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第一話 緋色の輝き 第四章

 外に出るとジャニスは嘘のように機嫌が良くなっていた。そういえば彼女と仕事以外で出歩いたのは随分前のことである。実のところロイドには「仕事」の下見と言ったものの、半分以上大嘘である。ストレスが溜まりかけたジャニスの気を楽にさせようと外に連れだしたわけだ。

 ま、それでも彼女の調子が悪いと俺の「仕事」にも支障が出るから、十分に意味のあることだし…… いやいや、そういう打算があったわけじゃない。やっぱり女の子は不機嫌な顔を見せるよりも微笑んでいる方がずっといいのは宇宙の真理である。

 しかし…… あのザックとかいう新米の素人ぶりには呆れてしまう。本人はコッソリ尾行しているつもりだろうが…… 気配がまる見えである。そんなことじゃあ立派な捜査官になるまで相当の時間がかかることだろう。彼に少し人生の厳しさを教えてやるとするか……

 大きめの通りに出て、タクシー乗り場をさがす。この星は交通網がさほど整備されておらず、無人のタクシーは存在しない。こっちにとっては好都合である。適当なタクシーに近づいて乗り込み、運ちゃんに多めのチップを握らせて反対側から降りる。俗にいう篭抜けという尾行を撒くテクニックだが…… まさかこんなものに引っかかるほど…… 新米は間抜けだったようだ。

 俺達が乗ったと思われるタクシーを追いかけるために別なタクシーに乗った新米はそのまま姿を消してしまった。あまりのことに開いた口がふさがらない。ジャニスも同様に呆れている。


「……ま、邪魔者が消えていいかもしれないな……」

「そうね……」


 この怪盗フェイクをここまで呆れさせる新米ザック、おそるべし。


「あ、そういえばさ。ジャニスはどっか行きたいとこあるかい?」

「え? だって今日は仕事の下見……」


 言いかけるジャニスを手で制した。


「いいって、いいって。たまには羽根のばさなきゃ。」

「でも……」


 なにか言いたがるジャニスをしりめに手近な公衆端末から観光案内をさがす。おっ、近くに遊園地があるじゃないか。これは楽しそうだ……

 おや? これは…… ほほう…… こいつも楽しめそうだ……


「ほらほら、行くよ。」


 タクシーをつかまえてジャニスを呼ぶと、しようがなさそうに俺のあとにタクシーに乗り込むジャニス。行き先を運ちゃんに告げると俺の隣で不思議そうな顔をするが、見えないふりをする。俺達二人を乗せたタクシーは目的地に向けて走って行った。




 天気が良かったせいか、遊園地は人であふれていた。それでも乗り物に乗れないほどでもない。最初は不満げだったジャニスも近づくにつれて歳相応の嬉しそうな顔を見せ始めた。よしよし、いいぞ。

 最初はのんびり観覧車に乗ることにした。遠くまで街が見渡せる。で、その建物の群れの中にひときわ目立つ区画があった。

 どこぞの会社役員の豪邸らしい。意味なく広い庭に囲まれていて、意外なほどこの遊園地に近い。いちばん接しているところには大型のジェットコースターがあった。そんなものを眺めながらのーんびりと次の盗みの計画を考えていた。ここから見える豪邸の主、と

いうのが例の「悪魔の囁き(デビルウィスパー)」を扱おうとしている阿呆どもの一人だった。どうやら会社の給料では飽きたらず、もっと金儲けをしたくなったらしい。しかも他人の命を売って……

 観覧車のゴンドラが一番高いところを通過した。もう少しで雲にまで手がとどきそうだ。ジャニスは相変わらずはしゃいでいる。そのあどけない表情に俺は目を細めた。

 ……ったく、俺はいつまで彼女に危険な橋を渡らせ続けなければならないのだろう。と、その反面、この少女を手元に置いておきたいという矛盾する考えも頭に浮かぶ。俺はどうしたらいいんだ……?


「ジーク、もうすぐ降りるわよ。」


 俺を現実に引き戻したのはジャニスの呼ぶ声だった。我にかえって顔をあげると彼女は不思議そうなに俺の顔をのぞき込んでいた。すぐにその顔が何かを期待するものへとかわる。


「ね、もしかして何か仕事のことでも思いついたの?」

「そうだなぁ…… 今度、この遊園地にでもお邪魔することにしようか。」

「で、メリーゴーランドでも盗むわけ?」

「それいいねぇ。うちにでも飾っとくか。」


 軽口をたたきながらゴンドラを降りる。降りてからも何となく視線がここの遊園地最大の「ノヴァストライク・コースター」に向いていた。次の仕事のときにあれが使えないだろうか……


「ジーク!」


 俺の思考は再びジャニスによって破られた。少し彼女は不機嫌そうな顔をしている。


「どうしたのよ、さっきからボーッとしてさ。立っているのが好きなら、一日中つっ立っていればいいのよ!」


 ……マジではないが、ちょっとばかし怒っているようだ。でも一時的なものだから機嫌とりをすればなおる程度の怒りだろう。考えれば確かに俺が悪かったかもしれない。


「悪い悪い。そうだ、あのジェットコースターに乗ろうよ。面白そうだ。」


 指さす先にはさっきのノヴァストライク・コースターがある。それを見てジャニスはさっきの怒りはどこへ行ったやらで、顔が少し青ざめる。


「あ、あれ、ちょーっと怖そうじゃない?」


 言われて改めてそいつを見直す。ふーむ、乗ってみないと分からないが、(一応)お嬢様育ちのジャニスには厳しいものがあるかもしれない。それでも子供が喜んで乗っているところを見るとそれほどでもないのかもしれないな。


「んー、大丈夫大丈夫。」


 いまいち信頼性のおけないことを口にしながらジャニスの手をとり、引きずるようにしてコースターの方に向かう。


「やだやだーっ! あんなのに乗ったら死んじゃうよーっ!」

「安心しろ。ジェットコースターで死んだ奴はいない……はずだ。」

「そんな頼りないこと言わないでよーっ!」


 喚き散らすジャニスを無理矢理にコースターに乗せる。一度乗ってしまえば諦めたのか大人しくなった。それまでのまわりの人々の興味本意の視線といったら……


「恨むわよ、ジーク。」


 借金を請求するときよりももっと冷たい目で俺を睨むジャニス。ま、元気があるうちに睨んどくんだな。動き出したら……

 と、唐突にコースターが動き始めた。最初にほとんど空を見上げるような感じでゆっくりとレールを登っていく。形式としてはリニアシステムなどを使っていない昔ながらの車輪があるものだが、それだけに揺れも激しく他のアトラクションとは違った楽しみがあるとわけだ。

 コースターの高さが最高になった。あとはここから自由落下をするのだろう。予告もなしにコースターが落下した。

 浮遊感とスピードが巻き起こした風が襲いかかる。なんとも爽快感がある。これはなかなかに楽しい。が、


「キャアァァァァァッ!」


 風を切る音にまじってジャニスの悲鳴が聞こえる。この楽しさが分からないとは無粋な奴め、とまでは言わないが普段は勝ち気なジャニスが悲鳴をあげるのは珍しいことでもある。……やっぱり、普段から背伸びしすぎなのかねぇ……

 ジャニスの無防備な表情を見ていると心がちょっと痛む。彼女の歳を考えればまだ学校へ行ってクラスメイトと夢を語り合っているべきなのに、何が悲しくて泥棒の片棒をかつぎ、はてしない他人の借金の為に苦労をしなければならないのだろう。

 ……こんなスピードの中、よく考えごとができるものだ。自分の才能に一瞬、酔いしれそうになる。相変わらずジャニスの悲鳴が聞こえてくる。

 スピードの落ちてきたコースターが加速帯を通過する。電磁石の力で速度の増したコースターはこれの最大の見物の三連続逆ループを通過するのだ。

 重力以上の速度で落下する。ループの最下端で移動方向が逆転する。すさまじいGが体を押しつける。前後から悲鳴と歓声が聞こえる。

 二回、三回とループをくぐりぬけると…… おや? ジャニスの声が聞こえなくなった。気になってGに逆らいながら首を横に向けると彼女は白目までむいてはいないが、目を見開いたまま硬直していた。

 おやおや……

 クライマックスをむかえたコースターは静かに発着場へ戻った。安全バーが上がって他の乗客も降りていく。なかなかに強烈な体験だったらしく、失神したものや中には失禁したものまでいたようだ。道理ですぐ近くに服屋があったはずだ。

 俺はまだ硬直しているジャニスを抱き上げると、手近なベンチに座らせた。まだ当分は動けないのだろう。隣に座って回復するのを待った。

 と、硬直した手足が震え、柔らかさが戻ってきた。目をパチクリさせて今の自分の置かれている状況を確認する。始めは惚けたような目をしていたが、すぐに知性の光がジャニスの目に戻った。


「え……っと、ここは…… どこ?」


 訂正。まだ完全に気がついていないらしい。視線があらぬ方向を向いている。しばしさまよっていた視線が俺の顔の上で止まる。

 少女が眉をひそめ、軽く息を吸った。俺を怒鳴りつけるときのいつもの癖だ。ジャニスの雷が落ちる前に先手をうつことにする。


「おっ、気づいたようだな。よし、なにか飲物でも買ってこよう。」


 俺はマッハ三……の一%ほどのスピードでその場から逃げだした。ジャニスの俺を呼ぶ声がマッハ一で追いついてきた。




 ジュースのコップを両手に持ち、ジャニスの待っているベンチに引き返した。彼女の怒りも冷めていることだろう。事実、この時も本気で怒っていたわけでないしね。

 で、戻ってみると、ジャニスはナンパされていた。ナンパ――そう、ひらたく言うと異性を誘惑する行為ってやつだ。これに若干暴力的威圧をブレンドすると「絡む」という行為になる。他のシチュエーションが思いつかなかったわけでもないが、今ジャニスに付きまとっているのはどう見てもまともに太陽の下を歩けないはずの人種だった。どこから見ても暴力を通貨と考えているような連中である。


 やれやれ……


 口癖のようになってしまった言葉で口の中を濁し、何事もないかのように近づいて行った。

 彼女にからんでいたのは二人だった。一人は小太りな男だが暴力に慣れ親しんでいるのがその腕っぷしで分かる。もう一人は脂肪も多いが巨漢の部類に入るだろう。その分、脳にまわる栄養が少ないと思われるが。いかにも典型的な兄貴とその子分、という感じである。この真っ昼間から酒かクスリでもやっていたのか目の焦点がズレかけている。


「よう姉ちゃん。俺達と付き合わねえか? 楽しませてやるぜ。」


 下卑げひた笑いを浮かべ、なれなれしくジャニスの肩に手をかける小太り。それに対し嫌そうに彼女は顔をそむけている。そして俺と目があった。


「ジークぅ……」


 その頼りなげな視線に応えるために俺はジャニスの空いた手にジュースのコップを渡す。そして少女の肩にかかっている汚らしい手をムンズと掴み、軽く捻った。効果はてきめん。小太りの男は苦痛に顔を歪め、その手から力が抜ける。

 普通ならこれで許してあげたいところだが、ジャニスがかわいそうになってきたので捻る方向を不意に逆転させた。相手の動きにあわせて力を加減する。勢いがついたせいかその体が一回転して無様に地面に転がった。投げた瞬間におまけで手首の関節を外した。


「な、なんだてめー…… う、何をしやがったこの野郎っ!」


 地面に倒れている男は状況を把握できず混乱したような口調で喚く。言葉半分で自分の身体|(特に手首)に起こったことに気づいた。まあ、無理もない。投げも関節外しも痛みを与えずにやったものだ。その気になれば傷一つ負わせずに地獄の痛みを与えることも可能だけどそこまで俺は極悪人ではない。


「はいはい、逃げるなら今ですよ。俺も余計な運動はしたくないしね。」


 善人の笑みを浮かべて二人に警告する。が、俺の予想通り向こうは親切心からでた忠告を聞こうとはしなかった。


「やってしまえ!」


 小太りの声に反応して巨漢がゆっくりと動きだした。その大きな口からどもるような声がもれる。


「お、おで。あにぎのかたきとる。そのあと、おんなもらう。」


 どっちも遠慮したい。この程度の相手を倒すのは造作もないが…… せっかく買ったばかりのアイスコーヒーをこぼすのもいやだし、こんな相手ごときのためにわざわざベンチにコップを置くのも芸に欠ける。さて、どうしようか…… よし。


「はい、ちょっと待った。」


 巨漢に向かって手のひらを見せる。俺の動きに相手が小首を傾げて止まった。


「簡単なかけをしよう……」


 こう言いながらポケットから一クレジット硬貨を出した。巨漢の目が出てきた銀色の金属板に集中する。俺はそれを指先で真上にはじいた。


「このコインが落ちる前に……」


 巨漢の視線が舞い上がったコインと一緒に動き、上を向いた。

 一蹴!


「相手を倒した方が勝ちなんだが……

 どうやら俺の勝ちのようだな。」


 モロに顎に蹴りを喰らった巨漢が小太りの隣に倒れる。完全に気を失っているようだ。当然ながら俺の手の中のコップの黒い液体は一滴たりともこぼれていない。

 軽い運動のあとに飲む冷たいドリンクはなかなかに心地よいものだ。指先でコインをいじりながら相手の次のセリフを待った。


「く、くそ。ぶっ殺してやる。」


 怒りに顔を赤くした小太りがまだ動く方の手で黒光りするレーザー銃を取り出した。利き手でないせいかその動きは鈍い。

 コーヒーを口に含みながら俺の指先が閃いた。次の瞬間、ジュース一杯分のコインが立派な殺傷兵器にかわる。小太りの手に一クレジットが突き刺さった。骨の砕ける鈍い音がわずかに聞こえた。

 うわ、痛そー。


「お、悪い悪い。そいつを治療代にあててくれや。」


 苦痛の悲鳴をあげる男をしりめにジャニスの肩を抱いて俺達はこの場から逃げることにした。これ以上の面倒は起こしたくないからな……

 でもそれが無駄な努力だったことを後になって知るんだが…… 今は誰も知らない。




「ありがとう、ジーク。」

「ん?」


 いきなりの言葉に空返事をしながら今の感謝の言葉の意味を考える。あ、さっきのゴロツキの一件か。


「別にいいさ。ジャニスを一人にした俺も悪いんだし。」


 俺がそう言うとジャニスはフフッと蠱惑こわく的な笑みを浮かべ、自分の肩にかかっている手をスルリかわした。そのままスローステップのダンスのように軽やかに歩いて俺を追い越し前に出ると、クルリと一回転してからペコリとこっちに向かって頭を下げる。その妖精の舞いに俺はひととき心を奪われた。


「ありがとう、ジーク。」

「え……?」


 予期せぬ言葉に困惑する。


「ジークってさあ…… いつも私のこと心配してくれているの?」

「……そりゃあね。大事な預かりものですから。」


 彼女の真意をつかめず、曖昧ながらも無難な答えを返した。それに対し、少女は安堵と落胆の入り交じったような顔をした。俺の頭の中の疑問符が更に増える。


「私さ…… 前に襲われたとき、『こんなときにジークは何をやっているのよ! あの馬鹿!』とか思ってたんだけど……」


 結構ひどい言われようだこと……


「ジークが助けに戻ってきてくれるかどうか、ちょっと疑ってた……」

「…………」

「でも、来てくれた…… 私…… それが嬉しかったの。

 それに今日も私を気遣ってくれているみたいだし……」


 返答できないでいると、それに気づいてかジャニスが俺に向かってかわいらしく舌を出した。


「でもね、まだあなたに心をられたわけじゃないですからね。ごあいにくさま。」


 その天使の笑顔に誘われるように、俺の顔にも笑みが浮かんだ。けれどそこでふとイタズラ心がわいてきた。


「ほほお…… 面白いことを言う。」


 俺の言葉に不吉なものを感じたのか、ジャニスの表情が少しかたくなった。


「そのご褒美としてだな…… よし、次はあれに乗ろう!」


 指をさした先にはさっきほどではないが、これまた強烈そうなジェットコースターが見える。距離があいているのにもかかわらず、そのコースターから結構な声量の悲鳴が聞こえてくる。またジャニスの顔がサッと青ざめる。


「う、うそでしょ……」

「いーや。さーて、参りますか。」

「やだーっ、死んじゃうよーっ! 人殺しぃーっ!」

「死んだ奴はいないって言ってるでしょうが。」

「キャァァッ! 変態っ! 痴漢っ! 泥棒っ! 悪党っ!」


 一つだけ正解である。

 それは別として俺は聞こえないふりをしてジャニスを次なる乗り物へと引きずっていった。

 哀れ、ジャニスの運命はいかに!

 ま…… 死なないことだけは確かだ。




 と、思ったら意外にもへばったのは俺の方だった。少し遅めの昼食をとろうとファーストフードの店に行って椅子に座ると疲れがどっとでてきた。対照的にジャニスはピンピンしている。

 結局、年の差ということなんだろうか。最初のうちはわめいていたものの、慣れてきたのか今度は率先して乗り物にチャレンジをしてきた。逆に俺の方がヘロヘロに疲れてきた。

 ホントに俺も年なんだろうか……

 でも俺、まだ二十代半ばだぜ…… ふう。


「ジーク、どうしたの? ため息なんてついちゃってさ。」


 トレイにハンバーガーにホットドック、ドリンクなどをのせてジャニスが戻ってきた。味気ない朝食を思い出すと、急に空腹感に襲われる。

 まだ触ると熱いくらいのハンバーガーに手をのばして、それを口の中に放り込む。この手の物の常、というやつで不味くもないがうまくもない食事に俺の胃袋は更に欲求の意を示す。二個、三個と手を出すうちにトレイの上はすっかり空になってしまった。できるのも速ければ食べ終わるのも速い。ジャニスの方を見るとまだ一つの半分も口にしていない。


「ゆっくり食べないと身体に悪いわよ。」


 いつもの小言に俺は肩をすくめた。この程度のものをゆっくり味わって食べるほど俺は人生に余裕ができていない。

 おっと、笑うことなかれ。時間はもっと有意義に使うべきである。俺は食事時間を短縮することによって辺りをのんびり眺める時間ができたのだ。

 空は青く、雲は白く流れていく。ふと自分の今の置かれている状況を冷静に見つめなおしてみた。

 遊園地で(かわいい)女の子と差し向かいで食事をとっている…… これって…… もしかしてデート、ってやつかぁ?

 毎日、顔をつきあわせているはずなのに何か彼女が新鮮に感じられた。なぜか……


 ……ちょっと待て、いつから俺は三文恋愛小説の主人公になったんだ。飽くまでも俺は宇宙をまたにかける謎の怪盗なんだぞ。俺のまわりにはスリルとサスペンス、アクションにハードボイルドが満ちあふれなければ…… ま、いいか。こんな日があったって。どんなタフガイな主人公も寝る間を惜しんでまで銃声と硝煙の中で走り回らなければならない、という法律はない。それにもともと俺は法律とは無縁だしな。

 自分の中で勝手に結論を出し、再び今の状況を楽しもうとしたとき、ふっと太陽がかげった。

 雲のせいではない。俺の背後に大男が立ちはだかっていた。さっき靴の底をプレゼントしたどもり気味の奴だった。

 どうやらリターンマッチをお望みのようである。

 食後の運動を兼ねてお相手する事にした。

 すっく、と立ち上がろうとしたとき、俺の頭を潰そうとするかのごとく巨大な拳が降ってきた。

 次の瞬間、何かが砕ける音とジャニスの悲鳴が重なった。

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