表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どう打つの?森  作者: 工場長
東三局・いろいろと面倒が起こっています
PR
84/95

第二十八話 攻める時はオリているかのように(二)

 杏子が里美たちに敗れてから一夜明け――

 和平は一香とともに学園の屋上にて彼女の持つノートパソコンを眺めている。

 なぜこうする必要があるのかの詳細を和平は知らない。今朝方自分を夢の世界から引きずりだした一香の電話にてここにいるよう言われただけだ。

「後で説明するから」

 そう言われたものの、未だその機会は訪れない。

 画面には凛が何か楽しそうに一人座っている。

 凛以外には誰もいない教室。この様子を撮影している人間はロッカーに隠れているらしい。

(話の流れから察するに撮影者はあん子だな。昨夜凛の家でそれぞれの役割を決めたんだろう。)

 と、和平は一香越しに画面を見つめている。


 凛のいる部屋を訪れる人間が現れたようだ。ドアをノックする音が和平と一香の耳に入る。

『どうぞー』

 凛はそれが誰だかわかっているのだろう。嬉しそうに返事をする。

『し、失礼します!』

 入室者は凛とは対照的に緊張の声を上げる。しかも入ってきたのは一人ではない。

「こいつら……!」

 和平は凛と共にいる二人の男を見て息を呑む。

「そういうことなのよ」

 一香も知っていたのか別段驚く様子を見せず

「ここからが本番だよ」

 と、和平に視線を向けた。

 入ってきたのは新入部員の章三と直基。


『二人とも、私のために来てくれたのね!?』

 凛は少々はしゃぎながら二人を迎える。和平はその動きが大げさに思えた。

『は、はい……』

『そうです』

 しどろもどろになる章三とはっきり答える直樹。

『私が君たちのこと見ていたの気づいてくれたんだよね!?』

『は、はい』

 ここは直樹一人答える。

 章三の顔が赤いのがカメラ越しからでも十分伝わっている。

(なんなんだこれは……)

 まだ詳細を知らされていない和平は屋上に降り注ぐ秋とは思えない日差しに少し不快を覚える。

 それに気がついたのか一香は和平のズボンを軽く摘むと顔はパソコンに向けたまま

「まだ、まだだから」

 と、宥める。


『そっか、私が君たちを気にしていたの知っていたんだ。……だから来てくれて嬉しいな』

 凛は二人に笑顔を向けながら近づく。

(おそらく目は笑っていない)

 和平はそう思っているが彼女の笑顔を目の当たりにしている二人(特に章三)は真に受けてしまう。

『こんなところに呼び出しからには……何をするか分かっているよね?ふ・た・り・と・も』

 優しく問い掛けた後で凛は章三を向いて

『章三くん』

 きっと、思いっきりハートマークをつけたであろう囁きを凛は彼に投げつけた。

 それが章三にある欲望のスイッチを押したようだ。

『り、凛先輩!』

 章三が凛の両肩を掴む。

『ど、どうしたの?そんなに興奮して』

『章三、俺も手伝うぞ』

 章三の振る舞いに慌てる凛を後ろから直樹が抑える。


「凛!」

 二人の暴挙にたまらず声を出す和平。一香は冷静に

「わへい君、行くよ」

「ど、どこに?」

 ズボンを引っ張られても三人(と杏子)いる部屋がどこか分からない。

「ちょうどこの真下の辺りよ!」

 一香はパソコンをたたみ、ドアへと走り出す。

「ち、ちょっと待って! そろそろ話してくれないとどうすればいいか分からないよ」

 和平の焦りが混じった叫び声を聞いた一香は

「それもそうね」

 立ち止まると和平に近づく。その場にいても声は十分聞こえるのに和平の顔にまで口元を近づけるので、和平には別の意味での焦りが加わる。

「あの二人、スパイなのよ」

「スパイって二人が!?」

「そう、教頭先生の」


 そう言いながら一香は再びパソコンを開く。

 その画面には無残にも虜辱りょじょくされようとしている凛の姿が――

『あ、いててててて!!』

 映っているはずだった。

「凛先輩。この学園では護身術習っていたみたいね。なんでも……カレイシュー……じゃなくて、グレイなんとか柔術部にいたらしいわ」

 和平の瞳に映るのは下腹部を抑えながら蹲る直樹と、両腕を本来曲がってはいけない方向へと導かれようとしている章三の姿。

「だから、こうして二人の弱味を握って逆スパイにしようって話。はい、ここからは部長であるわへい君の出番だよ」

「お、おう……」

 どうしてこういう作戦にしたのかいろいろと突っ込みたかった和平。

 しかし早く部屋に行かないと章三が口だけではなく腕から大きな悲鳴を上げそうなので、何も言わず一香について行く。自分がこれから言うべき台詞をレクチャーされながら。



「凛、話ってなんだ? ……ってお前ら何してる……んだ?」

 扉を開けると、凜から受けたダメージに悶え苦しむ章三と直樹。そしてその二人の間で座り込んで泣きべそをかいている凜が和平の視界に入ってきた。

(あれ? いつの間に体勢変わったんだ?)

「私がメールで合図送ったから」

 声の調子が変わったことで、和平の中に疑問が生じたのを察したのか小声で答える一香。

「こ、こんな人気のない部屋で何を……」

 一香の答えに三人の計画の恐ろしさを感じながらも自分に与えられた役割を和平は何とか果たそうとする。

「あ、和君、来てくれたんだ。すごく怖かったんだよ。この二人が襲ってくるんだもん!」

 凜が和平の元へと駆け寄り、和平が身にまとうワイシャツを掴む。

(凜が本気で掴んだらこのワイシャツ破けるんじゃないか……)

 残暑のこの季節なのに背筋が寒くなるが和平は違和感を覚えない。

「本当なのか! お前ら!!」

 凜への恐怖を払拭しようとまだ床でのた打ち回っている二人に怒りの声を上げる。

「ち、違うんです! 凜先輩が誘ってきて……」

 話せる余裕が残されている直樹が苦しそうに顔を上げながら答える。

「本当か、凜!?」

「半分あっているけど違うもん! この部屋に誘ったのは厭らしいことをするためじゃないもん!」

(今度は目が笑っているぞ……)

 予定調和の問答とはいえ人並みに開かれている目の和平は、凜とは違ってそこさえも笑うわけにはいかない。

 唾を飲み込んで、一息おいてから

「それじゃあなんでこんな部屋に!?」

 凜は両手で目を覆うと

「二人が、私たち麻雀部のことを逐次先生に報告していたからやめるように注意したかっただけだもん!」

「どうしてそれを!?」

「なぜ? っていてててて!」

 二人から驚きの声が上がる。章三は起き上がろうとするが痛めた腕がそれを拒否したようだ。

「席を離れるときは携帯電話は最低でも画面が見えないようにしたほうがいいわよ」

 演技で泣いている凜の変わりに一香がするどく答える。

「そ、それは……」

 痛いところを付かれたのか直樹は顔を伏せる。

「何落ち込んでいるんだ、直樹。俺たちは何も知らないし、何もしていない!」

 章三が立つのを諦めたのか床に大の字を広げながら仲間を励ます。スパイであることを隠すのは諦めないらしい。


「あれ? でもカンコーレ・金轟先生に毎日メールしているって、私は凜先輩から聞いたけど? 嘘なの?」

 一香は今度は落ち着いた口調で首を傾げながら章三に問いかける。

「そうですよ、カンコーレ先生にメールしても意味がないじゃないですか」

 愚問とばかりに答える章三の前に一香は膝を突いて笑顔を見せる。

「そう、じゃあカンコーレ先生じゃなくて別の先生にメールをしていると」

(い、いつもより……か、かわいい……)

 思わず息を呑む和平。あまり見ない彼女のそんな笑顔をより間近で見た章三への効果は抜群だ。

「はい、そうです」

「それは教頭先生かな?」

 章三の視界にさっきまで泣いていたはずの凜のかわいい笑顔が加わる。

「はい、教頭先生です」

「よーし、今の言葉しっかりと録音させてもらったわよー!」

 章三の視界にカメラを持ったかわいい笑顔が入った瞬間――章三と直樹のスパイ任務は完全な失敗と化した。


「スパイを認めちゃったのもそうだけど、その前に女性を襲っている姿をカメラに撮られているんだもん、さすがに教頭先生としてもかばいきれないわよね、森君」

 杏子が意地悪そうな声を章三と直樹に聞こえるようにして和平に顔を向ける。

「そうだな、不埒な動機で麻雀部に入った不良生徒として処分されるだろうな」

 和平がわざと厳しい顔を見せて頷く。

「あんたたちをスパイにした教頭先生は別に麻雀部をつぶす気はないのよ、ただこの部を自分の思い通りにしたいだけ。あの方がこの事件を麻雀部の存続を問われる事態にするわけがないじゃない。だから処分されるのはあなたたちだけよ」

 杏子の話に二人の顔は青ざめる。しかし彼女の言うことは事実ではない、明美本人からそのことは聞いていないのだから。

 だが直からの話を聞くに、明美の麻雀部に対する思いは杏子の話と大きな違いはないと和平は考える。

 しかも麻雀部は校長のお気に入りであることも知っているはずだ。

(そんな教頭先生が麻雀部に処分を下すことはしない)

 確信はないが、和平は自信を持ってこう言える。いや、例え自信がなくてもここでは持たなくてはならない。

「万が一この騒ぎが大きくなっても、お前らがいくら訴えても教頭先生はお前らをスパイに利用したと認めないだろう。女性を襲って処分されるのが嫌だから悪あがきしているとみんなに言うだろうな」

「それ以前に麻雀部を辞めた時点で卒業はほぼ絶望的よ」

 一香がさらに追い打ちをかける。

 秘密裏にこの騒ぎが収まったとはいえ、二人は麻雀部を辞めなくてはいけない。もちろん明美の耳に騒ぎいきさつは入るだろう。そんな男子生徒の卒業を認めるのか? 学園にいる者ならばすぐに答えが出せる愚問だ。


「ど、どうすればいいですか……」

 直樹が悲しそうな声を上げる。抑えている下腹部のせいだけではない。

「教頭先生を安心させながら、私たちの言うことを聞けば見逃してあげるわよ」

 凜がさっきよりもかわいい笑顔を見せる。

「そうね、新たにできた麻雀部に貢献できるのだから十分卒業用件満たすわよ」

 杏子が章三と直樹の交互にカメラを向ける。

「あなたたちが協力しれくれれば、私たちの作戦が成功する。教頭先生を裏切るのはためらいがあるかもしれないけど、別に教頭先生は損しないわ」

 一香が優しく章三の腕に触れる。

「ほ、本当ですか? いててて!」

 一香のタッチに元気を得たものの未だ腕のダメージは抜けていないらしい。

「教頭先生は学園の発展を第一に考えている人だからな。自分が考えていた方法よりこっちの方が学園にいいと思えば自説を引っ込めて協力してくれるだろう」

 これも先程と同じく本当にそうなのかは確信はない。だが嘘でも突き通さなければ彼らは明美を裏切らない。

(麻雀でも変に弱気を見せればダメだからな……)


 四人の説得により章三と直樹は麻雀部のために働くことを誓う。

 和平たち麻雀部の反撃は始まったばかり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ