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マザーランド  作者: もぐもぐら
3/3

トレジャーハント

黄色のTシャツにジーパン。背中には『萌道』なる謎の単語がプリントされている痛々しい格好のマサシ。


半袖の迷彩柄ツナギ。何が入っているか不明だがパンパンに膨れた迷彩柄のウエストポーチを付けた格好のミハル。


間違いなく変態コンビだ。


個性的な出で立ちの二人だが『ドンキー』ではそれほど浮いている訳ではなかった。


この店自体が名前の通り変わっているので基本的には繁盛している訳もなく決して多くはない常連の大半が変わり者なのだ。


毎日同じ格好で来ているおじさん。ビシッとスーツで決めているがほぼ毎日来ているサラリーマン風の男。ゴスロリの女。ずーっと独り言を言っている青年。力士じゃねーの?と思わせるちょんまげデブ。裸足で走りそうなアベベ風の黒人。等など、常連達はマサシ達を退屈させなかった。


「長年のハンターとしての経験と勘が、ここに間違いないと言っている。」



若干22歳のミハルは並んで空いている二台をぐわしの手をした右手で指差す。



「経験と勘ねぇ…とりあえず気合い入れてやろうぜ!パラレルゲート欲しいのよ俺。」



祈るようなポーズをし、胸で十字を切って椅子に座る仏教徒のマサシ。



「パラレルゲートは危ないって話らしいね。」


ぐわしをして右手がつったのか右手をブンブン振りながらミハルもマサシの右隣の椅子に座る。


「特にマサシみたいなフリーターとか無職の奴が、あっちの世界から帰ってこれなくなるみたいだ。」



ミハルはツナギの右ポケットから財布を取り出し千円札を台に入れ、力強くハンドルを握り真剣な顔で言う。



「お前もだからな!しつこいようだが、お前は無職だからな。」



マサシは財布をポケットに入れるんならウエストポーチ必要無くない?ってか財布も入れずに何を入れててそんなにパンパンなの?と思いながらそこにはあえて触れなかった。


「危ないのか?帰ってこれないって、んな馬鹿な!だってゲームとかをリアルっぽく体感させるだけだろ?簡単に言えば。」



マサシは早速リーチがかかったので嬉しそうにボタンを連打しながらミハルにたずねた。



「パラレルゲート…その名前が示す通り別世界への門。」


「リアルっぽくなんてチープな事ではなく、正にその世界に入る事ができるのです。」



天草四郎時貞の生まれ変わりを名乗るあの人並の雰囲気を出してミハルは答える。



「いや。そうじゃなくて…メーカーの宣伝文句が聞きたいんじゃないのよ!詳しそうだから聞いてるんですけどっ!」



全然似てなかったので軽くスルーしてマサシはリーチが外れたので台を叩く。



「まず操作性が飛躍的に向上するんだよ。脳からの信号をそのまま伝える様な形だからコントローラーやマウス、キーボードが必要なくなるんだよぉマサシくっふぅーん。」



口にも顔にもださなかったが誠に腹立たしい男だとマサシは思った。


『リーチ』

ミハルの台にもリーチがかかる。


「思い通りに動かせるって事はゲームの世界や仮想空間も現実と大差なくなるって事なんだね。夢と現実を錯覚するようなものかな。」


藤岡隊長を意識した言い回しでふんわりとした事しか言わないミハルも詳しくは知らないようだ。


『やったね!お兄ちゃん!』


打ちはじめて間もなくあっさりミハルの台が大当りした。



「すげーなっ!お兄ちゃん?。ってかこの台そういうやつだったの?全然違うし…俺のも当たると言ってくれんの?」



当然、背中に『萌道』を背負う男マサシは色んな意味でテンションが上がっていた。



「言ってくれますよ。当たればね」



ミハルは『どうだ!』と言わんばかりに、どや顔だ。



「俺の台も当たんのか?トレハンの勘だと間違いないんだろ?」


『リーチ』

言ってるそばからマサシの台にチャンス到来。

マサシはボタンをバンバン叩く。



「トレジャーハンター。略してトレハン…キャッチーだねぇ。俺の台が当たったって事はマサシの台も当たるはずだ。自分で言うのもアレだけど、凄腕のトレハンだからねぇ。」


トレハンが気に入ったらしく嬉しそうにミハルは鼻の穴を拡げて誇らしげに語る。



『やったね!お兄ちゃん!』


これまたあっさりとマサシの台も大当りした。



「やったぁー!やったよぉ!兄ちゃんはっ!お兄ちゃんだってやればできるんだっ!さっきまで劇画風だったけど、当たったとたんに草冠に明るいと書いて『萌え!』な感じになったぞっ!なんだこれっ!超萌えるな!」



誰のお兄ちゃんでもないマサシは狂喜乱舞せんばかりの勢いだ。



「いやっ…ちょっと…騒ぎすぎだろ。皆の視線が痛いって!落ち着けよお兄ちゃん!」



『お前はお兄ちゃんじゃないけどな。』と思いながら可哀相な子を見る目をしてミハルは周りから視線を集めるマサシをたしなめた。


「この台のスゴイ所は萌えな所だけじゃないんだよマサシくーん。」


ミハルは自慢げに言う。


「と。言いますと?」


マサシは少し落ち着いて聞き返す。


「この台って全面液晶パネルだから、ゲームのパチンコを究極に進化させたみたいな感じだね。釘も玉も全部グラフィックだから受け入れられない人も多いらしいけど、プログラムやデータの書き換えで新台にできるんだよ。オンラインでメーカーからダウンロードして台の入替もできるからコスパが今までと比較すると桁違いなんだね。」


どうやらミハルは藤岡イズムにやられている様で、『チョイチョイ腹立つな。』と思いながらマサシは


「そいつは萌えるな。」


と、だけつぶやくと自分の台に集中する。ミハルのつまらない話よりも萌え映像を愛でる事の方がマサシにとっては百万倍も重要なのだから。


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