プロローグ・最後の12月
14歳中学3年生の総野真は走っていた。12月のやや強い北風が、ランニングを着ている真の顔と肩に刺さる。真が走るのは4区。3kmのコースをチームのタスキをつなぐために走るのだ。5番手でタスキを受けた真は1000m地点程で、3番手まで追い上げた。
しかし、この日の真はコンディションは悪かった。1カ月ほど前に痛めた右足首の、疼くような痛みが残っていた。さらに、胃の調子が悪い。前日の遠征先での食事のせいなのかと真は考えていた。不安要素を抱えたままペースを普段より上げた真は、上体の姿勢が崩れ、呼吸も乱れている。
(....辛いな。)
なぜペースを上げたのか?当然、チームの成績を挙げるためである。陸上競技の競走種目は、タイムという数字で記録が出る、非常に分かりやすい競技と言えるだろう。
そのため、貢献度は数字で一目瞭然なのである。
また、真はプレッシャーを感じていた。夏の全国中学陸上競技大会で3000m決勝を2位という結果で納めた真はチームのエースである。そしてその自覚もあった。
(脚が重い....ペースを上げすぎたのか...)
(いやこのままだ。このまま行くんだ。前との差は縮まるはずだ。)
コースの直線に入り、現在2位の選手の背中が200mほど先に見える。
(遠い...いや焦るな。これ以上ペースは上げられない...維持しろ。絶対に追いつける。)
真は自分に言い聞かせる。
中継所前に1番手に出なければチームに勝ち目はないのだ。そのために真は3区を走る。そういうコーチの予見がされていた。目的は勝利なのである。
(.........あれ?)
2番手との距離は縮まらない。これは真の想定外である。
試合展開の想定外は焦りを生む。すでに真の維持していたはずのペースは落ちているのだ。
(....マズい。あげるかペース。)
真はペースを上げなければならない。チームの勝利のために。そういうレースなのである。
(.............................辛いな。)
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真は3番手でタスキを渡した。
そのうち続きかくかもー (2020/3/4)
誰にも観られずに失踪してやる