第六話
部屋に戻ったリリアはベッドにうつ伏せて泣きじゃくっている。
「好きでこんな所に来たんじゃあないわ!!なのになんであんなことを言われなきゃあいけないの!!」
リリアはぶつぶつ文句を言い続けるのだった。
コンコン
ドアをノックする音が聞こえたので、文句を言うのを止め、リリアは応答するのだった。
「はい、どうぞ」
お茶の用意を持ったマリーがそっと入ってくるのだった。マリーがテキパキとお茶を入れ、お茶を出すのだった。
「リリア様、お茶をどうぞ。湯あみの用意をしてまいります」
そう言ったかと思うとマリーは軽く会釈して、湯あみの準備へと行ってしまったのだった。
リリアは涙をベッドのカバーで拭い、テーブルの方へよろよろやってくるのだった。そして、腰かけ、溢れそうな涙をこらえつつお茶を一口。ふーっと一息ついたのだった。
湯あみの用意が出来たので、マリーはリリアを湯あみに呼びに戻ってきたのだった。
「リリア様、長旅お疲れでしょう。ゆっくりお風呂に入りましょう」
マリーに優しい言葉をかけてもらっているのにマシになったとはいえ、リリアのささくれだった心はおさまらない。不貞腐れたように返事を返す。
「あんなこと言ったのに、ほっといてくれればいいじゃないの」
マリーはリリアに言われたことを意にも介さない。
「リリア様のお世話をさせていただくことが私の仕事なので」
「――仕事って言っても、ほっといても良いと言ってるんだから、私の事はほっといてゆっくりしたらいいじゃない!!」
ほっとけと言うリリアにマリーは反対をを述べた。
「そう言う訳にはいきません。それに私、ここで頑張ることに決めてるので」
「ここでってどういう事?」
不思議そうにリリアは訊ねた。
「私は帰る所がないんですよ。デルヴィーニュ家でお世話になっていなかったらどうなっていたのか……だからデルヴィーニュ家のために頑張ると決めてるんです」
リリアはマリーの言ったことが気にかかる。
「マリー、帰る所がないって、家族は?」
寂しそうに笑みを浮かべながら、マリーは答えた。
「私、孤児なんですよ。孤児院で知り合った夫と結婚したのですが、15年ほど前の戦で亡くなってしまって……困っていた所に生活できるようにデルヴィーニュ家で働かないかとお声がけいただいたんですよ」
「一人?」
「ええ。一人ですけど、デルヴィーニュ家につかえている限り仲間はいるので一人じゃあありませんし」
そうちょっと誇らしそうにマリーは答えたのだった。
「そう、一人じゃあないんだ」
そう言ったかと思うとリリアは急に頭が痛くなり、その場に立ち尽くす。リリアの顔色が悪くなったのを見たマリーは心配そう。
「リリア様、大丈夫ですか?」
「大丈夫。でも、頭が痛いので、申し訳ないけれど、このまま休ませてもらうわ」
「わかりました。寝巻きに着替えましょう」
「ありがとう」
マリーはしんどそうなリリアを支えながら服を着替えさせ、ベッドに横たわらせた。
「リリア様、お医者様を呼びましょう」
リリアの顔色の悪さにマリーは提案した。が、リリアは首を振る。
「医師を呼ぶほどじゃあないわ。寝てれば治るわ」
「本当に大丈夫ですか……ベッドサイドに呼び鈴を置きますので、何かあったらならしてくださいませ」
「ありがとう」
マリーは心配そうに後ろ髪をひかれつつ部屋を出ていったのだった。