二十八話 おうと、とうちゃく
今回の依頼はオーク討伐だ。
まず冒険者ギルドで『宵の酒』と『双百合』と合流する。
そしてまずは王都に向かい出発する。
王都で一泊した後、例の町の付近まで移動するというわけだ。
王都の方が近いんだから王都の冒険者が受ければ良いと思う内容だが、わざわざゲーラの街で依頼を受けたのはローマンさんが理由だとか。
例の迷宮攻略の際、ローマンさんが現場で指揮、管理の一端を担っていたらしい。
もちろん他にも指揮をしていた冒険者は数人居たが、今は出払っているためローマンさんにお鉢が回ってきたわけだ。
つまりローマンさんは信用のあるベテラン冒険者ということだな。
「ビビは『双百合』と会うのは初めてだな」
「はい、そうですね。どういう方ですか?」
「イェニーさんの後輩の二人組の女性冒険者だよ。『宵の酒』の二人と一緒に依頼を受けてる事が多い」
『双百合』の話をしながらギルドに入って行くと、噂の二人は既に来ていた。
『宵の酒』も既に居て、五人で何やら話している様子だ。
あれ? 一人多いな。あの青い髪はデボラか。
「お待たせしてしまったようで」
「おう、エド。いや、そこまで待っていない。デボラへの用事も済ませられたし丁度良かったよ」
デボラへの用事? 珍しいな。ローマンさんとデボラが一緒に居るところはあまり見たことが無い。
まあ二人共毎日のようにギルドへ来ているわけだし、お互いに面識があってもおかしくない。
たぶん俺が知らないだけだろう。
「私も王都までは同行することにした」
「王都に行くのか?」
「クンツから手紙が来た。今後は王都を拠点にする」
王都に行っていたローマンさんがクンツからの手紙を預かっていたらしく、用事とはその手紙を渡すことだったようだ。
詳しく聞いてみると、ゲーラの街を離れて今後は王都で冒険者をやろうと手紙に書いてあったらしい。
デボラはそれに賛成し、王都で二人と合流すると。
せっかく俺たちも王都に行くのであれば、それに同行すれば安全に王都まで行けると思ったというわけか。
そうか、王都を拠点にするのか。
もう暫くは討伐を手伝ってもらえると思っていたが、そうもいかなくなったな。
「まあ、ここで話していてもしょうがない。あとは王都に向かいながら話そう。二日は掛かるから話す時間はたっぷりあるぞ」
「そうですね。じゃあマティさんに出発の報告をしてきます」
マティさんに挨拶を済ませ、俺たち八人は早速ゲーラの街を出発した。
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ローマンさんが用意した馬車に乗り、俺達は王都を目指し西へ進んでいる。
「大勢の冒険者が参加するから楽だと思ったのよね。少なくとも危険は無いかなって」
今は馬車の御者席に座り、後ろから聞こえる会話に耳を傾けている。
どうやら迷宮の依頼についてビビがアデリナさんに話を聞いているようだ。
「それが必要最低限の人数に分かれて探索を行うとかいう話になってね。なんだかんだ言って戦闘はきつかったわ」
「おいおい、それは出発前にも言っていただろう」
「それはそうだけど……」
「かなりの数の魔物が居たと聞きましたけど、大きな怪我も無いようですし、みなさんお強いんですね」
「私の居た班は壁役の冒険者がベテランだったからまだマシね。前衛が役立たずだとあの数は無理だわ」
アデリナさんは後衛の弓使いだからな。
信頼の置ける前衛が居ないと安心して戦えないんだろうな。
「エド、集中しろ」
「はい!」
俺の隣に座り御者のやり方を教えてくれていたイェニーさんからお叱りを受けてしまった。
後ろの声が気になって手元が疎かになってしまっていたようだ。
車の運転も慣れた頃が一番危ないと言うし、馬車もそれは変わらないだろう。
集中しよう。
その後、後ろは役割分担がいかに大事かという話になっていた様だが、馬を操る手綱に集中している俺には聞こえなかった。
アデリナさんが役立たずな前衛をこき下ろして居た気がするが、きっと空耳だ。そうに違いない。
デボラも一緒になって悪態をついていた気がするが、あの大人しいデボラがそんなことを言うはずが無い。きっと気のせいだ。
草原の真ん中をひたすら進む。
何度も何度も人や馬車が通って出来たであろう道が草原の真ん中を真っ直ぐに伸びている。
左右を見渡せば草原の向こうに森や山が見える。
あまり変わらない景色を眺めているのも飽きてきたなぁ。
特にトラブルも無く、眠気と戦っていると、だんだんと日が傾き始めて来た。そろそろどこかで夜営の準備を始めないとな。
「もう少し進むと夜営出来る場所がある。そこで止まろう」
「わかりました」
言われた通り進んでいると、道の脇に草の生えてない開けた場所があった。どうやらここは幾度も夜営に使われて野営地として定着した場所のようで、焚き火の跡もあるし、腰掛けるのに丁度良さそうな岩も置いてある。
恐らく近くに水場もあるのだろう。
馬車を止めると、みんな馬車から降りてきた。
座っているだけとはいえ、やはり疲れたのだろう。それぞれ凝り固まった体をほぐしている。
俺も馬車から降り、夜営の準備に取り掛かるとしよう。
夜営は何度も経験した。アルマとビビに指示を出しつつ、テキパキと準備を進めていく。
デボラは一人だしどうするのかと思っていたが、どうやら女四人でテントに入るようだ。
イェニーさん、アデリナさん、ユーリアさんと一緒に準備をしていた。
ということはローマンさんが一人か。
「おい、エド。アルマを借りて良いか? アデリナと二人で兎でも狩ってきてもらいたい」
「いいですよ。じゃあアルマ、頼むよ」
俺の手伝いにテントを支えていたアルマに言うと、頷いてアデリナさんの方に駆けて行った。
あいつ手ぶらだけど良いのか?
そう思って少し様子を見ていると、やはりアデリナさんに何やら言われている。
馬車の方に向かい弓と矢を抱えて出てきた。
どうやら弓で兎を狩るようだ。まあ兎は臆病ですぐ逃げるからな。遠距離から狩れる二人が適任だな。
なぜか兎は俺からは逃げずに向かってくるから、俺が狩りに行っても良いが。
……兎にも舐められる俺。なんだか悲しくなってきた。
「じゃあ、俺は水を汲んでくる」
やはり近くに水場があるようだ。
ローマンさんが馬車に積んであった小ぶりの樽を抱えて歩いて行った。
空が赤く染まり、段々と視界が悪くなってくる頃、おかずの調達に向かっていた二人が戻ってきた。
手には兎では無く、何故か鳥を数羽ぶら下げている。
「兎がなかなか居なくてね。ちょうどよく鳥が飛んでいたから落としたわ」
飛んでる鳥を射抜いたのか……すごすぎる。
アルマは鳥を持ち上げて得意げな顔をこちらに向けている。
この様子だとアルマも飛んでいる鳥を射抜いたのか。
褒めてやると嬉しそうにしていた。
だが血の滴る鳥を振り回すのはやめて欲しい。
ほら、ビビの背中に血がかかってる。
後で水場に行って洗ってやろう……。
背中が血まみれになった事に気づいたビビがアルマを怒っている間に、すっかり日が落ち、辺りは真っ暗になってしまった。
鳥は既にユーリアさんによって捌かれ、鍋の中に放り込まれていた。
この中だとユーリアさんが一番料理がうまい。
今回の移動中の料理はユーリアさんがやると決まっている。
俺も食べた事はあるが、道具も食材も限られた中であそこまで美味しく作れるのは凄い。
単独パーティで討伐を行うようになったら料理も自分たちでしないといけないと考えると、ちょっと心配だな。俺たちは誰も料理が出来ない。
さあ、そろそろ夕食だ。
それぞれ準備をしていたみんなも焚き火の前に集まってきた。
未だにお説教しているビビと、怒られてしょんぼりしているアルマを止め、俺達も焚き火を囲んで腰を下ろした。
***
二日目の道のりも、平和だった。
今日の御者担当はローマンさんだ。
隣にはビビが座って御者のやり方を見ている。
俺は一応周りを警戒しているが、アルマはうとうと船を漕いでいる。
テントではぐっすり眠れないからな。
「見えてきたぞ」
ローマンさんの声で居眠りをしていたアルマが起きたようだ。
目をこすって馬車の前方を眺める。
「大きい壁ですね……」
「そうだな」
初めて王都へ来るビビが感嘆の声を上げる。
アルマも腕を振り回して興奮を表現しているようだ。壁の大きさに感動したのはわかるが狭い馬車の中で暴れるな。
かく言う俺も、王都の壁の大きさに驚いている。ゲーラの街も壁に囲まれているが、王都はその倍はありそうだ。
「外からじゃ見えんが門をくぐれば城が見えるぞ」
「へえ、楽しみですね」
王様が住んでいるからこその王都だからな。
城があってしかるべきだろう。
日本式の城か遊園地にあるような城しか見たことが無いから、実際に使われている城を見れるのは楽しみだ。
王都に近づくにつれ、段々と壁の威圧感が増していく。
遠目でも大きいと思ったが、近くに来ると感じる雰囲気は段違いだ。今まさに街を守っているという存在感、風格を感じるような気がする。
王都が見えるようになってから、実際に門の前に着くまで意外と長い時間が掛かった。既に壁は真上を見上げるようにしないと上部が見えない。
一体どうやってこんなものを作り上げたのだろうか。建築技術がすごいのか、もしかしたら魔法を利用しているのかもしれない。
壁も大きければその分門も大きい。巨人でも通るのかと思うほどのサイズの門だ。
その横に小さな扉が付いていて、統一された鎧を身に纏った人が出入りをしている。
どうやら門番の兵士たちのようだ。次々と門をくぐる人々の一人ひとりに声を掛けている。
おそらく小さな扉の向こうには詰め所でもあるのだろう。
「王都へは何用で?」
「依頼だよ。俺たちは冒険者だ」
他の人と同様に俺たちの馬車にも声が掛かる。
代表して御者をしているローマンさんが答え、胸元に下げたギルドタグを見せる。
「通ってよし」
タグをちらりと見た兵士は、手にとって確認することもなく、すんなりと俺たちを通した。
そこまで厳重に出入りを制限しているわけでは無いのか。
ローマンさんは手慣れた様子で兵士に「おつかれさん」と声を掛け、馬車を進めた。
「ほら、あれが城だ」
ローマンさんが指し示さずとも、城はすぐにわかった。
王都のどんな建物よりも高く、荘厳で、威厳がある。
まだかなり離れているが、壁に感じた存在感なんて目じゃないと思うほどの威圧感がある。
それでいて、真っ白なその様は、壁に感じた実直さとは違う、清廉な雰囲気がある。
あれがルマン王国の王城か。
実物の、現役の城はやはり違うな。
王都は人が多かった。
大通りは広いので馬車が通るのに問題は無いが、馬車を避けて左右に割れる人混みを見ると、あの中に混ざるのが億劫になるな。
「この門の近くに馬車を預かってくれる場所があるから、まずはそこに行く」
ローマンさんは人混みの中でも恐れず馬車を進める。
俺なら人を轢きそうで緊張してしまうな。
御者が緊張すると馬も怯えてしまい、そうなると制御が出来なくなる。
二日目の御者はローマンさんに交代して良かった。
「ここで降りて待っていてくれ。預けてくる」
馬車を預かってくれる店に着いたのだろう。
そこそこの広さの更地の場所に何台かの馬車が止めてあり、馬は外されて横にある馬小屋に入れられている。
ローマンさんは俺たちを降ろすと更地に馬車を進め、馬小屋の横に立っている男に話しかけた。
馬をわざわざ小屋に入れるということは、馬の世話までやってくれるのか。
なかなかいいサービスの店だな。
「待たせたな。じゃあ宿を取ってから飯にしよう」
戻ってきたローマンさんと合流し、さあ行こうかという所でデボラが引き止めた。
「私はここで失礼する」
「もう行くのか?」
「クンツとオイゲンが泊まっている宿に向かう」
「そうか、まあ今後の事もあるし早めに合流したほうが良いだろうな」
ここでお別れか。
次に会えるのはいつになるか分からない。
お互い冒険者なんてやっている身だ。
もしかしたらこれが最後になる可能性だってある。
「今度、三人に会いに行くよ」
そう告げると、デボラは小さく頷いて去っていった。
今回は依頼だけの用事だから会いに行く時間は無いだろうが、次は観光がてら、三人に会いに来よう。




