トレジャーハンター
「パラレルゲートねぇ…使ってみたいけどそんな金無いって普通のフリーターにはさっ」
そう言いながら昨日買っておいたあんパンを食べ恨めしそうにニュースを観るしかないあたりも普通のフリーターだとマサシは自負していた。
机のうえに置いてある携帯を取りマサシはメールを打ちだす。
「バキューン!」
マサシはメールを送信した様で痛々しい効果音を自分で言ってしまっている。
テレビからはパラレルゲートの話がまだ続いている
「私も使っていますが、これは本当にすごいですし便利ですよ…」
タレントやってたと思ったらいつの間にかマルチメディア評論家になっていた小太りのオッサンが熱弁している。
「先進的で利便性に優れている物が必ずしも安心、安全でこれからのグローバルスタンダードになるとは限らないでしょう。例えどれだけ便利でもそれを上回る危険性があればそれは危険な物なだけです。原子力だってそうです…」
政治家でタレントで評論家でって何だか分からなくなってるおばさんが反対意見を浴びせ掛けている。
「石橋を叩いて渡るのも必要だけどそればっかりじゃあ時代に取り残されるでしょ。原子力って今関係なくね?」
マサシがテレビに向かって独り言をぶつけていると
『そんなにメールが大事なの?あんたなんかメールの角に頭ぶつけて死んじゃえば…』
さっき送った返信が来たようでピピッと開いて読んでみる。
「あいつもやっぱり暇か。」
ニヤニヤしながら嬉しそうに返信メールを打つ。
『とりあえずいつもの店に現地集合。加速装置並の早さで来いよ。っと』
「バキューン」
マサシはメールを送ると、テレビを消して、その辺にかかっている服にパパッと着替えて足早に出掛けた。
平日ど真ん中の水曜日午前10時前、おのずと集合する店が分かりそうだ。
普通のフリーターとやらの休日にはもったいない位に天気は良好だった。お世辞にも綺麗とは言えない薄汚れた愛車の軽トラを走らせマサシは現地に到着した。
「加速装置が聞いて呆れるぜ!おっせーなー」
マサシは待ち合わせをした相手がまだ着いてないので文句をもらす。
ほどなくして派手なチーター柄の軽バンが現れた。マサシの軽トラの隣に回り込んできて止まり運転席から男が降りてきた。
「おつかれちゃーん。」
車から降りてきた男はそう言いながらマサシと合流した。
「ミハルよぉお前の加速装置は故障中か?」
マサシは自分より遅くきたミハルに嫌味を言った。
「俺の名前はミハル。トレジャーハンターだ。」
マサシの嫌味はミハルの耳には届かないようだった。
「マサシとは仕事中に知り合った。まぁ腐れ縁ってやつだ。」
自称トレジャーハンターのミハルはあさっての方向をみて話している。ミハルもマサシと同じく本人達はいたって普通のつもりだが世間一般では『変わった人(痛い人)』である。
「その第三者に向かって話すのなんなの?そして高校からの付き合いなのに何故嘘をつく!」
「そしてなによりも、トレジャーハンターなんて仕事はねーよ!たんなる無職だろお前!」
マサシは毎度の事なので大きな溜め息をついた。ミハルとは高校からの付き合いの同級生なのだが、高校を卒業して就職するでもなくフラフラしていたミハルがいつからか自分でトレジャーハンターを名乗る様になったらしい。
「俺の仕事はトレジャーハンターだ!それで今日の仕事はいつもの場所でお宝を探すって事だな?」
ミハルは鼻の穴を拡げている。根拠の無い自信なのか自称トレジャーハンターと言う仕事に誇りを持っているようだ。
「まぁなんでもいいから、そのトレジャーハンターの勘ってやつでお宝台を見つけてくれよ」
毎度の事ながら呆れてマサシがそう言うと二人は肩を並べて店に入って行った。
店の看板には
『出玉の殿堂!ドンキーマウス!』
色々言いたくなる名前だが二人にはお気に入りのパチンコ屋。もちろん常連客からは『ドンキー』の愛称で呼ばれている。
変人達の聖地『ドンキー』は二人の期待を裏切らず今日も客がまばらだった。