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三十三話 としょかん、まどうしょ

 図書館では別行動を取ることにした。

 それぞれが読みたい本を読み、適当なタイミングで合流する。


 入ってすぐには受付と売店のようなものがあった。

 どうやら紙とペンを買ったり出来るらしい。


 受付に座っていた制服を着た女性に声を掛けると、図書館の利用方法を教えてくれた。

 印刷技術の無いこの世界では本は貴重だろうから入館料でも取られるかと思っていたが、一般公開されている部分は無料のようだ。本を破ったり、落書きでもしようものなら弁償させられるらしいが、弁償で済む範囲の本しか無料では読めない。

 それに、本の貸し出し、持ち出しも許可していないようだ。あくまでも図書館内でしか読めない。


 弁償で済まないような貴重な本は扉で仕切られた奥の部屋に置いてあり、そこに入るにはお金を払ったうえに身分証の提示が必要らしい。身分証は冒険者ギルドのタグでも大丈夫だそうだ。

 更に奥にはもっと貴重な本が置いてあって、国の許可が無いと入れないとか。


「あとで迎えに行くから、適当に本を読んでいてくれ。」


 とりあえず無料で入れる範囲で本を読むことにし、アルマとビビと別れた。




 適当に棚を眺めながら図書館を歩く。

 図書館内に人は殆ど居ない。

 本屋も図書館もあるくらいだから多少は本を読む文化はあるのだろうが、そこまで本を読む人は多くないのだろうか。


 奥へ奥へと向かって歩いていると、何やら大きな扉があった。

 男が扉の横に立っている。見張りか?


「許可証は?」


 俺が見ていたのに気づいた男は、短く俺に問う。


「許可証?」

「なんだ、迷って来たのか。ここから先は受付で許可証を貰わんと入れないぞ」


 ああ、ここから先が有料のスペースなのか。

 今のところ無料の範囲で十分だ。


「分かりました、すいません」


 俺は軽く会釈して謝り、引き返そうと後ろを振り向いた。


「――っ」


 振り向いた瞬間、息を飲んだ。

 俺のすぐ後ろに人が居たのだ。


 綺麗な金髪が、揺蕩うように腰まで届く。

 大きく透き通る様な蒼い瞳が俺を見つめている。

 綺麗な少女だ。


 なぜ、こんなに近くに居るのに気づかなかった。

 曲がりなりにも冒険者として生きてきて、気配には敏感になっている。

 それなのに、視界に入るまでその存在を全く認識できていなかった。


「通して下さる?」 


 鈴の音の様な声が響く。

 俺は少しの間、その声の意味する事が分からなかった。


「あ、ああ。すまん」


 言葉の内容がやっと頭に届いた時、俺が少女の通り道を塞いでいるのだと気づいた。

 慌てて横に避け、道を譲る。


 少女はゆったりとした足取りで俺の前を通り過ぎる。


 扉の横に立っていた見張りの男は、少女の歩みを止めないように扉を開けて待機している。

 どうやら、男はこの少女の事を知っているようだ。

 許可証の確認を求める事もしなかった。


 膨らんだドレスのスカートを揺らしながら、扉を通り過ぎる。

 扉が再び閉ざされる刹那、少女がこちらを見た気がした。


「……なんだったんだ」


 本棚が立ち並んでいるとは言え、それほど通路は狭いわけではない。邪魔なら俺を避けて通る事もできただろう。

 わざわざあんなに近くまで来て待っている必要なんて無い。


「あの、さっきの女性は許可証を見せなくてよかったんですか?」


 俺は少し探りを居れてみることにした。

 見張りの男に聞いてみる。


「あのお方は奥へ行くことを許可されている」


 あのお方、なんて言い方をするくらいだし、服も豪華なドレスだった。

 恐らく貴族かなんかだろう。


「誰なんですか?」

「あのお方が名乗らなかったのに、私が教えるわけにもいかないだろう」


 真面目な返答だ。

 俺は諦めて、今度こそ扉から離れていった。




 途中でビビを見つけた俺は、読書の邪魔をして申し訳ないと思ったが、声を掛けることにした。


「何を読んでいるんだ?」

「これは職業(ジョブ)に関する本です」


 ビビが本の表紙を見せながら言う。


「あらゆる職業と、それについての説明が載っています」


 職業のリストか。

 わざわざ図書館に来たいと言い出したのは自分の趣味ではなく、これが見たかったからか。


 ビビは少し声を落として続ける。


「この本には『従者(メイド)』に戦闘が出来るとは書かれていません。まして戦闘に関する技能(スキル)を覚えるなんて、信じられません。私の職業である『司書(ブックマン)』も同様です」


 オーク討伐の際、アルマが技能らしきものを使った事にビビも気づいていたようだ。


「それに、ご主人様は職業がわからなかったと聞きましたが、職業が分からない人が居たなんて記述はありませんでした」

「まあ、その本に書かれていなくても、他の本に書かれてるかも知れないだろう」

「それは、そうですが……」

「神父も信仰が足りないから見れないかもって言っていたしな。そのうち分かるさ」


 まあ、これから先も分からない様な気がする。

 恐らく俺には職業(ジョブ)が無いのだろう。


「アルマの方も様子を見てくる」


 俺は無理やり会話を終わらせ、ビビから離れた。

 ビビは、納得行っていない様子だったが、諦めて他の本に目を通し始めた。


 アルマはそれほど離れていない場所に居た。

 何かの本を真剣に読んでいる。


「何を読んでいるんだ?」


 俺が声を掛けると、アルマは飛び上がった。

 俺が近づいていることに気付かず、驚いたようだ。


 アルマはわたわたと慌てて本を背中に隠す。

 しかし、隠す際に表紙がちらりと見えた。

 タイトルは『メイドたるもの』だ。

 目の前の本棚はどうやら物語系の本を置いているようだから、恐らくメイドを題材にした小説か何かだろう。

 自分の職業と同じ『従者(メイド)』に興味が湧いたのだろう。

 なぜ隠したのかは分からないが、恥ずかしかったのか?


「まだ暫くは俺も本を読んでいるから、ゆっくり読んでくれ」


 集中して読んでいたようなので、俺は謝って立ち去ろうとする。


「邪魔して悪かったな」


 アルマは顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振っていた。


 その後、俺は魔法の入門書を読んで時間を潰すことにした。

 入門書の内容は、いかに著者の魔法が素晴らしいものかに始まり、最近の魔法使いの体たらくを嘆き、この本を手にした読者はこうならないように著者である私を見習えと書かれ、やっとのこと魔法が何たるかの説明が始まった。

 その説明は回りくどく難解で、文字を覚えたての俺では理解できない単語も多く使われていた。

 結局内容はよく分からなかった。これならデボラに直接教わった方が良いだろう。


 俺は理解するのを諦め、途中からはぱらぱらと流し読みしていると、最後のページに行き着いてしまった。

 そこには神暦九九○年執筆と書かれている。

 今が神暦何年なのか分からないが、本の状態から見ても、今は神暦千年前後かな。

 後でビビに聞いてみよう。


 別の魔導書を手にとってみると、こちらは簡単な魔法の詠唱が載っていた。

 どうやら世間で使われている言葉とは少し違うようで、発音に関しての注意書きが添えられている。

 そう言えば、俺が詠唱した場合、どうなるのだろうか。

 文字は読める様になったが、発音が分からない。謎の翻訳機能で他人の言葉は日本語に聞こえるから、発音を覚えることができていない。

 デボラが魔法使った時はどう聞こえてたかな……。

 王都に居る間にデボラに会うことが出来たら、実演してもらおう。




 その後も適当な本を読んで時間を潰せた俺は、外が暗くなり始めた頃に二人を連れて図書館を出た。

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