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三十四話 いっしょに、おしごと

「そういえば今は神歴何年なんだ?」

「今日は神暦九九八年、十二の月の火の週の六日目です」


 答えたのは隣を歩くビビで、アルマはきょろきょろと周りを見渡しながら後ろをついてくる。

 その姿はまさしく観光に来た田舎の少女だが、何故か目だけは真剣だ。


「そろそろ寒くなる時期ですね」

「そうなのか?」

「……ご主人様に常識が無いのは知っていましたが、季節の事も知らないのですか?」

「ああ、知らない。教えてくれ」


 俺はふんぞり返ってお願いした。

 ここは下手に出てはいけない。

 威厳を見せないと。


 ビビは深くため息をついて説明を始めた。

 威厳は全く発揮できていないようだ。


 聞く所によると、年の暮れには冬が来るらしい。

 なんとなく最近寒いなと思っていたが、どうやらこの世界でも季節は移ろうものらしい。

 ゲーラの街があるノルデン領や、王都近辺は比較的穏やかで過ごしやすい地方であるらしいが、それでも冬は来る。

 雪はめったに降らないが、凍えるほどに冷たい風が強く吹くそうだ。

 その冬に備え、今の時期は食料、薪の買いだめや防寒具の用意をしなければならない。


「じゃあゲーラの街に戻ったら買い出しでもするか」

「そうですね」


 今日は王都滞在三日目である。

 俺たちは冒険者ギルドに向かうべく、雑談をしながら通りを歩いている。


 昨日は王立図書館を出た後、適当に飯を食い、宿に戻って寝た。

 本日の予定は未定である。とりあえず昨日と同じく朝一で冒険者ギルドへ行き、クンツたちへの伝言の状況を確認するが、その後は何も考えていない。

 何事もなければおそらくは適当にそこらの店を冷やかすことになるだろう。


「昨日伝言を依頼していたエドですけど、どうなりました?」


 冒険者ギルドに着いた俺は、早速受付に確認している。

 アルマとビビはゲーラの街と比べかなり大きい掲示板を眺めて依頼を見ている。

 昨日も俺も含め三人がかりで一通りの依頼を見たが、今日は違う依頼もあるかも知れないので、念のため見てもらっている。

 掲示板の前は相変わらず盛況で、アルマたちが依頼を見るにはゴツい冒険者たちをかき分けて前へ出る必要があるが、あの二人なら問題ないだろう。


「クンツさんなら昨日の夜、依頼達成の報告に冒険者ギルドへ来られたのでお伝えしましたよ。今日も来られるそうで、何も用事が無ければギルドで待っていて欲しいとおっしゃっていました」


 嬉しい事に、返事は良好だった。今日の予定がひとつ出来たな。

 クンツはとりあえず会えそうだが、他の二人は来るかな。


「ありがとうございます。じゃあ、あっちで待っているんで」

「かしこまりました」


 ギルドの受付嬢は丁寧なお辞儀とともに俺を見送った。

 王都の冒険者ギルドの制服もゲーラの街と変わりない。

 だが、受付嬢の対応はここの方が洗練されている気がする。


 アルマとビビをを連れ、ギルド併設のバーの一席に座る。

 ついでに朝食も食う事にしよう。


 料理を注文し待っていると、俺達の近くのテーブルに二人の男がやってきた。

 大柄な男が荒々しく椅子を引き、どかりと座る。

 鎧なども付けていないし冒険者ではなさそうだが、何やら苛ついている様子だ。


「まあ落ち着けって。依頼は出したんだし、きっと何とかなるさ」

「だがよう、あのお堅い受付嬢め、緊急依頼にはしないって言ったんだぜ?」

「それは俺達の情報が確実じゃないからだろう。緊急依頼だと値段も跳ね上がるし、そうなったら俺達では払えなくなるぞ」

「そうだけどよ、こうしている間にも誰か攫われるかも知れないんだぞ。気が気じゃねぇよ」


 気が立っているせいか、結構な大声で話しているので嫌でも聞こえてくる。

 盗み聞きって訳では無いが聞こえてくる話をまとめると、どうやら例のお姫様が潰した盗賊団の生き残りらしき奴らが人攫いをしているらしい。

 それらしき男がこの二人の住む場所の近くにある森に居るのを見て、調査依頼を出したようだ。


「おまたせしました」


 おっと、料理が来たようだ。

 とりあえず食べるのに集中しよう。



-----



「一緒に依頼を受けないか? 今日中に終わりそうなのを」

「モノによるな」

「せいぜい近場のゴブリンかコボルドの討伐だ」


 俺達が朝食を食べ終わった頃、クンツがオイゲンとデボラを引き連れて冒険者ギルドに現れ、俺達を見つけるやいなや、爽やかに手を振りながら近づいて断りもなくテーブルについた。

 そして第一声が、これだ。

 挨拶くらいしてもいいだろうよ。


「あなたがオイゲンさんですか? 始めまして、ビビアンです」

「二人から聞いてるよ。よろしく」


 ビビはそつなくオイゲンに挨拶を交わす。

 アルマも久しぶりに三人に会えて嬉しいのか、デボラの手をとってぶんぶんと振り回している。

 やめなさい。デボラは何も言わないが迷惑そうだ。

 

「それで、どうする。やるか?」

「別に構わないが」

「じゃあ掲示板から適当な依頼を受けてくる。その間に準備しておいてくれ」


 俺が肯定すると、クンツは掲示板の方へさっさと行ってしまった。


「悪いな、急な話で」


 オイゲンがフォローしてくる。

 別に構わないが、一体どうしたんだろうか。


「きっと、照れくさいのさ。エドがCランクになったってのを昨日ギルドに来た時に聞いたんだが、クンツが一番喜んでたぜ」


 どうやらオイゲンも一緒にギルドに来ていたようだ。受付で試験を受けたのを聞いたんだろう。


「とりあえず宿に戻って荷物を持ってくるよ」


 オイゲンにそう告げ、デボラの手を振り回しているアルマを引き剥がした。




 装備を整えて冒険者ギルドに戻ってくると、既にクンツたちも準備万端のようだ。

 一枚の紙切れを持ってこちらに手を振っている。


「これ、受けようと思う」


 クンツに手渡された紙は、コボルド討伐の依頼書だった。

 王都近くの森で目撃されたらしい。


「目標は四、五匹のコボルドだ。場所はそんなに遠くないし、今から行けば日暮れには帰ってこれる」

「わかった」


 俺たちは受付で契約書にサインすると、早速コボルド討伐へと出発することにした。



-----



 俺達六人は一列になり、枯れ木の目立ち始めた森を進む。

 先頭はオイゲンが担当している。殿(しんがり)はアルマだ。


「聞いたぞ。三人でオークをやったんだって?」

「途中までは『宵の酒(よいのさけ)』と『双百合(ふたゆり)』も一緒だったが、途中で二匹増えやがってな」


 クンツと俺は緊張感も程々に、会話しながら歩いている。

 森も浅いし、近くに魔物の痕跡も無いのでまだ余裕がある。


「いやあ、あんなに討伐を嫌がっていたエドがオーク討伐とはねえ。成長したな」

「アルマとビビのおかげさ」


 クンツはからかってくるが、俺はすげなく躱す。

 俺は成長なんてしていないさ。結局他人任せの戦いしかしていない。

 クンツはそれでもからかい続けようとしていたので、俺は話題をそらすことにした。


「ところで、お前らの職業(ジョブ)ってなんだ?」

「職業? 俺は『剣士(ソードマン)』だ」


 見たまんま剣士だしな。

 イメージ通りだ。


「俺は『盾兵(シールダー)』だ!」


 前の方からオイゲンが答えた。

 そんなに大きな声で話してはいなかったが聞こえていたのか。


「デボラは? 前に魔法系だとは聞いたが、詳しくは聞いていなかったよな」

「……『魔女(ウィッチ)』」


 俺の後ろを歩いていたデボラに振り向いて聞いてみる。

 何故か目を逸らしながらも、答えてはくれた。


 『魔女』か。

 確かに魔法系っぽいが、デボラなら『魔法少女(マジカルウィッチ)』とかの方が似合いそうだ。


「エドたちはどうなんだ?」

「俺は――」


 話題が俺たちの職業に移った時、オイゲンの空気が変わった。

 手の平を後ろの俺たちへ向け、「止まれ」の合図を出している。


 ……魔物か?


 オイゲンの睨む方向へ注意を向ける。

 ガサガサと背の高い草の揺れる音がする。


 剣を構え、こちらへ向かってくる気配を注意深く感じ取る。

 そこまでサイズは大きくない。標的のコボルドか、狼か何かか。


 目の前の草が大きく揺れる。


 ――来る。


「え?」


 声を漏らしたのは俺たちか、はたまた飛び出してきた影か。


 そこには、泥に塗れた少女が居た。

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