5.果てなき修行の末に
マイペースに書いていますw
──修行を始めて数ヶ月が経った。
今でも変わらず基礎トレをこなし、ステータスを上昇させた。
と言っても、多分、周りの人達の初期ステとさほど変わらないだろう。
それ程までに、元々の俺のステータスが低かった。
ペルーシャの修行はスパルタで、雑魚魔物に殺られないように、強くなる為にと。
続けてきたが、今更ながらに修行を辞められるなら、今すぐにでも辞めたい……。
師匠をグレイズに変えてくれるだけでも。
服は汚れ、疲れ果てた護はテーブルに突っ伏し、身体を休めていた。
「おーい。クロ、生きてる?」
「もう、やだ……。魔物に殺られる前に、ペルーシャに殺される」
「何、人聞きの悪い事言ってるにゃ。あんなのは序の口にゃ」
「はは、苦労してるみたいですね。私も思い出しますよ。幼い頃に行なっていたお師匠との修行を……」
そう言いながら、徐々に顔を青く染めていくグレイズ。
あの時のグレイズの複雑な表情は、これを意味していたんだな、と修行を開始したその日に分かった。
筋トレに打ち込みの回数、走る距離。
どれを取っても、異常な量をやらされて、このステータス。
この先には、能力の開花の為の修行も残されている。
俺の身体は耐えられるのだろうか……。
ハナビに至っては、既に数個ほど技を使えるようなったみたいだ。
──羨ましい。
護は突っ伏してた顔を上げ、
「なぁ、ハナビ。ハナビってどんな事やってんだ?」
「うんとねぇー。クロに比べちゃ量は少ないけど、同じ事やってるよ。後は聴覚強化を図ったりかな。あっ! 後は音や振動に関する勉強? 的な事も」
「何それ……狡い。俺も能力欲しい、早く。もう、基礎トレしたくない」
「語彙力……。本当に大丈夫? 疲れ過ぎて語彙力失ってるよ?」
急に席を立ち──
「駄目に決まってるだろ! もう駄目だ──俺はもう、寝ます! 疲れた……」
「そうした方が良いよ。明日も修行あるし」
「そうにゃ。よく休むと良いにゃ」
──護は疲れ切った足取りで、部屋へと向かった。
獣人族が多く住むと言われる、キャミティアを囲う森『獣王の森』の中。
鳥達が空に飛び立ち朝から騒がしく、遠くから凄まじい足音と叫び声が入交じり響き渡る。
「あぁぁぁぁ!!」
「ほらっ! もっとテキパキ動くにゃ。じゃないと魔物に食われるにゃ」
「どちくしょーが! 俺の本気見したるわーー!!」
やけくそになり、地を駆け修行をこなす。
獣王の森に生息する一メートルを優に超える、ゴリラに似た姿にずんぐりとした体型。
肉食で尚且つ気性も荒く、縄張り意識も強い事で有名であり、毛が緑色であることから『グリーンバック』という名が付けられた。
そんな魔物が手に棍棒を持ち、数体が護を仕留めようと追っかけていた。
俺の修行とはいえ、安全な所から指示だけ出してずりぃーな。
いっその事、ペルーシャが上に立つ木にでも、コイツら連れて逃げてやろうか。
走る足を止め、踵を返していた護は一度ペルーシャを見上げ、グリーンバックを見据える。
今日の修行はコイツらから逃げる事ではなく、グリーンバックを始末すること。
それが課せられた修行内容である。
本来初期ステで挑むような魔物ではないが、能力の開花を基礎トレと同時並行で行う為に、この森最弱の魔物グリーンバックが選ばれた。
護がこの修行で開花させようとしている能力。
それは『肉体強化』である。
ペルーシャが月光蛾を倒すのに使った、能力でもある。
本来生き物にはリミッターというものが備わっており、一〇〇パーセントの力が出せないようになっているのだが。
そのリミッターを外す事で、常人を遥かに超えた力を手にできる代わりに、力加減、肉体の強度によっては、自身を破壊しかねない。
諸刃の剣ではあるが、超強力な力が手に入る。
その第一段階として、リミッターを外す感覚をこの戦いで身に付けようって事らしい。
口頭でペルーシャに肉体強化の説明を受けたが、どうも擬音ばかりで説明になっておらず、訳が分からなかった。
「──掛かって来いやぁ!」
身構えた護は振り下ろされた棍棒を躱し、地を蹴り宙に浮くと、グリーンバックの頬を蹴り飛ばし──更に高く飛び、宙を舞い薙ぎ払われた棍棒を躱す。
棍棒はグリーンバックの顔面に叩きつけられ、落下と共に踵落としをお見舞いした。
着地の刹那、振り上げる様に薙ぎ払われた棍棒に対して身を守るがそのまま吹き飛ばされ、バキバキと木々を次々に折り倒し。
「──ぐふっ!」
勢い失せた護は木に叩きつけられ、地に落ちる。
やべぇー、マジで死ぬ……。
能力一つ開花させるのに、こんなに大変なのかよ。
これが第一段階とか──辛い。
極限状態を通り越してそのまま死ぬぞ、これは。
「死にたくなければさっさと、感覚を掴むにゃ。極限状態の時と同じ脳内麻薬どぱどぱにゃ!」
「何だよそれっ! 意味分からん!!」
最後の力を振り絞り、怒鳴り声を上げる。
どこもかしこも痛いし、マジで体が動かない。
──あぁ〜、足音がどんどん大きく聞こえてくるわ。
このまま死ぬのか? 俺は。
──てか、何でこんな事やってんだっけ?
こんな事なら、自宅に居た時みたいに楽して過ごしたい。
グリーンバックは仰向けに倒れる護を両手で握り持ち上げ、大口を開ける。
何だろ、この感覚……。
身体がビシビシと、悲鳴を上げてるにも関わらず、痛みすら感じない。
相当な握力で握られてる筈なのに。
頭がボーっというかパァーッと晴れやかなそんな感じが。
もしかしてこれが、分泌されてるって事なのか?
俺の頭から食おうとする、グリーンバックの動作が遅く見える。
いい加減離せってんだよ、クソ猿! 暑苦しいわっ!!
「────ッ!!」
力無き身体の筈が、思わぬ力を発揮し。
自身を掴む手を弾いて、グリーンバックの顎に蹴りがめり込む。
「よくやったにゃ! それがリミッターを外すって事にゃ」
「これが俺の能力──『肉体強化』か」
目に見える程に濃い気を薄く纏った身体をまじまじと見て、小さく呟いた。
「後はグリーンバックを仕留めるだけにゃ」
仲間をやられた残りのグリーンバックは怒り狂い、興奮した事で胸を叩き、威嚇する。
襲い掛かろうとするグリーンバックに向かっていざ一歩と、踏み込むが。
「──痛ってぇぇぇぇ!! 俺の……俺の足がぁぁぁぁ!!」
「ありゃりゃ。これはもう、戦いにならなそうにゃ」
木の上に居たペルーシャが地に降り、護の前に立った。
「"肉体強化"にゃ!!」
──能力を発動したペルーシャが、次々とグリーンバックを薙ぎ倒していき。
遂にはグリーンバックの亡骸で、山を築いた。
「これを食うにゃ! そうすれば忽ちどんな傷も怪我も治るにゃ」
そう言い、痛みに転げ回る護に近寄ると、無理矢理口に何かを突っ込んだ。
「──うぐっ。ゲホッ、ゲホッ──俺に何食わせたんだよ……」
「どうにゃ? 痛みは引いたかにゃ?」
「……本当だ。さっきまでの痛みが嘘みたいに消えたぞ」
ウエストバッグから一つの丸い緑の石を取り出し、護に見せ。
「これにゃ! これは『回復石・改』と言って、どんな怪我でも治せる優れものにゃ! 回復石より少しばかり値が張っちゃうけどにゃ」
ペルーシャは苦笑をした。
「へぇー。確かに俺の持ってる回復石より、色が濃いな」
「同じアイテムにも色々あるにゃ。例えば、この回復石のように、『回復石』は軽い怪我なら治せて、『回復石・改』は骨折とか重度の怪我でも治せるにゃ。更にその上の『真・回復石』なら失った手足や内臓だって、完璧に治癒するにゃ! まぁ、その分末端の冒険者じゃ手に入らない程、超高いにゃ」
「興味本位なんだけど、幾らぐらいすんの?」
「回復石で一〇〇コン、回復石・改で五〇〇コン、真・回復石で十万コンにゃ」
「マジかっ! くそ高ぇーじゃん。二つと掛け離れて」
「そうにゃ。だから無駄遣いは良くないのにゃ」
「無駄遣いどうこうの前に、買えんわっ!」
「そろそろ休憩は終わりにゃ。第二段階に入るとするにゃ」
すっかり忘れてたけど、まだ能力の修行やるのね。
回復石とかいうアイテムがこの世界にある限り、今日の修行は終わらないんだろうな。
まぁ、頑張りますけどね。
レジェンド装備を探すって、自分で決めた事だし、その為なら。
場所を移し、キャミティアの前に戻った護とペルーシャ。
肉体強化の修行第二段階にして、現状最終段階でもある修行に取り組んだ。
内容としては単純で、感覚を掴んだまでは良いが、それが自分の思い通りに発動出来なければ意味がない。
よって、自由自在に肉体強化を発動出来るようにする修行。
反復練習みたいな事をしていた。
肉体強化を発動しては解いて、間隔をあけて更にもう一度、肉体強化を発動する。
その繰り返しによって、遂には肉体強化を自在に発動出来る様になった。
後の問題はと言うと──
「中々に覚えは良いみたいだにゃ。結果はまずまずと言ったところにゃ。初めはどうなる事かと思っていたにゃ。軽い基礎トレで直ぐにへばるし、グリーンバックとの戦いでは食われそうになるしにゃぁ……」
もうペルーシャの基準が分からん。
あれで序の口、軽いだの……あんな修行を毎日やらされて、ここまできたグレイズに対して尊敬しかないわ。
修行で俺が死ななかったのが、不思議でならない。
「後は限度だけだにゃ。今は発動出来るだけと言ってもいい程、ギリギリの肉体にゃ。より洗練された肉体を作り強くしていく事で、更なる肉体強化の力に耐えうるにゃ。基礎トレは怠っちゃ駄目にゃ。一度クロネコ的にはオーバーな力を発揮したにゃ。だから加減はしやすいと思うにゃ? そのイメージを忘れずに発動すれば、さっきみたいに自身の肉体を破壊せずに肉体強化が使えるにゃ」
「分かった……」
初めて発動した時は、偶々って言ってもいいしな。
イメージと言ってもなんかこー雷? 静電気? が身体中に奔る感覚というか、バリバリっとね。
──何とも言い表わしづらい。
「あっ! クロは修行終わり?」
後から戻ってきたハナビとグレイズ。
「おう! 死にそうになったけど、どうにか能力を開花させたぜ」
「本当! ねーねー、どんなやつ?」
新しい玩具を与えられた子供の様に目をキラキラと、輝かせ迫ってくる。
「肉体強化だな。まだ、加減が出来ないからちと、危ないけど」
主に俺の身体が。
「めっちゃ肉体派じゃん! 流石"格闘"って感じで。俺っちは『奮い立つ魂』って能力を開花させたんだ。んで、『探知』と『衝撃波』の二つの技が使えるようになった」
「へぇー。──どんな事が出来んだそれ?」
「"探知"は索敵とかに使えるね。三六〇度数十メートルの範囲で発動出来る。"衝撃波"は今使える唯一の攻撃系で、手を叩いたり指パッチンとかをして、巨大な音を出せば出す程強力な衝撃を放って攻撃すんの。やって見せようか?」
「おぉ、見せてくれ」
「じゃぁ、いくよ!?」
ハナビがバチンと勢い良く両手を叩くと、凄まじい爆音と突風が巻き起こり、数本の木々を折り倒した。
「凄っ! 威力絶大だな!」
「へへ。頑張って勉強した甲斐があったよ」
「これでレジェンド装備探しが出来るってもんだ」
「二人はレジェンド装備探してるのかにゃ?」
「そうだけど?」
「そうでしたか。レジェンド装備について知っていますか?」
「まぁ、すげー強いってぐらい? 同等の装備がないと戦いにならないとか、その一つ下位の装備を全身に身に付けた手練れ数十から数百でようやく勝利の兆しが微々たるものだけど見えるとか。そんな噂話程度なら」
「そうですか……。レジェンド装備──これは只の装備ではありません。道具自体が持ち主を選び、そぐわないと持ち主に副作用として、拒絶反応を起こします。道具は道具でも、呪具と言った方がいいでしょう。強大な力を欲した権力者や冒険者はレジェンド装備が眠る四八の迷宮に潜り、尽くその中で死んでしまいました。無事に迷宮を出れたものは数少ないのです。迷宮の中にはこの地に生息する魔物と違い、未知の魔物達が多く住み着き、侵入者に問答無用で攻撃してきます」
「やけに詳しいな」
「もちろんです。私も一度入りましたから……」
ペルーシャは何処か重たい雰囲気を醸し出し、俯いていた。
「あの……迷宮にはどうしても行くのかにゃ?」
「勿論だろ!? その為に俺は修行を頑張ってきたんだ。それに冒険者なら、そんな浪漫のある所に行かなくてどうするよ?」
「そ、そうかにゃ……一つだけ言っとくにゃ。──無理はしないでほしいにゃ」
「──? まぁ、そうするよ」
今出来る限りの修行を更に行い、迷宮での冒険に思いを奔らせ胸躍らせた。
──翌日。
ペルーシャとグレイズに別れとお礼を述べ、護達は迷宮目指して旅立つ。
ご愛読ありがとうございます!
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