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第八話


「ふぅ〜、非常に満足です。一生分のナス食べた気がする」

「あはは。じゃあもうナスはいらないですか?」

「いえ、上限突破したのでまだ食べれます」

 初めの憂鬱な気持ちはどこへやら諒は上機嫌に笑った。どれもコレも最高の料理だった、と帰り際に勉に伝えると勉は気恥ずかしそうに頬を掻いた。

「次はもっと美味しいもの用意しますから。また有馬さんと一緒に来てくださいね」

「はい。また来ます」

(今度は一人でゆっくり味わいに来よっと)

 そうして店を後にした。会計は有馬が払った。誘ったのは僕だからと譲らず諒が諦めるほかなかったのだ。じゃあ次は私で、と言うのは簡単だがそんな機会があるわけもなく、諒はただただ礼を言うしかできなかった。

 そんな諒に有馬は爆弾を投下した。

「諒さんはまたあの店に僕と行ってくれるんですね。嬉しいなぁ」

「へ……!?」

 駅へ向かう道すがら突然立ち止まる諒に有馬は小首を傾げる。

「だって勉くんに言ってましたよね」

 確かに勉はまた有馬と一緒にと言っていたが、まさか有馬が言葉通りに受け取るとは思わず諒は再び動揺した。

「今度はいつにしましょうか。勉くんの店も良いのですが、他にもお勧めがあるんです」

 なんならナスが直販で買える農家に出向いても良いですよね。車で出かけても、などと再び歩き出しながら次々と提案される案に諒は必死に止めた。

「確かに言いましたけど、有馬さんも忙しいでしょうし私なんかに構っている場合では」

「名前」

 ハッと有馬の顔を見上げると無表情の有馬がこちらを見下ろしていた。

「名前で呼んでくれないんですか」

 色気のあるバリトンボイスだけが雑踏の中から掬い出されるように諒の耳によく聞こえた。

 突然の要求に近い質問に諒は少しだけ口の中が乾くのを感じて喉を鳴らした。

「志乃さん」

「はい」

「あの、えっと」

 有馬の態度に戸惑っていると、彼の表情は嘘のように緩くなった。

「これからも変わらずにそう呼んでくださいね」

 約束ですよと念を押すように諒に伝えると有馬は建物のそばで止まった。

「ここまでしか送れなくて、すみません。また会いましょう。メールします」

 気がついたら駅の改札口に着いていたらしく、有馬は携帯を振りながら笑った。諒は食事の時に個人の連絡先を交換していたことを思い出した。

「はい。今日はありがとうございました。ご馳走さまです」

 諒がぺこりとお辞儀をすると有馬は手を挙げて挨拶した。キザな仕草だが、とても様になっていた。

(イケメンはずるい)

 気がついたら流されるように誘導されてるし、有馬のいいようにことが進んでいる気がする。諒はそう感じながら改札口を潜り帰路へついた。果たして本当に次があるのだろうかと悩みながら。

 


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