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十話 ほうしゅうと、らんくあっぷ

 冒険者ギルドに向かっている間、なぜかデボラの距離が近かった。

 俺の左側を離れずに歩いている。

 デボラは身長が低いので青い髪のつむじがよく見える。

 あれ? よく見ると耳が長いな。


「デボラはエルフなのか? 耳が長いけど」

「そう、エルフ。知らなかった?」

「今初めて知ったよ」


 まあ、魔法使いだし魔法の扱いが上手いエルフであることに不思議な事はない。

 そういえばこの世界に来てから生きることに必死で周りに目を向けていなかったかもしれない。


 他人を意識して見てみると、結構印象が変わる気がする。

 デボラはかなりの美人だった。

 エルフは長命種なので歳は判断がつかないが、若いクンツとパーティを組んでいるくらいだしそんなに俺と違いは無いだろう。


 改めて見てみるとクンツもオイゲンもかなりのイケメンだと言えるだろう。

 クンツは金色の短髪が似合う爽やかな顔立ちをしているし、背の高いオイゲンも若いはずだが、かなりの落ち着いた雰囲気がする。


 ううむ、なんだか主人公臭がする。

 そんなよくわからないことを考えているうちに冒険者ギルドに到着してしまった。


「エドさん! よくご無事で!」


 ギルドに入ってすぐ、マティさんが声を掛けてきた。

 そんな大声はやめてくれ。ほら、ギルド内の怖い顔のお兄さんたちがこっち見てる。


「よう、エド! もう大丈夫なのか? 聞いたぜ、ゴブリンを一人で倒したんだってな!」

「お久しぶりです、ローマンさん。おかげさまでとりあえず生きてますよ。でも倒したのはクンツです。俺じゃありません」


 マティさんの大声で俺に気付いたローマンさんが話しかけてくる。

 話は聞いたようだが、尾ひれがついているようだ。

 俺が否定すると、クンツが話に割り込んできた。


「何言ってんだ。俺が来た時にはゴブリンは無力化されていただろう。俺は止めを刺しただけだ」

「目を潰しただけでピンピンしてたし、お前が来なければ俺は死んでたんだ。ほとんど負けだよ」


 あれは結局俺の負けだったんだ。

 村人を助けるという目的は達成したとはいえ、ゴブリンは死なずに俺が死にかけた。

 これを勝利とは言えまい。


 クンツとローマンさんはまだ何か言いたげだったが、二人を押しのけて受付へ向かう。


「マティさん。報告するよう聞いたんですが、ここで話せば良いんですか?」

「……あ、いえ、ギルドマスターをお呼びしますので、奥の個室で待っていてください」


 自分が意外と大声を出したことが恥ずかしかったのか、顔を赤面させ口を押さえていたマティさんは、俺が話しかけるとそう言って奥へと行ってしまった。


「というわけで俺は報告がありますので、失礼します」

「ああ、引き止めて悪かった」


 ローマンさんはそう言うと、相棒の待つバーへと戻っていった。また昼間から酒を呑んでいたようだ。

 酒呑みの背中を呆れ顔で見送り、俺はクンツたちと一緒に奥の部屋に向かった。


「奥の部屋に入るのは初めてだな」

「俺たちはこの前ランクアップした時に入ったな」

「ランクアップ?」

「ああ、Cランクになったから今回のゴブリン討伐が俺たちだけのパーティで受けれたんだ」

「へー。で、ランクってなんだ?」


 クンツが固まった。

 いや、クンツだけじゃなくデボラとオイゲンも固まっている。


「どうしたんだよ。なんか変なこと言ったか?」

「……変だろう。冒険者に登録する時に説明を受けなかったのか?」


 いち早く復帰したオイゲンが言う。

 説明? そういえばされた覚えがないな。

 周りの冒険者がなんかランクがどうとか話していた覚えはあるが、興味が無かったので覚えていない。


「……とりあえず入ろう。報告を終えたら説明してやるよ」


 続いて復帰したクンツが言う。

 そうだな、部屋の前に突っ立ってても仕方がない。




 部屋に入り少し待つと、お茶をお盆に乗せたマティさんと禿げた色黒のおっさんが入ってきた。初めて見る人だな。

 ギルドマスターを呼ぶと言っていたし、この人がそうだろうか。


「お待たせしました。こちらがギルドマスターの――」

「貴様がエドか。一応他の三人からも報告は受けているが、改めてお前からも聞かせてもらおう」


 マティさんがお茶を置いて紹介しようとすると、それを遮って話始めた。

 なんてせっかちなおっさんだ。

 威圧感のあるごついおっさんに見つめられつつも俺は一から説明を行った。


「だいたい分かった。事前の報告とも相違ないし、報告はこんなもんで良いだろう。あとは調査結果待ちだ」


 報告中、じっと俺の目を見つめていたおっさん、もといギルドマスターは茶を一口で飲み干しそう言った。

 なんでそんなに見つめてたんだ。ものすごく話にくかった。


「あとは報酬の話だが、マティルデに任せる。俺は仕事があるからこれで失礼する」


 ギルドマスターはそう言うと返事を待たずに立ち上がって扉へ向かう。

 やはりせっかちだ。


「あと、こいつのランクを上げてやれ。それじゃあな」


 扉の前で立ち止まったかと思うとそう言い残し、やはり返事を待たずに出て行ってしまった。


「……すいません、せっかちな方で」

「……いえ、ギルドマスターともなるとお忙しいでしょうし、構いませんよ」

「そう言っていただけると助かります。それで、報酬の話ですが」


 その後、マティさんから報酬の説明を受けた。

 今回、数匹のゴブリンの討伐の予定だったが、大量発生したゴブリンの早期発見、討伐したことにより、ギルドから報奨金が出るらしい。

 さらに大量のゴブリンの素材の売却金額が入る。

 急いで戻ってきたため素材は回収していないが、調査に向かった冒険者がついでに回収してきてくれるらしい。

 俺はポーターとして同行したが、今回は村を守ったこともあり、クンツたちと同様に報奨金が支払われる。

 倒したのはクンツだと言ったが、あくまでも四人で村を守ったと判断されたとのことだ。

 まあ、懐も寂しかった所だ。ありがたく受け取っておこう。


「ランクの方ですが、エドさんはDランクに上がることになります」

「そういえばランクってなんですか? クンツに聞いたら冒険者登録する時に説明を受けるらしいんですが」

「……え? 説明してませんでした?」

「ええ、聞いてません」


 ランクの話になったので聞いてみると、マティさんは顔を蒼白にして俺に何度も謝ってきた。

 どうやら最初に説明するべき話をし忘れていたようだ。


 なんとかひたすらに謝るマティさんを落ち着かせ、改めて説明を受ける。

 ランクとは、冒険者の実力を表す指標の一つらしい。

 Eランクから始まり、Dランク、Cランクと上がっていく。

 冒険者になると始めはEランクになり、魔物の討伐は受けられない。

 依頼を何度もこなし、ギルドの試験を受けるとDランクに上がる。

 Dランクになると、Cランク以上の冒険者の同行があれば魔物の討伐に参加出来るようになる。

 Cランクになると、やっと単独での魔物討伐を許可されるのだ。もちろんそこまで強くない魔物に限るが。

 そうやってランク付けすることで、無茶な依頼を受けないようある程度制限をつけているというわけだ。

 そして俺はDランクに上がったというわけか。


「でも俺試験受けてないですよ。ランクアップの」

「試験の内容も合否もギルドマスターが決めます。ギルドマスターが上げろとおっしゃっているのですから、なんら問題はありません」


 そう言われれば納得するしか無いが……。

 だが、ランクを上げた所で、この腕ではもう冒険者を続けることは出来ない。

 俺がちらりと無くなった左腕を見ると、部屋の空気が少し重くなった気がした。


「と、とにかく報酬は明日支払います。明日の朝、またギルドへ来てください。あとギルドタグを更新するのでそれも明日お渡しします」


 マティさんが重い空気に耐えられなかったのか、やや声を張り上げてそう言った。


「わかりました。では、俺たちはこれで失礼します」


 これ以上長居する理由もない。

 俺はクンツたちと部屋を後にした。


「じゃあ、俺たちは宿に戻ってるよ。エドの荷物は宿に預けてある。教会のシスターに解放されたらまた宿に来てくれ」

「ああ、分かった。ありがとう」


 介抱じゃなく解放な。あのシスターの様子じゃ今晩は教会泊まりかな。

 病室って雰囲気のするあの部屋はなんとなく居心地が悪いんだよな。白い豆のスープも美味しくないし。

 ああ、宿の飯が恋しい。


 クンツたちと別れ、教会へ向かう。

 その足取りは、少し重かった。

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