猫が人に恋をした噂を耳にした
お開きいただきありがとうございます。
今回も一ページです。申し訳ないです……。
恋をすると猫になる。
学校ではそんなうわさが流れている。
でもそのうわさ話はちょっと違う。うわさはうわさ。しかたのないことかもしれない。
本当の話、猫という種族が人間に恋をすると、いつの間にか猫という種族が人間になる。だから、ちょっと話が違うんだ。
夕焼けの陽を浴びながら、猫は自分の想い人に思いの丈を告げている。
人間と猫の恋。ちょっと可笑しくて、思わず口を抑える。笑い声が彼らに届かないよう、壁に背中を預けたまま、ゆっくりと目を瞑る。
――『最初はお友達から』
猫の想い人はなんて優しい心の持ち主か。彼女の心は温かい木漏れ日を凍り付かせたかのようだ。『お友達』という甘美な言葉を猫に与えて、猫をより深く知ろうとする。それはきっと好きになりたいという思いがあるからだろう。
だが、猫はどうだろうか。
彼は化けた猫だ。猫が人間に? なんておこがましい。いや、おこがましいという言葉は不適当だ。僕の物差しで測るようなことはやめよう。
彼は怒りを覚えている。この言葉が適切か。ああ、だが彼の怒りも理解できよう。
彼はこの時、この瞬間が〝勝負〟だったのだ。それは彼女と付き合えるかではない。いや、それも大事であろう。しかし、猫は猫でも化けた猫。化け猫の子供ともいえよう。天から押し付けられた試験は恋をしあうこと。非常に不条理だが、とても論理的な試験だ。人の心を知らぬ人間はいないのだから。
そして、猫は失敗したらしい。
彼女の意図を汲み取れず怒り。彼女にはない汚い部分を勝手にくみ取り怒り。彼女の顔と声に対して途端に苛立ちを覚え。
最後には全てタベテシマイタイ……。
猫の感情は全てここに辿り着いただろう。そう確信したと同時に私は教室の中に躍り出て猫の感情を美味しくいただいた。
――――オイシイ。
ニタァと笑みを浮かべそうになるのを必死で抑えながら、彼だった猫を『哀れ』んでから撫でる。
茫然と佇んでいる彼女に振り向きながら、言う。
「危ないところだったね」
あらかじめ用意していた言葉だ。彼女には普通の男の子が自分を救ってくれた、と見えたはずだ。感情を吸い取ったことには絶対に気づいていない。その証拠に、どこか恍惚めいた表情で僕を見つめているのだから。
よく見ると彼女の肌はきめ細かく、セーラー服にかかる黒髪は昔ながらの艶めかしく、美しい。
邪な目を悟られないよう、「猫に化かされていたんだ」と白々しくいうと、そっとさっきまでライバルだった彼を抱えて外に出してさりげなく視線を猫に向けさせる。
「あ、ありがとう……あの、あなたは?」
「僕か」
その場で簡単な自己紹介をしながら、内心でこの学校の制度に感謝を述べる。
あのうわさには続きがある。
最初の猫は〝勝負〟で勝つと、末永く結ばれる。
それは彼女が生を全うしても、ずっと、ずっと。
僕は知っている。うわさは本当のことだと。
猫であるゆえに。
お読みいただきありがとうございます。
もしかしたら矛盾があるかもしれません……。
若干あれです。諸事情でパソコンがあまり開けないのでこんな短編と相成りました。