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金平糖の箱の中  作者: 由季
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「夕霧、それ、本気で言ってるの?」


 東雲は困ったような顔をしながら夕霧の顔を覗き込んだ。


「あんた、客に足抜けするなんて言ったら……」


 部屋の障子をチラチラと見ながら小声で喋る。夕霧は月を見つめながら大丈夫、とはっきり答える。客が楼主に伝える危険性だとか、そんなのはなんとも思っていない様子に、東雲はすっかり気が抜けたようにヘタヘタと肩を落とした。


「心配するだけ無駄だな」


 火皿に慣れたように煙草の葉を入れる。大きな口からハアと煙を吐き出すと、呆れたように笑った。


「もう着いて行くって決めちまったし……失敗しても共倒れだ」


 こないだのも、道連れにしてやりたかったんだがなぁと煙が目にしみたように目を細め、窓の外に煙を吐く。その煙は、囚われている夕霧たちとは反対にふわふわと浮いて空に消えていった。


「……外でたら懲らしめてやろう」

「……どうやって?」


 悪戯に微笑む東雲に、夕霧もまた悪い顔をして微笑んだ。


「家の障子も全部破ってやろう」

「なんだぁ!ちいせえなぁ」

「いいだろう、張り替えるの面倒じゃねえか」

「もっとこう……あるだろう、いいのが」


 ケラケラと笑う東雲は、なんだか楽しそうであった。フウと一息煙を吐いた後、何かを閃いたように東雲は目を少し開いた。


「……ああ、簪、とっときゃよかったなあ」

「それまたどうして」


 そう夕霧が問うと、吸い口を口につけながらニタリと笑い流し目で夕霧を見る。

 その妖しい目に、夕霧は柄にもなくドキリとした。


「あれに髪を絡ませて、家の前にぶっさしときゃあ、あいつ、東雲の呪いだァなんつって、腰抜かすだろうよ」


 笑う時に、形のいい歯がカチリと吸い口に当たる。その悪質な提案に、夕霧は感心しながらもまた、ニタリと小さい口を微笑ませた。


「さすが東雲だァな。そんなの、思いつかなかった」


 すい口から口を話し、夕霧の方を向く。形のいい眉を釣り上げ、口をすぼめる。


「なんだ、人を性格の悪い女みたいに言いやがって」

「そうじゃないか」


 なんだと、と東雲はコツンと煙管で夕霧の頭を小突いた。ひとしきり二人で笑いあった後、何も言わずに空を眺める。


「……あいつのホクロの数も、どこがイイかも分かった。どう言やぁ喜ぶのかも分かる」


 火皿からは、ジリ、と葉の燻る音がした。客のだとあんなに臭く感じるのに、東雲のふわりと香る煙は東雲の魅力を引き立てるものであった。


「二人の将来誓ってさァ……でも、家の場所すら分かんねえや」


 バカみてえだな、と微笑んで、また煙管を吸う。東雲はぎこちなくも笑顔であったが、キラリと光る煙管が、代わりに泣いているように見えた。


「東雲」

「なんだい」


 そう夕霧に目をやると、いつもの可愛らしい夕霧とは違い月夜に、照らされる夕霧の顔はどこか男らしいものであった。


 夕霧の黒目に、星が煌く。


「成功させる。大丈夫」


 そんな夕霧に、すこし頬を赤らめる東雲であったがそんな姿を見せるわけにはいかないと、そっぽを向いた。


「成功させなきゃ死ぬんだ。当たり前だ」


 そうぶっきらぼうにいうと、朝霧は、死にたくないからねと笑った。


「……ずるいことをしちまった。朝霧と一緒に見られたくないといいながら、説得に朝霧の名をだしちまった」


 情けない、と夕霧は俯く。その感情は、本当に情けなさからか、朝霧には叶わないという悔しさからか。


「なぁに……遊女なら、“客”に、手練手管を使うのは当たり前さ」


 そうだろう、と東雲はあっけらかんと言った。金平糖の旦那、ではなく、客に、と強調させたのは、東雲の優しさだった。ここ、遊郭にある気持ちを切り離させるような言葉は、一見きついようであったが、夕霧に纏わりつく紐を切るような、気持ちのいい言葉だった。


 月夜に照らされ、煙の中に二人。


「……そうだな」


 まるで、空の雲の中のようだと、二人、目に星をきらめかせながら、穏やかに微笑むのであった。

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