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不運女の人生逆転物語

更新日は不定期です。マイペースに進めますので、どうぞよろしくお願いします。

 思い返せば、私はいつもタイミングが悪かった。

 運に任せた二択はいつも間違える。失敗したくない時ほど失敗する。セール品は私の1人前でなくなる。

 とにかく運のない女、早見(ゆかり)。それが私だ。


 私の母は、中学二年のときに病気で亡くなった。父はサラリーマンで、優しいだけが取り柄の人。

 母の入院費を払うのもカツカツで、生活費を切り詰めてなんとか生活していた。それなのに、お人好しの父が知り合いの保証人なんかしていたお陰で借金を背負うことになってしまった。

 弟の翔太と妹の香のためにも、私がしっかりしないと!


 高校に通いながら、アルバイトの掛け持ちをして学費と生活費を稼いだ。父の給料はなるべく残して、借金の返済に()てるようにした。

 もちろん、放課後に友だちと遊ぶ時間なんてない。

 大学は通わず、卒業後はバイト先にそのまま就職しようかと思っている。

「縁は本当にそんな人生でいいの?」

「やりたいことはないの?」

 なんて友だちに言われたことはあるけど、自分の欲を優先していたら生きていけない。小学生の弟妹と頼りにならない父という家族構成で、私が欲に負けたらみんなお陀仏だ。


「もしもし、翔太?」

 あの日、私は給料日だった。給料日は学校帰りにお金をおろして、少し贅沢な夕飯にする。それがここ最近の習慣になっていた。

「うん、そう。一時間後には帰れると思うから、ご飯炊いておいてもらえる?・・・うん、ありがとう。よろしくね。・・・じゃあ。」

 電話をきって、小さくため息をついた。

 私は格安のスマートフォンを持っている。つい最近までガラケーだったのだが、ポイ活をするために替えた。アプリによっては、歩数をポイントに変えられたりするものもあって助かっている。アンケートに答えるものは地味に時間が必要なので、それならバイトした方が稼げる。

 家から一番近い銀行に入った。ここはスーパーにもバイト先にも近くて、よく立ち寄る。できるだけ銀行でおろして、手数料を取られないようにするためだ。

 今日は何を作ろう?

 先月はロコモコ丼を食べた。それが贅沢ご飯?と思った方。我が家のハンバーグは豆腐を入れたりおからを入れたりして、肉の割合は少ない。それなのに、その日は肉の割合は多い上に目玉焼きを乗せたのだ。贅沢以外の何物でもないだろう。

 考え事をしながらATMでお金をおろしていると、すぐ後ろに気配がした。

 これは急かされてるのかな?早くしろってこと?

 お金を少しおろすだけに、そんなに時間はかからない。それなのにすぐ後ろに立つというのは、よっぽど急いでいるんだろう。

 すぐにお金を財布に入れた。

「すいません、お待たせしました。」

 そう言ってATMから離れようとした時だった。

「手を挙げろ。抵抗したら命はないぞ。」

 耳元で男性の声が聞こえた。首元のヒヤッとしたものは刃物だろうか?

「キャアーーーー!!!」

 不自然に立ち止まった私を、変に思ったのだろう。近くにいた人が、すぐに男に気付いた。

「うるせぇ!!大人しくしろ!この女がどうなってもいいのか!!」

 銀行の出入口には逃げようとした人たちが集まった。

 あぁ、私は人質になってるんだ。そんなことを冷静に考えていた。一時間で帰るのは無理だなぁ、とか。

 パァンッ!!!

「「「キャアアアーーーー!!」」」

 犯人が、刃物とは別の手でピストルを握っていた。私から彼の顔を見ることはできないけれど、騒ぎ立てる人たちに苛立ちを覚えていることはわかった。

 皆さん、とりあえず落ち着きません?あなたたちが騒げば騒ぐほど、私の命が危険に晒されるんですけど。

 少しでも動けば、首に刃物が当たりそうだ。だから私は大人しく、心の中で人々に願った。

「てめぇら死にてぇのか?!さっさとそこに集まりやがれ!」

 犯人は入り口とは反対方向の窓口付近をピストルで示した。それに従い、騒いでいた人たちが恐る恐る移動する。

「このカバンに金を入れろ。早く!」

 銀行員にピストルを向けて指示する。慌てた銀行員がカバンを持ってお金を詰めていく。

「おい!そこ、何してる!!余計なことすんじゃねぇぞ!!そこもだ!」

 犯人が電話を握った銀行員と客を脅す。そこでやっと警察に連絡される危険性を考えたのか、携帯電話を持ってこさせて集めた。だが、気付くのが遅すぎたらしい。

「警察だ!銃を下ろしなさい!!」

 周りがまだ騒いでいる間に、誰かが通報していたようだった。

「来るな!この女がどうなってもいいのか!!」

 犯人は完全に興奮状態だった。私の首に刃物を当てたまま、ピストルを振り回した。その勢いのせいか、刃物がチクチクと首に当たる。

 痛い。警察も興奮させないでよ。

 パァンッ!!

 一瞬、犯人が打ったのかと思った。思わず閉じた目を恐る恐る開くと、打ったのは警察官だった。どうやら、威嚇のために犯人の近くの壁を打ったようだった。

 犯人を刺激しないでよ。ていうか、さっきの少し間違えば私に当たるよね?馬鹿なんじゃないの?

「うわぁぁぁぁあ!!!」

 ほら、犯人が更に興奮しちゃったじゃん。

 

 その瞬間、目の前が真っ赤に染まった。

 ・・・・・・あ、私死ぬんだ。首を切られたんだ。

 事切れそうな頭で、遅れて理解した。

 本当にツイてないよなぁ。よりにもよって銀行強盗に人質に選ばれるなんて。

 今日、給料日なのに。

 まだ、翔太と香は小学生なのに。

 私まだ、17歳なのに。

 まだやりたいこと、たくさんあったのに。人生ってこんな簡単に終わってしまうもの??

 こうして、早見縁の人生はあっけなく幕を閉じた。



 眩しい・・・・・・。

 意識を取り戻した私は、見知らぬところにいた。どこからともなく発光していて、居心地は良くない。

「ここ、どこ?」

 周囲を見回しても、今の状況を聞けそうな人がいない。

「私、死んだんじゃないの?」

 病院とかではなさそう。首は・・・ちゃんと繋がってる。痛みもない。

 地獄とか天国とかそういうの信じてなかったけど、殺された記憶があるので信じるしかなくなってくる。ここはきっと、死後の世界というやつだ。

 それにしても、私はここに一人でずっといないといけないのだろうか。

「あれ、君はどうしてここにいるの?」

 突然、後ろから声をかけられた。さっき周りを見た時は、見渡す限り誰もいなかったはずなんだけどな。

 振り返ると、真っ白で腰の位置より長い髪をした美少年が立っていた。

「死んだから・・・ですけど。あなたは誰ですか?」

「死んだ?!ええっと・・・」

 美少年はどこからか分厚い本を取り出して、何かを確認し始めた。

「んん〜??今日、死ぬ予定の人は誰もいないはずなんだけどな。」

 え?いや、そんなこと言われても・・・。

 こてんと首を傾げる仕草は可愛いけど、今はそれどころじゃない。

「予定ってどういうことですか?」

「人間は誰しも生きる時間が決まっている。病気にしろ、事故にしろそれは同じなんだ。でも、君の名前のところに書いてある日付は今日じゃない。」

 どうして名前知ってるの?教えてないんですけど。

「いやぁ、そりゃ僕は神様だからね。」

 ・・・・・・。

「え!私、さっき口に出してましたか?」

「いいや。でも、わかっちゃうんだよね。神様だから。」

 自称神様は、ニコニコと笑いかけてくる。その顔がなんだか胡散臭い。

「君は間違いで死んでしまったみたいだね。」

 みたいだね(ニコッ)じゃないんだよ!!

「僕の部下が、どうやらミスをしてしまったみたいだね。」

 そっちの不備なのに、さっきからずっとニコニコしたまま。少しは慌てなさいよ。腹が立ってくるじゃない。

 この自称神様は自分の可愛さをよくわかっていて、誤魔化そうとしている気がしている。

「君がどんなに戻りたいって言っても、死んでしまったものはもう戻れないんだよね。だからお詫びと言ってはなんだけど、転生先は希望を叶えてあげるよ。」

 どう?とか言われても、それしか選択肢がないんでしょう?まぁでも、何も説明されずに転生させちゃうこともできたのよね。

「その希望とやらは、なんでもいいの?」

「僕にできることなら。」

「じゃあ、優しいけど常識がある両親の元に生まれたい。お金に困る生活もしたくない。食べることも、着飾ることも楽しみたい。」

 どうせなら、今まで我慢してきたことを楽しめる環境であってほしいのよ。また不運で・・・とか絶対嫌。

「うん、それくらいなら僕にもできるかな。あと、僕は嘘つきだと思われたくはないから前世の記憶は残しておくよ。5歳くらいで思い出すようにしておく。」

「わかった。」

「よし、じゃあ早速、転生してもらおうかな。」

 自称神様が私に手をかざすと、視界がどんどん暗くなった。

「あんまりここに長居すると、転生できなくなっちゃうから。僕を忘れないでね。またね、縁。」

 薄く残っていた視界がグニャリと曲がり、世界は真っ黒に染まった。


 よーし!神様からお許しが出たことだし(自称神様だけど)、私は好き放題してもいいですよね!?


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