5球目
外出自粛という事でPS4のパワプロを永遠にしています
今の状況が落ち着いても家から出ずにゲームばっかりしてても叱られない世界だけは残って欲しいと思う今日この頃
「なかなか面白いメンツが集まったな」
練習終わりにマッサージを受けに来ていた守に今日あった出来事を伝えた所、守は楽しそうに笑っていた
「こっちは大変だったんだよ」
今日あった勝負を思い出す。確かに皇さんを始め、初見で私のシュートを捕った一色さん、男性選手並のスイングをする京極さん、守備範囲がかなり広い七瀬さん、とてもいい子そうな音無さんと人数こそは少ないけど個性派揃いで個々の能力も申し分ないいいチームになりそうだと思う
「それに千陽もいるしな」
守はこれから面白そうな事が起こると言いたげな目でこちらを見てくる
「でも人数が足りないんだよね〜」
今日で6人集まったので試合ができるまで後3人。しかし、9人ジャストだと怪我人が1人でも出たら終わりだ
「まー初日だからな。もう少し待てば人数も揃うだろ」
「経験者が入ってくれたらいいんだけど」
そんな願望が漏れる。未経験者でもいいけど打倒聖宗高校を考えるとやっぱり経験者が望ましい
「そういえば先輩から聞いたけど学校が始まって少ししたら新入生歓迎スポーツ大会するらしいぞ」
マッサージが終わったので少し大きいチームジャージの上着に袖を通す
「へぇ〜」
「千陽、なんか凄い馬鹿な顔になってるぞ」
私は野球以外のスポーツで活躍をする守を想像してニヤニヤしてしまってたらしい
「うるさい!所でそのスポーツ大会の種目って何があるの?」
「えーっと、確か男女別でバスケとバレー。混合で野球だったかな」
「ふーん、って男女混合で野球するの!?」
確かに身体接触がない種目だし怪我をすることはなくても、女子に男子の打球は捕れないと思う
「だから野球経験者の男子は出場禁止らしい」
こちらの思考を先読みして答えをくれる
「あっそうなんだ。ってことは出場出来るのは未経験の男子と経験者を含めた女子全員ってこと?」
「そういうことになるな」
守が何か言いたげな表情でこちらを見る
「どうしたの?」
守ははぁ〜とため息を着く
「ここに出場した女子で上手な学生に声をかけてみたらいいだろ?」
「あーその手があった!」
なるほどと手をポンと叩く
「ま〜スポーツ大会までに人数が揃えば無理に勧誘しなくてもいいんだけどな」
「いやいや、人数が多くて困らないから上手な子には片っ端から声かけるよ」
「頑張れよ。高校球児」
そう言って守は家に帰っていった
みんなと初めて顔を合わせから1週間
残りの春休みは守が練習で居なかったので守の実家が営んでいる室内練習場兼野球専門店の「天宮野球場」で自主練習をしていた
「おじさーん。マシーン使っていい?」
私はお客さんのグローブの型付けをしていた守の父・天宮 匠さんに声をかけた
「おう、いいぞ〜」
おじさんは低く渋い声で快諾してくれる
「しっかり練習してプロ野球選手になったら守と一緒に店の宣伝してくれよ」
おじさんもプロを目指した元高校球児だったが夢を叶えることは出来なかった。そのせいか守(ついでに私も)にはプロ野球選手になって欲しいと考えてるらしい
「ははは、頑張るよ」
私はおじさんの冗談を流し気味に応える
「今日は何を打とっかな〜♪」
私は自然と鼻歌が漏れる
天宮野球場に設置されてるマシーンはかなり最新型でボールを入れる人が不要だけでなく勝手に球種を変えてくれるという代物
「本格派でやってみようかな」
設定できるタイプは軟投派、技巧派、本格派の3つのタイプに分けられている
設定が軟投派になっていたので本格派に変更してストライクゾーンにボールが行くように設定する
「さぁこい!」
私はヘルメットを被り左打席に入ると丁度マシーンも動き出す
マシーン打撃を20球4セットが終わった頃、照さんが帰ってきた
「あら、千陽ちゃん来てたんだ〜いらっしゃーい」
「照さん、お邪魔してます」
私は回収したボールをカゴに直してから照さんの元へ駆け寄る
「どのくらい打ってるの?」
「そうですね。20を4セットくらいですね」
「結構打ってるね〜。でもずっとマシーンだと飽きてこない?」
「そうですね。ちょっと飽きてきました」
いくら最新型と言っても打ち続けたら少し飽きてしまう
「私が投げてあげよっか?」
「えっ!いいんですか!?」
「いいよ。代わりにヒットが1本も出なかったらご飯作ってよ」
照さんは高校時代は聖宗高校のエースで甲子園優勝投手という最後の年を無敗で終えた選手の1人で、しかも甲子園の失点は僅か3という女子野球界でNo.1投手と呼ばれるほどの怪物なんだよね
「うぐっ、分かりました」
それでも照さんと勝負が出来るなら例えご飯を作る事になってもお釣りが来る
「それじゃぁ肩作るしちょっと待っててね」
それから照さんはウォーミングアップとキャッチボールを終えると投球練習に入る。練習用ネットに向かって20球ほどしっかり投げる
「入っていいよ〜」
照さんは右腕をグルグル回しながら言う
「よろしくお願いします」
私は言われるがまま打席に入る
確か照さんの球種は140キロ近いストレートに高速スライダー、ツーシーム、SFFとスピードを活かした投球だったはず。10数年前は女子のプロ野球選手でも130キロを超える選手はほとんどいなかったのに今では130キロだけでなく140キロを出す選手もいる。照さんの全盛期でも140キロは出なかったって言ってたから今だともう少し遅いはず
照さんの情報を整理したら狙い球を絞る。高速で変化する球種が3つもある照さん相手に全て狙うのは無謀すぎる
「(追い込まれるまではストレートを狙う!)」
私が改めて構え直すのに合わせて照さんも振りかぶる
照さんの投球フォームはオーソドックスなオーバースローでお手本のような綺麗なフォームである
「(1・・・2・・・3!)」
綺麗であるが故にタイミングは取りやすく完璧なタイミングでスイングをする
ブン
しかし、バットにボールが当たることなくネットに吸収される
「(初球からスプリット!?)」
本来スプリットは沈む程度の変化だが照さんのは普通のフォークと同じレベルで落ちる。その為、テレビでは魔球と呼ばれていたくらいだ
「(まさかいきなり落としてくるとは)」
読みが外れた私は改めてストレート狙いで構え直す
「(絶対どこかでストレートが来るはず。それまで粘る!)」
しかし、結果的に言うと5打席立ってストレートのストライクは0。しかもノーヒットと見事に抑え込まれた
「(ここまで裏をかかれるとは)」
私は改めて照さんの凄さを感じながらも闘志を燃やし続ける
「やる気満々だね〜」
打たれる気がしないのだろう自信満々の表情で問いかけてくる
「私が打てるまで付き合ってもらいますよ」
打席数も決めてないので時間いっぱいまでやれば1打席くらい打てるだろう
「まだ続ける?」
あれから休憩も挟みながら15打席。未だにヒットは1本も出ない
「まだまだです!」
それでも私は諦めない。やっと対応出来るようになってきたんだから!
「それでこそ千陽ちゃんだね」
心底楽しそうに笑う照さん。照さんの凄い所はストレートや変化球っていう技術的な面だけでなく心から野球を楽しめる所だと思う
「でもそろそろ」
「?」
照さんが何か言いかけるとおじさんが入ってきた
「そろそろ時間だし片付けてくれよ〜」
どうやら予約が入ってたのか私が使える時間は終わりらしい
「じゃーラスト1打席だね」
「はい!」
私は今まで以上に集中する。それに呼応するように照さんの顔も引き締まる
「(やっぱこの子の集中力は凄いな)」
今日だけで何十回と見てきた照さんのフォーム
「(ストレートが来る!)」
私は自分の直感を信じて咄嗟にバットを指一本分短く持つ
ビュン!
目にも止まらぬ腕の振りから放たれたボールは今日1番のスピードでインコースを抉る
「ふん!」
キン!
今までの20打席では1度もならなかった金属の快音が室内練習場に響く
「やっ!・・・・・・ファールか〜!」
一瞬ヒットかと思ったけどボールは僅かに一塁線の外
「危なかった〜」
今まで余裕のあった表情が一瞬だけ険しくなる
「(少しだけバットを短く持ってストレートに対応したんだ)」
「(流石に2回も通用しないよね)」
バットを短く持てばストレートと体に近いボールに対応できる代わりに外と変化球に弱くなる。そんなことは照さんも理解してるだろうし次は通用しない
私はバットをいつも通り握り直す
ビュッ!
2球目はアウトローのストライクゾーンにくる
一瞬スイングに行こうと思ったが
ピクっ
手が出そうになるがスイングを止める
ボールはストライクゾーンから逃げるように沈む
「(あぶな〜)」
「(あれ、振らなかったか)」
今までは手が出てしまってたコースなだけ警戒してて正解だ
これ1ボール1ストライク。追い込まれたら分が悪過ぎる
引き続き低めは捨てて、真ん中より高めのボールを狙う
「(次のストライクで決める!)」
ビュン!
照さんから放たれた3球目は高めのストレート!
私は照さんのストレートに対応するべく最短距離でバットを出す
チッ
ボールはバットに少し当たって軌道が変わり後ろのネットに突き刺さる
「(さっきよりノビてる)」
まだまだ球威の落ちない照さんに焦りを感じる
「(追い込まれたし厳しいコースもカットしないと)」
少しだけ体に力が入る
「(次はこの打席まだ投げてきてないツーシームかスライダー。高めのストレートは反応で打つ!)」
自然とバットのヘッドが少し下がる
「(狙いはストレートかな?)」
自身のフォームが変わってることに気づかない私
相手のフォームが変わってることに気づいた照さん
「(ここまでが私の描いたシナリオ!多分照さんはバットのヘッドが下がったことに気づいてるはず、なら高めはない!狙うは真ん中から落ちるスプリット!)」
この一打席だけは最後の決め球を狙うために張った罠である
「(うーん、なんか千陽ちゃん狙ってそうだね)」
照さんはこれまでと変わらない投球動作に入る
シュッ
照さんの鋭い腕の振りからボールが・・・・・・来ない!?
「(う・・・そ・・・・・・!)」
私は振り始めたバットを強引に止めようとするがバットは急には止まらない
ブゥン
中途半端なスイングのバットが空を切った後にゆっくりとボールが通過する
「いて!」
咄嗟に動きを変えようとした為バランスを崩してバッターボックスで尻もちを着いてしまう
「私の勝ちだね」
そんな私をしてやったりと言いたげな表情で勝利宣言をする
「やられた!チェンジアップがあるなんて聞いてないよ!」
「ま〜言ってないからね。でも私にチェンジアップ投げさせるとは千陽ちゃんも上手くなったね」
嬉しそうに私の成長を喜ぶ照さん
「ありがとうございます。でも21打席抑えられた後に言われてもあんまり嬉しくないです」
せめてそのセリフはヒットを打ったあとに言って欲しかった
「あとご飯よろしくね〜」
「あー!そうだった!」
勝負に熱中しすぎてすっかり忘れてた
「千陽ちゃんのフルコース久々に食べれる〜♪」
ルンルン気分で使ったマウンドにトンボをかける照さん
「(そんなに食べたかったの?ってかフルコースなんだ)」
そんなことを考えながら私はスイングの際に掘れた足場の土を均して固める
使った場所の整備を終えた私と照さんが室内練習場から出る時に丁度予約していたと思われるお客さんが来る。すれ違いざまにお互いに挨拶を交わして私たちは室内練習場を後にした
最後まで読んでいただきありがとうございます
誤字脱字ありましたら教えて欲しいです。オススメのスポーツ小説もありましたら教えて欲しいです