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二十三話 ふたりめ、そっけつ

 暗くなる前に街に戻ってこれた俺は奴隷商に足を運んでいた。


 奴隷商に来るのもこれで二回目か。

 前回は一人で来たが、今回はアルマが居る。

 アルマはここには良い思い出なんて無いだろうし連れてこないほうが良かっただろうか。

 ちらりと後ろを歩くアルマを見てみるが、スラム街の方向をぼけっと見ていた。

 相変わらず何を考えているか分からないが、いつも通りの様子だし大丈夫そうかな。


 とりあえず、入ろう。


 扉を開け店に入ると、前回と同じように若い男が近寄ってきた。

 後ろにいる用心棒も多分前回と同じやつだ。


 若い男は俺の前に立つと、俺を見てアルマを見て、もう一度俺を見てやっと話しかけてきた。

 どうやら俺の事を思い出したようだ。


「いらっしゃいませ。本日の用件も前回と同じで?」

「ええ」

「では店主をお呼びしますので少々お待ちを」


 若い男は奥に引っ込んでいった。

 俺は前回と同様、ロビーのソファに座る。

 アルマはその横に立ったまま座ろうとしない。

 座るように言ってみたが、首を横に振った。

 何やら思うところでもあるのかも知れない。

 まあ立っていたいなら好きにすればいいか。


 座って待っていると、用心棒の男がチラチラとこちらを見ていることに気がついた。

 正確にはアルマの腰に下げられた短剣だ。

 そういえば宿に武器を置いてくるのを忘れたな。

 背には弓も背負ってるし、座りにくいから立っているのかな。


 なんとなくだが、アルマならあの用心棒に勝てそうな気がする。

 今なら距離もあるし弓で先制すれば楽勝だ。


 だからと言ってそんな事はしない。

 する理由もない。


 おっと、奴隷商が来たようだ。

 なんて名前だったかな。

 奥からやってきた太った奴隷商はアルマを見て一瞬だけ訝しげな表情をしたが、すぐに俺に向かって話しかけてきた。


「ようこそいらっしゃいました。前回ご購入頂いた奴隷は大事にして頂いているようで、大変喜ばしい事です」

「ええ、よく働いてくれています」

「本日はどのような奴隷をお求めで? ああ、戦闘奴隷を買う予算が貯まったのですかな?」


 悪気の無さそうな顔で言うが、なんか嫌味に聞こえるぞ。


「いや、戦闘奴隷はいい。安い奴隷を見せてくれ」

「……左様ですか。では、奥の部屋へどうぞ」


 今日は態度が変わるのが早いね。

 まあいいけど。


 奴隷商に連れられ、奥の部屋に入る。

 奴隷商は奴隷を連れてくると言って、俺をソファに座らせると更に奥の扉から出て行った。

 アルマもちゃんとついて来たが、相変わらず立ったままだ。


 前回と同様、女がお茶を置いて出て行く。

 しかしひとつだけだ。

 アルマの分は無いらしい。

 喉が渇いている訳では無かったのでアルマに手渡すと、ひと息で飲み干した。


「お待たせしました。今当館で一番安い奴隷はこちらになります」


 戻ってきた奴隷商が連れてきたのはアルマと同じくらいの背丈の少女だった。

 まあ、子どもの方が覚えは早いだろうし、いちから育てるなら子ども方が都合はいいか。


 少女はくすんだ茶色い髪をしていた。

 がりがりに痩せていて、顔色が悪い。

 やはりこの奴隷商では安い奴隷の扱いが悪いようだ。


「こちらは最近王都の方から仕入れたのですが、ゲーラの街にはあまり居ないホビット族です。ホビット族は成長しても背丈があまり伸びませんので子どものような見た目ですが、年齢は十五になります」


 あら、アルマより年上だったのか。

 ホビット族といえば、たしか魔族の一種だと聞いた覚えがある。


「名前は?」

「名前はビビアンですね。ちなみに金貨三枚です」


 一番安い奴隷で金貨三枚?

 前回来たときにアルマと一緒に見せられた傷の女は金貨一枚だったよな。


「傷の女は売れたのか?」

「……ああ、あのときお見せした奴隷ですか。先月死んでしまいましてね」


 死んだ、か。

 若くなかったし、あの健康状態ならおかしくは無いが……。

 あの時俺が買っておけば、もう少し長生きできたかもな。


 傷の女が死んだと聞いて、アルマの表情が少し暗くなった。

 自分の身代わりになったとでも思っているのかも知れない。


 過ぎた事を気にしてもしょうがない。俺にそんな余裕は無いんだ。

 目の前の事を考えよう。

 この奴隷は金貨三枚。正直高い。

 払えない事も無いが結構きつい。


 だが……ダメだな。

 こんな状態の子どもを見せられて、放っておけない。

 ああ、やはり奴隷商になんて来なければよかった。

 こんな場所に放っておいたら、傷の女のように死んでしまってもおかしく無い。


「ちょっと話をさせてもらっても」

「ええ、構いませんとも」


 奴隷商に言うと、部屋の隅に移動した。

 相変わらずこの辺の気遣いはするんだな。


 ビビアンという名の少女に近づく。

 なんだか目つきが悪いな。

 ビビアンは深緑色の瞳でじっと俺の目を睨んでいる。

 屈んで視線の高さを合わせると、少し体を引き、目を逸らした。

 怯えているのかもしれない。


「自分の名前を言えるか?」

「……ビビアンです」

「家事は出来るか?」

「出来ません」


 受け答えはしっかりしている。

 目は逸らしたままだが。


「何か得意なことはあるか?」

「……一応、文字の読み書きは出来ます」


 ほう、それは優秀だな。

 俺はまだ書けない。


 受け答えはしっかりしているし、今は不健康な顔をしているが健康になればアルマのように可愛らしくなると思う。

 まだ若いし、金貨三枚でも安い気がするな。

 奴隷の相場なんてわからないが、なんとなく。


「なんで金貨三枚なんだ?」


 振り返って奴隷商に聞いてみる。


「……お客様に常連になっていただきたいから、お安く紹介しているんですよ」

「ははは、嘘はやめてくれ。もう買うと決めたから正直に話してくれ」

「……左様ですか。お客様はご存じないようですが、ホビット族は力が強くなく労働力としては期待されていませんので、奴隷としては安い方です。それでも遠くまで見渡せる目を持った種族ですので、弓の扱いが上手く、それなりに需要はあります。しかしこの娘は目が悪く、極端に近づかないとものが見えませんので、買い手がつかないのです」

「なるほどね」


 目が悪いのか。

 睨んでいるように感じたのは俺の事をよく見ようとしていたからか。

 だが、それくらい眼鏡をかければ済む話だ。


 ……眼鏡ってこの世界にあるのか?

 そういえば街で見かけたことが無い……いや、一度だけ見たな。


 眼鏡が存在するとすれば、金貨三枚はまだ安い。

 他にも隠していそうだ。

 アルマの時も何か隠していたが、今回も言う気は無いのだろうな。


「まあいい、買うよ。手続きをしてくれ」

「ありがとうございます。すぐにご用意致します」


 奴隷商はビビアンを連れて奥に引っ込んでいった。

 なんだか少し足取りが軽い気がする。

 何か大きな事を隠していたんじゃないだろうか。

 売れる見込みのない商品が無知の客にそこそこの値段で売れたってところか。

 まあ、それを知った所で、俺には買うしか選択肢は無い。


 やはり俺は成長しない男だ。

 こんなことではこの先、生き残れないな。

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