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第六話

 

 諒が案内されたのはなんとダイレクトにナス料理専門店だった。

 その店は駅に近いが薄暗い路地裏にあり、しかも地下だ。その上看板がないという。隠れた名店とはこういう感じなのか? と思うような佇まいだ。名店かどうかはまだ分からないが。

 半個室のようになっている店内はナスだけを扱っているようには到底思えないほどシックな作りになっていた。しかし、よく見てみると至る所にナスのオブジェが飾られていたり、椅子のクッションが茄子色をしていた。なんともナス愛に溢れたお店である。

「ここはね、僕の知人のお店なんですよ」

 どうしてこんなお店を知っているのだろうと疑問に思っているとさらっと有馬は答えた。顔に書いてあったのだろうかと思わず顔を触るとくすっと笑う声が聞こえた。

「もしかして無自覚でした? 店内を見渡しながら声に出てましたよ」

「え!」

「それに思ってること全部顔に出てますし。料理が楽しみで仕方がないって。ナスのオブジェにすごく食いついてましたもんね。あれ欲しいんですか?」

「そ、そんなことありませんっ」

 図星のあまり思わず顔を隠すと、今まで控え目に笑っていた有馬は耐えきれず噴き出した。うっすら目に涙が光っている。

(そんなに笑わなくてもいいのに……!)

 揶揄われたのだと顔を真っ赤にしてジトリと有馬を睨んでいると、そこにひとりの男が現れた。

「――注文は決まりましたか、有馬さん」

 そう言ってやってきた男はいまだ笑っている有馬を見て、今度は諒に目をやった。

「どういう状況です?」

「勝手に人の顔見て笑ってるんです」

 ムスッと諒が答えるとその男はしばらく考えた後ぽつりと言った。

「有馬さんを笑わせる天才……?」

「なんでそうなるんですか!」

 店員と思わしき男とやり取りをしていると、やっと有馬が落ち着いたのか会話に参加してきた。

「勉くん、今日はよろしくね」

 つとむと呼ばれた男は有馬に対してニヤリと笑った。

「有馬さんが初めて女性を連れて来た記念ですから、頑張りますよ」

「彼女、すごくナスが好きだから。彼女が大満足するようなものを頼みますね」

 すると彼は心得たと言わんばかりに諒を見て「期待しててくださいね」と言ってから出て行った。

「彼がここのオーナー兼料理人の勉くん。大学の後輩なんですが、実家がナスを作っていてね。親孝行したいらしいんです。それでナス専門店を開くことにしたみたいで。大学卒業してからすぐに農業大学へ通ってるみたいなんですよ」

「はぁ〜、すごいですね。ポテンシャルが高いと言うか、私には到底真似できない……」

 ナス好きには悪い人はいないんだなぁなんて考えていると、ふと目の前に手紙が置かれた。私にはとてもよく見慣れている封筒だった。

 そこには『――有馬様 ……総務部 常盤』と書かれている。

「お手紙ありがとうございました」

「こちらこそ、わざわざ総務部にまでお菓子送ってくださりありがとうございます。あの後みなさんで美味しく頂きましたよ」

 諒は先日頂いた菓子を部内で配った後、有馬の会社へ御礼の手紙を出していた。

 もちろん受け取った当日にもメールで御礼は言っているのだが、今後の異業種コラボでの付き合いの為に形式上送っただけだ。決して有馬本人への好感度アップの為に出したのではない。

「手紙が来た事にも好感が持てましたが、まさか手書きだとは思わなくて良い意味で裏切られましたよ。キミはとても仕事が丁寧なんですね」

 諒は特別忙しい時以外は謝礼の手紙は手書きするようにしている。なぜかというとただ純粋に貰うと嬉しいからだ。自身がして貰って嬉しいことは率先して行うようにしている。もちろん上司に確認した上で送っているので諒だけで判断してやっているわけではない。

「そんな風に言われたのは初めてです。私は自分が貰って嬉しいかどうかでやっているだけなので……」

 初めて自分がやっている事を認めてもらえたように感じて、諒は頬を緩めた。改めて褒められるというのはいくつになっても嬉しいものだ。



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