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どう打つの?森  作者: 工場長
東一局・麻雀部創めました
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第六話 後輩が気合入っている

 翌日朝一番に部室に向かう和平。しかしそこには既に一香がいた。

「あ……、清水さん……」

 二月も末まだまだ朝が寒い時期なのに部室の暖房はつけず、白いコートを羽織ったまま麻雀卓についている。

「麻雀の勉強?」

 和平が後から声をかけると、「はっ」と声を上げて一香は振り向いた。寒いため、声が漏れた口からは白い息が出ている。

「自分なりに、昨日の麻雀を思い出そうと思って」

「そっか、熱心だね」

 和平の返事に一香は少し顔を赤くして。

「私は人の知らないところでいろいろ勉強するから」

 と、呟いた。

「だから一日であそこまで覚えたんだね」

 和平が感心すると、一香は「だから今も……そうなの」と、体を再び麻雀卓に向けた。

「あ……、大丈夫。俺は荷物を置きに来ただけで、これからすぐ部員の勧誘に行くから」

 一香の意図を読んだ和平はその言葉どおり腕章を付けて部室を出る。

(部員になったとはいえ、まだまだ完全に打ち解けたわけじゃないからな。仲良くなれば一緒にいられるのかも)

 熱心に本を片手に麻雀牌とにらめっこする一香を見ながら和平は静かに扉を閉めた。


「あれ、先輩? 始業時間よりだいぶ前ですけど朝練ですか?」

 とりあえず一番人が多そうな玄関に向かうと、口元を黄色のマフラーで覆った通子が話しかけてきた。

「ああ、来た人に麻雀部の勧誘をしようと思ってな、通子も付き合うか?」

 和平が腕章を差し出すと

「はい、教室に荷物を置いたらすぐに戻ってきますね!」

 と、笑顔で階段を駆け上がっていった。

(うん、こういう時のためにいくつか腕章を持ってきてよかった)

 和平は通子が上がっていったばかりの階段を眺めた。日がだいぶ昇ってきたのだろう、階段の上にある窓からは明るい光が差し込んできているのが確認できる。少しでも暖かくなろうと、和平はその光が差す場所へと歩いた。


「お待たせしました、先輩!」

 駆け足で降りてきた通子。マフラーも薄青のコートも脱いで寒気漂う玄関に立つなどだいぶ気合が入っている。

「これ。昨夜私が家で書いてきたものなんです。こうすれば目立つかなーなんた」

 通子が持ってきた紙には大きく「麻雀部、部員募集! 初心者大歓迎」と黒マジックで書かれていた。

「こうすれば、ナンパと誤解されずに声かけられるじゃないですか」

「お、おう……、そうだな」

 一昨日の部員勧誘で和平は一香を翌日入部させるという成果を得たが、正二の方はナンパと誤解されて完敗している。

 通子の存在と、彼女の書いた大きなチラシによって、登校する女子生徒数人と話はできたものの、入部したいと即決してくれる生徒はいないまま、始業時間が近づく。


「十分前か、そろそろ教室に戻らないとな、通子」

「そうですね、簡単に八人揃うわけなんてないですもんね」

 自分の努力が結果に結びつかなかったのに、通子には落ち込む様子が見えない。

 二人とも教室は校舎の上のほうにあるので、階段を登りながら和平は通子に尋ねた。

「ところで通子はどうして麻雀部に入ろうと思ったんだ? 家族でやっていたとはいえ麻雀部なんてできたのはつい一昨日だし、入学時に他の部活に入ろうとは思わなかったのか?」

 通子は立ち止まり、「うーん」と目を瞑って考える。笑顔で目を細めるのは一昨日から見ているけど、始めてみる真剣に目を瞑っている顔もまた可愛いと和平は思った。

「その時学園にあった部に、麻雀以上に楽しいと思えるものが無かったからです。だったら早く家に帰って勉強と麻雀しようって、だから私ずっと帰宅部だったんですよ」

「ふーん、そうなんだ」

「こうして麻雀部を作ってくれた先輩に私ものすごーく感謝しているんです。ありがとうございます。先輩!」

「いや、喜んでもらえるとこっちが嬉しいよ」

 自分の卒業のために作った麻雀部にここまで喜んでもらえるとは……。和平の全身に明るい気持ちが込みあがってくる。

「先輩はこの学園における麻雀の黒船ですよ、フランチャン・ザビエルですよ」

「え、黒船? フランチャン!?」

 和平が聞き返すと、通子は目を丸くして、「あ……」と呟いた後。

「黒船と、フランチャンじゃなくてフランシスコ・ザビエルでした。……ってそれはモノの例えで、要するに先輩は麻雀の伝道師だ、って言いたかったんです」

 「笑いを取るためじゃないんです」と一生懸命否定する通子を見て、和平は噴き出した。

「何笑ってるんですか、こっちは先輩を褒めているんですから、褒め返してくださいよ」

「あははははっ、そっか伝道師か。ありがとう通子。俺もっと麻雀部の部長として頑張れる気になってきたよ」

「その意気です、先輩!」

 二人が気合を入れた直後、始業五分前を告げるチャイムが鳴る。二人は慌ててそれぞれの教室へと戻るのだった。

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