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「動き出す陰、揺らめく闇」3

「ここで、何をしている?」

「田川副所長」

 屋上に寝転んでいると、人の近づいてくる気配がした。この男性――田川冬樹は、副所長を務めていた。次期、所長候補と騒がれているが、どうなのか分からない。

 大和が相互判断して決めることだろう。

 アンドロイドの戦闘力としては、大和、弥生、冬樹の順番だが、そのことが気に食わないのか、大和と弥生と衝突することもある。何度か、順列入れ替え戦をしたが、二人に勝てたことはない。なぜ、順列の低い冬樹がここまで、のし上がることができたのか。

 元々、冬樹は有名大学の薬学部出身であり、薬に詳しいからである。卒業後、大和にスカウトされた。現在、人間からアンドロイドへの薬を調合しているのが冬樹だった。

 失敗と研究を重ねて、出来上がった初めての薬を弥生に投薬したところ適合したのである。これからは、もっとアンドロイドを大量生産できるようになるだろう。

「二人が手を組み研究所を支配しようとしていると聞いたが?」

 大和と冬樹。

 弥生にとって二人の覇権争いに興味はない。

 大和に身体を求められてきたら、それに応じるのみ。

 それで、生き残れることができるのなら、自らを差し出すのみ。

 汚いように見えるかもしれないが、弥生はただ、自分の居場所を確保しているだけである。ここで生きていくため、日本を支配するためという目的に向けて、自分が行動しやすいように動いているだけだった。

 大和と冬樹が好きとか嫌いとかどうでもいい。

 心の底から冷めきっている。

 そでに、上司が変わってもやるべきことをやるたけだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。


「その噂を信じているのですか?」

 バカらしいと、鳥肌が立つほど冷たい笑みを弥生は浮かべる。

「実際はどうだろうな?」

 冬樹は銃を作り出して、弥生に突きつけた。

(副所長に試されている)

 予想範囲内での出来事である。ただ、この状況は弥生にとって不快でしかなかった。

 不愉快でしかない。

 弥生は動こうとしない。冬樹は形成した銃を片付けた。弥生の視線には、冬樹でさえたじろいでしまいそうになった。その視線だけで、人を一人殺せそうである。

 さすが、大和から直属に訓練を受けただけあった。


「合格点だ。所長が選んだ女だけある」

「戯言を言わないでください」

「行動力と判断力にも問題ないな」

「やめてください。田川副所長に褒めてもらうなんて気持ちが悪い」

「それは、失礼した」

「思ってもいない謝罪なんていりません」

「相変わらず、厳しいな」

 冬樹は弥生の唇を奪う。ぴちゃり、と濡れた音が響く。パシンと乾いた音がする。弥生が冬樹の頬を平手打ちしたのである。運がよければ手をつけ――自分の支配下におくつもりだった。冬樹好みの女性にするつもりでいたのである。

 だが、それはたった今――打ち砕かれた。

 簡単に砕かれてしまった。

「男だと誰でもよかったのだろう?」

「勘違いしないでください。私の身体は誰の物でもありません。私のものですう」

「アンドロイドになり、幾度となく所長に抱かれているくせに?」

「少なくともあなたよりも、利用価値はあると判断されているのでしょうね」

 弥生は鼻で笑う。

 この気の強さを大和は気に入ったのかもしれない。

「本当に記憶がないのか? 家族のことを思い出したりしないのか?」

「愚問ですね。私が家族のことを、覚えていたら、どうなのですか? 私は任せられた仕事を実行するだけです」

「その覚悟を見せてもらおう」

「私に覚悟がないとでも、言いたそうですね?」

「いや――君がこの戦いに、どれだけ力を注いでいるかは、知っている」

「それなら、黙っていてください。私たちの新世界が始まる」

 太陽が沈んでいく。

 空が夕焼けに染まっていく。

「理想を叶えるために、負けるわけにはいかない」

 生き残るのは、人間か?

 それとも、人工の手で作られたアンドロイドか?

 お互いの運命をかけた戦いが、始まろうとしていた。


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