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どう打つの?森  作者: 工場長
東三局・いろいろと面倒が起こっています
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第十八話 こだわりすぎて大変な事態

 通子がミス葵塚学園コンテストに落ちてから一週間が経った。

 最初は落ち込んでいた彼女だったが、今ではコンテストのことは無かったかのように振る舞っている。立候補した事と合否が関係者以外に分からないようにしているのだから他からからかわれる事はない。

 面接に合格した立候補者は誰かは文化祭当日まで発表されない。仮に合格者が事前に部外者に出馬を伝えたりするなどの選挙運動をしたら失格となる。

 そのためコンテストのことは麻雀部はもちろん他のどこでも話題になることはないのだ。


 今、麻雀部を夢中にさせているのは麻雀ではなくシュウマイと肉まん作り。

 数日前から部室には調理器具が持ち込まれており、みんなその周囲に集まっている。

 結局凛が言った「イーマン」は採用される事になった。

 本人が言うには普通の肉まんに大きく横一文字の切り込みを入れるらしい。

「その切り込みにはお好みで紅ショウガを入れるの。赤い『萬』の意味らしいわね」

 一香が三菜と彩の二人に作り方を説明すると

「本当は焼印を入れたかったんだけど……、間違って人に付けちゃったら大変だからねぇ……」

 凛が寂しそうに肉をこねていく。今日作るのはメニューの試作品だ。

「『イーシュウマイ』の方は上にどうやって『(1)』を描くのでしょう?」

 純が蒸しあがったばかりのシュウマイを前に困り顔だ。

 凛は純の背後を指差し

「そこに食紅あるでしょ。なんか紫っぽいの選んで書きなよ」

「あれ、そういえばヨウ素液って付けたら紫色に染まるんですよね……」

「通子ちゃん、それジャガイモとかの“でんぷん”に対してだから。シュウマイが紫になるとは限らないよ」

 杏子が通子のアイデアにボツの返答。

 和気あいあいと料理を作る部室に和平の姿はない。というか男がいない。女性だけど三華もいない。



「はい、こんな感じでどうでしょうか森部長に九断副部長」

 部室にいない生徒のうち、和平・正二・三華の三人はパソコン室にて文化祭のチラシを作っていた。

 三華がデザインに強いとされるパソコンのユーザーだからだ。当然目の前にあるのも学園では数少ないそのパソコンである。

「そうだね、二年生が中心になっていい感じじゃないのかな」

「俺が上のほうにアップで写っていていいんですかね」

 和平が満足そうに頷き、正二は少し照れてみせる。

「私としては部長や一香さんら三年生を中心にしたかったのですけど……」

 作成した画像を記憶メディアに保存しながら三華が呟く。

「うーん、俺達は半年もせずに卒業だからね……。これからを担う人たちが中心にならないと」

 三華はじっと和平を見つめるが

「分かりました」

 と、パソコンに視線を戻した。

(本当は清水さんやあん子をあまり目立たせたくないって理由なんだけど……)

 和平は心の中で三華に謝る。

(いや、実は三華は知っていて空気を読んでくれているんじゃ……)

 いずれにせよ頼もしい後輩だと和平は三華の後ろ姿を眺めるのであった。



「おいおいおい、実行委員会は本当にやる気があるのか?」

 ミス葵塚学園コンテストにて自分が担当している部の最後の報告メールを見た直はその部の名前をボールペンの線で消していこうとしたが辞めた。

 不合格であった部は名前を消し、合格した部には名前を丸で囲うつもりだったのだが丸で囲まれた部はついに現れなかった。

「二十三もあったんだぞ!? その全てが不合格って合格者どんくらいだ!?」

 直は立候補者二十三人の顔を知っている。その中でもレベルが高いほうの通子が落ちた時点で合格者は少ないと見ていたが、直が通子よりもレベルが高いと思っていた候補者まで落とされてしまった。

 馬鹿馬鹿しい、と直はリストを丸めて捨てようとしたが、何か報告に使うかもしれないため、丁寧に開いて皺を伸ばす。


「私以外の部もどうだったんだ……、絶対合格者多くは無いだろう……」

 葵塚学園にある部やクラブの総数から、どのくらい合格者がでるか、自分が見ていた部での確率を考えていくと……、直は左手で頭を抑えて笑い出す。

「まさかあいつらどこかの大統領選挙みたいに一対一の勝負をするつもりじゃないんだろうな? だったらこの立候補受付や面接の期間はなんだったんだ」

 ひょっとしたら「究極の女子高生対至高の女子高生」のサブタイトルをつけるかもしれない。

 そこまで考えて直は妄想を辞めた。

「いやいやいくらなんでも一対一じゃ問題すぎるだろ。それじゃ文化祭のイベントとして盛り上がらないだろ」

 立候補者が多すぎても問題だが少なすぎるのも問題。しかし事実は直の予想を超えていた。

 


 面接に合格した候補者は一人だけだった。これではまるで実行委員が「ミス葵塚学園」を決めたと言われてもしょうがない。自ら一人に絞ったくせに焦り始める。

 こうして遅まきながらも候補者を増やす方法をと考え始めるのだが……。

「それって、またあなたたちの好みの子を立候補者にしようってこと? じゃあみんなは誰が好きなのかしら?」

 明美の笑顔に委員会は沈黙するしかなかった。

 委員全員好みのタイプが一緒な訳が無い。それゆえに誰かが反対したら即不合格とされた。辛うじて一人だけ全員が「タイプもしくはタイプじゃなくても許せる範囲」だったのだ。

 これでは二人目の候補者ができるまでに時間がかかる。それを自覚しているために何も言えない。

 もっとも一部の立候補者に対する合否判定に明美が参考意見程度に加わっていたのだが、そこを突っ込むことは委員会ができた経緯と自分達の立場を考えるとできるわけがない。

 明美は顔を上げない委員をしばらく眺めた後で

「しょうがないなぁ、私がなんとかしてあげましょう」

 呆れてはいるが彼女は本当に笑顔だった。

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