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どう打つの?森  作者: 工場長
東四局・それぞれの道へ
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第四話 今日はそばにいて欲しい、と思ったり

 よくよく考えてみれば大晦日だった。

 普段よりも静けさを増した寮を抜け出し、麻雀部部室に着いたものの誰もいない。

 遠くからほのかに流れ来る醤油の香りを鼻に受け思い出す。

「そうだ、今日は大晦日だ」

 香りの正体はおそらくは正月用にと詠子が作っている雑煮。

「詠子ちゃんみたいに特に用が無い限りここには来ないか」

 これからどうするか、部室の扉を閉める和平にある考えが浮かぶ。

「手伝いに来た…、と詠子ちゃんのところ行ってみようかな?」

 あわよくば味見と称して今日の夕飯にありつけるかもしれない。なにせ寮の食堂は今日から休みなのだから。


「あやうく食堂に行って絶望するところだった……」

 ため息をつきながら詠唱魔術研究会の部屋へと歩く。窓の外を眺めればいつもよりも動きの無い光景に改めて今日が何の日であるかを実感できる。

 動く人影は見えなくても声は聞こえる。研究会に近づくにつれて賑やかさが増していく。

 最初は周りが静かなせいかと思った和平だっが、更に近づくにつれて理由がわかった。明らかに研究会ではない者の声がする。しかもそれは聞こえてくるそれの大部分を占めている。

 半ば開いている入り口から中をのぞくと研究会の詠子は無論のことだが、麻雀部の一香・杏子・彩・三華と顧問の直、そして凜。つまり現時点で葵塚市にいる麻雀部の女性全員がこの部屋にいることになるのだ。

 ちなみに純と正二は実家に帰っている。最初は帰るつもりはなかったのだが家族からの電話で里心がついてしまったようだ。

(……女性しかいない。研究会の男子はどうした? さすがにこれは入りづらいな……)

 最初から男より女性が多い麻雀部ならばともかく、元々男が多いはずなのに女性しかいない世界。その光景を眺めて立ち去ろうとした和平だったが

「あ、和君だ。貴重な男手だ!!」

 と、凜に見咎められてしまった。

「部長さん、逃げないでください!」

 凜の声に反応した彩が素早く和平の腕を捕らえる。同学年の三菜がかつて陸上をやっていたために印象は薄いが彼女も運動神経はいいほうだ。

「分かった分かった。逃げないから」

 腕を掴まれるどころかぶら下がろうとされたので、和平は観念した。


「……ところで男手って何をすればいいんですか?」

 空いている席に座って辺りを見回してみるが特に自分がすべきことが見当たらない。

「森部長のお役目はボディーガードです」

 三華が紙コップにジュースを注いで和平に渡す。

「はい、ボディーガード?」

「そう、わへい君しか男の子いないからさ、変な男が入ってこないためのボディーガードよ」

「というのは建前で、本当はなんかあったときにすぐ動いてくれそうな雑用係が欲しかったの!」

「あん子さん……それ言っちゃ台無しですから」

 杏子の正直な答えに詠子が思わず突っ込みを入れる。

「……何かあったときって材料が足りなくなったとか……?」

「うん……まあ、大丈夫だよ、和君。誰かは一緒に行くから」

 凜が苦し紛れにフォローを入れる。

「じゃあ部長さん、何かあったら私と行きましょう。この前の福引のときは私は用事があって行けなかったので」

「それなら風邪で寝込んでいた私も森部長のお供をします!」

「……はは、ありがとう彩に三華。もしそうなったらね」

 福引に居合わせなかった二人がそのことを聞いて自分がそこにいなかったことに大層悔しがっていたことをその場にいた純が和平に話している。

 もう一人福引にいなかった人物である凜は元々大学生なため、あの日のような突発的なイベント(?)に居合わせないことが多い。そのため悔しがることはなかったが、全自動麻雀卓を発見するや目を見開きながら「どうしたの、和君、これ!?」と、その場にいた和平を壁際まで追い詰めた。手を壁につくことはしなかったが。

(あんなに長く凜の瞳を見るなんてもう無いだろうな……)


「どうせ味見といいながら晩飯食おうとこの部屋に来たのだから、もしもの事とは言えそのくらいは働いてもらわないとな」

 直が紙コップへビンに入った何かを注いでいる。注ぎ終えた後で机に置かれたビンのラベルを見て和平は驚いた。

「『料理酒』って先生!」

「うん? 料理酒は調味料だがアルコールだぞ。だから高校生のお前はもちろん、大学生だが未成年の凜もこれを飲んじゃダメだぞ」

「じゃあ先生が飲むんですか!?」

「わへい君、それは違うよ」

 一香が直から料理酒の入った紙コップを受け取る。

「あくまでもこれは調味料。計量コップがないから紙コップで代用しているだけだから」

「あ、なんだ……」

 さっと鍋へと投入される料理酒を見て和平は安堵の息を吐く。

「そう言うこと、だからこのうっすらと黄色い液体は飲んじゃダメだぞ」

 そう言いながら料理酒の入ったビンを和平に近づける直。しかし彼女が言うほどその液体は黄色には見えない。黄色と言うより茶色、それも僅かに混じっているというだけ。透明なためにビン越しに見える壁の色のせいではないかと和平は考える。

「わかりました。紙コップの中を見てこの色だったら飲んではダメってことですね」

「分かればよろしい」

 そう言いながら直は次に使うときのためか紙コップを一香から受け取ると料理酒を注ぎ始めた。


「さて……お雑煮はこれでいいとして……。あとは鮭が余っているからこれでお夕飯を作ろうかしら?」

「えっ、いいの!? 詠子ちゃん」

「はい、あん子さんたちが手伝ってくれたおかげで予想よりも早く終えることが出来たので」

 時刻は午後七時を回ったところ。これから作るとなると夕飯にしては少し遅くなる時間か。

「それならば年越しそばも食べようぜ」

「あ、いいですね先生。ちょうどいい時間ですし」

 直の提案に凜がにっこりと微笑む。

「でも……蕎麦が無いですね……、部長さん!」

 彩が満面の笑みを浮かべながら和平を見る。

「あ……、その時が来ちゃったようだね……」

「そうだ、わへい君の出番だぞ!」

「大晦日でこの時間ですが、このスーパーなら営業しているはずです。蕎麦つゆはこっちで作るので蕎麦だけで結構です」

 詠子が地図代わりにとスーパーのチラシを渡す。

「オッケー、蕎麦以外に欲しいものある?」

「蕎麦だからネギとか、あとあったら山菜そばにしてみるとか!?」

 そう答える三華はすでにコートを羽織っている。

「……そこまでボリュームが多いと鮭もあるからご飯は炊かなくてよさそうですね」

「詠子ちゃんご飯炊かないの!? それじゃあわへい君、私のために油あげ買ってきて! きつねそばにしたい!」

「和君、私は天かすがいいかな」

「天ぷらそば『そばぬき』で」

「先生、なんですかそれ!? ああもう、なんか注文が多い! メモするからもう一度」

「油あげ!!」「天かす」「山菜!」「やっぱりそば入れて」「私は月見で……あっ、卵はありました」

「順番に言って! 一度に言わないで!」

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