった。つまり、黒海北部の制空権、制海権共に、ロシアは失ったことになり、ヤマト一隻との交換では、全く採算が合っていなかった。


これを機に、ウクライナ軍が一気に攻勢に打って出ることが可能なのだが、これもかなり微妙な状況であった。ウクライナの大統領が各国に求めている『兵器』の支援だが、支援される兵器は歩兵の携帯兵器が中心で、戦車等の大型車両は数が全く足りていなかった。しかし、使い慣れない戦車や航空機を受け取っても訓練できていないと、無用の長物になりかねないという問題もある。ウクライナ的には、兵器と兵員(義勇兵)ワンセットえ支援してもらいたいのだ、国際政治的に、難しいことはウクライナの大統領にも判っており、頭の痛いところであった。

結果として、ロシア軍とウクライナ軍の衝突は小火器を中心とした小競り合いが中心となった。以前は、頻繁に飛来したミサイルも、対ヤマト戦で大量に消耗したため、散発的に飛来するにとどまっている。

戦線は膠着状態に陥っているが、ロシアは世界中に売りまくった戦車の中古を、天然資源とバーターで買い戻し始めた。ロシアが欲しいのは、最新型のT-90や一世代前のT-80シリーズではなく、T-72というかなり古いタイプのものでる。このタイプであれば、ロシアの戦車兵が使い慣れているため、訓練無で即実践投入が可能と踏んだのであった。


この間のウクライナ側は一般市民の避難を押し進めていた。人道回廊の話が何度も反故にされてきたが、今回はロシア側も中距離対地ミサイルが底をついており、ちょっかいを出すことができない状況であった。ウクライナ国内で避難が必要な地域の一般市民は、自然にできた人道回廊を使って、国外へと脱出することができた。避難は、まだ動いている鉄道やかき集められてきたバスや人員輸送トラックで安全に移動することができた。メディアはこぞってウクライナ国境を続々と越えてくる避難民の様子を報道した。そんなメディアに対して避難民たちが、安堵の声と共に乗車してきたトラックやバスにはウクライナ国旗の2色で塗られたハートのマークがついていたというのだった。また、避難途中に配布された非常食や毛布などにも、そのマークがついているという。


ウクライナで3番目の大都市であるオデーサには、巨大な港がある。ロシアの黒海艦隊が壊滅したおかげで、オデーサ港には巨大な貨物船が連日のように出入りしていた。コンテナターミナルでは、昼夜を問わずコンテナが下ろされ、どこかへと運ばれていく。トラックやバスなどは、フェリーやRoRo船で運ばれて来るが、下船するやいなや隊列を組んでどこかへ走り去っていくのであった。


定数を満たしてはいないが、ある程度の数の戦車が補充され部隊が、数キロにも及ぶ車列を組んで進軍してきた。ウクライナ国境を越えて数時間が経つが、ウクライナ軍の抵抗も無く、部隊の司令部は未だウクライナ軍は体制が整っていないものとみていた。あまりにも進軍が順調なので、想定野営地点を過ぎても速度を落とすことなく突き進んでいた。

ヤマト撃沈の功績を認められ少将となったカミンスキーは、志願してこの師団に師団長として赴任していた。指揮車のキューポラから隊列を見回しながら、「後、30分前進したら、野営とする。しかし、ウクライナ軍だけでなく、パルチザンも出てこんとは、拍子抜けだな。」と後方に立つ司令部付の政治将校であるカガノビッチ大佐に話しかけた。勝ち馬をうまく乗り換えることで昇進してきた大佐は、今までの経験からここは好きなようにやらせておいて美味しい所だけをもらうことを考えていた。もし、やばくなったら全責任を上官に押し付けることで保身を図れば良いと判断し、「少将のお名前はウクライナでも有名ですからな。恐ろしくて出てこれんのでしょう。」と持ち上げた。(この腐った豚がおべつか並べてんだ・・・)と腹の底ででは思いつつ、愛想笑いをしながら「大佐にそう言ってもらえると非常にうれしい」と返したその時、隊列の前方で黒煙が上がるのが見えた。カミンスキー少将は自分の目を疑ったが、続いて爆発音がしたので、退避行動取るように命じた。しかし、時すでに遅しであった。ジェット機特有の金属音と、ズドドドと図太い砲の発射音が聞こえたかと思うと、次々と車両が爆発炎上していく。カミンスキーがあっけにとられて、迫りくる脅威を見つめていた。指揮者の運転手が急ハンドルで路肩のブッシュに突っ込まなかったら、指揮車は穴だらけになっていたであろう。大木に正面衝突し、車両が停止した際、頭部をしこたまぶつけた少将は気を失ってしまった。

カミンスキー少将が気を取り戻したのは急ごしらえの医療テントの中で、頭と腕に包帯を巻かれ、首にはギプスが付けられていた。周りには、異臭が漂い外は非常に慌ただしい様子が見て取れた。少将が気を取り戻したことに気が付いた医官が「少将、気が付かれましたか。直ぐに後方に移送し、精密検査を受けていただきます。」と言うと作戦本部将校を呼びに伝令を走らせた。しばらくすると、指揮車に同乗していたキリレンコ中佐が呼ばれ駆け付けてきた。

中佐の話によると、2機の悪魔の十字架が突然襲い掛かってきて、一往復の攻撃を行って飛び去ったとのことだった。カミンスキーは悪魔の十字架と聞いて蒼白になると同時に、情報部に対して米帝が出てくるといった話は全く聞かされていないと怒りをあらわにした。

悪魔の十字架とは、アメリカ空軍が長年愛用し続けているもの陸上攻撃機A-10サンダーボルトIIである。この機特有のシルエットが、ロシア正教会の十字架に似ていることからロシア兵の間では『悪魔の十字架』と呼ばれている。このタンクキラーの異名を持つA-10サンダーボルトIIは航空機としては非常識とも言える強力な30ミリバルカン砲(毎分3900発)で武装している。この30ミリバルカン砲があまりにも巨大なため、前輪は中心からズレた位置にあり、正面から見ると歪んでいるように見える。正面や側面装甲がぶ厚い戦車でも上面は比較的装甲は薄いため、空から降ってくる30ミリ砲弾で穴だらけにされてしまう。

この化け物のような攻撃機が出てくることを事前にキャッチできなかった情報部に対して、カミンスキーは自分がピクニック気分で進軍していたことも忘れ、罵詈雑言を並べ立てたのであった。

キリレンコ中佐が語った被害報告は、カミンスキーを青ざめさせるのに十分な内容であった。なんと、部隊の戦闘車両の35%がスクラップとなり、修理を必要後する車両も数多ある。人的被害は集計中だが、死傷者多数なのは火を見るよりも明らかな状況で、これは軍事上で『全滅』と言われる程の大被害である。唯一の朗報は、飛び去ったA‐10をロシア空軍戦闘機が追跡中だということぐらいだった。悪魔の十字架は最高速度が600キロ足らずの鈍足機なので、すぐに捕捉されるであろうとの航空管制士官の見立てではあったが、何の慰めにもならなかった。

キリレンコ中佐の報告の最後は、政治将校であうカガノビッチ大佐は戦死したという話であった。死因は、戦闘中に流れ弾に当たったということであった。ロシア軍の政治将校は流れ弾で戦死する確率が非常に高いのであった。

カミンスキー部隊を壊滅させたA-10『悪魔の十字架』2機を追跡しているのは、ロシア空軍のマレンコフ大尉の小隊であった。「こちら、クラスナーヤズベズダ1(赤い星1番機)。逃走中のA-10をレーダー上で発見。超低空を時速270ノット(500キロ)で南西方向に飛行中。こいつらになら、ヤコブレフ(第2次世界大戦中に使用されたロシアのレシプロ戦闘機)でも追いつけるぞ。」と冗談交じりで管制センターへの報告にも余裕があった。これから、撃墜行動に移ると報告すると、一気に増速し射程圏内に捉えた。ところが、ミサイルがロックオンする寸前に、ミサイル警報が鳴り響いたのだった。マレンコフ大佐は、反射的にフレアを放出し、バレルロール機動から急降下で飛来したミサイルをかわしたが、僚機は一瞬の判断ミスから2発のミサイルが直撃し、巨大な火の玉となり撃墜されたのだった。マレンコフ大尉は、ミサイルが飛来した方向をレーダースキャンしたが、何も映らない。「こちらクラスナーヤズベズダ1。クラスナーヤズベズダ2がミサイルで撃墜された。繰り返す、僚機がミサイルで撃墜された。」と管制センターに報告したところ、「クラスナーヤズベズダ1、即帰投せよ。繰り返す、即帰投せよ。」と命じたのだった

マレンコフ大尉の僚機クラスナーヤズベズダ2を撃墜したミサイルの正体がF-14戦闘機から発射されたAIM-54フェニックスであることが判明したのは、ウクライナとの戦争が終結してからの事だった。

ロシアの大統領は、この一連の戦闘に関する画像かろうじて入手し、動かぬ証拠としてアメリカ政府に対して猛然と抗議した。このニュースは世界を震撼させ、第3次世界大戦を始まるのかと緊張が走った。これに対してアメリカの対応は冷静な態度で、「ぼやけた画像で、A‐10サンダーボルトだと決めつけるのは極めて遺憾である。そもそも、アメリカ空軍管理下にあるA‐10サンダーボルトは全て所在がはっきりとしている。さらに、NATOの基地から、発信したと言うのであれば、貴国の諜報活動の中で把握できるのではないか?」と最後は嫌味を言う余裕裏さえ見せたのである。


ウクライナ東部戦線において、コマロフ中尉は中隊規模になってしまった元大隊を率いて、味方に合流すべく北へと移動していた。カミンスキー部隊の教訓から、全車両には対空ミサイル『イグラ』を装備した歩兵を2名ずつ配置し警戒にあたらせた。また、高速装甲車を中心とした強行偵察部隊に先行させ、パルチザンへの警戒も怠らなかった。

コマロフ中尉が指揮車のキュープラに立ち、双眼鏡であたりを見回していたその時、隊列の前方で、戦車擱座し黒煙を吹き上げたのだった。即、敵襲と声を張り上げるとともに、部隊を道路脇に散開避難させた。コマロフ中尉は、擱座炎上する戦車付近のブッシュが揺れているのを見逃なかった。即座に、「炎上している戦車の左200m付近に無照準でよいので攻撃せよ」と命令を下した。数台の戦車が指定された当たりに砲弾を撃ち込み、装甲車からは重機関砲が撃ち込まれた。土くれが吹きあがり、そこに何かが隠れていたのであれば無傷では済まない砲弾が注ぎ込まれた。しかし、手ごたえがない。歩兵部隊が突入すると、蛻の殻で無限軌道の跡が残っていただけだという。

部隊が狐につままれた状態になった時、今度は、部隊の後方で燃料輸送車を含むトラック数台が砲撃を受け爆発炎上した。


まだうっすらと煙が立っている敵が砲撃したと思われる茂みに重機関砲が火を噴いた。すると、重機関砲の砲弾が何かに当たってガンガンという鈍い音がし、跳弾となった砲弾が空中に跳ね上がるのが見えた。コマロフ中尉はそこに敵戦車がいると確信し、戦車4両に追撃命令を出した。T-72 戦車がエンジンをふかし、茂みの中に突進していくと、すぐに砲撃が始まった。しかし、全く命中音がしない。10分もしないうちに、砲撃は止み、戦車小隊の隊長から残念ながら逃げられたという連絡が入ってきた。コマロフ中尉が詳細を訪ねると、敵車両は2両で、第二次世界大戦中にロシア(旧ソビエト)が使っていたSU-85(駆逐戦車)に似た形状で、まるでフライ返しの様な形状の戦車であったという。その報告を聞いたコマロフ中尉は、まさか米軍に続いてNATO(北大西洋条約機構)加盟国のスウェーデンが参戦してきたのかと疑った。事実であれば非常に重大な話で、即本部に報告しなければならない。一瞬ためらったが、コマロフ中尉は「未確認なれど、S-103と思われる敵戦車2両に攻撃を受けた。わが方の被害、T-72 が2両と、輸送車両4台なり。繰り返す、敵戦車の詳細は未確認なれど、S-103と思われ。」

この報告に本部は色めき立った。ロシアが攻め込んだウクライナ各地で戦車戦が勃発しており、ドイツや英国の物とみられる戦車に攻撃を受けているという報告が入っていたのだった。もし事実であれば、NATO加盟国がついに動き出したとも考えられる。しかも、一切の警告や布告はないため、NATOはロシアに対して奇襲攻撃を仕掛けてきた可能性がある。しかし、NATOの軍事基地はロシアに近いところでは、デフコン2で緊張感こそ高まっているが、その他の所は今だデフコン3で、戦闘状態のデフコン1からは程遠く、基地で働く民間人が出入りしている。更に、外交チャネルも平常時と変わることなく、オープンとなっている。

さらに、ロシアを混乱させたのは、前線の兵士から「メルカバ」を見たという複数の報告だった。メルカバとは、イスラエルの戦車であるが、イスラエルはNATO加盟国ではない。また、未確認情報として、インドのアージュン戦車を見たとか、日本の74式戦車を見たとかいう報告も上がっている。後に、これらは誤認であるとわかるが、いかに前線や司令部が混乱していたかが判る。


数日後、常任理事国であるロシアの要求で国連の緊急安全保障理事会が開催された。緊急安全保障理事会は、ロシアの代表が本国から送られてきている声明文を読み上げることから始めた。

「ウクライナ地方における、ネオナチと言われるパルチザンが仕掛けている『国内紛争』に対して、他国がパルチザンを支援というのは内政干渉である。関与している国々に対してロシアは猛省を要請すると共に、受けた損害について賠償を求めるものである。」と言い切った。

緊急安全保障理事会は白けたムードが漂い、どの国も発言するのもバカバカしいといった雰囲気を醸し出していた。ロシア代表は、謝罪すべき国と損害賠償をすべき国のリストを掲げ、これを認めるよう要求した。ロシアは常任理事国の要求であれば無視することはできないと踏んでいたのだが、常任理事国の全てが拒否権を発動した。味方に付いてくれると想定していた中国ですら拒否権を発動したのだった。

ロシア代表が中国代表をにらみつけると、中国代表が重い口を開いた。「そもそも、ウクライナは独立国であり国連加盟国である。そこへ、自国領土拡大としか思えぬ侵略を行い、それを内政干渉と言われてはどの国もロシアに対して同調できない。そうでしょう『同志』」と言ってのけた。ロシアの代表は、ウクライナ併合がうまくいったら、それを前例として台湾を飲み込むつもりの国が何を言うか…という思いがよぎった。しかし、彼も本国からの命令に納得しているわけではないことが彼の表情から読み取れる。かといって、本国からの命令は絶対であり、背くわけにもいかず、苦悩している様子であった。ここで、日本代表が各国の代表に目配せし、うなずいたことを確認すると、議長に対してビデオメッセージがあるので見て頂きたいと提案を行った。議長もこのままでは埒が明かないと考えていたので、了承すると、檀上の後ろに巨大なスクリーンが現れ、ビデオが映し出された。

映し出されたのはリー・シェンロンと名乗る初老の男性であった。東洋的な笑みを浮かべながら、「このビデオを見ていらっしゃるということは、安保理では今後の対応がまとまらなかったということだと思います。」というと、ズームアウトして彼の後ろに立っている何人もの男女が映し出された。彼らの背景には、ウクライナ共和国の国旗色に塗られたハートが映し出された。

「そう、我々はウクライナ救国騎士団ヒマワリである。国際NPO法人であり、私がその代表理事である。」リー氏がここで間を取る間に、カメラはリー氏を再度ズームアップした。

「ロシアによるウクライナ侵攻は、一切の正当性はない。さらに、ロシアは核保有国であり、核の使用をちらつかせるのは言語道断である。」リー代表は静かな口調絵はあったが、ロシアの軍事行動を全面否定した。ちょっと間を置くと、「ただ、国として利害関係や、パワーバランスを考えなければならないため、表立ってのウクライナ支援は難しい状況にあるのは理解できる。悲しいかな、これが、現実で国際政治というやつであろう。」と各国の煮え切らない態度は理解できると肯定した。

「そのような状況かではあるが、日本海軍第一艦隊総の有賀司令が無理を承知でウクライナ支援をすべきであると立ち上がった。かれは政府と掛け合ったが、彼の提案は却下された。日本政府としてはロシアとの領土問題や樺太での資源開発プロジェクトなどの関係があり、国としては動けないという結論に達した。この話を聞いた私が世界の著名人に声をかけたところ、有賀氏のウクライナ支援案を陰ながら応援したいという返信が数多く集まった。そこで、ウクライナ救国騎士団ヒマワリの創設を決意するに至ったわけである。今のところ、有賀氏が立案した戦略はほぼ計画通りに進んでおり、我がNPOへの支援申し出を打診してきている、個人や団体は優に300を超えている。」リー氏は、ここで一旦話を切って、卓上のお茶を一口飲んで喉を潤したのち。静かに、茶碗に蓋をすると、「我々、ウクライナ救国騎士団ヒマワリの目的を一言で言うと『世界平和』である。まずは、ウクライナを武力で併合しようとしているロシア軍をウクライナから全面排除することを目指している。ここで、ロシアが全面撤退をするというのであれば、救国騎士団は即時解散する。できれば、そう願いたいところだが、引かないというのであれば、実力をもってご退場頂こうと考えている。」

緊急安全保障理事会の主要国はこの話を事前にある程度説明を受けていた節があり、誰も異議を唱えたり、質問をしたりする者はいなかった。中国代表は秘書官に何かを伝えると、秘書官が慌てて退席したが、その場では苦虫をかみつぶしたような代表はぶぜんとした表情で腕組みをしたままで、特に発言をする気はないらしい。これに対してロシアの代表は、まさか国連や、国ではなく、NPOという民間団体が出てくるとは想定しておらず、米国を基盤とするNATO対策、国連対策としてのロシア本国から伝えられている方針を繰り返し述べるのが精いっぱいであった。もともと、国際政治に詳しいロシア代表は、自分が口にしている説明は何の回答にもなっていないことは重々承知している。そもそも、本国首脳部においても、民間による反撃は想定外のはずだ。ロシア連邦保安庁 (FSB) や、ロシア対外情報庁 (SVR)の連中は何をやっていたのだ?多くの白い目で見られる中、抜け殻のように、同じ言葉を繰りかえすロシア代表は地獄とはこういうところなんだろうなぁと共産主義国では許されぬ妄想を抱き始めていた。その時、秘書官に肩をたたかれ、ハッと我に返ったロシア代表にとっては、新しい言葉を述べられる感動的な瞬間であった。

ロシアは、クリミア半島を攻撃したのが、ウクライナ救国騎士団ヒマワリとやらに属する戦艦ヤマトであるならば、国として損害賠償を求める。また、ヤマトを撃沈するにかかった費用の請求も行う用意がある。ヤマト撃沈後に受けた、ここからは略して『ヒマワリ』と呼ばせてもらう、に所属していると思われる攻撃部隊による損害についても、損害賠償を請求する権利をロシアは有するものである。

最初はVTR映像であったが、いつの間にかライブに変わっており、ロシア代表の抗議に対してリー代表は「損害賠償請求をするのはロシアではなくウクライナのほうですな。何の法的根拠もなく、いきなりウクライナに武力侵攻し、占領したところを自国と称するのは、どんな法に照らし合わせても違法以外の何物でも無い。」と断言した。ロシア代表はヴィデオだと思い込んでいたため、リアルタイムの反応に驚いた。ロシア代表団がざわめくなか、「ちなみに、この会話はネットで生中継され、全公開されています。」とリー氏は当たり前のことのように言った。

何かを言いかけていた中国代表部もライブと聞いてからは、傍聴する側に居ることを決めたようだ。次には何が飛び出してくるのか興味深げに、モニターを見守っている。

ロシア代表が慌てている様子が見て取れたが、リー氏はニヤリと笑い。今から24時間以内にロシアのウクライナからの全面撤退宣言を出してもらいたい。24時間以内に出ない場合、ウクライナ救国騎士団ヒマワリはロシア軍をウクライナ国内から実力をもって排除する用意があることをここに宣言する。」と力強く遷延した。意味の重大さを理解させるため、間を取ったと「なお、NPO法人であるウクライナ救国騎士団ヒマワリは皆様からの寄付金で成り立っております。世界平和にご賛同いただける方は、1シンガポールドルから寄付を植え付けております。」とにこやかに言うと、QRコードがモニターに表示され、スキャンするだけで簡単に寄付できる説明がはいった。

余談であるが、ウクライナ救国騎士団ヒマワリのウエッブサイトには億単位のアクセスが集中したが、世界最大級のクラウドサイト運営会社がスポンサーになっており、パンクすることは無かった。(サイトには、クラウド名がしっかりと表示されていたのは当たり前)

WEBサイトには、リー氏が掲げる理念はもちろんのこと、たった今、国連会議でリー氏が語ったビデオが再生できるようになっていた。さらに、ヒマワリに所属する戦力もいくつか紹介されていた。海軍力で特筆すべきは、『米国式艦載機込みの攻撃型空母2隻』と『戦艦ヤマト』であった。また、戦艦ヤマトについては、特設ページが設けられていた。そこを開くと、『ウクライナ救国騎士団ヒマワリ所属戦艦ヤマト健在なり』の見出しがまず目に飛び込んでくる。

戦艦ヤマトがウクライナのクリミア半島にあるロシア海空軍基地や陸軍の物資集積所を砲撃、これらを壊滅させたこと衛星写真や、ドローンと思われ映像などで紹介。そのあと、『ロシアの反撃』というタイトルになり、カミンスキー大佐(現在は少将に昇格)が立案した奇策である3段構えの対艦ミサイル攻撃の説明書きがCG動画と共に閲覧できるようになっていた。

トップシークレットの印と承認印が押されたカミンスキー大佐のヤマト攻撃案の原書をどうやって入手したかはさておき、ロシア語の原文をスキャンした物とその横に、各国語に翻訳された詳細が書かれていた。

ロシアの公式作戦案によると、ヤマトへのミサイル攻撃第一波は射撃訓練用ドローン(レーダー上では、対艦ミサイルと見分けがつかない)を使用。第二波は、訓練用ドローンが足りないので、対艦ミサイルとの混成攻撃となっている。第一波、第二波の一般的な超音速飛翔体がヤマトまで届くとはカミンスキー大佐は考えておらず、ここまではひたすらヤマトが保有する艦対空ミサイルを浪費させることが目的であった。つまり、ここまではカミンスキー大佐の思惑通りに戦況は進んでいたことになる。本命の第三波はロシアが誇る極超音速対艦ミサイルであった。第二波の対応謀殺されている中、極音速対艦ミサイルが2方向から飛来するという用意周到な作戦の最終段階えあった。彼の目論見は見事に的中し、ヤマトには直撃弾が3発、至近弾4発という大戦果をあげることに成功している。

この攻撃でヤマトが受けた被害は、至近弾により多くの対空砲が破壊された。特にゴールキーパーと言われる20㎜バルカンファランクスが多数破壊された。一般的な対艦ミサイルを着弾300m手前で破壊できた場合、ミサイルの破片がバラバラと降りそそぐ程度で済むのだが、極超音速対艦ミサイルの場合、毎秒50発以上で20㎜弾を発射できるファランクスでも命中させるのも至難の技となる。おのずと命中率が高くなるのは至近距離に迫ったタイミングとなるが、300㎜では命中しても対艦ミサイルが爆発飛散する前に艦に届いてしまう。つまり、散弾銃で撃たれたような状況になり、撃墜に寄与したファランクスはおろか、周りに砲やその他装備に被害が出る。薄っぺらい装甲しかもっていない巡洋艦や駆逐艦クラスであれば、至近弾一発で大被害を被る恐れも十分にあるということになる。

至近弾4発は艦内に大きな被害を与えることは無かったが、問題は直撃の3発であった。

1発は、ファランクスの砲弾がかすったため、弧を描いたが故に艦橋の上部に命中。第一艦橋(昼戦艦橋)の上で、大改装時に設置されたレーダー類、通信アンテナ類を完全に破壊。ここは、それほどの防弾構造にはなっていなかったため、命中したミサイルは、突き抜けて100mほど先で爆発したのだが、レーダーが使えなくなったうえ、衛星リンクも途切れ、外部との通信が出来ない状況に陥ってしまった。これが最大の被害であった。

残りの2発目と3発目はそろって右舷中央に命中。ここで、大音響とともに、黒煙が上がり、『ヤマト撃沈』の話へとつながっている。しかし、戦艦『大和』の時よりバイタルパートは、射撃距離20000~30000mから発射された46cm砲弾に耐えるように設計されている。第二次世界大戦初期から戦い続け、生き残ってきた戦艦である。戦艦を良く判っていないロシア軍は、その点の詰めが甘かったというか、戦艦ヤマトを単艦ということもありなめていた。自分自身が持つ砲で撃たれても問題ないという設計思想は第二次世界大戦以後すたれ、船の軽量化並びに、迎撃防衛力の強化、陣形防衛方式が主流となっている。

戦艦ヤマトを現代戦の尺度で考えたのが間違いだった。極超音速対艦ミサイル「キンジャール」がもつ速度と800キロの高性能火薬による破壊力では、金属の塊で1.5トンもある46㎝徹甲弾ですら跳ね返すバイタルパートの装甲を突破することは出来なかったのである。

海軍戦力としては、2流以下のロシアは、米国等西欧諸国の大型艦船である空母はよく研究していたが、戦艦とは何たるか全く理解していなかったのだった。こういった背景から、カミンスキー大佐を責めるのは酷という物であるが、作戦失敗が明るみに出た以上、ロシアとして誰かを処罰しなければならなかった。

今まで、ヤマト健在の報を出せなかったのは、ヤマトも無傷ではなかったからである。極超音速ミサイル「キンジャール」被弾後にドローンから撮影された映像が公開されていた。威風堂々とした全体像は変わりないが、見事に艦橋上部が吹き飛ばされてはいる。さらに、近接対空装備の多くが破壊されているのが見て取れる。バイタルパートを直撃した2発の命中箇所は、大爆発がそこで起きたことを伺わせる放射状に黒く汚れていた。航行レーダーが無くなったことを除けば、特に航行には差し支はない様子であった。


ウクライナ救国騎士団ヒマワリの公式ウエッブサイトには、作戦行動上の機密以外は事細かな情報が珪砂入れていた。最も目を引くのは、救国騎士団が突き付けたロシア軍のウクライナからの撤退行動開始時刻までの残り時間が表示されていた。その数字は正確に減り続けていた。


期限の時間が刻一刻と迫る中、ウクライナ救国騎士団ヒマワリよりメジャーなメディアに対してメッセージが伝えられた。『戦艦ヤマトの主砲による対地攻撃がウクライナからロシア軍を一掃する作戦の号令となる。この砲撃に立ち合いを希望するメディアは1時間以内に返答すること。セキュリティーチェックを行い、許可されたメディアの取材を認める。』という前代未聞のオファーだった。このオファーを受けたメディアは全て即答で参加の意向を示した。


「世界の皆様、ウクライナ救国騎士団ヒマワリ所属の戦艦ヤマトをご覧いただいていますでしょうか?米国が日本海軍の戦艦大和に対抗すべく計画したモンタナ級以外、ヤマトに匹敵する戦艦はありません。先日、ロシアの極超音速対艦ミサイル「キンジャール」数発が直撃しました。現在確認できるのは、艦橋上部が仮説の物であることが見て取れます。また、右舷の巨大な焼け焦げた跡が2か所確認できます。」とCNNのレポーターがヘリからの映像と共にライブ映像全世界に配信している。続けて、「ロシア軍に対するウクライナからの撤退行動期限も残すところ後15分20秒を切りました。」映像がヤマトを大写しにすると「今、世界最強の46㎝砲が一斉に右舷方向に回り始めました。我々報道陣は、ヤマトの左舷つまり、砲塔の向いている反対側へ退避を命ぜられました。」というアナウンスと共に、ヘリは急旋回をしながら、焦げ跡の残る右舷方向移動を開始うる映像を世界中が固唾を飲んで見守っていた。多くの人が、ロシア軍が撤退し、これ以上の犠牲者を出さずに済むことを願っていたが、ロシア政府は沈黙を保っていた。「主砲発射まで、あと2分を切っています。」とCNNのレポーターが緊張した面持ちで状況を伝えた。

CNNに限らず、各国の報道番組発信源、すなわちヤマトの位置を突き止めようと、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)などしていた。しかし、各局の映像には、陸地が映っておらず、映像からの特定は非常に難しかった。

タイムリミットが30秒を切り、CNNでは「ここがどこかは申し上げられませんが、ヤマトは目標に向けて、46㎝主砲9門全てを向けている模様です。タイムミットまで後15秒となりましたが、ロシアは全く撤退の意思は示しておりません。あと、10秒です。」とレポート。最後の10秒は沈黙のうちに、カウントダウンが進み、画面のカウンターが0となった瞬間、ヤマトの46㎝砲9門が一斉に火を噴いた。

CNNのレポーターは46㎝砲9門斉射にド迫力を抜かれた。「ま、まるで巨大火山が噴火のようです。」と多少上ずった声でレポートした。彼は、マイクのスイッチをオフにすると、他のクルーに対して「あの方向は、100キロ近く海だろ?何を狙ってるんだ?まさか、単なる戦闘開始の号砲って訳じゃないよな?」と、疑問を投げかけたが、誰も答えられる者はいる訳がなかった。


数分後。「ただいま情報が入りました。ヤマトが放った9発の砲弾は、ウクライナ軍が民間人と共に立てこもったことで有名になったマリウポリのようです。現在は、ロシア軍がこの地域最大のトーチカとして、地下司令部を置いている場所となります。しかし、ここからマリウポリまでは100キロ近く離れており、果たして本当にヤマトが放った砲弾なのでしょうか?」CNNのレポーターが疑問を抱くのも当然で、いくら45口径から55口径にスペックアップしたとはいえ、そう飛躍的に有効射程距離が延びる訳ではない。日本海軍に所属していた戦艦大和は55口径に砲身を装換する際、ライフ砲から滑空砲へと仕様を変更している。

ライフル砲の場合、砲身の内側に渦巻き状の溝があり、砲弾は発射されるとこの溝のお陰で砲弾自体がドリルのように回転しながら砲口から飛び出してくる。砲弾自体を回転することで、ジャイロ効果が生まれ弾道を安定させるという仕組みである。砲弾軌道は安定するが、ライフルの溝を切りなおしたりする定期メンテが必要なうえ、砲身寿命が短いのが最大の欠点であった。

滑空砲の場合、ライフル砲と異なり溝がなく、砲身内はツルツルになっている。砲身製造技術や、砲弾製造技術の精度が求められる。砲身、砲弾のいずれかに少しでも狂いがあると、弾道にバラツキがでて命中精度がでない。20世紀末になると加工技術精度上がり、ライフル砲である必要がなくなってきた。

戦艦大和が建造された当時の45口径ライフル砲では、最大射程が約42キロと言われている。20世紀後半になると、砲身や火薬の改良等もあり、約50キロまで射手は伸びている。

大改装で45口径から55口径へと長身化されたが、ライフル砲のままだと最大射程は70キロ弱と見積もられた。日本海軍第一艦隊旗艦として見栄えはするが、実戦には向かないという評価であった。(他国との共同軍事演習や、表敬訪問の効果は絶大なものがあるので、それでいいというはなしも無いわけではなかった。)

日本国防軍技術工廠では、弾頭の飛距離を伸ばし、命中精度をあげる方策を編み出した。それが、46㎝11式徹甲弾である。滑空砲に砲弾が回転しなくなったため、砲弾に色々と細工できる。46㎝11式砲弾は、砲口から飛び出すと羽が飛び出す仕組みになっている。飛距離を稼ぐ場合には、高高度に達すると羽が飛び出し、滑空する仕組みになっている。羽が出た後は、事前のプログラムや、遠隔操作により軌道のコントロールがある程度できる代物である。ケルチ海峡をすり抜けアゾフ海に進出した戦艦ヤマトは、ウクライナの港湾都市でリゾートとしても有名なベルジャーンシの沖合20キロから、北東約100キロにあるマリウポリ製鉄所跡を砲撃し、見事命中させたという訳である。

たった9発の砲弾で、マリウポリに進駐していたロシア軍司令部は壊滅した。

ウクライナ救国騎士団ヒマワリによってアゾフ海の制海権を奪取されたロシアは、ウクライナで強奪した軍事物資や小麦やトウモロコシといった食料をロシアに運ぶことが出来なくなったのであった。


ロシア軍のウクライナ西部戦線の司令部が壊滅したことで指揮系統が大混乱に陥った。その混乱に乗じて最初にロシア軍に打撃を与えたのが、元アメリカ海軍に所属していた2隻のニミッツ級空母であった。また、陸上においても、ウクライナ救国騎士団ヒマワリのマークを付けた戦闘機が次々と離陸していった。動き出したのは、航空機だけでなく、装甲車や戦車といった戦闘車両も一斉に動き出している。ウクライナ救国騎士団ヒマワリに属する航空機や車両は、世代が一世代、二世代程古いことが見て取れる。解体して部品化するか、単なるスクラップとして売り飛ばす位しか使い道が無かったこれらの兵器である。ウクライナ国運に供与しても、訓練などが必要で即戦力とならないという課題があった。さらに、人材まで派遣すると国際問題になりかねない上、万が一が起きた場合の補償をだれがするのかといった等が大きな課題となっていた。

それを一気に解決したのが、国際NPO法人である「ウクライナ救国騎士団ヒマワリ」であった。あくまでも、NPO法人であって、国家ではないというところが味噌で、ウクライナに肩入れしたいが、表立ってできない国々がNPOへの寄付・寄贈という形で支援できる。これは、国単位だけでなく、あらゆる法人、個人も寄付や寄贈が可能である。

最新兵器は強力だが、第一級の兵士が必要となる。つまり、最新兵器を供与すると第一線の兵士もセットとなる。それは、自国の兵力ダウンになってしまうので、第一線の兵士を引き抜くわけにはいかない。この、国が関与しない、新型兵器を投入しないといった難題を解決する提案をしていたのが、元日本海軍少将の有賀氏である。リスクを最小限に抑えるこの案をリー・シェンロンが資金集めから法人設立をあっという間にやってのけ、有賀氏の案に賛同したからに他ならなかった。


有賀氏は、秘策として日本国防軍の機密に抵触する技術を使うことを提案していたのだった。日本国政府は、技術の部分は簡易版の提供でこれを可としたが、国として表立った支援は国際情勢を鑑みると非常に厳しいという結論に至ったのであった。その秘策とは、有賀氏は小型空母の艦長時代、ある作戦で雫石空軍司令長官の指揮下に入ったことがあった。雫石空軍中将は空軍特殊部隊で、本物の戦闘機を遠隔操作で操縦するという部隊の司令長官であった。有賀氏は雫石氏を説得し、この門外不出の技術を簡易化し、ウクライナ支援に使用できるよう手配してらうことに成功。NPO法人ウクライナ救国騎士団ヒマワリはこの技術を活用し、航空機だけでなく、戦闘車両にも応用したのであった。

軍用機の遠隔操縦を本格的に導入したのは米軍で、シプロ機のプレデターやジェット推進のトライトンがある。この米軍のシステムではフラットパネルの画面に映し出される映像を見て操縦することになる。空中戦等のような複雑な機動は視野が狭いこともありむずかしいが、監視や強襲偵察には十分であった。

日本国防軍のシステムでは、コクピットを模した座席と操縦桿等があり高級なシミュレーターの雰囲気がある。視界はヘッドマンとディスプレー(HMD)で確保するため、モードによっては、実機以上の視野がある。実機と同様で、側方や後方の確認が出来たりもする。この広い視野と、シミュレーターの様な模擬コクピットのお陰で、空戦といった難しい機動操縦も十分かのうである。ただし、コストダウンのため、機種によって異なる細かい計器類等は統一されているため、ある程度の慣れが必要となる。

このシステムは、旧機種を使用するため、パイロットも第一線である必要ない。整備士も同じで、第一線には全くと言って良いほど影響が出ない優れものであった。実際に、パイロットや整備士を募集したところ、数多くのベテラン退役軍人がこぞって手を挙げてくれたのだった。彼らにとってもこのシステムはメリットがあった。このシステムでは、戦闘中にGにかかることもない上、実機では必須となるGスーツ、ブーツ、ヘルメット、そしてパラシュートが一切不要。これらの装備は非情に重く、年齢と共に耐え難い物となってくる。遠隔操作の際、自己発揚の為に、古いフライトスーツを着用する者もいたが、中には、ジーンズにT-シャツといった姿も見かける。しかし、全員の肩には、ウクライナ救国騎士団のマークである♡型のウクライナ国旗ワッペンが縫い付けられていた。もちろん、実機の機体には、所属を騎士団のマークが貼られている。

体に負担がかからない戦闘をシミュレーションで体得したベテランたちは、実戦でも旧型機でロシアの新型を何機も撃墜し、エースの称号を手にする者が何人もいた。本来、高速での旋回や、急降下からの引き起こしを無理にやると、巨大なGがかかり、ブラックアウトやレッドアウトという現象が起き、気絶したり、脳に障害が起きたりするのだが、このシステムではその心配がない。機体がセンサーで感知し警告は出すのだが、パイロットは全くGを感じていないで、無茶が出来る。一度は、機体の方が耐えられず、空中分解を起こす事故が発生したほどであった。


救国騎士団は、ロシア本土への攻撃は一切行わなかったが、ウクライナ国内に侵入してきているロシア軍には容赦しなかった。海上には戦艦ヤマトや旧米軍の空母とその護衛駆逐艦が遊弋し、空には戦闘機が昼夜を問わず飛び回っていた。地上では、救国騎士団の無人戦闘車両がつゆ払いをおこない、ウクライナ正規軍と周辺国の義勇兵がロシアによって占領された街を次々と解放していった。各地でロシア軍が劣勢となり、装備を放り投げてロシアへ撤退していく部隊が続出。中には、政治将校(監視役)を排除し、部隊ごとウクライナに投降してしまう部隊もあった。


ロシアとしても、相手が国であれば幾つかの外交カードや、戦力による脅し等でねじ伏せることをやってきたが、まさかNPOという形で民間が出てくるとは全く予想していなかった。ロシア大統領府は、国連安全保障会議を常任理事国として緊急招集したが、中国が棄権票を出し以外は、全てNOを突き付けられてしまった。そこで、最後の切り札として戦術核の使用をちらつかせ始めた。

ロシアのウクライナにおける戦況と、国際的に孤立してしまっている状況は、KGBの流れをくむロシア連邦保安庁(FSB)がいくら情報統制をおこない、SNS等を通じて国民だけでなく、ロシア軍お兵卒にも広く知れるところとなっていった。


ロシア大統領肝いりで建設された、ウクライナのクリミア半島とロシアを結ぶ、クリミア大橋が爆破された事件を戦艦ヤマトの仕業であると、ロシア大統領府が発表し、特別報道番組も組まれた。ロシア国内では、カラ海を遊弋しているヤマトの砲撃映像とウクライナ大橋の爆発シーンがCGで合成され、あらゆるメディアを使って繰り返し報道していた。大統領府の声明には、「ウクライナ救国騎士団ヒマワリと名乗る国際NPOの皮をかぶった巨大テロ組織による軍事行動により、ウクライナ大橋が破壊された。このテロ組織を支援する国家、個人は即刻支援を止めよ。テロ活動が止まらない場合、ロシア政府として戦術核の使用を辞さない。万が一、このテロ集団以外に被害が及んでも、それはロシアの責任ではないことを忠告しておく。」

ロシア政府は、救国騎士団を国際テロ犯罪組織と位置づけることで自らの軍事活動を、対ネオナチ、対テロ集団という錦の旗を掲げたのだった。


戦術核というと被害が小さくて済みそうなイメージがあるが、最低でも広島型原爆(約15キロトン)のほぼ倍程度の破壊力を持つとされている。日本政府は国連や各国政府の協力を得て「Remember Hiroshima/Nagasaki」キャンペーンを開始。いくつかの国では、ロシア語に翻訳され、直接ロシアのインターネットにハッキング放送を行った。そのおかげで、ロシア国民の80%以上が一度はこのキャンペーンビデオを見たことがあるという状況となった。


ロシア大統領府は、大統領の古巣ともいえるロシア連邦保安庁(FSB)トップや、西部軍管区司令長官の首を挿げ替えた。FSBのトップは大統領自らが兼務するという異常な措置が取られた。比して、西部軍管区司令長官に新しく任命されたロマノフ中将は事実上のお飾りで、西部軍管区は事実上大統領府直轄とされた。戦術核を装備する第26ロケット旅団は軍管区直轄部隊から、新設されたモスクワ第一親衛隊へと配属が変わった。これにより、大統領府の直轄部隊となったのであった。

この部隊には、地上発射型ミサイル・システム「イスカンデル」が6セット配備されている。「イスカンデル」の射程は500キロ程度あり、ロシア国内からウクライナの東側ほぼ全域を攻撃する能力を持っている。

第26ロケット旅団は特殊部隊であるため、ロケットや核の知識が必要としていた。この旅団に属する第61ロケット大隊が今回の目玉で、元々ロケット工学博士で、原子物理学にも精通しているドストエフスキー大佐が指揮官として着任している。ただし、政治局からは新任で爬虫類の様な目つきをしたアレクセイ大尉が政治将校として送り込まれてきた。


ドストエフスキー大佐がロマノフ中将から受け取った命令書には、『発射命令発令後、10分以内に発射せよ』と書かれていた。「イスカンデル」は非常に複雑なシステムである。そもそも、隠蔽場所から発射予定地点への移動と固定だけで10分以上かかる代物なのだ。


大佐は、ロマノフ中将に発射命令を受領してから最低でも1時間はかかると意見具申をした。ロマノフ中将は「そんなこと言われてもなぁ、政治局お決定なのだ、儂にはいかんとも・・・」と苦渋の表情を見せている。このやり取りを冷たい目で見ていたアレクセイ大尉が突然横から、「ロマノフ中将閣下、はじめてお目にかかります、アレクセイ大尉であります。」と言って中将に向かって敬礼した。中将は「うむ」と言って返礼はしたものの、少佐が政治将校であることを知っており、気もそぞろではなかった。その様子を見て取った少佐は「上層部に逆らうと反逆罪で逮捕せざるを得なくなります。そして、命令に従うことが出来る者を連れてくるまでですな、中将。」と言い放つと、中将は、うんうんと頷くばかりであった。

一方のドストエフスキー大佐は、(映画のように、ボタンを押せば飛んで行くとでも思っているのか?)と思いながら、「全ての手順を10分で出来る者がいたら、喜んで変わってもらいたいものです。」と総数で500ページを超えるマニュアルをテーブルの上に投げ出した。そのうえ、今度は慇懃無礼に「こちらがチェックリストになります。」と二人に見えるように開いて見せた。

それを見た瞬間にポイント稼ぎのチャンスだと即断したアレクセイ大尉は、政治局の無知をさらけ出さないよう、「大佐、最初から発射ポイントに固定しデータ入力だけをすれば40分、いや30分もあれば可能なるはずだ。」と妥協を提案した。大佐は、(馬鹿かこいつは?イスカンデは、いつ、どこから飛んでくるか判らないこそ、その存在価値があるのだ。姿を晒しておいては、ICBMサイロと同じだろうが。あえて、こいつの強みを捨てるとは…。戦術すら分かっていないこの政治将校だな)と内心では思ったものの、そんなことはおくびにも出さず、「中将閣下のご許可さえ頂ければ、少佐の提案を受け入れたく存じます。中将、いかがいたしましょうか?」と平然と言い放った。ロマノフ中将は「許可する」と一言だけ言うと、冷えた紅茶を一気に飲み干した。

内心では、(こいつらは自分の昇進と保身しか考えていない無能な奴らだ)と思いつつも、少佐の方に向き直ると「少佐の意見具申のお陰で、ミサイル発射プロセスが短縮できることになった。礼を言う。」と心にもないことを口にした。これに対して少佐は「大佐のお役に立てて光栄です。」とこちらも返答すると、上官に向かって敬礼して幕僚テントから出て行った。


ウクライナ救国騎士団ヒマワリの善戦もあり、ウクライナ正規軍はロシアが新しく国境としたかったドニエプル川から西の奪還地域を拡大していった。一時は激戦区となっていたウクライナ北西部おハルキウに救国騎士団の部隊が近づくと、占領していたロシア軍が壊走した。ロシア軍が逃げ出す様は、ハルキウ突入の前に空中散布された情報収集用の小型カメラや超小型ドローンが捉えていた。ロシア兵たちは、逃げる際に商店のみならず一般住宅に押し入り金品を強奪していく様子が撮影されており、メディアを通じて世界中に報道たされた。

救国騎士団の突入時には、殆ど抵抗するロシア兵はおらず、とり残されていた兵は進んで白旗を掲げてウクライナ軍に投降してきた。ハルキウ奪還のニュースとロシア兵が投降している様子がニュースが広まるにつれ、ロシア大統領府内の不穏な空気も膨らんでいった。

そんな情勢の中、ロシアが最初に併合宣言を行ったクリミア半島の最大都市であるセバストポリに駐留していた陸海軍が武装解除に応じたのだった。これで、侵略してきたロシア軍を殆ど一掃したことになり、ウクライナ大統領府は『勝利宣言』を高らかに行った。世界中が歓喜するなか、苦虫を嚙み潰した大国の首脳が二人いた。一人は、ウクライナの一部を武力で切り取ることが成功すれば、台湾併合の道筋が見えると目論でいた国家の元首である。もう一方は、ロシアの大統領である。ロシア大統領府では、セバストポリ基地が実情の無血開城となり、残っていた潜水艦などもウクライナ軍によって武装解除されていた。しかも、基地の司令官と幕僚がウクライナに投降している映像では、ウクライナ軍と笑顔で握手していたのである。これを見たロシア大統領は、起死回生の核攻撃命令書にサインしたのだった。


ドストエフスカヤ大佐率いる第61ロケット大隊は、ウクライナの首都キーウとロシアの首都モスクワのほぼ中間地点にあるブリャンスク近郊に陣を構えていた。先の政治局の決定通り、3基の「イスカンデル」戦術核ミサイルが輸送車両の後部に立った状態で更地に並べられていた。

数キロ離れた大隊のミサイル発射管制を行う野営陣地には、大体視察の名目でロマノフ中将とその幕僚が緊急建築されたダーチャに司令部を置いていた。ロマノフ中将がたっぷりとジャムを入れたロシ

ア風の紅茶を楽しんでいた時、通信兵が緊張したおももちで「中将閣下、大統領府より戦術核ミサイル発射命令が届きました。ご確認ください。」というと1枚の通信文書を手渡した。秘書官が金庫から作戦指令所を取り出し、符号の確認を取り、間違いないことを中将に伝えた。即時にドストエフスキー大佐が呼び出され、命令書が手渡された。それを一読した大佐は、来る時が来たかと覚悟を決めた様子で命令を受領した旨を伝えると、中将に対して完璧なロシア式敬礼を行った。そこへ、アレクセイ大尉が「30分でしたかな、大佐」というと、ロシア軍支給の物ではない、高級腕時計に目をやった。

中将の部屋を辞すると、秘書官が数枚の書類を大佐に差し出したのだが、それをひったくるようにアレクセイ大尉が受け取り目を通したのだった。それは、命令書の不随書類で、上層部の期待であるとかが書かれたページと、目標座標、発射時に必要な乱数表などのロシアアルファベットと数字の羅列であった。フンと鼻を鳴らした少佐は、慇懃にその書類を大佐に手渡すと、再度、「30分ですよね」と言い放ち、どこかへ足早に消え去ったのであった。

一方のミサイル発射の実働部隊は物々しい雰囲気に一変したのだった。演習では、何度も繰り返し発射プロセスではあるが、実際に発射したことは無いのでる。しかも、今回は絶対に失敗は許されないときている。そんな兵士たちに、「慌てるな、訓練通りやれば大丈夫である。」と大佐は声をかけて回っていた。兵士たちがきびきびと働き始めたところへ政治将校であるアレクセイ大尉がドストエフスカヤ大佐の元へやってきて、「さすがですな、大佐。兵が見事に動き始めましたな。」と大佐を持ち上げたかと思うと、「命令が発令され、既に18分が経過しておりますが、間に合いますかな大佐?」と脅しをかけて立ち去ったのだった。

その後も数分毎に現れては、10分で発射せよという命令を、自分が交渉して30分にしてもらった恩義を忘れたのか、などと絡んできた。階級は上でも大佐が政治将校に逆らえないことを良いことに、自分が発射プロセスの邪魔をしているとは考えずに、ネチネチと詰め寄るのであった。

しつこい政治将校が絡んでいた時、技術将校であるアレクセイ大尉が駆け込んできた。「大佐、ロック解除が出来ません。頂いたコードを入力すると、エラーとなります。後1回エラーとなりますと、全システムがロックされ、立ち上げなおしとなります。」と血相を変えて報告してきた。横で聞いていたアレクセイ大尉は「何をやっておるか!」と怒鳴ると、アレクセイ大尉が持っていたコード表をひったく、自分の物と照らし合わせたが、全く同じものであった。

「アレクセイ大尉、このコード表は政治局で作られた物で、貴職も確認されたはず。政治局のミスで起きたミサイル発射の不具合を現場に押し付けられては、はなはだ迷惑ですな。貴局内部でのサボタージュの疑い拭えませんね。」とドストエフスキー大佐はされありと言ってのけた。

自分が承認した命令書に書かれているコードが違うということは、万が一のことが起これば、自分もサボタージュの一派とみなされてしまう。それは、死刑を意味していた。そう考えたアレクセイ大尉は、政治将校専用車に飛び乗ると、連帯司令部へと猛スピードで走り去った。


政治将校の姿が完全に見えなくなってから、「座標設定はまだか?」とアレクセイ技術少佐に尋ねた。「残念ながら、大統領の正確な居場所が特定できません。せめて3か所まで絞れればいいのですが…。あと、5分下さい。」というと、持ち場へと戻っていった。


一方、ウクライナの首都キーウにある大統領府は、ロシアが以前から堂々と展開している核搭載可能なイスカンデルを保有するミサイル大隊がシステムを起動させたという連絡を受け取った。即座に空襲警報が出され、全市民に対して核シェルターへの避難命令が発令された。地下鉄の線路も使用される大規模な非難が始まった。市内は一時騒然となったが、いつかこの日が来ると覚悟していたのか意外と市民は冷静に行動し、老若男女が軍や警察の指示に従い整然と避難していった。この様子は、大手メディアのみならず、SNSでも拡散され、NATO軍は全ての基地においてデフコン2を発令し、緊急事態に備え始めた。


アレクセイ大尉に遅れること、5分程度でドストエフスキー大佐が連隊司令部に到着すると、ロマノフ中将の執務室へと向かった。司令部内は電話の着信音や、怒号が飛び交い非常に騒がしかったが、中将の執務室のドアを閉めると、そこは恐ろしく静かで重々しい空気が漂っていた。

「アレクセイ大尉、発射コードの確認はまだできないのか?貴様はここで何をしておる、さっさと確認して来い!」と大佐が怒鳴りつけた。政治将校でありながら、アレクセイ大尉は慌てて大佐に敬礼すると、部屋を駆け出して行った。「いい気味」と言った秘書官の独り言を大佐は聞き逃さなかったが、秘書官に向かってほほ笑むと、人差し指を口元で立てる仕草をするにとどまったのだった。


更に数分後、アレクセイ大尉が飛び込んできた。「新しいコードが来た、これで大丈夫だ。」と息を切らせながら、新しいコード表を大佐に手渡した。ドストエフスキー大佐は新しいコード表を受け取りながら、「あと2分しかないが、これは我が隊の責任ではないからな。少佐。」と命令書にある30分以内の発射が出来ないのは、政治局の責任であると釘をさした。「いえ、大佐。コードの確認、再発行は政治局の仕事なので、この間はカウントされません。残り時間は10分程度あります。」と言ってのけた。(そんなとこだろうな)と思いつつ、発射現場まで戻る余裕も無いということで規則には反するが無線でアレクセイ技術少佐に連絡を取りたいと中将に申し出ると、許可が下りた。


「まだ発射準備は整わないのか?」とアレクセイ大尉はイライラしながら、部屋をウロウロしている。彼のイライラに油を注ぐかのようにアレクセイ技術少佐から、「新しいコードでの認証は完了しています。問題は、も苦情座標が5つあることです。我々は3発しか持っていません。ターゲットが絞られるまで少々お待ちください。」と慌てる様子もない様子で連絡が入った。これに対してアレクセイ大尉は、「本部からは、ロシアは核の使用を躊躇しない強い国であることを世界中に示すことが重要だといてきている。適当に3つ選べばよい!」と、戦術核を戦略的に使う意志であることを語った。

「少佐、連隊長であるロマノフ中将も同意されている内容ですか?」と聞くと、「中将殿は上層部の判断に従うということだ。当たり前だろうが。」といって中将の方を向くと、ロマノフ中将は黙ってうなずくだけであった。大佐は、「つまり、敵の首都のどこでもよいから撃ち込めばよい。という理解でいいわけですね?」と不毛な会話を続けていると、「大佐、大統領の位置が特定されました。座標入力をしますので、1分下さい。」とアレクセイ技術少佐は言うと、一方的に通信を切った。アレクセイ大尉は一瞬ムッとしたが、「現場は、必死で対応している。」と大佐に言われては黙るしかなかった。

沈黙の30秒が流れた時、アレクセイ大尉から、座標入力完了し、規定通りのダブルチェックにはいった旨の連絡が入った。時計を見ていた大佐は、ほらな、うちの部隊は優秀なんだと言いたげな顔つきで、アレクセイ大尉の方をみると、「発射ボタンは政治局の俺が押す。」と言って、ロマノフ中将を差し置いて発射ボタンの前に立った。20秒後、「大佐、ファーストチェック完了しました。最終チェックに入ります。」という連絡が入った時、横から、「発射は出来るのか?アレクセイ」とアレクセイ大尉が怒鳴りつけと、反射的に「可能です、少佐。誤差が数百メートル単位で出る可能性があります。」とアレクセイは答えてしまった。「戦術とは言え、広島クラスの5倍の破壊力だ。数百メートルなど誤差にならん。カウントダウン開始。」というと、オペレーターに怒声を投げかけ、いきなり10秒前からカウントダウンが始まった。カウンターが0になった時、アレクセイ大尉は何の躊躇もなく点滅する赤い発射ボタンを押した。

発射管制を行っている司令部からも、3発のミサイルが上昇していくのが見えた。発射されたミサイルは白煙を引きながら、一気に上昇し見えなくなった。アレクセイ大尉は、これで俺は間違いなく昇進する。ロシア軍で初めて核ミサイルを躊躇なく発射した英雄として、勲章の一つや二つは確実だと、ほくそ笑んでいた。

数分後、モスクワにあるロシアの大統領府がまばゆい光と共に地上から消滅し、戦争は終結した。



その後、ソビエト崩壊時と同じようにロシア国内から幾つも国が独立を宣言し、事実上のロシア再解体となった。

そして、今回全く機能することがなかった国連安全保障理事会はソビエト連邦を引き継いだロシアがなくなったこともあり、常任理事国制度は廃止された。NPO法人ウクライナ救国騎士団ヒマワリは、理事長のリー・シェンロンが引退宣言し、そのまま常設の国連軍としなった。気になる戦艦ヤマトだが、広島県の呉で修理中である。修理が終わると、移動型の国連軍司令部としての存続がきまっている。

なお、日本政府は、海軍の象徴として「戦艦大和 II」の建造計画にGoサインを出した。



我々が生活を営む世界では、ウクライナのクリミア半島を勝手に自国に併合。現代社会ではタブー捉えている武力を使った領土の切り取りを行う、国連の常任理事国にもなっているロシアに不信感を多くの方が抱いていると思います。

そんなロシアに対して、SFの世界であれば、立ち向かいことが出来ると考えた、短編小説になります。

可能な限りリアリティを出すために、兵器類は実在する物のデータを使用。国のリーダー名などは仮想(SF)なので、実名は未使用です。

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