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僕らのバンドができるまで  作者: リリアン G
12/14

アンジー <カイルが語る>

僕はカイルだ。

イルミナのプロデューサーだが、本当はアランの問題解決役だと自覚している。


DJの仕事が終わったすぐ後にポールから電話があった。声が震えていた。

「カイル、すぐ来れるかい?今すぐ。アランが倒れた。」

「えっ、いつもの?」

「いや、深刻なんだ。戻らなんだ。アレックスが見てるけど、いつもとちょっと違う。すぐ来れる?」

「スタジオだね?」

「そう、早く。」


そこに駆け付けたとき、アレックスはアランにADEを使っていた。

「カイル、どうしたらいいんだ?」

「君が専門じゃないか、アレックス?」

「1回心臓が止まって回復したが、ERに連れてきたいのだけど、デービッドが絶対にきかないんだ。」


デービッドが言った。

「アランに言われてる、病院には行かないって。決して行かせないでくれと。」

という彼の眼は怯えていて、声も震えていた。


僕は自分を落ち着かせた。どうしたらいいんだ。そう、アランは病院へは行かない。

なぜかと言えば、彼の体調は半端でないので、即入院させられるからだ。


心拍一度は戻ったがすぐに弱くなり、すぐにも停止しそうだ。

僕は、彼を抱えて強く願った、「戻れ」と。「今じゃない」と。

そして幽体離脱している彼を引き戻すイメージングをした。強硬に。全力を尽くして。


アランは息を吹き返した。僕の腕に身を任せ、弱弱しく微笑んだ。

「カイル、、、」

アランは弱い呼吸をして、ふらつく頭を起こし、みんなを見た。

「みんな、悪かった。もう大丈夫だよ。」


彼は起きようとし、2-3歩歩いたがまたそこで膝をついた。

そしてまた起き上がって、力なく笑った。

「まったく、自分が嫌になる、本当に。」


僕は言った。

「アラン、自分だけで抱え込むなよ。みんながついているんだから。君は自分だけのものじゃないんだ、もう今は。」


彼は弱弱しく笑った。

「たばこが吸いたい。」

デービッドが箱を投げて渡した。僕は1本抜き出して、アランの口に差し込んだ。


彼は、それを深く吸い込んで、何回かゆっくりと煙を吐き出した。

そして、少し落ち着いて話し出した。


「たばこは僕の最後のケミカルだね。逆療法さ。

実はね、今日はみんなが凄くのってたからさ、その分すっごい光が下りたんだ。なんと、僕は受け止めたけど、体がコントロールできなくて、情けないけど、僕の準備ができていなくて、こんなざま。

まったく、かっこ悪いよね。本当にすまない。」


アレックスが言った。

「しばらく、休んでくれよ、アラン。僕たち、みんな、君が何をやろうとしてたかを知った。そうだろ?君が描いたことだ。そして君が犠牲になった。」


アランは言った。

「犠牲なんかじゃないよ。君らは十分には準備ができていた。今度は僕が変わらなくちゃいけない。

みんなが大きくなったから、僕も大きくならなければ、今度は僕の番なんだよ。分かってる。」


デービッドが言った。

「お前はな、もっとちゃんと食わなくちゃいけない。やりたいこと完成したいなら。また、ほとんど何も食べていないんだろ。」

「そうだね。僕は自分のことはいつも忘れてしまうんだ。」


ポールが言った。

「アランのやりたいことができるまで、僕たちは君と一体になって取り組むから、だから、君は自分のことを大切にしてくれ。たぶん、まだまだよね、今日のは入口なんだろう?」


アレックスは言った。

「今日、本当にわかった。僕たちがそれぞれ役割をどう果たすのかが。だが、アランが要だ。君が自分を生かさなくては完成しないんだ。それに、その体も、僕に見せてくれないか?」


アランはいつもの不思議な微笑みを浮かべて言った。

「頼もしいな、みんな。僕、本当に頑張らないとね。みんなと、この先を見てみたい。」


僕はアランに言った。

「君は人間でいたいなら、食べないと倒れるんだよ。自然の摂理だ。人の何倍もエネルギー使ってるんだから。」

「わかった。わかったよ。じゃなんか食いに行こうよ。やっと食べる元気がでてきた。」


バンドのバンで、昔よく行っていたダイナーに向かった。

いつものウェイトレスが、愛想よく微笑んで注文を取りに来た。


ポールはスマホに入れた、今日の録画を僕に見せてくれた。

それは、信じがたいほどの光と音の融合だった。

一人一人がまばゆく輝き、アランは孤高の輝きを放って上り詰めようとしたとき、突然、彼は失神した。


天から落ちる天使のように。


…………………………………


ステーキを切る手を止めて、アレックスが言った。

「アラン、君は今まで医者に行ったことがあるのか?一度、精密チェックしてくれないか?

僕がこのバンドにいて、良心が許さないんだ。何もできないことが嫌なんだ。自分の責任果たしてないような気がして。」


「ドック、君に責任はないんだよ。もし、僕がね、医者に行ったら、たとえ君に見てもらったとしても、たぶんね、入院させられて、特殊ケースで研究対象にされるだけだから、行かない。

そしたら自由が奪われるから、絶対そうしないんだ。絶対に。」

いつもの頑固なアランが戻った。


アレックスは続ける。

「でも、今日のようなことがあれば、死ぬよ。今日だって死ぬとこだった。」

「今まで生きてきたから大丈夫だよ。」

「脱水症は別として、君は食べないから、そうなるんじゃないのか?低血糖が考えられるな。」


アランはナイフの手を止めて言った。

「そうかもしれない。それだとしたらどうなの?」

「もしそうだとしたら、今日のような症状だ。死に至ることがある。」


「それかもね。じゃ僕は食べるように気を付けるからさ。」

「低血糖と脱水症、どちらも致命傷になる。」


「わかった。ありがとう。気を付ける。約束するよ。」

「そして、貧血症だね。」

「やめてくれよ。もう!病人扱いは。」

アランは声を高めた。


「病気だよ、マジで。」

「けど、頭は病んでない。保証する。」

そうアランは言って、アレックスにかすかに笑んだ。


アランは気分を変えようと明るくく言った。彼はエネルギー変換が早い。

「ねえ、僕たち、次のもっと大きなコンサートを機会にイメチェンしようと思うんだ。


音楽の方はこの路線だけど、ちょっとメジャーになってきたから、クールに見た目も決めようぜ。

僕は今の青系を卒業する。僕はセクシーなヴォーカルに変わるべきかな?」


デービッドが言った。

「お前のイメージはな、セクシーというより、人間離れだね。」


アランは頭を触りながら、

「髪は元のプラチナに戻す。どう?」


ポールが言った。

「地毛はプラチナか?その方が、もっと謎っぽいかもね。」


「みんなはもっとホットなイメージに決めるてみたら?」

ポールが返す。

「ホットてどんな風に?」

「それは、デービッドの専門だから。」


デービッドは言った。

「そこ、俺に演出させてもらっていい?」

「任せるよ、デービッド。ポールもアレックスも真面目だからさ。コーディネータが必要だね。」


アレックスが割り込む。

「お手柔らかに。サイド刈りやタトゥとかだけはやらないよ、デービッド。」

ポールもアレックスも楽しそうに笑った。


.....................


アランから遠い席で、そんな会話を聞いていたが、

僕はさっきの心臓停止シーンからの緊張が抜けていなかった。

アランは故意に話を外そうとしている。


アランは僕を見て思念を送ってきた。

”カイル、さっきはありがとう”

しかし、僕には疑問が残こっていた。


僕は無言で言葉を送った。

”アラン、本当にそれでいいの?僕はちょっと納得がいかない。”

”何が納得いかないの?カイル”

”変わるのは見かけじゃないんじゃない?アラン、君がそのままじゃ、本質は何も変わらないと思うな。”


返答を待たずに、重ねて送った。

”空間を支配するのは君だ。アランが中心、君が頂点に立たないとエネルギーが流れない”


”でも、カイル、僕は視線なんか集めたくない。音楽に焦点を当てたいんだ。僕じゃなくて。音楽がすべてなんだよ。”


僕には、その言葉は腑に落ちなかった。それをアラン自身も知っているはずだ。


………….


僕は次の朝、アンジーにテキストした。

「会いたい。アランのことを話したいんだけど。」

そしてすぐに返事。

「オーケー。1時間後に、スタジオANで。」


アンジーはいつもらしからぬ、とても疲れているように見えた。

「アンジー、大丈夫?」

僕はアンジーに長めにハグをした。


「カイル、ありがとう。少し元気になった。寝不足なだけ、昨日寝る時間なかったから。

それで、何?アランのこと。彼がどうしたの?」


「次の公演のこと知ってるね?彼らは、イメージチェンジもして、大きく飛躍しようとしている。」

「そうらしいわね。いよいよだね。」


「そうなんだけど。ねえ、アンジー、これ見てくれる?」

そして、スマホの最新のスタジオ映像を見せた。前日に収録した、練習風景だ。」

「どう思う?アンジー?」


アンはしばらく考えに浸っていた。かなり長い時が過ぎているような気がした。

「アンジー?」

「うん、、、なぜ彼は、自分の未来を否定するのかな?私の影であるのをやめたのに。何が彼を止めるんだろう?。」

「そうなんだ。何かが彼の飛翔を止めている。君なら分かるかと思って。」


彼女は髪をかき上げて言った。何回も映像を繰り返し見ている。

「独りで飛ぶのを恐れているのかなあ?」

「彼には、何か重石がついているように見える。他のメンバーは彼が説得して、自分を出せるようになってきた。」

「そうね、よくやったと思うわ。」


「そして、みんなのレベル上がってきたんで、彼自身も変わらなくてはと感じている。でも、まだ描けてないんだ、ここまでは描けていたけど、彼にとっての次元の壁の先が。


彼は、音楽に焦点合わせたい、仲間と一緒に、というけど、音楽を下すのは彼自身で、彼が先を行くものの孤独を味あわなくてはいけない、勇気をだして、一人で歩かなくてはならない。過去と決別しなくては。」


アンジーは真剣に僕を見た。

「というと?」

「彼は何を捨てたくないんだろう、アンジー?」


アンジーはまたしばらく考えていた。落ちた前髪で彼女の表情が見えなかった。

そして、前髪を払って僕を見て言った。


「アランは、私のシャドーだった慣習がぬけてないのね。そのこと自覚していないのだと思うけど。

こんな経験、一人でやるのは初めてだし、壁を越えたいけど、一瞬、後ろを振り返ってしまうのかな?

たぶん、彼の雑念は、私だと思う。」


彼女は一筋の涙をほほに這わせた。


その涙を僕は指で拭った。

「僕もそう思う。見ての通り、昨夜、準備不足で、彼は自分の拡大を自分の心で否定して、受け付けなくて、フィジカルに、彼はあやうく死ぬところだったんだ。」


彼女を問い詰めたくないが、それが役割だと思った。

「アンジー、僕は君に聞きたい。どうしたらいいと思う?」


彼女はここにいないアランの心を探っていたのかもしれない。。


僕はそんなアンジーを眺めながら言った。

「彼は才能がある。君とは違う個性がある。それをどう開花できるだろう。君なら知ってると思って。」


アンジはおもむろに口を開いた。

「、、、そうか、やっぱり私のせいかもね、、、、私が彼を切ることかなあ、第一に。

私が、アランが死んでもかまわない思わないと。まだ心の底で、アランに帰ってきてほしい自分がいるもの。だから、それで彼は私の呪縛から逃れられないのかもしれないわ。」

彼女は、寂しそうな顔で言った。


僕は言った。

「君がアランのこと一番愛してると知っている、、、、僕はかまわない。」


僕はアンジーの肩に手をまわして抱きしめ、キスをした。


「カイル、ごめんね。でも私にはあなたがいるんだから、もう彼のことは求めないわ。本当にごめんね。私、これでアランを切るから。そうでないと彼の未来もないし。はい、今、切ったわ。」


彼女の大きな瞳に涙が溢れて、大粒のダイヤモンドがほほをつたって流れた。

「カイル、あなたは最適なところに聞きに来たんだわ。変わらなくてはいけないのは私の方だった。」

アンジーは泣いた顔を、僕の胸にうずめた。


しばらくそうして泣いていたが、彼女は涙を僕のTシャツでぬぐい、言った。


「それと別の問題だけど、彼は自分に注目浴びたくないなんて、バカなこと言ってるの?

会場を支配するのはアランでしょ。


アランの歌が今一ホットでないのは、彼はファンタジーは送るけど、フィジカルなアピールを軽視しているよね。でも、内も外も、実は同じなのよ。内面が外に出ないと、オーディエンスには、ファンタジーが見えない人には、インパクトが足らない。


そういうことね。ねえ、カイル、指南役、引き受けてくれる?あなたに適役だと思うんだけど。DJの時のカイルのコツを教えてあげてよ。アランはあなたをを信頼してるから。」

「でも僕はシンガーではないんだよ。それが、僕のネックなんだ。」


彼女の瞳に突然、光が戻った。

「あっ、ホットな歌手ね、いい子がいた、マイキーをつけようか?」

「えっ、あの若手のEmo Xのマイキー?」


「ええ、そう。アランはマイキーが好きになると思う。マイキーをどう絡めようか?

わかった、出合わせる段取り思いついたわ。絶対に、彼はマイキーにすごく刺激されると思うわ。

だって、アランにないものをマイキーが持っている。最高にクールだし。そしてマイキーにはアランと同通しそうなバイブもあるしね。」


彼女は、ファンタジーを描けたようだった。

金の粉があたりに舞い落ちている。

「アンジー、君に任せるよ。君の得意分野だからね、それは。」

「でも、私の差し金とアランにばれるかもしれない、ま、いいか。彼には必然だから。」


僕は安堵の息をついた。

アランがアンジーの心の中で優先事項なのは知っていた。それは仕方のないことだと思った。

彼女は自分の心に外科手術をした。アランを愛するがゆえに断ち切ったのだ。


アンジーに笑みが戻ってブルーとグリーが混ざった美しい瞳を輝かせた。


僕はこの瞳に魅せられたんだ。そして彼女へ愛を誓って、僕のすべての過去を捨てた。


.....................


かつて、アンジーは僕を闇から救った。


僕は、暗い闇の込めた世界に生きていた。彼女を愛して、自分と彼女は生きている世界が違うから、別れようとした。彼女との愛の未来を、僕の世界では描けなかった。


アンジーは言った。

「私への愛が本物なら、私の世界に来て生きないかと。あなたがこの世界で死ぬ勇気があれば、二度と戻らないと決めるなら、私の世界で、愛がある限り私と生きよう。」と。


僕はアンジーを選んで、彼女のファンタジーの中で生きている。

過去は振り返らない。戻れはこの愛を失うだろう。





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