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「衝撃の事実、残酷な詩」2

楓が任務から帰り部屋に入ると、本部の一部が静まり返った。沢山の視線が楓に突き刺さる。まるで、何かを探るような感じだった。

 楓は他チームの反応に違和感しかなかった。

 今までにない空気である。

 楓とていくつもの戦場を駆け抜けてきたのだ。これぐらいのころで、たじろぐような性格ではない。

(何があった?)

 楓は会議室全体を見渡した。

 すると、蓮と葵と目があう。

  二人の表情はどこか、強張っていた。任務以外の二人は非悪的穏やかで、このような強張った表情をしていること自体珍しい。

「どうかしましたか? 桐原隊長。長谷副隊長」

 楓は葵と蓮に問う。

 おそらく、緊急(エマー)事態(ジェンシー)だろう。

「お前に見てほしいものがある」

 蓮は携帯端末を操作した。一枚の写真が映し出される。大人に成長した弥生が写っている。

 アンドロイド特有の虚ろな眼差しに、首筋にはところどころに紅い華が咲いている。

 それでも、間違いない。

 間違うことはなかった。

 姉の弥生だった。

 しかも、敵として生きていたなんて、性処理班として扱われていたなんて、思ってもいなかった。

 予想していなかった。

 蓮と葵の班以外の皆が、動揺した理由が分かる。

 情報班が操作して見つけた情報だという。

 沢田弥生

 十歳の時、アンドロイド育成施設に入所。

 現在、最高クラスの幹部に昇進。

 大和の支配下にある。

 アンドロイドとし生きている以上、人間に戻るには難しい部分がある。

 楓と弥生は五歳違いの姉弟だった。戦争で楓は生き残り、弥生は生涯を終えた。

 そう思っていたかった。

(バカな――今更、なぜ?)

 優秀な情報部隊がもってきた内容である。事実であることには、変わりはないだろう。明確な答えがほしくて、楓は葵と蓮を見た。

 ふらついた身体を支えようとした蓮の手を思いっきり払いのける。蓮に八つ当たりしてもどうしようもないことぐらい分かっている。

 子供みたいな行動をしていることぐらい理解している。

「嘘ですよね? 桐原班長、長谷副班長」

「お前だって理解しているだろう? 分かっているだろう?」

 現実だとういうことぐらい。

 嘘ではないことぐらい。

 敏感な楓なら気がついているだろう。

 だが、交錯した瞳が、事実だと語っていて、待っていたのは、最悪の情報だった。

 生きているかもしれない。

 幸せに暮らしているかもしれない。

 どこかで、笑って家庭を作っているかもしれない。

 淡い祈りは届くことはなかった。

 儚く散っていった。

 そんな思いは砕け散ってしまった。

 願いは脆いものだと気がつく。簡単に壊れてしまうものだと、思い知らされる。

「気になって調べてみた」

「僕が殺したとでも言いたいのですか? 見殺しにしたとでも言いたいのですか?」

「桐原副隊長を責めるつもりはない」

「聞きたくありません」

「お前の手で弥生さんを『人』に戻してやれ。家族のお前なら出来る」

「綺麗ごとだけで、何ができますか? 何がまもれるでしょうか?」

 信じていた――信じていたのに。

 背中を預けられると思っていたのに、裏切られた気分だった。突き放された気持ちになる。

「楓」

「任務に影響があるなら、私をチームから外してください」

「楓。落ち着け」

「中途半端な人間はいないほうがいいでしょう?」

 楓に渡された身分証とナイフに蓮は息を吐き出した。武器を携帯していなければ、いつアンドロイドに会うか分からない。

戦いになる可能性もある。

相手は殺戮マシーンであり、こちらは武器がなければ何もできない無力な人間である。

「お前の手で弥生さんを『人』に戻してやれ――家族のお前なら出来る」

 蓮の言葉は正しいと分かっている。

 それでも、この場所から逃げ出したかった。

 何も聞きたくなかった。

 話したくなかった。

「待て。楓」

「一人にさせてください」

 心からこの戦争が憎いと思う。

 思わずにはいられなかった。

 蓮が止めるより早く、楓は走り出していた。


***********


「楓君を傷つけたわね?」

「長谷副班長。聞いていたのか?」

「ええ。聞いていました」

 葵がにっこりと笑う。

 笑顔とは裏腹に、目の奥が笑っていない。

 付き合いが蓮でさえ、その笑顔が怖かった。

「二人とも言葉が足りませんね。今すぐ追いかけなさい」

「しかし――本部を抜けるわけには」

「私たちなら、大丈夫です」

 守られるだけの存在ではないと――葵は真剣な表情をしている。先ほどの笑顔が嘘みたいだった。

 周囲を見渡せば、部下たちも各自の仕事をしている。どうすれば、楓に負担をかけずに済むか、考えている者もいる。作戦を見直している様子も見てとれた。

 出来ることを各自でやっている。

 ここは、任せても大丈夫だろう。

 「いってらっしゃい」

 「いってきます」

  蓮は楓を探すために、本部を出た。

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