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序章「崩れた平和、傷ついた心」1

 突然、轟音が響きアンドロイドが踏み込んできた。まっすぐ進めばリビング、その横に両親である沢田孝則と茜の部屋、二階に行けば男の子らしくシンプルな沢田楓の部屋、すぐ隣には姉の弥生の部屋がある。

 二・三人のアンドロイドにより、部屋が荒らされていく。

 響き渡る銃声。

 近づいてくる足音。

 そして、リビングで銃に撃たれ倒れ込んでいく茜と孝則の姿があった。

 銃声を聞いて近所の人が出て来ないのは、ある程度アンドロイド対策として壁が分厚いのもあるのだろう。当然、楓の家もアンドロイド対策としてセキュリティーを強化していた。

 指紋や瞳の色彩認証など登録しない限り、玄関と門の扉は開かない。もし、アンドロイドが入ってきた場合には、弾かれる設定にはなっていた。

 それが、突破されたということは、それなりの力をもったアンドロイドたちのはずだ。

 平穏な日々と幸せが壊されていく。

 穏やかな日々はあっけなく崩れてしまった。


「姉さん、助けて」

 恐怖で震えながらも、悲惨な光景を目の当たりにした楓は助けを求めて弥生の部屋に駆け込む。そこには、すでに息をしていない弥生の姿があった。

 窓から侵入した一人のアンドロイドの目に入ったらしく先に殺されてしまったようだった。アンドロイドが荒らしたのか、ぬいぐるみや少女漫画が散らかっている。

 生き残ったのは自分のみだと理解した。

 取り残された楓に戦う力はない。

 今まで、孝則や茜に守られていたことを実感する。

「嘘?」

 楓の顔から血の気が引いていく。逃げ場を断たれたことを知る。立ち直れることできないぐらいの出来事である。楓に絶望感が広がっていった。

「どうする? 殺すのか?」

「いや、連れて帰る」

「連れて帰る」

 人間とは違い機械音に近い声で、アンドロイドが話す。仲間として迎え入れよう。価値があるかもしれないと考えているのだろう。利用しようとしているのだろう。アンドロイドの手が楓の細い肩に触れる。

 今は夏のはずなのに、鳥肌が立つ。

 逃げられない。振り払えるような力がなかった。言葉すら出てこない。触られた部分が、麻痺していくのが分かる。感覚が失われていく。どうすれば助かるのか、考えがまとまらなかった。

 思考が回らない。

 息ができない。

(もう、助からない)

 楓は瞳を閉じる。楽になれるなら、家族の傍にいれるなら、楓はそれでもよかった。家族を奪われて、生きる意味をもない。

 希望もない。

 次の瞬間、レーザー銃が壁にあたり、角度を変えてそのままアンドロイドを貫いた。バチバチと音を立てて、アンドロイドたちが全員崩壊していく。

 楓はその様子を呆然と見ていた。

 

****

 家の中に踏み込んだ青年・桐原蓮は、視線を感じて見てみれば子供がこちらを見ていた。年齢としては、五・六歳といったところだろう。青灰色の瞳に、警戒と怯えの色が浮かぶ。

 それは、そうだろう。

 目の前で家族が惨殺されたのだから、このような表情になるのは当たり前だ。

 この子の心も傷ついているはずである。

 身体も限界に近いだろう。

 今はゆっくりと休ませてあげたい。

 ただ、それだけだった。

『生存者の子供を発見。直ちに保護をする』

「その子の体調はどうでしょうか?」

 イヤホンマイクからパートナー兼婚約者の長谷葵の声が聞こえてくる。今は仕事中のため敬語での対応だった。

『衰弱している。病院に手配を頼む』

「分かりました」

 簡単な会話をして通信を切った。

「アンドロイド対策特殊警察部隊の桐原蓮だ。君を守りに来た」

 お礼を言いたいのに声が出ない。音にならない。言葉がでなかった。楓は何度か声を出そうと試みるが、掠れた音がするだけである。

「声が出ないのか?」

 蓮の質問に楓は頷く。小さな身体を、自分の上着で包みこむ。少しでも、人の体温を感じてほしかったからである。温かさを体感してほしかった。

 同時に自分たちは味方なのだということを伝えたい。

「これに、名前を書いてくれるか?」

 蓮は楓にタブレットを渡す。

 沢田楓。

 東京都生まれの五歳。

 この歳で漢字を書けるということは、茜と孝則がそれなりの教育をしてきたのだろう。戦争に翻弄ながらも、勉強を教えてきたのだろう。関東地区はアンドロイドの侵略を受け、家族連れたちは比較的被害が少ない中国、四国、東北、沖縄、九州地区に別れ避難している。

「楓か。名前だな」

 ありがとうございますと楓の唇が動く。でも、なぜ、両親が殺されたのでしょうか? 僕はその理由が知りたいです、楓はそうタブレットに書き込んだ。

「沢田家は警察に所属し、武器を開発していた有名な家系だ。だから、狙われたのだろう」

 沢田家が残っていたのは職業柄故なのか。

 やはり、警察に武器職人として力をかしていたことが大きかったらしい。アンドロイドたちにとって武器を作り、多くの仲間を殺されたことにとっての復讐か。

 人間としての記憶がないことをいいことに、使えなくなったアンドロイドを捨てる、もしくは、車で廃棄場まで連れて行かれてバラバラにされ再利用されることはない。

 そして、燃やされる。

 熱い、苦しいなどの感情が分からぬまま、火炙りにされる。

 あまりの境遇に自ら、アンドロイドに志願する者もいる。志願した者は弱い人間への嫌悪感と憎悪があるようだった。強くなりたいという気持ちが強いのだろう。戦いたいというその衝動が抑えきれないようだった。

 どちらにしろ、志願しても実験中に亡くなりアンドロイドとなれるのはごく僅かな者たちだけだ。そこから、更に選別されアンドロイドとして戦うことが許される。

 楓にはなぜ、そこまでして戦いたいのかが分からない。

 すれ違うその思いが、アンドロイドと人間との戦いにつながっていった。

 戦いへの始まりだった。

 楓はその戦いに巻き込まれたのである。

 ――僕が戦えていれば、母さんと父さん、弥生姉さんが殺されることはなかった。

 その言葉には、悔しさが表れており、タブレットに書かれた言葉は、蓮の心を揺さぶっていく。

 えぐっていく。

 心の奥に突き刺さっていく。

  子供ならではの素直さだった。

「楓君。君が生きてくれていただけでも、充分だ」 

 蓮は楓の背中を撫でる。緊張していた身体は、自然と力が抜けていく。与えられる温もりに、楓はゆっくりと目を閉じる。眠りについた楓の身体を蓮は慎重に抱くと車に乗せた。



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