――太陽と月の教団の聖典(抜粋要約)――
それは神の気まぐれだった。
混沌とした世界に、まず空を創った。そして、三人の娘にそれぞれ太陽と月と星を司らせた。
次に海を創り、息を吹きかけて波を起こした。しかし息が強すぎたようで、思っていたよりも大きな波になった。
最後に陸地を創った。偶然にも東西南北に離れて、丸く大きな陸地ができた。
波の高い海によって隔てられた四つの大陸は舟で往来できないと分かった神は、最後に四つの大陸をつなぐ細長い陸地を創った。
すべてが終わって、神はそれらの土地を自らの代わりに治める者らを創ることにした。
「余が創った新たな世界に行きたい者はいるか?」
神の呼びかけに、猿、犬、猫、熊、そして猪が応じた。
神はそれら五種の獣に自らを模した身体を与えて、猿人族、犬人族、猫人族、熊人族、猪人族と呼ばれる五種族を創り、新たな土地のあちこちにまんべんなく配置していった。
神の御名の一つをとって「イシュタルの五種族」と呼ばれるこれらの種族は、「そなたたちは、この土地でともに生き、ともに喜び、ともに悲しみ、そしてともに滅びるのだ」との神のお言葉を守り、協力しながら土地を開発していったが、未熟な五種族は思うように開発を進めることができなかった。
そこで、神は、イシュタルの五種族に魔法を与えた。
人々は、魔法を使って、水路を作り、畑を耕し、石を掘り、木材を切り出し、そして街を創った。
人々は、次第に四つの丸い大陸に集まり生活をするようになり、多くの街が創られたが、四つの大陸をつなぐ細長い十字形の土地からは人々が去って行き寂れていった。
街が大きくなってくると、一人一人がするべき仕事も減ってきて、魔法を使うとあっという間に終わらせることができるようになった。
街での快適な暮らしで人々は時間を持て余すようになり、次第に、享楽を追い求めるようになった。
勤労を怠り、節度を守らず、酒色におぼれ、暴力がはびこり、貧富の差が広がっていった。
自らお創りになられた世界がすさんでいくさまを見た神は嘆かれ、星を司る神子のところにお隠れになられた。すると、昼夜の別がなくなり、一日中、星が輝く夜になってしまい、人々はますます怠惰な生活を続けるようになってしまった。
そんな世界の様子に、太陽を司る神子と月を司る神子は驚き、まず、人々から魔法を取り上げ、人々が自らの体を使って働くように諭した。自らが働かなければ、食料も酒も衣服も何もかも作り出すことができない事態に、人々も目を覚まし、一生懸命、働くようになった。
その様子を見た神は安堵し、元の世界に戻られた。
再び、太陽と月が昼夜を分かち、規則正しく勤労と睡眠が繰り返される日々が戻った。




