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どう打つの?森  作者: 工場長
東三局・いろいろと面倒が起こっています
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第十一話 三国志馬鹿と言われてもおかしくない

「眼鏡かけて本を持つだけで先生みたいに見えるから不思議だねぇ」

「うん、黒い髪がさらに映えるね」

 一香を眺めながらのんびりと感想を述べる和平と杏子。

「そ……そうかな、立花先生はこんな格好はしないけどちゃんと先生に見えると思うよ」

 照れているのだろうか、一香は本物の教師を引き合いに出す。

 葵塚学園麻雀部は「麻雀プリティーの麻雀教室」と題して、参加者にルールを教えてから実際に麻雀を打ってもらうというシンプルな出し物を行う。

 オープンキャンパスと言ってもここへの進学を考える中学生だけでなくそれ以外の者も参加可能である。実質秋に開かれる文化祭のプレイベント的なものと言ってもよい。


「文化祭なら屋台出しゃいいんだが、こっちは一応学校紹介が主旨だからな。一応学べる要素入れて置いたほうがいいだろ」

 直も一香の姿が気に入ったようだ。

 元からあったものを応用するという特に大掛かりな仕掛けではないのだが、どことなく彼女に気合いが入っているのが伺える。その証拠に和平たちの前に現れてから一度もタバコを見せていないのだ。


「うん、それじゃあ……あたしはトイレに行って来るから卓とかシフトとか最終チェックしておけよ」

 と、一香とその相手役のスケジュールが書かれたプリントを机の上に滑らせるように投げると、直は足速に部室を出た。

「先生、我慢の限界かなぁ」

「トイレでタバコなんてまるで不良ね」

「いや、そこはちゃんと喫煙所だろう」

 杏子が和平と一香の顔を見ながら笑うと、二人も愛想笑いを浮かべるのであった。



 直が作成したシフトによると、純は夕方まで何もすることが無い。

 そのため彼女はこの時間を他の部活を廻ることに決めた。

 特に所属を変えようと思ったわけではない。

 見学しようと覗いても、部員以外他にいなければよほどそこに積極的な思いが無い限り部室に入るのをためらってしまう。

 一人でも誰かが話を聞いていたり見ている姿があれば、入りやすさは格段に増す。

 俗に言うサクラと呼ばれる行為だが、これで部同士が助け合えればと、どの部もが考えていることだ。

 本当は通子も誘う予定だったのだが、彼女はシフトが純より早い上に今は二度寝・三度寝と休日の睡眠を繰り返している。


 そんな純が見つけたのは客がいない部室ではなく、どこに入ろうかと廊下で迷っている初老の男性であった。

(お子さん……いや、もしくはお孫さんのために見に来たのかしら)

 葵塚学園は女子生徒ならばよほどのことが無い限り高校から大学への進学が可能であり、そのため娘の将来のために、と見に来る親は多い。

 しわ一つ無い夏用のスーツをこの季節ネクタイ付きで身にまとう白髪眼鏡の男性はきっとその一人なのだろう、と純は声をかけてみることにした。


「よろしかったら私が案内しましょうか?」

 男性は純が近くにいたことに気がつかなかったようで、驚くような表情で振り向く。

(ま、気配消していたからな……)

 人に気づかれにくくするのは純の特技、そのため彼の反応にはマイナスの感情は抱かない。

「これは……助かります……可愛い孫娘のために何かよいクラブはないかと探していたのですが……」

「ああ、お孫さんのためですか」

 純が頷くと、男性は目を細めて

「本当はこういうのは父親がやるべきなのですが……、肝心の婿は休みとなると一日中釣りに出かけるような男なので……」

 義理の息子を咎めるような内容だが表情にはそれが見られない。逆に嬉しそうに話しているのは婿も、この事態も嫌ではないのだろう。純はこの男性に好感を抱いた。


「そこで、お爺ちゃんのであるあなたがここに来たわけですね……、私が夕方までですけどこの学園を案内しますから」

「ありがとう、お嬢さん」

 男性が恭しく頭を下げると

「お嬢さんなんて照れますので『純ちゃん』と呼んでいただけますか?」

 と、少し顔を赤らめながら彼女は答えた。

「そうですか『純ちゃん』ですか……、ならばわたしは『ぃちゃん』と呼んでください」

「『みぃちゃん』ですか?」

「私の名前が魅国正之助みくに しょうのすけなんでね。でも『みくに』は三国志の『三国』じゃなくて、『魅国』なんですよ」


 三国志と聞いて純は一瞬身を硬くすると正之助の顔を覗いた。

「三国志ですか……、一番好きな武将とかっていらっしゃいます」

 これで正之助が「劉備もしくはその愉快な仲間たち」の誰かを答えても、純は怒るつもりは無い。少し悲しいだけだが、あの黄色い爺さんならその悲しみはちょっとだけ増すだけだ。

 正之助は「三国志の武将……」と呟いた後少し顎を撫でるしぐさを見せたが

「やっぱり上に立つ者悪い評判も恐れない曹操そうそうだな」

 と、はっきりとした声で答えた。

「まあ、孟徳もうとく様ですか!」

「そうそう!」

 純が目を輝かせると正之助は再び目を細めた笑顔になる。

 曹操、字は孟徳。純が大好きな「妙さま」の主君だ。


「私が好きなのは……孟徳様の部下で、弓矢が得意な……」

「ああ、名前はど忘れしちゃったけど字は『妙才みょうさい』さんだね?」

「そう、そうなんです! 私は『妙さま』って呼んでいるんです!」

 すっかり案内をすることを忘れて三国志の話をしようとしている純。

「それじゃあまずは中国に関する部活を純ちゃんに案内してもらおうかな」

 正之助が純が少々暴走気味になっても変わらぬ笑顔で接しているのを見て、純はふと自分を省みる。

「そ、そうですね……、それじゃあまずは、み……魅ぃちゃんに中国史の部活を紹介しようかな……うん、紹介しようかな!」


 なんとか普段の自分に戻そうとするもやっぱり三国志関連に行ってしまう純。

 もっとも彼女の中で麻雀部は最後に連れて行くつもりだったのだ。

 出会い頭ではなく仲良くなったところで、「実は麻雀やっています!」と言っても引かれることは無いだろう、という心配と計算からなのだが……。

 それは杞憂に過ぎなかった。

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