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「動き出す影、揺らめく闇」2

 十年後――。

「おい。サンプルが不足しているぞ」

「用意をしていますが、足りません」

「サンプル六十九と五十七が実験成功です」

「気を許すなよ」

 交わされる研究員たちの会話と、毎日繰り返されていく実験の日々が続いていた。人間からアンドロイドへと変えていく実験が、止めることなく進められていく。実験で次々と力つきていく、子供たちの姿がある。実験に使われている子供は、家にも学校にも居場所がない者たち選ばれていた。

 大和にとってそんな子たちは丁度いい手駒である。アンドロイド育成が成功すれば、忠実な僕となるだろう。

 その時が楽しみで仕方がない。

「もう少し、手応えがあるものだと思っていた。人間の命など、脆いものだな」

「――弥生」

 名前を呼ばれて振り向くと、いつの間にか大和が隣に立っていた。一見、穏やかそうに見えるが、使えない者は切り捨ていく性格だった。周囲にも恐れられていた。

「所長自ら、研究を見に来るとは、どうかしましたか? 実験の計画に変更でも?」

 大和自身、自らの手で人間から、アンドロイドになったという経歴がある異色――異質な存在だった。それと、同時にアンドロイド研究所を設立した。

 だからこそ、実験のことはよく理解しているはずである。

「実験自体に変更はない。弥生――お前が来て、十年目になるよな?」

「そうなりますね」

「私と一緒に戦うつもりはなか?」

「私が?」

「そうだ――自信がないのか?」

「自信はあります」

 そのために、厳しい訓練に耐えてきたのだから――。

 耐え抜いてきたのだから。

 戦いたい。

 戦って勝ちたい。

 それは、アンドロイドとして生みだされた者の本能だろう。選抜として選ばれたことは、名誉なことだった。人類を滅ぼし、アンドロイドで日本を支配する。それが、大和と弥生の悲願でもある。

 自分たちを作り出した人間たちが、憎かった。

 心から憎んでいた。

「お願いします」

「どこまでも、貪欲な奴だな」

 大和が喉で笑う。

「それは、所長も同じでしょう?」

「私とお前は同類だな」

 大和に一人前のアンドロイドとして、認められた証拠だった。普通に会話をしているが、二人の間に絆はない。必要最低限の会話を、交わすのみだった。弥生の方は失敗すれば、いつ殺されるか分からない。

 その中で弥生は勝ち残ってきた。

 勝ち抜いてきた。

 お互いを探りあいながら、研究を続けて、実験をしてきた。二人に対して、文句を言う者はいない。注意をする者はいない。大和は弥生の手をとり、口づけを落とす。

 弥生は冷めきった瞳で、それを見つめていた。

「私は負けません。勝ってみせます」

「その言葉を信じているからな」

「あなたから信じるという言葉が出てくるとは思いもしませんでした」

「頼んだぞ」

「ええ。お任せください」

 大和は弥生が部屋を出て行くのを見てから、放置をしていた資料に目を通した。

 桐原楓

 大手企業――桐原コーポレーションの養子となる

 現在、アンドロイド対策特殊警察部隊――桐原班の副隊長を務めている

 その資料には楓の情報が載っている。部隊の弱点まで手にいれたかったが、警察のセキュリティーが、厳しく情報がそこまでしか手に入らなかった。部隊にも、それなりにパソコンに特化した人間が在籍しているのだろう。だが、邪魔になるなら、殺すだけだった。邪魔者はこの手で、葬り去るだけである。

 生きている者の記憶から消し去るのみ。

(生きられると思うなよ)

 大和は瞳を細める。大和はワイングラスを握りしめた。赤い液体が滴り落ちていく。

 床に落ちていく液体が『血』を連想させるようで――。

 暗さを際立たせる。

「勝つのは、我々アンドロイドだ。人間ごときに負けるわけがない」

 大和が紡いだ言葉は、部屋に広がっていく。

 復讐の幕が上がろうとしていた。

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