穴にまつわる話(テスト投稿)
よろしくお願いします。
かなりゆるっと書きました。
ノンフィクションが一部あります。
さて、どこでしょう?
昨年は暑かった。
うだるような暑さの中、少しでもヒンヤリしたくて手を出したのが怪談だった。
部屋を閉め切ってキンキンにクーラーを効かしての動画鑑賞。
最初こそゾッとしていたが、直にその怖さにも慣れて今では殆ど『へ~』としか感じなくなっている自分が怖い。
流石に心霊スポットに行く勇気まではなかったが、身近にそんな話が転がっていないか興味がわいてくるのだった。
しかし残念ながら周囲の友人たちを見渡してもその手の『見ちゃった』やら『感じちゃった』のいう類の人は見当たらない。
せめて何かそっち方面の面白い話でも知っている人はいないか…と乏しい人脈を思い起こしてみると、いた。
無類の『駅員さん大好き』少女絵美さん。
学生時代の後輩で、よく駅で駅員さんにくっ付いて回ってた少女の顔を思い出した。
ひょんなことで知り合って電話番号も交換して、昔のことだけど2・3回電話のやりとりをしていたことがある人物だった。
あの電話番号はまだ有効だろうか?
音沙汰も無く今更感があってかなり勇気が要ったが、好奇心にまけて番号にかけると記憶より少し大人びた声が何コール目か後に出た。
「もしもし?」
「お久しぶり、元気だった?」
軽く近況の報告をしあってから本題に入る。
役に立たないかもしれないけれど、と彼女は語った。
聞くところによると首都に乗り入れる某路線では『開かずの踏み切り』と言われる場所と最寄りの駅の間で起きる人身事故の時には『手が見つからない』という事件(?)がたまにあるそうだ。
人身事故の頻度はそこそこ起きる程度と言っても自殺の名所と言うほどでもないらしい。
手がないーーー何故なのか?
車輪に巻き込まれてミンチになったからだろうか?
あるいは……はねられた衝撃で車体にくっ付いてミイラになって後に発見される例もあるし、怪談だと頭が民家の庭に落ちたみたいな話も…抽象的過ぎてどうにもわからない。
心霊スポット的なおどろおどろしい話はなかった気がするが現場に行けない距離でもなく、ちょっと検索をかけてみた。
【開かずの踏切とK駅周辺】の出来事について。
『最終電車が踏切を通過する直前、女性らしき白い影が線路の真ん中に立っている』と、自殺のある踏切にありがちな話くらいしか出てこなかった。
やっぱり行ってみようかな。
実際に行かないと雰囲気やらわからないことも多いのだと思う。
金曜の夜なら、休み前で万が一何か起こっても問題は無いだろう。
そう決めてカレンダーに〇をつける。
件の場所は、線路沿いの狭い道路・まばらに配置されている街灯・閑静な住宅街と都心から少し離れた郊外では、よく見慣れた風景の中にあった。
道路と線路はフェンスで区切られており、端には側溝がある。
狭い道路で近くには駐車場は見当たらないようで、車で行く場所でもなく自転車で移動することにした。
考えてみると帰宅時間帯ならばそれほど目立つこともないだろうが、深夜に近い時間帯にうろうろしていたら不審人物に見られかねないこと、しかも懐中電灯片手といういで立ちに今更ながら少し後悔をする。
次に来ることがあったら、友人と来よう。
その日は何事もなく、一往復したところで早々に検証を終了した。
◇◇◇
「絶対おごれよ」
『うんざり』と言う顔をして巻き添えをくらわせた友人がぼやく。
かれこれ1ヶ月経っても、これという進展もなく今日も今日とて終電間際の時間帯を近場の道に自転車を置いて徒歩で数往復している。
まあ、すぐには何かが起こるとは思えないけど。
街灯はあるものの、足元は暗くどうしても懐中電灯は必須だった。
……霊感とかそういうのある人と同行して無いからかな?
ちらっと横を見ると肩を並べて歩いている友人と目が合う。
「なんだよ」
「いや、別に…」
こんな可能性があるかないかの事に突き合わせているんだなとちょっと反省もしてみる。
「なあ・・・定食になんか1品つけようか?」
「ちぇ~、こんだけ付き合ったのに定食だけにしようと考えてたとかアリエナイ」
「今回だけ。基本出来高制だバカ。食べ盛りにほいほいおごってたらこっちの金が枯渇する」
結果が見えないのに毎回プラスαにするつもりはない。
「それに、どうせお前も週末ぼっちだろう?」
「ぼっち言うな!」
『ぼっち』という単語にすかさず抗議が来る。
「ぼっち同士仲良くやろう」
そんな仲良し関係は要らない!と友人は目で訴えてくる。
聞いた話だと現在恋人募集中らしい。
がんばれ~。美形やスペックが高くない限り奥ゆかしく待っているだけじゃ、恋人ができる可能性は低いよ?と心の中でエールと大きなお世話的アドバイスを送る。
そんな輕口をたたき合いつつ、並んで歩いた。
人気のない時間帯に行ったり来たりのルーティンワークじみた行動は、1人だとおそらく早々に心が折れたと思う。
しかし今夜も何もないなー。
「そろそろ帰るか」
キャ!
短い悲鳴がした。
終電の若干早い下りの電車のテールランプを見送りつつ、友人を促した先で歩いていた二人連れの一人の影が不自然に揺れた。
「大丈夫?」
もう一人の声が心配そうにもう一人に声をかけた。
「やだもう。何もないのに躓いちゃった~」
あははは。
酔っているのか陽気な声で返している。
「・・・・よっぱ」
「大丈夫かな?」
「大丈夫だろ」
「声、掛けようかな」
心なしか心配とはどこか違う方向でそわそわしだす友人。
「ナンパだと思われるからやめとけ」
こんな所で出会いを求めるんだ……。
ちょっと、いや、かなり残念な友人だ。
懐中電灯持ったまま声かけたら、ドン引かれるぞ。
空気よめ。
◇◇◇
それから2ヶ月ほど過ぎる。
毎度おなじみの行動に周りの方が慣れてくれたらしく怪訝な表情をする人は少なくなった気がする。
尤も、こっちが思うほど周りは気にしていないのかもしれないが。
2ヶ月ほどと言っても用事があったりで中断したり日をずらしたりして適当な検証であった。
その間何かあったというと、1件の人身事故とその処理が落ち着くまで検証の自粛……と何度か見た躓く人?
おこる頻度は確かに多くないし気にすることでもないのだけど、なにかざわっと座り心地の悪い気分になる。
違和感がある。
何だ何だ何が気になるんだ?
「もう3ヵ月過ぎたのに飽きないねー」
時間をずらしたらどうだろう?
と友人の提案に乗って今は日曜日の昼間、昼飯を期待している友人と件の検証中である。
「こんにちはー」
ラフな格好をした同じくらいの女性が声をかけてきた。
知らない女性だ。
「こんにちは」
挨拶を返しながら内心首をひねる。
誰だろう?
「珍しい今日は昼間に来てるんだ?」
「え?、うん」
(お前の知り合い?)
(知らない)
目で問いかけるが、彼も知らないようで首を横に振った。
「ちょっとね。
何か用?」
「用っていうか~・・・。最近、夜中にこの辺をうろうろしてるよね?
探し物?困ってるなら手伝おうかなって思って」
「困っているのは確かだし、探し物って言えばそうなんだけどね」
男2人組に声かけるって勇気あるな、この娘。
つか、危機感なくね?
驚いてまじまじと見てしまった。
その隙にと
「手伝ってくれるの!?優しいなぁ。
この辺の子?」
友人は早くもお知り合いになりたそうに相好を崩している。
おい・・・友人の服を引っ張って止める。
「なんだよ」
「聞いたところでドン引かれて終わりだぞ」
お知り合いになるどころか、危険人物認定されたらどうする。
「ね?訳あり?」
小声でごにょごにょ言い合ってるところに彼女が瞳を輝かして聞いてくる。
「俺たちオカルト研究やってるんだけど、この辺に面白い話があるって聞いて探してたというか……出ないかなあって検証してるんだ」
ナイス!
オカルト研究って言葉浮かばなかったよ。
「何かここにまつわる話って知らないかな?」
少しの間彼女は思いめぐらしているように小首をかしげていたがやがて、
「あ!」
思い出したようで小さく声を出した。
「側溝の話ーーー」
自然と視線は線路わきの側溝に目が向いていた。
「高校の時にクラスメイトの1人が夏休み明けに体験した話でさ。
、夏祭りの帰りにこの付近で側溝の蓋の上に落ちたポーチを拾おうと手を伸ばしたら、隙間から出た白い手に手首をつかまれたんだって……。
でね、気持ち悪かったけど彼氏や仲間も一緒にいて、彼女、気が大きくなってたみたいで皆で側溝の蓋を持ち上げてみたけど何もなかったって。
結局気のせいだって話でその場は落ち着いたんだけど……絶対気のせいじゃないって言ってた」
絵美さんの話も『手』だったな。
ぼんやり思い出す。
事情を話していた友人も同じことを思い出したらしく突っ込む。
「こいつの聞いた話も手に関係する話だったよ」
「気味悪いね」
「ちょっとここ通るの止めようかな」
ぶるっと彼女は肩を震わせた。
「この後用事が無かったら、気分直しと御礼かねて何かおごるよ」
◇◇◇
駅の近くのファミレスで三人で軽く食事してから帰路についた。
彼女の方は、一足先に用事があったようでもう一つの話をしてコーヒー一杯で帰って行ったが。
「結菜ちゃんかー。かわいい名前だな!」
いつの間にか友人のスマフォには彼女のメアドがちゃっかりと記録されている。
「いつの間に……」
絶句ものだ。
「出会いに恵まれてないなら頑張らなきゃ。というか、去り際に『何か見つかったら教えてね』って言ってたでしょ。
その前に聞きだしてたんだよ~。
じゃなきゃ教えられないじゃん」
へろりと友人は笑った。
……ダヨネ。
彼女のおかげで検証のテンションが上向きになった。
彼女のしてくれたもう一つの話とは。
『噂になるほどの頻度ではないにしても 何か に躓く人が側溝の上や近くで多く体験していて、歩道もない道なのに、線路側(側溝のある側)を長く住んでいる人たちは避けている』とのこと。
やはり、側溝が怪しい。
重点的に、線路わきの側溝を調べる。
側溝の蓋は昭和の名残か、最近の都心では見られないコンクリート製で側面に凹っとへこみのあるタイプでずらそうと思えば男2人で軽く移動できるものだった。
側溝には雨の日以外は水も溜まっていないようで、周囲の目を気にしながらこっそり持ち上げると、貼れている日が続くとほこり臭い空気が舞い上がってくる。
軽くむせるこの地味な作業も、続けているうちに慣れてきて心なしか腕に筋肉がついたように感じる。
1駅区間の往復も何往復も徒歩で移動するためか軽く運動不足の解消になっているようで……このまま何もなくてもそれはそれで結果はオーライかもしれない。
ちょっと現実逃避をしつつ、そろそろ今日の検証を終わろうとしていた時だった。
今日は側溝とフェンスの狭いスペースを友人が歩いて俺が側溝をすぐそばのアスファルト側を。
ちょうど側溝を挟む形で検証していた。
距離もそろそろ半分を過ぎたころ、
「ん~」
納得いかないというような、不審そうな顔をして友人が同じところを何度かつま先でけっている。
「何かあった?」
先刻もその前も同じところで立ち止まらなかったか?
「ん~……今日何度か通ったんだけど地面がね」
話しながらもトントンと地面を蹴る。
そこは今日が初めて通る場所でもなかった。
やる事が見えてきて重点的に怪異もしくはそれに由来する物を検証をしていたのだ。
「何で気づかなかったのだろう?」
友人が首をひねる。
「俺が通った時も変な感じはしなかったなぁ。
どんな感じ?」
「なんか、空洞と言うか。若干…」
言う途中で、ボコッというくぐもった鈍い音がして友人の目線がいきなり下がった。
とっさに向けた懐中電灯にものすごい埃が写って友人の姿を遮る。
かび臭いようなほこり臭いような臭いと若干の腐臭が混ざったような何とも言えない臭いが埃とともに漂う。
「くっさ!」
「鼻押さえてないで助けてくれよ」
「あ、ああ。大丈夫か?」
穴に膝上まではまっている友人が何とも情けない声を出して助けを求めてきた。
感触が気持ち悪くて動きたくないらしい。
フェンスをつかみながら、友人に手を貸す。
「うわあ!キモっキモっ嫌な感触!!」
しきりに何かを払うようにバタバタ足を動かしているところを見ると大丈夫なようだ。
「で・・・この穴は・・・」
一息ついて落ち着くと、改めて懐中電灯を穴に向けてみた。
穴には、土くれとともに無数の白い……。
あたりを見渡して、穴の中をひっかきまわせそうな棒を拾ってきてかき回した後決定的なものを確認。 警察に電話をかけた。
◇◇◇
警察でこってり説教を含めた事情聴取をされ、
『K駅周辺で無数の人骨発見!』
翌日には地方紙に小さく記事が掲載された。
◇◇◇
結奈さんには、友人が警察から解放されてすぐにメールで事の顛末を送ったらしい。
真夜中ではあったがメールなら問題ないだろう。
近くに住んでいるということで、後日談が友人のメールに入って来た。
曰く
発見された骨は新旧にわたって全て人間の手の骨だったこと。
『何かのはずみ』で穴にたまったのでは?という事になったらしいこと。
鑑定する人は大変だろうな~と締めくくってあった。
アプローチしてた友人は、
「彼女、恋人いるんだって~」
とがっかりしつつ、次の恋にむかって前向きに募集中だそうだ。
いつもと変わらない日々が戻って来た。
あの道はもう通らない。
昨年の夏は暑かった。
今年もまた暑い夏が来るのだろうか。
今年はもう怪談はおなか一杯かな。
こっちを先に投稿するつもりが…という計画倒れで2番目の投稿になりまります。
作品と言えるものか甚だ疑問ですが、読んでくださった方には何も出ませんが深い感謝をささげます。