4.放浪するブックマン
居眠りしてたら、投稿の時間過ぎてた……w
夜も深くなりかけた頃。
馬車に揺られ、護達は少女の営む宿屋へと向かっていた。
「ウチの名前は『ペルーシャ』っていうにゃ。見ての通り、獣人族にゃ」
「悪いな、金が無いのに泊めてもらって」
「いいにゃ、いいにゃ。最近は森に強力な魔物が住み着くは、変な遠吠えが聞こえるはで客足が減って、今では閑古鳥が鳴いてるにゃ。好きなだけ泊まってくれて構わないにゃ」
「良かったよ。今夜野宿する羽目になるかと思った……」
「あぁ、全くだ」
長らく馬車を走らせると、森の入り口に着き。
護達は馬車から降り、森の中へと入って行く。
森の中は月明かりが遮断された事でより一層暗く、闇夜に慣れた目でも上手く足元すら見えない。
ペルーシャはバッグに取り付けられたランプを取り外し、火をくべ。
「足元気おつけるにゃ。魔物に襲われた時の為に、一塊で移動するにゃ」
「こ怖い……。やっぱり帰ろうよ、クロ」
「今更何言ってんだよ。それに怖がりすぎだ。俺からもっと離れろ」
「そ、そんな事言ったって、無理だよ。──何か出そうで」
「安心するにゃ! もし、魔物が出たらウチが退治してあげるにゃ」
フラグを立てに立てまくりやがって。
本当に魔物が出てきたらどうすんだよ。
──ほら、言わんこっちゃない。
日本で見るより数十倍にも巨大化したもの。
殆ど月明かりの遮断された暗闇の中で、唯一と言ってもいいこの一点のランプの光を求め。
四枚の羽根に、月の模様が描かれた蛾型の昆虫型魔物『月光蛾』が飛来した。
「うわっ! 気持ち悪っ!!」
「確かにこんなに大きいと、キショいな」
「まぁまぁ、落ち着くにゃ」
「冷静だな、ペルーシャ」
「もう、慣れてるにゃ。昆虫型の魔物は夜になると、光を求めて飛来してくるのが殆どだにゃ。因みに、こいつの鱗粉には気おつけるにゃ。一呼吸で相手を痺れされるにゃ」
ペルーシャは手に持っていたランプを差し出し、
「これ持っててほしいにゃ」
「分かった」
護がランプを受け取り、ペルーシャは月光蛾に向かって身構える。
──すると、空気の流れが変わり、ペルーシャを包み込む様に流れ出し。
目に見える程に濃い気を薄く纏い、ビキビキと、全身に力が入る。
宙に舞うとペルーシャは、月光蛾を蹴りつけ吹き飛ばした。
「ペルーシャ──あんた一体何者だよ……」
思わずぼそりと、護は呟いた。
外灯に挟まれ整備された煉瓦の道を進むと、大樹に設計された木造の建物が見え。
階段を登りきり、ペルーシャの経営する宿屋『キャミティア』に着いた。
「ゆっくりすると良いにゃ」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「なぁ、ペルーシャ。何者なんだ? あんた」
「にゃ? ウチはしがない店主にゃ。二人とも紅茶は飲むかにゃ?」
「あ、あぁ、貰うよ」
「俺っちも!」
「分かったにゃ。椅子に座って待ってるにゃ」
護とハナビは椅子に座り。
ティーカップとティーポットの置かれたお盆を手に、ペルーシャが運んでくる。
テーブルに置くと各自に紅茶を注ぎ、配った。
紅茶に口を付けず、
「さっき魔物を倒したの──あれって、ジャンルによる能力だろ?」
ペルーシャは紅茶を啜るのを止め、ティーカップをテーブルに置く。
「そうにゃ。ウチも冒険者だからそれくらい普通にゃ」
「やっぱりか……」
俺達の居た世界に獣人族が居ないのは、言うまでもないが。
ハッピーの言ってた通り、この世界の住人にもジャンル持ちが居たのか。
「ジャンル、聞いてもいいか?」
「ウチは『格闘』にゃ。それがどうかしたのかにゃ?」
「もし良かったらでいいんだが、ジャンルについて教えてほしいんだ」
「──? 別に良いけどにゃ。どうしてにゃ?」
「実は、俺っち達ジャンル持ちだけど、能力が使えなくて……」
「そういう事かにゃ。何にゃら、修行でもつけてあげようかにゃ? 丁度、うちに一人弟子も居ることだし」
「本当か!? よろしく頼む!」
「任せるにゃ! っても、今は弟子が居ないから、依頼が先にゃ」
「あぁ! 人探しって、ペルーシャさんの弟子の事だったんだ」
「そうにゃ! あの子はよく一人で出歩いては、行方が分からなくなるにゃ……」
何て奴だ……。
迷子になるくらいなら、一人で出歩くのを辞めれば良いものを。
まぁ、依頼は依頼だし、お金も宿泊先まで提供されたんだ。
ちゃんと依頼はこなさなきゃな。
今でも忘れはしない、あの日の事。
全国的なeスポーツ大会。
その日出場した大会は、格闘ゲームだった。
いつもの様に、順調に勝利を収めていき、遂に決勝戦へと進んだ。
対戦相手は『焔舞響鬼』。
どの大会でも見た事のない、人物だった。
それもそのはず──彼はこの日大会に出たのが初めてだったのだから。
ビギナーズラックでここまで来れたのだろう、と高を括り、今まで通りにやれば勝てると思っていた。
それが間違えだった。
三点先取の格闘ゲームのルールで、俺は二点を取り、誰しもがストレート勝ちで終わると思っていただろう。
──そう、誰しもが、いや、俺自身もそう思っていのだが。
思う様な結果にはならなかった。
三試合目は響鬼が勝利し、観客も驚きを隠せず、俺は尚更だった。
そのまま響鬼は優勝し、思わぬ結果に観客は湧き立ち、ショックを隠せずに只、その時は過ぎていく。
自分も天狗だったのだろう。
誰にも負ける事は無いという自信は折れ、敗退と共に、ゲーム大会に顔を出す事も無くなった。
「あぁ〜、最悪。あん時の夢見るとか……」
eワールドに来て初めての夜を明かした。
借りた部屋から出ると、共同エリアへと足を運ぶ。
「おはようにゃ! 準備したら早速、弟子を探しに行くにゃ」
「そういえば、弟子の名前って何ていうの?」
「『グレイズ』にゃ。いっつも本ばっかり読んでるから、周りからは"ブックマン"とか呼ばれてるにゃ。──はぁ〜、本を読むのは良いけど、読みながら歩くのはどうにかしてほしいにゃ。そのせいで今も……」
あぁ〜、成る程。
それで迷子になってんのか。
マジで何やってんだよ、そいつ……。
運ばれてきたペルーシャの作った朝食を食べ、
「うまっ!!」
「確かにコレは美味いわ! 流石は店主だな」
「はは、嬉しいにゃ。って言っても、コックはウチじゃなくて、グレイズなんだけどにゃ。ウチの作る料理より、何倍も美味しいにゃ? グライズのご飯は」
「へぇー、それは食ってみたいなぁ」
「因みにそいつも冒険者なんだろ?」
「そうにゃ! 中々強い子にゃ」
「俺達の兄弟子になるって事だよな。いずれは手合わせしたいものだ」
「そのうちする事になると思うにゃ。ご飯も食べたし、さっさと出掛けるにゃ」
「行き先は分かってるの?」
「う〜ん……何となくなら分かってるにゃ。多分、オープナーの何処かに居るにゃ」
「だからオープナーの酒場に依頼しに来てたのか」
「そいう事にゃ。じゃ、出発するにゃ」
バラバラに探した方が手取り早いと、各々各自が違う場所を探す事に。
見つけ次第、冒険者デバイスにて連絡を取る話になっている。
フレンド登録さえしていれば、誰とでも何処に居ても、連絡が出来るとは便利な物だ。
感心しながらしらみつぶしに探していると、いつになく賑やか場所が。
それも一箇所のみ。
何があったら彼処までの騒ぎを起こせるのか、甚だ疑問ではある。
──気になるな。俺もちょっくら覗いてくるかな。
人集りを掻き分け、先頭に顔を出すとそこには二人組の男と天パに眼鏡。
本に視線を落としたままの男が、野次馬に囲まれていた。
「おい、お前! 俺達にぶつかっておいて、謝りもなしか!?」
「おぉー、痛ぇな、にぃちゃん。俺達が何者か知っててやったなら、大したものだ」
「へぇ? 何の事です? 私は只、本を読んでただけですが?」
あっ! もしかして、あの人が……本ばかり読んでるって言ってたし。
「舐めてんのかっ!! 俺達は天下の『常闇の騎士団』だぞ!」
「あーあ、終わったな。あの兄ちゃん」
「おっちゃん、彼奴等の事知ってんの?」
「知らんのか、あんた。ここいらじゃ有名な闇ギルドの一員さ、あの二人組は。確か今は内部分裂が起きそうだとか。新しいボスになろうとしてる奴と現ボスとで派閥争いが起きてるらしい? 早く闇ギルドなんか滅んでくれれば良いんだけどな。誰も手に負えなくて幅利かせてる一味さ。タチが悪い」
「へぇ〜、なんか面倒くさそうだな。関わりたくないものだ」
痺れを切らした二人組の片方が殴りつけると、眼鏡が吹き飛ぶ。
殴られた頬を痛がる素振りを見せる事なく、男は先程とはうって変わり、呑気さを微塵も見せずにギラついた目で、二人組を睨みつけた。
「おっ! なんだなんだ? やる気になったかよにぃちゃん」
「──うるせぇ」
小さく囁くと、手にしていた本を腰に付けた鞄に仕舞い、
「あ!? 聞こえねぇなっ!」
再び殴ろうとしたが拳は空を切り──困惑する二人組の背後に男は回っていた。
「うるせぇっつってんだよっ!!」
うわっ! なんだよあれ……。
動きが速いとか以前に、さっきまでの性格と全然違うじゃん。
もうあれ、二重人格だろ。
「いつのまに後ろに──ぐはっ!!」
「テメェー、よく──がはぁっ!!」
「弱いくせに絡んでくるんじゃねぇーよ! 二度となっ!!」
男は地に落ちた眼鏡を取ると、眼鏡を掛けた。
「もう終わりですか……。本の続きでも読みま」
「なぁ、あんた!」
「何ですか?」
「あんたって、名前グレイズか?」
「そうですけど、貴方は?」
「俺はクロネコ。あんたの師匠である、ペルーシャから依頼を受けてな。三人で探してたんだ」
「あぁー成る程。それは有難い。迷ってしまって、家にすら帰れなかった所で」
行動する時ぐらい、本を読むのを止めれば迷子になる事はないのに、とは言わないでおこう。
なんか面倒さそうだし、この人の性格。
ポケットにしまっていた冒険者デバイスを探りとり、ハナビとペルーシャに連絡。
合流する約束を交わした。
「──もぉ〜、何処行ってたのにゃ。昨日はずぅぅぅっと探してたにゃ!」
「すいません、お師匠。本を読んでたらいつの間にか知らない路地裏に。怖かったんですよ? 柄の悪い人達に絡まれたと思ったら、またやっちゃったみたいで。さっきだって……。道も分からないし、本がある場所はないかと彷徨った結果、図書館らしき場所に辿り着いたからそこでずっと、本を読んでました。気付いたら薄暗くなってましたね、はい」
本の虫って奴だな本当に。
この人本以外の事頭にあるのか?
「もぉ、仕方ないにゃぁ。か、わ、り、に、にゃ! クロネコとハナビにジャンルや能力の事を教える事になってるにゃ。だからグレイズにも手伝ってほしいにゃ。グレイズの弟弟子になるにゃ!」
「分かりましたよ、お師匠」
帰りの道すがら、護とハナビはグレイズと話をしていた。
「君達は何処まで知っているんですか? ジャンルや能力について」
「「全然」」
「そ、そうですか。では、まず先にジャンルについてお話ししましょう。ジャンルとはこの世界の人間にeワールドを作った遊戯神達から分け与えられた、力の片鱗。鍵とでも言うのかな? 呼び方は色々ですが、そう言ったものです。でも、ジャンルを得るには素質が無ければ無理なんです。更に言うなれば、ジャンルを手に入れたからと言って、能力を開花させるには血の滲むような修行が必要になる場合も、あります。まぁ、これは個人差ですが。お二人は冒険者と言う事なので、ジャンルはお持ちなんですよね?」
「そうだよ!」
「よろしい。能力を開花させる近道は、自身と同じジャンルを持った人に、教えを請うこと。何故そうするかというと、単純に見て学ぶ事もできるからです。勿論、体得する為にはその人の努力次第ですが。因みに私のジャンルは『レース』お二人の中にレースの方はいますか?」
「俺っちは音楽」
「俺も違うな。グレイズの師匠と同じ、格闘だ」
「そうでしたか。それならお師匠から技を盗む事が出来るやもしれませんね」
と、護にニッコリ笑いかけた。
キャミティアに着くと、早速修行に取り掛かった。
「では初めに、お二人のステータスを見せてもらっても?」
二人はポケットの中の冒険者デバイスを取り出し、グレイズに手渡した。
ステータス画面を見るグレイズの背後から、覗き込むようにして、ペルーシャも共に見ている。
「そうですね……。ハナビさんは平均ってところですねかね。SPとHPは少々高いようで。ですが、そのぉ〜──クロネコさんは……」
余りのステータスの低さに口籠もり、ペルーシャとグレイズは顔を引きつらせていた。
「分かってる。──自分でもお粗末なのは……」
そんな二人に対し、苦笑いで答える事しか出来ず。
「ままぁ、そう気を落とさずに。修行すれば嫌でもステータスだって上がりますから」
その気遣いが痛いよ……。
改めて、俺のステータスの低さを思い知らされた。
「クロネコはうちがマンツーマンで見るにゃ! ジャンルも一緒だし、何より、ハナビとグレイズの修行についていけない場合があるにゃ!!」
おぉ! それは願ったり叶ったり。
同じジャンルの人に教えてもらえるなんて。
この修行で強くなってやる!!
「そ、それはそうですが、お師匠!」
「どうしたのにゃ?」
「いや──何でもないです……」
喋る事を止めてしまい、静かに護の肩に手を置き。
何とも言えない複雑な表情を向けてきた。
その表情に対して、怪訝そうにする事しか出来ず。
グレイズの表情の意味を知る事になるのは、遅くはなかった。
ご愛読ありがとうございました。
感想、ご指摘、その為、お待ちしております!