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僕らのバンドができるまで  作者: リリアン G
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10/14

姉と弟   <デービッドが語る>


<デービッドが語る>


アレックスが現れなかったスタジオワークの夜、

アランはその苦しみを見せなかった。

機嫌よさそうに、笑い、楽し気にジョークを言い、俺とポールに考える時間を与えなかった。


アランはキーボードを弾いて、アップテンポ曲に取り組んだ。

しかし、いつもとは違って、曲を完成させないで終わった。


そのわけは、ポールにも俺にもわかっていた。


帰り支度をしている時、アラン微笑んで言った。


「今、曲を思いついた。

 ちょっと創っていくから、先に帰っていいよ。」


アランはピアノに向かい、一人で歌い始めた。

ポールはビデオのスイッチを入れ、俺たちも加わった。


<僕の天使>

(リリックス)

~

今はいない君のことをずっと考えている

たぶん会う前から、君を探していた

君は僕の天使

去ってしまった今もそうだ

君は僕に、いつも最高の時間をくれた


どこで何をしているの?

あの頃も、いなくなった今でも

君は僕の天使


君がそばにいない夜は

君との素敵な時間を思い出す

またどこかで会えるかもしれないと

街角でいつも君の姿を探す

君は僕の天使


今度会ったときは、はっきり言おう

まだ伝えていなかった僕の本音を

愛してるって


またどこかで会えるかもしれないと

街角でいつも君の姿を探す

君は僕の天使


今度会ったときは、はっきり言おう

まだ伝えていなかった僕の本音を

愛してるって

~

………….


俺とポールは、アランが紡ぎだす歌と旋律を、出来るだけ丁寧にナチュラルにサポートした。


信じられないくらい美しい歌だった。

アレックスのために作ったことは明白だった。


歌い終わるとアランが言った。

「みんな、ありがとう。僕の素直な気持ちが歌えた。ポール、この曲、アレックスに送ってくれない?」

「わかった。それで、彼に何を求めてるの?」

「何んにも。ただ送ってくれる?」


ポールがスタジオを出て行ったあと、アランはいつものように床に倒れた。

俺は彼を抱え起こして、水を少しづつ飲ませる。服の中の彼は、見かけよりずっと華奢だった。


彼は、すぐに瞼を開いた。


「アラン、大丈夫か?」

「ありがとう、デービッド。すまない。今日はちょっと、きつかった。」

「分かる。よく頑張ったな。」


彼は、力なく立ち上がったが、蒼白な顔をしていた。

「お前、もしかしてまた食ってないんだろ?」

「そうかも、そういえばいつからかな。覚えてない。ろくなものしか口に入れてないかな。忘れてた。」


「いい加減にしろよ。脱水症とか栄養失調なんて、超みっともないぜ、男だろ?。お前、ガールフレンドいるのか?」

「いや、それは今は、作らないことにしている。」

「死なないうちに、作れよ。面倒見てくれるやつ。ちょっとうるさいやつ。」

「そうだね。」


「何か食べに行くか?」

「そうした方がよさそうだ、デービッド。」


.....................


俺たちは、二度目に会った日に行ったダイナーに行った。

いつものウエイトレスが爽やかな微笑みで迎えてくれた。


二人ともステーキを注文して、無言でむさぼった。

アランの顔に少し色が差してきた。


食事を終えて、俺は話し始めた。

「アラン、昨日お前の姉さんにあったよ、アンジー・ロウだって?」

「えっ、本当?驚き!どこで?」

「スピカ、新しいバー、今働いてるところで。」


「それで?彼女きれいだった?」

「息が止まるほど美しかったぜ。カイルも一緒だった。彼はアンジーの恋人なんだね?」

「そう。彼ら、外で会うなんて珍しいな。」


「すごく馬鹿なんだが、はじめ、アンジーとは知らずに、俺は彼女に一目ぼれしたんだ。笑えるだろ?」

「へえ、面白い。本当?、デービッド?」

「正体を知ってから、知る前にそういう妄想してよかった、と思った。知ってからなら絶対そんなこと、ありえないもんな。」


「デービッドはクールだから、君に口説かれれば、アンジーもまんざらでないんじゃない?」

と言って、アランは微笑んだ。


「それはないな。彼女、お前のこと心配してたぜ。」

「そう?」

アランは心なしか、寂しそうに眼を伏せた。


俺は続けた。

「彼女、本当にきれいだね。初めて近くで見たけど。」

「アンジーはいつも完璧だ。」

「俺、彼女と少し話した。何か、話しやすくて、悩みを相談してみた。

そして彼女は言ったよ、君のこと知りたければ、直接聞けって。」


アランは驚いたように、俺を見つめていった。

「悩みって僕のこと?

なんだよ、デービッド?僕たちの中で、水臭い。僕の何が知りたいっての?」


「アラン、だってお前って音楽のことしか話さないじゃないか?

だから人間離れして、カリスマになっちゃうんだよ。みんなもそう感じているはずだ。」


いつもになく俺は真剣になった。

「俺はな、このバンドがこんなにうけるとは思いもしなかった。今まで俺の人生に、そんなことは起こったことがないからな。」


俺は続ける。

「だけどな、これ以上に進まなくてはならないとき、感じるんだが、先に進むのと引き換えに、成功を望む代償に、何か捧げなくてはならないのではないかって。過去や今までの自分を捨てなくては、それは手に入らないじゃないかって。」


顔に血の気が戻ったアランは、俺を見つめた。

「デービッド、君は感覚派と思っていたが、ちゃんと考えてるんだね。

実は、僕も変わらなくてはならないんだと思う。バンドをもっと上げて、みんなで、この先を見たい。

虹の向こうを見たい。だから、みんなについてきてほしい。イルミナのメンバーと一緒に未来を見たい。」


アランは一気にまくし立ててから俺を見た。

「この、僕の思いは身勝手かな?」


俺は返した。こんなシリアスな話は、二人の時では初めてだ。

「いいや、というより、アレックスもポールも、未来と引き換えに差し出すもの、捨てるもの、そのことを考えて取り越し苦労してるんだと思うな。先が不安なんだよ。彼ら、いい肩書、お育ちとか沢山持ってるものがあるからね。俺は過去には未練はない、と今は言える。」


「僕にも未知だよ、未来は。」


アランと話しながらも、俺はアンジーのことがなぜ頭から離れなかった。昨夜からずっと、彼女のことを考えていた。彼女の魔法にかかったような気分だ。


唐突に尋ねた。

「アラン、お前の姉貴は魔法を使うのか?」

「えっ、何で?」

「なぜか彼女の顔が頭から離れない。魔法にかかったように。彼女に会ってから世界がまた動き出したような気がする。実は停滞してたんだ。」


アランは、興味深げに俺を見ていた。


俺は言った。

「俺もこれから先のバンドのことに、自信がなかったのさ。あの、シェイパーズで突き抜けて、先の世界を垣間見て、それが衝撃だったから、その次元でやっていけるのかどうかと。」


アランは言った。

「君には、掴めてたと思ってたんだけど。」


俺は続けた。

「でもさ、未知の世界に憧れるのはその手前だけ、それがリアルに何か分かった時、普通の人間は戸惑うもんだ。お前は別だが。」


雄弁な自分に驚いた。

「その気持ちを誰に話したらいいかわからなかった。お前に話すのがちょっと怖かったんだ。

アンジーと話して、彼女のポジティブ魔力で、なんかやる気が出た。お前と対決する勇気も沸いた。」


アランは、怪訝な顔をした。

「なんで、僕と対決するのさ、デビ―ビッド?」

「だってさ、実際、お前は謎のかたまりだよ。お前、腹を割って話したやついないだろ?

お前のことは誰も知らない。ミステリーだ。そして自分の世界観を俺たちに無理やり要求する。なんか話ができないような雰囲気がある。」


アランは、実際、驚いていた。

「みんなは僕を恐れているというの?僕の謎って、何が知りたいの?僕は、ありのままだよ。」


俺は水を一口飲んで、続けた。

「そうだ、恐れているのかもしれない。謎のアランを、人間っぽくないアランを。

俺たちの前に現れる前に、何をしていたんだと。その才能は只ものじゃないから、気になってた。


姉貴がアンジーだ知って、納得した。でもこれは誰も知らない。

これは、アンジーに口止めされてたっけな。これは秘密ににしとくとよ、お前は謎のままだ。


だから、お前が何が好きで、ガールフレンドがいるのかとか、普通の人間っぽいことが知りたいんだ。だって俺たち、普通の人間だから、普通人間のアランを見たいんだ。」


アランは無言で店の中の空間に視線を彷徨うわせて、何か迷っているようだった。


彼は、おもむろに口を開いた。

「僕は過去を振り返らないから、本当は話したくないんだけど。でも知りたいなら、少し話そうかな。君の胸の内だけのシークレットにしてくれる?」

「またシークレットか。カイルにも、お前の姉貴にも、みんなに口止めされていて、何だそれは?

でも、わかった。秘密にするよ。」


「僕はね、実はね、アンジーの影武者だったんだ。アンジーの作品の一部、楽曲の一部。

彼女の過去の仕事の半分は僕がやっていたんだ、実は。彼女の名の下のゴーストだったのさ。」


俺は驚きで、鳥肌が立った。

「えっ、何だって?」

「他言したら、殺すよ。本気だ。これはトップシークレット。」

彼は謎めいた微笑みを浮かべた。


俺は、大衝撃の反応で、大きな声で笑った。笑いはしばらく止まらなかった。

店のウェイトレスが、こちらを振り返って見た。


「アランは、お前はガチで、ファンタジーだな。ぶっ飛んだ。でも、そういう話、信じてもいい。」


アランは俺を見つめて続ける。

「僕たちは、いつも一緒。二人で一つ。そして深く愛し合っていたんだ。メンタルにね。

二人でアンジーという名の成功を作ったんだ。そういうブランドをさ。


でもそれは僕自身ではなかった。それは自分を隠して彼女のために成し遂げたことだ。

でも、彼女と離れてやっていけるか自信がなかった。だって、アンジーは完ぺきに美しい、外見だけでなく、すべてが。そして彼女は僕を守ってくれた。そう、あの頃は、僕と彼女の境目がなかった。」


アランは夢を見ているように語り続けた。

「そしてさ、限界が来た。というか、変わらなくてはいけないと思った。僕は、彼女と別れることにした。まあ、ある意味で過去の世界で僕は自殺した。アンジーのいない世界、自分の世界を創ろうと、そう決めたから。」


俺は語られるアランのファンタジーに酔っていた。ありえない、リアルな話。

確かに、アランはアンジーに外見は似ているが、アランは彼女とは違う。

それは俺たちがよく知っている。イルミナの音楽は全く違う。


俺はアランを見つめていった。

「話してくれて、ありがとう。なぜお前がそういうやつなのか少しわかった。

それでさ、お前の抜けたあと、アンジーは一人で大丈夫なのか?」


「カイルがいるから。彼が来たとき、僕は時期だと思ったんだ。これ君だけに話した、秘密だよ。

次は、デービッドの番だ。」

「分かった。で、俺の番って、何のこと?」

「姉のこと。どう思ってるのさ?」


「ああ、そのことか?実は、お前に言うのも変だが、人生で初めてときめいたんだ。何故かわからないが、俺の体中の血液が高速で駆け巡った。」


アランは怪訝な視線を返した。

「えっ、君はイケメンのもて男で、ガールフレンドだって、次々変わるし、女に不自由しないのに。

姉はやめといた方がいいよ。」

「カイルがいるから?あいつも見直したぜ。ただのやわなやつだと思っていたんだが。」


アランは俺を見て、涙を流しそうな顔をしていた。

「だめだよ。アンジーは。」

「どうしてだ?そういわれると余計気持ちが高まるぜ。」

「アンジーは、一人の男を愛せないから。」

アランのブルーの瞳は大きく見開かれていた。


俺はため息をついて言った。

「そうだよな。何人も恋人が現れるだろうし、セレブクイーンだもんな。」


アランは言った。

「理由は、、、僕がデービッドを好きだからだよ。いや、僕はストレートだぜ。どう、説明しよう?

僕は君を彼女に渡したくない。君は僕と同じ世界で生きてほしい。」


彼の大きな目が潤んでいた。

俺は尋ねた。

「アラン、、、、なぜだ、なぜそんな顔をするんだよ?」


アランは涙をぬぐった。

「彼女は彼女の世界いてほしくて、僕は僕の世界を守りたいという意味だ。、、、何か僕、すごくパニックなんだけど。よく分からないけど。」


俺は彼の流れる涙を見ながら言った。

「どうして?、、、、俺はお前が実際好きで、リスペクトしてるけど、これは俺の気持ちの問題で、お前とは関係ないはずだぜ。」

この点に関しては、アランには譲れないと思った。


ウェイトレスがテーブルにアイスクリームの皿を置いた。

「サービスよ、よかったらどうぞ。」


俺は彼女の微笑んでいる顔を仰ぎ目て、言った。

「ありがとう。まだ、いて大丈夫?」

彼女は、優しく頷いて、奥へ行った。


アイスクリームをつつきながら俺はアランに言った。

「ところでお前、女も作らなくて、セックスはどう処理しているんだ?」


アランはいつもの謎めいた微笑みを浮かべた。

「これも言いたくないな。でも答えないとLGBT扱いするんだろ?でも、、、君は軽蔑するかもね。」

「ゲイでなければ、何だ?」


アランは恥ずかしそうに微笑んで言った。

「高級コールガールだよ。無難に。自分を確立するまでは、恋人は作らない。」


「へえ、ガチか?軽蔑はしないけど、それでいいのか?」

「あとくされないし。僕の心を盗まれないからだ。」

アランはそう言い放った。


俺はまた笑った。

「アラン、お前のことをいろいろ知って、また面白くなってきた。

でもアンジーの話は別だ。俺の気持ちだぜ。お前に口出されることじゃない。」


アランは真剣な目で俺を見つめた。

「じゃ、最低でも、僕に約束してくれよ。好きになるのは自由だが、手を出さないでくれ。それだけ約束してほしい。」


俺が続ける。

「アンジーは一人の男を愛せないって、カイルはどうなんだ。」

「彼はね、いつもその問いと戦ってるよ。彼のためにも、やめてくれよな。カイルは親友だ。

彼は頑張ってるんだから、ヤジ入れないでくれよ。お願いだ。」


なんか、彼の言いたいことが少しわかってきた。

「つまり、アラン、君の世界のバランスを崩すなってこと?」


「ビンゴ!その通り。この肉体があると、何かこんがらがってくるけど、音楽のこと考えると、創作のこと考えると、僕の世界を守らなくてはならない。感情や、欲情や、不安や、心配で混乱したくない。だからだよ。」


「わかるような、よくわからないような、、、オーケイ、彼女は憧れのクイーンにしとく。わかった。」

「ありがとう。君を信頼してる、デービッド。」


アランは、アイスクリームを食べきり、スプーンを皿の中に置いた。


彼の、骨ばった長い白い手を見ながら、俺は言った。。

「俺もお前を信頼してる。だからな、体気をつけろよ。お前馬鹿だからな。死ぬなよな。そろそろ帰ろうか?」

「うん。遅くなったね。でもね、もし何かあっても、僕は絶対病院へは行かないから。たとえアレックスにでも見てもらわないから。それだけ言っとく。」


「そうか、俺も病院とか注射は大嫌いだ。じゃ、自分で身を守れよ。」

「うん。」


ウェイトレスに、デザートの礼を言って店を出た。彼女はいつものさわやかな微笑みで送ってくれた。


どちらとはなしに、俺たちは少年の様に肩を組みあって歩いた。アランを弟のように感じた。


満月の夜だった。

月明かりが人けのない通りを青く映し出していた。

アランもその光を浴びて、ほのかに青く輝いて見えた。


「アラン、俺な、小さいとき、双子の弟がいて、湖におぼれて死んだんだ。それ以来、俺は弟とは、俺の心の中で一緒に生きてきた。いつも彼と対話してる。あの歌、アレックスへのバラード、あれ、俺を泣かせたぜ。」

この話は一度も人に話したことはなかった。


「そうなんだ?でも反面、君は弟を失った代償を探して、愛の遍歴しているのか。つまり、愛する片割れを探しているんだね?」

「そうかもしれない、その一片をお前にも感じてるし、アンジーにも感じたってことさ。」


「僕は、姉のシャドーだった。過去のことさ。我が道を行く。僕の世界を創る。」

アランは自分の決意に念を押すように、繰り返した。


「わかったよ、話してよかったよ。俺も一緒に行くよ。そう決めたら、なんか気持ちが楽になった。お前はまた魔法の粉をかけて、俺をやる気にさせやがったな。」

「それは僕じゃない。アンジーだ。」


彼女の魔力がまだ続いているのだろうか?


アランは立ち止まって、俺を正面から見据えて言った。

「デービッド、実は僕、、、実は、、本当のところは、姉を愛してるから取られたくない、知ってるやつにとられたくない。


それと、僕が君を好きな気持ちと、アンジーと愛してる気持ちを分けておきたい。

そうしないとバランスが崩れて、きっと狂ってしまうから。」


「わかったよ、アラン。俺の弟の立ち位置とお前のアンジーの立ち位置、似てるのかもしれないな。

冒されたくない聖域だよな。分かったから、もう何も言うな。俺たちは気楽な仲でいようぜ。」

「うん。」


月明かりにつかりながら、つかの間の幸せを感じた。

お互いを理解した安堵感。心が素直に寄り添う温かさ。


アランは不思議なやつだ。彼は嘘を言わない。いつも純粋で真実を語る。彼の歌のように。

今いるこの時、この世界、これが魔法であるなら解けてほしくない。


この世界を選んでしまった自分を信じたいと思った。


俺はアランの肩を強く握った。



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