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二十五話 さんにんの、せいかつ

 時は流れて一ヶ月。

 ひと月も一緒にいれば俺にもアルマにも慣れたのか、ビビにも硬さが取れ、多少は気安く話すようになってきた。

 それで分かったのだが、意外とビビはストレートに物事を言うタイプのようだ。

 この前なんて「ご主人様は常識が無いんですね」なんて憐れそうに言いやがった。

 この世界の常識が無いのは事実なので、俺はそんなことで怒ったりはしないが、頬をつまんで引っ張ってやった。

 ご主人様を馬鹿にした罰だ。


 さて、この一ヶ月の事を話そう。

 まず、ビビの眼鏡を買うためにこの街で唯一眼鏡を持っている人に会いに行った。

 家を借りた商人だ。

 どうやら彼は王都でも商売をしているらしく、眼鏡はそちらで扱っている商品らしい。

 少しばかり高かったが、彼の手持ちに幾つかある眼鏡を売ってもらった。

 少し大きい丸眼鏡を掛けて周りを見たビビは、静かに泣き出した。

 それを見た商人が何故か一緒になって泣いていた。

 目の悪い同士、何か思うところがあるようだ。

  

 それからの二週間は、ビビを冒険者に登録し、二人で配達や掃除など街中での依頼をこなした。

 マティさんからギルドタグを受け取ったビビは、静かにニヤニヤ笑っていた。

 やはり冒険者に憧れがあったようだ。喜びが隠し切れていない。


 期間が空いたりはしたが、常連の配達の依頼者たちは俺の事をちゃんと覚えていてくれて、ビビにも優しく声を掛けてくれていた。

 冒険者でなければ俺の悪評は届いていないようで少し安心した。


 最初は重い荷物を運ぶのに四苦八苦していたビビも数日で慣れたようで、一週間も過ぎる頃には俺の運び方は効率が悪いだとか言って改善案を出す程になった。

 二週間が過ぎる頃には効率は更に上がった。

 ビビより早く配達依頼を終わらせるのは俺に両腕があったとしても無理だろう。


 平行して行っていた武器の訓練だが、こちらも飲み込みが早かった。

 最初は武器を怖がって訓練にならなかったが、慣れてしまえばどうということもない。

 体力はあまり無いようだが、それを補って余りある成長速度で武器の扱いを覚えた。

 俺が習ったことのある武器はひととおり訓練させたが、一番合っていたのかは分からないが、短めの片手剣を好んでよく使っていた。

 眼鏡を掛けていてもやはり遠くは見えづらかったようで、結局弓は使えなかった。

 本人は「気にしていない」と言っていたが、その表情は暗かった。


 その間のアルマといえば、ポーターとしての仕事は全くと言っていいほど受けず、討伐依頼ばかりこなしていた。

 ポーターの仕事を募集すると、それより討伐に参加してくれと冒険者から誘われていた。

 唯一ポーターの仕事をしたのはアルマの事を知らない新人冒険者に着いて行った時くらいだった。

 その時も熊に遭遇して焦る新人を尻目にアルマが追い返したらしい。

 結局アルマ一人だと討伐依頼へ引っ張りだこだった。ちくしょうめ。


 後半の二週間だが、三人で合流し採取や動物の素材収集を行った。

 もともと俺とアルマの二人でもこなせる内容だし、ビビも体力がついて武器の扱いも覚えたので、初めて大型の動物に出会って逃げ出そうとしたビビを捕まえるのに苦労した以外は特に問題はなかった。

 ビビは怖がりだが、どうやらそれは最初だけのようだ。

 数度アルマに瞬殺された猪を見て、今度は自分から狩りたいと言ってきた。

 二週間森での依頼をこなした頃には、熊や狼を見ても怖がらなくなった。


 そして今日、ビビの冒険者ランクがDに上がる。

 今はビビのギルドタグの更新を待っているところだ。


「おまたせしました。こちらが新しいギルドタグです」


 マティさんが奥から戻って来た。

 ビビは渡された新しいギルドタグを見て感慨深そうな顔をしている。

 少し色が変わったくらいの違いだと思うんだが……。


「ところでエドさん、パーティ名は決まりましたか?」

「え?」

「そろそろお決めになっていただかないと困ります」


 パーティ名……忘れてた。

 ローマンさんたちのパーティ名は聞いたがクンツ達のは聞いていなかったな。

 どうしよう、何も考えていなかった。


「あの……」

「もう長い間待ってますからね。これ以上は待てませんよ」


 ああもう適当でいいや。

 俺を表していそうな……。


「あー……じゃあ、スクラップで」

「はい?」

「『役立たず(スクラップ)』でお願いします」

「……ちょっと自虐的や過ぎませんか?」


 確かに自虐的過ぎたかな。

 俺一人のパーティでもないし、さすがにアルマとビビに失礼か。

 そう思って後ろの二人を見てみると、予想外の反応だった。


 「片腕のご主人様に目の悪いホビット、喋れないアルマさん。スクラップ(欠陥品)な私たちにはちょうどいいんじゃないですか?」

 ビビがそう言うのを聞いてアルマもしたり顔で頷いている。

 いいのか、お前たち、それで。


「……なんか二人もこれでいいみたいなんで、『役立たず(スクラップ)』で登録しておいてください」


 もういいやこれで。


 マティさんは大きなため息をついて頷いた。



-----



 最近一人で居ることが多いクンツと会った。

 というかオイゲンとデボラを最近全く見ない。


「二人はどうしたんだ?」

「オイゲンもデボラも王都に居るよ。オイゲンは知り合いのやっている道場に行った。デボラは師匠に会いにな」


 王都か。

 たまに話は聞くが、行った事は無い。

 そもそもこのゲーラの街から殆ど出ないからな。

 周りの村やノルデン領にあるエトムントさんの屋敷のある村しか行ったことがない。


「あの時以来、俺も含めて皆思うところがあってな。ちょっとそれぞれで考えているんだ」


 クンツがあの時と表現するのは、俺が片腕を失った時だけだ。

 未だに自分たちのせいとでも思っているのか。


「あれはお前たちのせいじゃない。運が悪かったんだ」

「分かっているさ。だが、俺たちは自分たちの未熟さを知った。だから今はもっと強くなるための準備期間さ」


 分かっているなら良いが……。

 ゴブリン十数匹の群れを三人で狩れるのに未熟って事は無いだろう。


「デボラがもうすぐ帰ってくる予定だが、その後俺も王都に行く。オイゲンに会いにな」


 デボラは王都からクンツとオイゲンが帰ってくるのをこの街で待つ予定だとか。

 その後、改めて三人パーティでの活動を再開するというわけだ。


「それまでは一人だから、討伐に行くなら誘ってくれ。デボラも街で待つ間は一人だろうし、誘ってやるといい」

「そうか、分かった」


 そう言えば、クンツもデボラもCランクだったな。

 他のパーティは組んでくれないが、クンツかデボラさえ居れば討伐に行けるな。

 二人共実力は折り紙つきだし、ビビも成長している。

 四人だけでも簡単な討伐なら大丈夫だろう。


 それから暫くは、クンツを助っ人に加えた四人でゴブリンの討伐を繰り返した。

 相変わらずクンツは強く、俺たち三人を合わせた以上の働きを見せた。

 恐らくこの程度の依頼ならクンツ一人でも出来るのだろうが、俺たちが成長するようにか、必要以上の事はしなかった。


 あの時のように大量発生した群れに出くわすことも無く、無事にデボラが帰ってくる日を迎え、入れ替わるようにクンツは王都へ向け旅立って行った。

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