3球目
暇すぎてPS4のパワプロ買おうと思ってるんですが何処も品切れか中古でも高額になってるんですね…
栄冠ナインがやりたいとです…
あの試合から早7ヶ月
今日は3月18日。高校の合格発表の日である
「はぁ〜、見たくないな〜」
私は華園高校へ向かう途中でそんな言葉がこぼれる
「ここまで来たら結果は変わらないんだし諦めて受け入れろよ」
「そんなこと言っても〜」
野球の特待生で入学が決まっている守は受験の怖さを知らない
「特待生はいいよね。勉強しなくてもいいし」
「確かに引退してから入学まで野球ばっか出来たのは嬉しいな」
華園高校の男子硬式野球部は毎年ベスト4に残るくらいの強豪校である。その為推薦枠もほかの部活より多い。でもその分全国から人が集まるので推薦の枠は比率的に見ると狭い。それに推薦は受験の際に加点があるだけで勉強自体はしなくてはならないので勉強のできる人からしたらあまりメリットがない
ちなみに受験をパス出来るのは特待生だけで今年の特待生は守を含めた3人だけらしい
「夏休み明けからしっかり勉強してきたんだから大丈夫だって」
そう言うとバシッと丸まっていた私の背中を叩く。守の自主練を手伝う代わりに家庭教師をしてくれた
「そうだよね。もし落ちてたら守の教え方が悪かったことにしよう」
「そこは自分の努力不足か頭の悪さのせいにしろよ」
そこからは気持ちを切り替えていつも通り喋りながら合格発表が張り出される掲示板へと向かった
「89番・・・89番・・・・・・」
私は自分の受験番号の書かれた紙を片手に掲示板を見る。しかし、目の前には大きな壁?いや、人の背中があって前が見えない
「う〜」
私は背伸びをしたりジャンプをして何とか掲示板を見る
一瞬視界に入った掲示板の番号は所々飛ばされている
60番を見終えたくらいに前の人が嬉しそうに集団から抜けていった。ゆっくり見えるようになったので自分の番号が飛ばされていないことに祈りつつ一つ一つ見落としがないように見ていく
「85…86……89!」
どうやら守と同じタイミングで見つけたのかお互いの目が合う
「「合格だー!」」
ハイタッチをした勢いのままお互いに抱きつく。でも少しするとお互い冷静になったのか少し恥ずかしくなり、距離をとる
「・・・書類貰いに行くか」
「・・・う、うん」
お互い少し頬を赤くしながら入学用の書類などが入った封筒を貰って帰宅した
合格発表があってから2週間ほどして桜が少しづつ散り始めた頃、私は初めて華園高校の制服に身を包んでいる守を見ていた
「ちょっと大きいんじゃない?」
守自身は175センチ70キロと高1にしてはいい体をしてるけど着ているチームジャージはその体よりも少し大きく、着られてる感がある
「まーこれから大きくなるし大丈夫だろ」
そう言って守はグローブなどが入ったカバンを背負う
「練習今日からだっけ?」
「おう、もうすぐ行ってくる」
華園高校は4月1日から新入生が練習に参加することができるので今日から守は高校球児の一員だ
「頑張れ高校球児」
「千陽もだけどな」
「ははは、確かに」
女子野球が発展してから高校球児は男子だけでなく女子も含まれるようになり、女子選手にも高校球児という言葉が使われだしている
「女子野球部はいつから練習なんだ?」
「確か学校が始まってからだった気がする。まだ正式な部じゃないからね」
「そうか、まだ1週間くらい空くなら先にグランドだけでも見に行かないか?」
「そんな事してもいいのかな?」
「合格したんだから大丈夫だろ。それに1人くらいいるだろ。千陽みたいな野球馬鹿は」
守は少し含み笑いをする
「馬鹿は余計よ!でもそうだよね!どんなグランドが気になってた所なんだよ」
その含み笑いに私は気づかない
「なら一緒に行くか。俺は後10分もしたら出るけど」
「速攻で用意するわ」
「了解」
そう言って私は家へ帰ると慌てて準備を始める
私は帰ると直ぐにジャージに着替えて念の為にグローブを持って家を出る。すると守が家の前で待っていてくれた
「おっ、出てきた」
「お待たせー」
「お前、いくら制服がないからってジャージはねーだろ」
「別に遊びに行くわけじゃないんだからいいのよ。それよりさっさと行くわよ♪」
「へいへい」
そう言って私達は自転車を漕ぎ出した
「んじゃ、俺はこっちだから」
「はーい、頑張ってねー」
学校内に入って直ぐ私達は別れた。チラッと見えたが男子野球部には立派な専用のグランドが用意されている。女子の方は少し小さいが男子ほど飛距離が出ないので問題ない大きさだ
「お願いします」
私はグランドに一礼をしてから入る。そのグランドの中には私以外誰も居ないようだ
「やっぱ誰も居ないかー」
流石に春休みに来る人なんていないよね
「あら、私より早く来てる子が居るなんて」
すると後ろから声が聞こえてくる
私は振り返るとそこには見慣れた人物が立っていた
「照さん!?」
その人物は守の姉で元甲子園優勝投手の天宮照さんだった
「ヤッホー、千陽ちゃん」
守が1人くらい居ると言っていた意味が分かった
「おはようございます。照さん」
私は改めて挨拶をする
「なんで照さんがここにいるんですか?」
照さんは別に華園高校のOBでは無い。その為、ここに出入りしてはいけないはずである
「守から聞いてない?」
「いえ」
「私、ここの監督になるんだ」
「えっ!?」
私は衝撃的事実に驚く
「でも照さん、教えられるんですか?」
照さんはかなり感覚派の人なのであまり指導は上手くなかったはず
「なんとかなるでしょ」
あっ、これ教えれないヤツだ
私は直感的にそう感じたが黙っておく
「それよりさ!キャッチボールやらない?」
「やりましょ!」
私は照さんの誘いに即答する
「それにしても久々だねー」
「そうですね。照さんが高校行ってから会わなくなりましたよね」
私達はキャッチボールをしながら話す
「そうそう、野球監獄に入ってからね」
「ははは.....」
冗談だと思いたかったが本当なんだよね。照さんの進学先は聖宗高校だったので野球漬けの毎日だったのだろう。じゃないとあんな絶対的強さになるわけが無い
「そう言えば千陽ちゃん」
「はい?」
「なんで華園選んだの?」
新入生にはお決まりの質問が飛んでくる
「え、近いからですよ」
「嘘だね。近さなら喜多山高校でしょ。あそこも確か野球部あったし」
「そ、それは、学力が」
「それも嘘だね。千陽ちゃんが野球我慢してまで華園選んだんだからもっと大切な理由があったんでしょ?」
「うぐ・・・」
私は図星を突かれて言い訳が思いつかない
「例えば、守と一緒の高校に行きたかったとか」
「ギクッ」
「やっぱりねー」
照さんはニヤニヤした表情でこちらを見てくる
「本人には言わないでくださいね」
「じゃー聖宗高校に練習試合でもいいから勝てたら黙っててあげる」
「え!?」
聖宗高校に勝つと言うことは全国大会優勝と同義である
「流石にそれは」
「無理なら無理で言っちゃうけど?」
「ぐっ・・・分かりました」
「頑張ってねー」
照さんは他人事のように言う
私は不純な理由で打倒聖宗高校を目指すことになった
「聖宗高校に絶対勝ーつ!!」
私はそう叫びながら全力でボールを投げつける
「おっ!いい球だね」
照さんはいい音を鳴らしながらキャッチする
「まーその前に人数揃わないとダメなんだけどね」
「そ、そうでした」
まだ学校が始まってないので今部員が居ないのは仕方なくてもこれから人が揃わないと勝つどころか試合すら出来ない。てか揃えるだけじゃ到底聖宗高校には勝てない
「・・・打倒聖宗高校、私も乗ります」
するといきなり声をかけられる
「!?」
振り向くとそこには中学生、下手をしたら小学生にも見える人が立っていた
「なんで皇さんがここに!?」
その人物は草野球で私からホームランを打ち私のヒットを1本無くした皇さんだった
「・・・なんでって、ここの生徒だからです」
「聖宗高校に行ったんじゃ?」
「・・・聖宗高校からは声がかからなくて」
「皇さんほどの選手でも行けないんだ」
皇さんとは草野球でしか対戦した事ないがその実力は思い知った私は驚きを隠せなかった
「・・・あそこ今年から入部に身長制限を設けるらしいので」
「そうなんだ」
女子野球で身長制限するのは多分聖宗高校だけだろう。いくら女子野球が発展してきたとはいえまだまだ人数は少ない。その為他の高校がやれば選手が集まらない可能性が高い
「・・・それでさっきのは本気ですか?」
「さっきの?」
「・・・打倒聖宗高校って」
「う、うん」
流石に照さんの口から告白されないためとは言えない
「よく来てくれたね。皇さん」
するといつの間にか近くに来ていた照さんが皇さんに声をかけた
「知り合いなんですか?」
「知ってるも何も」
「・・・私をここに呼んだのは彼女です」
「え?」
「口説くの大変だったよー」
どこか誇らしげに言う照さん
「・・・それでほかの選手は?」
「まだ来てないねー」
「え?他の選手?」
驚く私を放って話す2人
「もうすぐ来るんじゃないかな?」
「・・・他には誰に声をかけたんですか?」
「それは集まってからのお楽しみだね。まず合格してるか分からないし」
「・・・それもそうですね」
一体この2人はなんの話しをしているのだろうか?
「・・・私もキャッチボール参加してもいいですか?」
「いいよー、てか私の代わりに相手してあげて」
そう言って照さんはグローブを外してベンチの方に歩いていった
「・・・よろしく」
「あっ、よろしくお願いします」
その言葉を最後に私たちは黙々とキャッチボールを始めた
「失礼します」
「・・・」
キャッチボールを初めて15分くらい経ってから2人の女学生がグランドに顔を出した
「来たね、2人共」
どうやらこの2人も照さんが声をかけた選手らしい
両方とも体型はそこまで大きいとは言えない。というか両方とも小柄な方かも
「失礼しまーす」
「お願いしまーす」
すると新たに2人組でグランドに入ってくる
1人は少しチャラそうな子でもう1人は
「デカ」
170は優に超える身長だ。下手したら守より大きいんじゃ?
「結構集まったね」
そう言いながら照さんはベンチから出てくる
「多分、今日集まるのはこれだけだから軽く自己紹介しよっか」
その一言で部員が集まってくる
私は照さんの左側に並ぶ
自然と円形になると照さんが自己紹介を始める
「多分みんな知ってると思うけど、ここの監督になった天宮照です。よろしく」
「え?それだけ?」
あまりにも簡潔過ぎる自己紹介に思わず聞き返してしまう
「多分これから知る機会が多いと思うから私はこれだけにしとくわね。右回りで進めていこっか」
照さんの右に立っていた人にバトンが渡る
「俺の名前は京極 真琴」
自己紹介を始めたのはさっきグランドに入ってきた170は優に超える子だった
「右投右打ポジションはサード。好きな事はフルスイング、嫌いな事はバント。だから俺にバントのサインは出すなよ照さん」
「バントさせるのが勿体ないくらい打てるならいいわよ」
照さんは少し挑発気味に応える
「チッ、俺の自己紹介は終わりだ。ほらよ小夏」
そう言ってさっき一緒に入ってきた子にバトンが渡る
「はーい、私の名前は七瀬 小夏右投両打、中学の時はセカンドとショートを守ってたけど高校ではショートに専念したいです」
結構チャラそうな子ではあるが実力はどうなんだろ
次に渡されたのは前髪で目が隠れている子だ
「・・・・・・お、おとな、し・・・し、しずか(おとなし しずか)です・・・」
音無さん?はかなりオドオドしながら自己紹介をする
「・・・ポ、ポジションは・・・・・・セカンドです」
それだけ言ってすぐにバトンを渡す
次は皇さんだ
「・・・私は皇 凛です。ポジションはライト、目標は打倒聖宗高校です。よろしくお願いします」
静かだがしっかりとした口調で目標を口にする
「あれ?皇さんってファイターズだった?」
七瀬さんが皇さんに声をかける
「・・・そうだけど」
「聖宗高校行かなかったんだ」
聖宗高校と聞いてピクッと反応するが表情は変わらない
「・・・声がかからなかったのよ」
「そうなんだ」
七瀬さんはそれだけ聞くと黙ってしまった
「はい、どうぞ」
そして次に渡されたのは音無さんと一緒に来た小柄な子だ
「ありがと、私は一色 葵です。中学はライオンズでキャッチャーをしていました。よろしくお願いします」
ライオンズとは中学の硬式チームでかなり強い所だが、確かあそこのキャッチャーってもっと
「お前、本当にライオンズのキャッチャーか?俺が対戦した時はもっと大きいキャッチャーだったはずだが」
今度は京極さんが食いつく
私の記憶でもライオンズのキャッチャーは強肩強打が持ち味で見た目は一色さんとは全く違ったはず
「私はレギュラーじゃないから」
「補欠かよ」
興味を失せたかのようにそう吐き捨てた
「はい、次どうぞ」
一色さんからバトンが回ってくる
「次は私だね」
私はバトンを貰い自己紹介を初めて行く
「私は大空 千陽です。左投左打、ポジションは投手です。目標は私も打倒聖宗高校です」
多分理由は違うけど
心の中でそう呟いて自己紹介を終える
「お前が、あの大空か?」
「どの大空?」
またしても京極さんが話しかけてくる
「勝負しろ」
「は?」
いきなり勝負を仕掛けられて私は困惑する
「なんでいきなり!?」
「いいんじゃない?」
何故か肯定する照さん
私に拒否権はないの!?
「それじゃぁ決まりだ。さっさと用意しろ」
「え~」
勝手に勝負をすることになった私は渋々準備を始める
「えっと、キャッチャーは」
「私がやろうか?」
すぐさま一色さんが立候補する
「お願い」
なぜ京極さんがここで私に勝負を挑んだのか気になる
「えっと、1つ聞いていい?」
「あん?」
「なんで勝負しないとダメなの?」
「お前が俺に勝ったら教えてやるよ」
全く教えてくれる気はないらしい
最後まで読んでいただきありがとうございます
分かりにくい所がありましたら遠慮なく言っていただけると幸いです