第一話 緋色の輝き 第七章
ここ惑星フェルミサスには衛星が存在しない。つまり月が無いのだ。
夜になれば星の光と人工の光だけが闇を照らす。星明かりも確かに光源としての機能はあるが、自分達の手によって造られた光に慣れてしまった現代人は天からの授かり物だけでは生きて行けなくなったようである。
パリーン。
また一つ、サーチライトが俺の素晴らしい銃の腕の前に破壊された。光が消える瞬間、割れたガラスが空中に刹那の芸術を生み出す。綺麗だが、儚い美しさである。破壊もまた一つの芸術なのかも知れない。
俺の作り上げた芸術を見学しに来たのか、無骨なマスクを身につけた警備兵らしいのが何人も向こうから来ているようだ。敵さんの無骨なマスクの正体もたやすく見当がつく。赤外線暗視装置か光量増加型暗視装置のどちらかであろう。
実をいうと、俺のバイザーにも暗視装置はついている。原理はよく分からないが、トレーラーのコンピューターを通して画像処理をしているためらしく、すこぶる性能はいい。が、奴らの使っているものは普通に流通しているもので、それなりの欠点というものが存在する。
「……あれ? 欠点ってなんだっけ?」
俺の呟きに通信機の奥から呆れたようなため息が聞こえてきた。
『あのさ…… 仕事の最中にくだらない冗談言うの止めてくれない? バックアップとしても気が抜けるんだからさ。』
「へいへい。」
空返事をしながら銃の弾装に一発だけ弾をこめる。弾丸のない、一種の空砲だ。そして銃口に特別製のロケット弾を装着する。これで簡易グレネードランチャーの完成だ。ロケットの中には赤外線を大量に発生させる炸薬と閃光を発する炸薬をタップリといれてある。そう、暗視装置の欠点とは必要以上の光がある中では使用できない、ということだ。
さて、お仕事お仕事。
意外と間抜けた音をたててロケット弾が飛んでいく。そして集まりかけてきた観衆の前で破裂した。その時には当然、俺はバイザーの暗視装置のスイッチを切っている。
目を閉じたまま、建物に向かって走る。おおよそ目測で一五〇メートル。途中に障害物は無し。これならホントに目をつむったままでも走り抜けられる。
周囲から聞こえる視力を一時的にでも失った者達のうめき声を聞きながら一気に走る。時折、適当に撃ってる奴がいるが、そんなものに当てられるほど俺は今日は運が悪くない。
ほどなく前方に壁が迫ってくる。壁の直前で九十度方向を転じて壁沿いに入り口を探す。まだ後ろの方では爆発的な光が溢れている。こんな状況下では視覚以外の感覚に頼るしかないのだが、普通の人間は視覚に多くを頼っており一度それを失わされると簡単に混乱してしまう。
その混乱を利用して俺はたやすく内部に侵入することができた。
俺が今入ったのは例のエクセル社のバイオ研究所だ。十中八九、ここで「悪魔の囁き」を精製しているのは間違いない。そこでその精製プラントをぶっ潰しに来たのだ。
公開されているデータでは大して重要な研究を行っていないはずなのだが、ここの警備の様子を見た限りでは下手な軍事基地よりも警戒厳重である。
よほどこの会社は儲かっているらしい。こんな辺鄙な研究所にこんなに人を配置しているなんてね。それも手にしているのは最新式の銃器ばかりである。
五人ほど警備員をノックアウトさせたところで俺は一息ついた。敵さんはなんとも手厳しい。俺の姿を見た途端に発砲してくる。俺が普通の人だったら出逢った回数だけ死んでいるだろう。ジャニスを連れてこなくて正解だった。
チョロチョロ小細工をしながら奥に進む。周囲の重力波測定によると地下深くにプラントがあるらしい。強行突破するのも大変だし、脱出も大変そうである。
やれやれ……
愚痴を言っても始まらない。ジャニスが調べた範囲の建物の地図を頭の中で思い出す。俺のような一流の盗賊にでもなると簡単な地図や図面くらいなら簡単に記憶ができる。入ってから地図を開いて確認しているようでは時間がかかってしようがない。それに仮に追いかけられているときなら悠長に見ているほどの余裕は存在しない。
考えながら走っていると、広めの空間に出た。入ってきた通路の反対側の壁にはスライド式の頑丈な扉とコンソールパネルがへばりついていた。
……エレベーターか……
基本的にこういう状況で密室であるエレベーターを使うのは愚の骨頂である。が、使い方によっては非常に便利な代物でもある。そう、移動以外の目的に使えば。
とりあえず、エレベーターを呼ぶためにパネルのボタンを押した。低く唸るような音とともにエレベーターの箱がやってくる。
中には人の気配がしないようだが……
俺の第六感的な感覚が体をつき動かした。無意識に閃光弾をたたきつけ、大きく横に飛ぶ。わずかに遅れてさっきまで俺のいたところにレーザーの矢が集中した。どうやら熱を頼りに撃ったらしい。人間ではなく、自動攻撃システムを備えた機械の仕業だろう。どうりで気配が感じられなかったはずである。
相手が人間じゃないのなら手加減の必要はない。すでにレーザーで穴だらけになった扉に向かってワンカートリッジ分の弾丸をプレゼントしてやった。小さな爆発音や破砕音が聴こえる。
静かになった。ぼろぼろになった扉がきしむような音を立てて開く。
……おやおや、けっこう丈夫にできてますこと。
中には物言わぬ鉄クズと化した攻撃用ロボットが不可思議なオブジェを形成していた。その中の一体だけが運良く致命的な命中を避け、壊れかけたアームをこちらに向けてくる。あれだけ破損しても自らの使命を達成しようとするその心意気に免じて、
ズシャ、
一撃で機能を停止させることにした。中枢部にレーザーの刃を差し込まれたその機械は不満げな音を立てて震えたかと思うと周りの仲間と共に動きを止めた。
さてさて……
大量のガラクタを前にしてしばし思考。使えそうな部品を吟味する。いくつかのバッテリーと武装が無事のようだった。こいつをこうして…… ここをこう……
ま、こんなもんだろう。
その出来た謎のものに小型のタイマーを接続する。そしてドアに引っかけておいた重り代わりのがれきを蹴りこんで、最下層に行くようにしてエレベーターを閉めた。
これだけのんびり時間をかけているのに、なにゆえ誰も来ないのか、と疑問に思う人もいるだろう。しかし俺を捕らえるべき人々はここまで来る途中の仕掛に足止めを喰らっているに違いない。
俺の持っている玩具は閃光弾と煙幕弾だけじゃなく高圧電流を発生させるのや一種の高温焼夷弾もある。それを行きがけの駄賃にそこいらの電気回路に張り付けて行ったのだが、予想以上の効果があった。火災は起きる、回路は切れまくる。それに伴う二次災害も起き、俺に構うほどの暇人がいなくなってしまった。
まあ、楽でいい。俺の仕事はどちらかというと一人でやった方がやりやすい。余計な人間、特に敵は少ない方がいい。
さて…… さっきの仕掛がそろそろ働く時間だ……
3…… 2…… 1…… ゼロ。
下から突き上げるような振動と共にくぐもった爆発音が聞こえた。予想以上に破壊力がでかい…… 加減を間違えたかな?
……ま、いいか。
レーザーソードでエレベーターの扉をぶった斬った。が、はた目には何も変化がない。慌てず騒がず扉を蹴飛ばす。派手な音を立てながら四角く斬られた扉が落下していく。
なんか俺、今回物壊しまくりですこと。
ま…… いいか。今日は盗みに来たんじゃないし。でも、後でジャニスに怒られるかも…… やれやれ。
余計な考えを捨て俺は自分の仕事に集中することにした。さっき作った大穴から下をのぞき込む。
深い……
この研究所は地下三階までしかないハズだが、その数倍の深さはどう見てもありそうだ。ま、予想というか、事前の調べがついていたから分かっていたことだが、それを抜きにしても闇は容易に人に恐怖を植え付ける。まるで奈落の底に通じているような深さの穴は、この怪盗フェイクにですら恐ろしいという感情を与える……ということはない。
確かにこのエレベーターシャフトが深いことは認めるが、この程度のダイビングなんぞ何度でもやったことがある。当然、何の準備も無しに飛び降りて平気なわけがないが、やり方さえ間違わなければ怖いものではない。そう、俺に恐怖などという感情は無縁なのだよ。
いや、待て。そういえば…… やっぱり借金とジャニスは少し怖い。
そんなオチもついたところで、俺はシャフト内のケーブルに手をかけた。今回はスカイダイビングの気分ではなかった。ケーブルをそれなりのスピードで降りていくと、何となく熱気が…… 熱気? 気になってバイザーのセンサーを赤外線に切り替える。
シャフトのいちばん下あたりに大きな熱源…… 普通、エレベーターのモーターって下にあるよな…… でも、あれは普通のモーターの熱分布じゃねえな。さっきのガラクタを利用した爆弾のせいで過負荷がかかったんじゃあ…… ってぇことは、あれもう少しで爆発するんじゃあ……
やべぇっ!
ケーブルを慌てて滑り降りる。モーターが爆発するのは一秒後か一分後か。危険なことにはかわりない。このままのんびりシャフトの中でくつろいでいたらクリスマスのディナーになってしまうのは目に見えている。
入ってきた上に戻ろうかとも考えたが、危険率は変わらないし、正直言って下った方が速いのは確かだ。いよいよになったら壁をぶちぬく、という手もある。
とにかく降りた。
降りていくうちに、例のガラクタ爆弾のおかげで壁に穴が開いていることを祈りつつ、落下並のスピードで下る。
あった!
シャフトの一部分に、何かが爆発したようなあとがあった。エレベーターの扉のあったらしいところに大穴が開いている。そこをめがけてケーブルを振り、反動をつけて飛び込もうとした。
その瞬間。
最下部のモーターが大爆発を起こした。
何があったのかは知らないが(ホントに俺は知らん!)、爆発で巨大な火柱が上がり、エレベーターシャフトを巨大なオーブンに変えた。何となくローストチキンの気持ちが分かったような気がする。今度からよく味わって食べることにしよう。
それはいいとして、俺は寸前のところで調理されるのを免れた。わずかにマントに焦げ跡がついたくらいですんだ。
飛び込んだ勢いと爆風による勢いを転がることにより減少させ、素早く体勢を整える。その時、俺が飛び込んだ通路に他の人間がいることに気付いた。
彼らは全部で三人。手に手にレーザーライフルなんぞを持っていた。携帯できる武器のうち、破壊力はトップクラスの武器と言えるだろう。トーシロが持っていてもそこそこの効果を発揮できる分、凶悪なシロモノである。
バッタリ。
先頭の男と目があった。気遣うような目で俺を見ている。背後の二人も同様だった。そこで俺は何をトチ狂ったか、さっきの火柱に対する驚きも加わってか「いやあ、危なかったよ」といいたげな視線を返した。
わずかの時間、双方の間に和やんだ空気が流れた。このままどちらも敵対的なアクションをとらない限り、三十秒で飲みにでも行きそうな雰囲気である。
ふと気付く。俺は何しに来たんだっけ?
…………あ。そういえば…………
「……煙幕弾っ!」
わずかに俺の方が自分の使命を思い出すのが早かった。まとめて三個の煙幕を硬いフロアに叩きつけた。一瞬の内に視界が白く染まる。
「奴だ! 奴が現れ……」
その言葉は最後まで言い終えることが出来なかった。まあ、無理もない。鳩尾に強烈なボディブローを喰らって意識をたもっているのはなかなかに至難のわざである。
すでに残りの敵は二人だ。しかも相手はこの煙幕のせいで一時的に視力を失っている。これなら倒すのは非常にたやすい。三秒、と勝手に時間を決めて再び白い闇の中に身を躍らせる。
結果は二秒と半分ほど。その頃にはすでに抵抗する者もない通路を走っていた。俺のカンとジャニスの調査が正しければあと三フロアほどでお目当ての場所につく。
そう、「緋色の悪魔」というとんでもない怪物を封印している食人鬼どもの巣窟に。
しかし…… 意気込んではみたものの、今一つスリルというか迫力に欠ける。出てくる敵といったらそれなりの訓練は受けているが、俺にとっては雑兵程度の腕前の奴らが数で押してくるのが関の山だ。こういう場所なら一人くらい「全ての格闘技を極めた男」とかいう大層な名をつけた強者がいてもいいじゃないか、という気になってしまう。
俺の腕も鈍りそうだ……
この仕事を始めて一対多の闘いは数多く経験したが、なかなか俺と対等に闘えるような歯ごたえのある奴はいなかった。
そういえば…… あのザックとかいってたあの新米は磨けばいい腕になりそうな気がする。あのときはあっさりと勝たせてもらったが、あいつには天性の素質がありそうだ。俺がそう感じたし、ロイドもおそらくそれを見抜いているだろう。さもなくばあんな使えない新米を手元に置くわけがない。
今度会ったとき簡単な手ほどきでもしてやるかな…… でも…… ジャニスはあいつを嫌っているし、俺もあいつを好きではない。はあ…… もっと世の中に強い奴はおらんのか……?
こんな考えごとをしている間にも俺の拳がダース単位で出会う奴らをノックアウトしていく。ああ、弱い。それでも油断は禁物だったりするからまた面倒くさい。笑うことなかれ。物事に「まぐれ」は必ず存在する。俺だってその「まぐれ」という運命のいたずらに何度泣かされたことか……
おっと、また来たよ。
三人ほどの警備兵が馴染みになったレーザーライフルを手に、それもすでにこっちを狙って撃とうとしている。
いい加減、俺の持っている閃光弾も煙幕弾も残りが乏しくなってきた。失敗したなあ、あれは手作りで結構手間がかかっているのだが、それをいつもの仕事の十倍は軽く使っている。この研究所に入っても大した稼ぎには、いや、全く稼ぎにはならないのに経費ばかりがかかる。ああ…… 借金返済がまた遠のいていく…… でも、逆に考えると返済が延びるということはそれだけジャニスと一緒にいられると…… おい、俺は何を考えているんだ? 全く…… 単調な仕事だと余計なことを考えすぎてしまう。
あの娘もトレーラーで退屈していることだろう。連絡でもいれてやろうか……?
バイザーの通信機のスイッチをいれる。
トゥルルル…… トゥルルル……
聞き慣れたコール音がトレーラーを呼んでいる。ジャニスはいつも俺の状態をモニターしているはずだから…… おや? 出ない。
お手洗いにでも行ってるのか? コール音が十回を越えた。通信機のスイッチを切る。
……そっか。ここはすでに地下だから電波が飛ばないんだ。そうだそうだ、すっかり忘れていた。あーあ、こんな陰気な建物の中でひとりぼっちか…… 寂しいねえ。やってくるのは無粋な警備兵だけだし……
はあ……
ため息をつきながら一人、また一人と気絶させていく。なんか単純作業みたいになってきたな……
……妙だ。どう考えても妙しか思えない。俺の強さを差し引いても警備の人員が弱すぎる。俺はすでに実際には存在しないはずの区画にいる。ここの存在すら知られてはいけないはずなのに、警備システムはお世辞にも言えないほどお粗末。警備兵は素人に毛の生えた程度。いかにも入って下さい、といわんばかりの歓迎ぶりだ。
罠か……
それとも単なる考えすぎか。
……罠があるなら、それを噛み砕いていくだけだ。この怪盗フェイクを罠ごときで倒せるものか。そんな甘い考えなら二度とやる気が起きなくなるほどぶっ潰してやる。
さて、気分をあらためたところで、また仕事に集中しよう。でも…… のんびり行くのも飽きたな。よし、方法を変えよう。
床に向かってレーザーソードを振るう。その後、思いきり蹴飛ばす。さしたる苦労もなく、床に大穴が開いた。よくわからんケーブルやパイプ、構造材が見える。これを突破して更に下の階の天井をぶち抜けば下行きの近道ができる。
問題はどうやって構造材などを突破するかだが、敵兵の置いていった便利なものを拝借することにした。
レーザーライフルのエネルギーパックを十個ほど床の穴に放り込む。こいつはエネルギーの塊で、強い衝撃を与えると小規模な爆発を起こす。
さあ、実験してみよう。
少し離れて借用したレーザーライフルを構える。照準を手近の一つに合わせ、伏せ撃ちの要領で引き金をひいた。
……はずれた。
なんかこれ、むちゃくちゃ照準が狂ってるぞ。よくこんな銃を使おうとするよな。ちっ、使えねえ。
しょうがなく、愛用の銃を抜いてろくに狙いもつけずに撃った。
乾いた銃声のすぐ後にくぐもった炸裂音が聞こえ、穴に放り込んだエネルギーパックが閃光を発する。高温で何かが熔けるような臭いが通路に広がった。
冷めるまで少し待つとするか……
特に何かが近づいてくる気配もないので今の内に装備の確認をしておくことにした。
だいぶ使っているな…… 普段よく使う閃光弾と煙幕弾は多めに持ってきているからまだそれなりに残っているが、それ以外の特殊弾は全て侵入する際に使いきっている。拳銃の弾もそうだ。結構考え無しに撃ってたからあと二カートリッジ分、つまり三十発ほどしかない。レーザーソードのエネルギーの方は敵さんのライフルのエネルギーパックをから補給しているので十二分にある。
……参ったねこいつは。奥の手、というか見せ場の為の装備もいくつか用意してあるが、何もないところで使わなければならないかも知れない。もったいない……
もうそろそろいいだろう。
マントを翻しながら俺は穴に飛び込んだ。
飛び込むと同時に閃光弾を叩きつける。真っ白な光が視界に広がる。バイザーが閃光を自動的に感知し、目の前にフィルターがかかる。予想どおり着地した周りに数人の男が手に手に銃器を構えて立っていた。眩しい光の中、レーザーソードを抜いて男達の手の中の武器めがけて振り回す。武器を使用不能にさせてから相手を行動不能にする。
半ば機械的な作業を済ませると、さっきと同様の方法で床に穴を開けて更に下のフロアに降りていく。……正直いえば、警備兵を気絶させるよりは殺してしまった方が簡単だし、後腐れもないのだが……
はあ…… 俺ってつくづく偽善者ですこと。やっぱり人殺しをするのは躊躇してしまう。そりゃあ…… 殺したことがないとは口が裂けても言えない。この前だって殺したくはなかったが殺さなければならなかった。
昔は…… 半分楽しみながら人を殺したことがあったような気がする。自分の強さに酔っていたころだ。でも…… 今は……
やはり自分のために泣いてくれる人間がいると思い切ったことができなくなるようだ。
とにかく、さっさと今回の仕事を終わらせてこんな悪党どもの巣のような星から出よう。その前に俺流のけじめをつけてからだけどな。
同じことを繰り返し、更に一フロア下に降りる。ここが例の麻薬の精製プラントがあるフロアだ。
降りた瞬間から辺りの雰囲気が変化したような気がした。なんとなく邪な気が漂っているような感じだ。いうなれば魔王の城の奥深く、そんなところだろうか。しかし、本当に
この奥には魔王が住んでいる。緋色の悪魔という名の邪悪の塊が。
俺はその悪魔の顔を一目見ようと再び走りだした。