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二十二話 きせい、できず

 結論から行こう。


 結局のところ、年間金貨九枚で家を借り、そこに引っ越した。

 たいした荷物も無いので、ただの移動と言っても差し支えない。


 借りようとした家は金貨十枚と聞いていたが、改めて商人に会いに行くと金貨九枚で良いと言われた。

 理由はよくわからないが、エドさんとは縁がありそうですので、と言っていた。

 まあ、とにかく金貨九枚を四回の分割で支払うことにした。

 三ヶ月ごとに二枚支払い、四回目は三枚だ。

 この世界は十三ヶ月なので、最後の三枚を支払った後は四ヶ月空き、また一年を四回で支払うというわけだ。


 家を借りる事に踏み切ったのは、もちろんゴブリンの討伐が順調だったからだ。

 あれから数回、ローマンさん達を始めとした幾つかのパーティと組んで討伐を行い、どれも問題なく達成した。


 パラサイト作戦成功ってやつだ。


 ……表現は悪いがそういうことだ。


 初めてのゴブリン討伐からひと月ほどで引っ越せたわけだが、新たな問題は、タイミングの悪いことに引越し後に起きてしまった。

 タイミングというか、もう少し様子を見てれば回避できた可能性もあった訳で、結局のところ俺が焦りすぎただけだ。

 それで問題ってのは、まあ、いつもの通り金の話だ。


 俺はいつになったら安定した生活が送れるのだろうか……。



---



「……仕事が無い?」

「ええ、エドさんが希望されているような、ゴブリン討伐のパーティへの同行は誰も了承しませんでした」

「……『宵の酒(よいのさけ)』は?」

「聞いてませんか? 長期の討伐依頼に向かわれています」

「……『双百合(ふたゆり)』は?」

「同様の依頼に同行しています。そもそもDランクなので単独では討伐依頼は受けられませんよ。でも、この依頼を達成すればCランクになれるので、かなり張り切っていましたよ」

「……他のパーティは?」

「先ほども言ったように、了承しませんでした」


 確かにローマンさんが長期の依頼に行くことは聞いた気がする。酒の席だったので今改めて聞くまで記憶の彼方だったが。

 その時アデリナさんも同行すると言っていたような……。


「……他のパーティは何故、同行を断ったんですか?」

「戦力は十分ある。取り分を減らしたくない。とのことです」


 理由としては十分だが、おそらくもう一つ。

 『足手まといは連れて行きたくない』だな。

 パラサイト作戦が裏目に出てしまったか。


「どうします? エドさん達はDランクですので、単独パーティでの魔物討伐は許可出来ませんが」


 そういえば、アルマは俺と同じDランク冒険者にランクアップしている。

 最初のゴブリン討伐の数日後にマティさんから言われた。

 俺と同様にランクアップの試験なんて受けていないが、一体どういう訳だかギルドマスターが許可したらしい。

 このギルドは適当だと思う。


「二人だけで行こうなんて思いませんよ。許可があってもね」

「じゃあ今日はどうされるんですか?」


 やばいな。今日だけでなく、今後の問題にもなってくる。

 ローマンさん達以外のパーティが同行させてくれないとなると、討伐に行けない。

 ローマンさん達が戻ってきても今回のように長期の討伐に行ったり、街にいても他の依頼を受けていたら同行してもらえない。

 俺たちに合わせて依頼を受けてもらう訳にも行かないし……。


 ああ、やばい。

 今更採取なんてやってても家賃払えないよ……。

 ふと、袖を引っ張られる感覚に気づき、そちらを見てみるとアルマが何やら真剣な表情をしていた。

 俺が振り向いたのを確認すると、両拳を顔の横まで上げ、力強く握る。

 そしてゆっくりと頷いた。


 だからなんだ。

 何をしたいのか俺には全く通じなかった。


 俺が何も言わず前に向き直ると、アルマはショックだったのか肩をがくりと落とした。

 それを目の端で捉えつつも、気を取り直して話を続ける。


「とりあえず今日は動物の素材収集か薬草の採取を受けます」

「わかりました」


 マティさんにお勧めの依頼を紹介してもらい、今日はそれで食いつなぐことにした。



---



 本日の依頼は結局、狼の素材の収集に落ち着いた。

 今となっては、アルマと二人でも狼を狩ることができる。

 殆どが、群れから離れた狼にアルマの弓で奇襲を掛ける形だ。

 油断は禁物。

 落ち着いて一匹づつ狩れば、なんとかなる。


 昼過ぎには必要な数の素材が集まり、アルマと二人並んで街に戻るべく森を歩く。

 周りの警戒はアルマに任せ、俺は荷物を背負いつつ考え事をしている。


 今のままでは、家賃が払えない。

 これを解決するにはどうすれば良いのか。

 それには、生活環境を変えるか、仕事を変えるか。


 生活環境を変えるなら、家を諦めるということになる。

 だが、家は一年間必ず住むのを条件に分割払いを了承してもらったという事情がある。

 家から出るのは無理だ。

 食費などの節約とか他にも色々やれる事はあるだろうが、結局は焼け石に水。

 家賃を賄えるほどは見込めない。


 となると、やはり今までやってきたように仕事を変えるしかない。

 配達からポーター、採取から合同パーティでの討伐へと変えてきたように。


 現状の問題点は、俺たちの稼ぎが他の冒険者に影響され過ぎているということだ。

 そのせいで、家賃を払えるだけの金を安定して稼ぐことが出来ていない。

 これを改善するには単独パーティでもゴブリンを狩ることが出来なければならない。

 アルマはよく頑張ってくれているが俺たち二人だけでは無理だ。

 ベテラン冒険者であるローマンさんも、イェニーさんと二人だけでは討伐依頼は絶対に受けないのだから、俺たちもその慎重さを見習うべきだろう。


 つまり、俺のやるべき事はパーティの戦力強化だ。

 パーティメンバーを増やし、単独パーティでゴブリンを討伐出来るようにする。

 ああ、あとCランクに上げないと許可が出ないし、ランクを上げとこう。

 どうすれば上がるかはわからないが、それはマティさんに聞けばいい。


 パーティメンバーの増員か……。

 恐らく、というか確実にパーティに入ってくれるようなソロの冒険者は居ないだろうな。

 片腕の男と、成人前の子供のパーティだ。それだけで敬遠される。

 その上、俺は『無能のエド』だ。

 そんな奴のパーティには入りたくないだろう。

 最近はパラサイト作戦でさらに悪評が広がっているだろうしな……絶望的だ。


 となると、アルマと同じように奴隷を買って鍛えるしかないな。

 今なら資金はあるが、だらだらとやっていたら奴隷を買おうにもその資金が無くなる。

 すぐに行動を始め、次の家賃の支払いまでにお金を貯めなければいけない。

 猶予は三ヶ月もない訳だ。


 よし、指針は決まった。

 街に帰ったら早速奴隷商に行こう。


 その後特に何も無く街に戻った俺はアルマを引き連れて奴隷商に向かった。

 あ、もちろん先に冒険者ギルドに寄って報酬は受け取ってある。

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