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どう打つの?森  作者: 工場長
東三局・いろいろと面倒が起こっています
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第四話 どちらかといえば甘口だった

 「詠唱魔術研究会」に対する処分問題が解決した翌日。

 和平は残り僅かな一学期の昼食をいつもの定食屋にしようと廊下を歩いていると、

「あ、森さん。昨日はありがとうございました」

 と、廊下の向こう端から詠子が駆け寄ってきた。

「あ、ああ……別に大したことしていないから」

「そんなぁ、謙遜しないで下さいよ」

 本当に貢献できていないのだから謙遜でもなんでもない。少なくとも和平はそう思っている。

 詠子は和平の右腕を肘でつつきながら

「今日は昨日のお礼をしに来たんですよ」

 と、上目遣いに和平を見る。

(わわわっ、『詠唱魔術研究会』の会長なのに、言葉ではなく『視線のマジック』?)

 和平は胸を逸らせながら。

「お、お礼って何かな?」

 と、詠子に尋ねる。

「それはうちの部室に来れば分かりますよ。あ、彩ちゃんと一関さんも呼んでますから。こっちですよ」

 機嫌よく歩く詠子の後を和平は足取り軽くついていく。

(うん? 彩はともかくどうして通子まで?)


 部室の前まで来ると中から知った声が聞こえてくる。

「うわーっ、美味しそうですね。通子先輩」

「ほんと、魔法の力でこんなに美味しいカレーができるんだね」

「二人はもう来ているみたいですね」

 ニッコリと和平を見ながらドアを開ける詠子。室内からほのかにカレーの香りが和平の鼻に来ている。

「あ、部長さんいらっしゃーい」

「先輩、あと少し遅かったら私たちだけ先に食べちゃうところでしたよ」

 中にいたのは通子と彩だけではなく目だけ開いている青い円錐形の覆面を被った部員たち。そのうち一人が中心で鍋のカレーをかき混ぜている。

「ああ、すいません。部員は部室内においては帽子着用なんです」

 そう言いながら扉のすぐ側の机に置かれているとんがり帽を被る詠子。よく見ると詠子の帽子の置かれていた場所は色とりどりの十字架や、火のついていない蝋燭が二重の円を描いている。


「私が魔術師のトップなので」

 そう言いながら詠子は帽子の代わりに白い粉末の入ったビンを置く。

「そ……その白い粉はなんですか?」

 魔術師が持っているので何か特別な力を持つ粉では? と興味を持つ和平。

「えっ、これですか? ただの小麦粉です」

 詠子はビンを和平の前に持ち上げて数回振る。

「そうですよ、先輩。小麦粉です。これがカレーの素になっているんですよ」

 ご飯を皿に盛りながら通子が和平を見る。

「えっ、小麦粉がカレーの素って?」

「部長さん、詠子ちゃんはルーからカレーを作っているんです」

 彩はテーブルクロスを広げながら応える。


 詠子が簡単にカレーの作り方を和平に教える。

「小麦粉やいろんなスパイスとりんごと蜂蜜を混ぜてカレールーを作り、切った材料を炒めてそれをルーと一緒に煮込みながら魔法を詠い続ければ完成します」

「最初は合唱風に呪文を詠うのが活動だったのですが、料理好きの女の子が料理しながら魔法を詠ったらどうか? と言い出してからすっかり料理部っぽくなったみたいですよ」

「まあ、魔法詠って怪しいもの作るより美味しい料理作ったほうがみんな幸せかな、って」

 彩が詠子に代わり現在の活動内容を和平に伝え、詠子が合いの手を入れる。


「あ、その料理好きの子なんですが」

 と、詠子は急に真顔になった。

「その子が昨夜教頭に直訴したんですね」

「ああ、教頭の家で待っていたという……」

 詠子は声を潜めながら和平と通子・彩を呼ぶと

「その子が言うには教頭の家は普段の教頭のイメージとはかけ離れているほど質素だったようですよ」

 トタン葺き木造平屋建ての家からは、彼女の帰りを待つ家族の声が聞こえていたという。

「へーっ、この学園の教頭だから贅沢しているんじゃないかと思ったけど以外だね」

 和平はそこに住んでいる彼女が学園に向かう様子を想像するもいまいち顔が思い出せない。

「ところでその子はいないの?」

 通子が覆面姿の部員たちを眺める。

「彼女は『教頭に直訴したのは罪』と言って……、一日間部活動自主謹慎もとい近所の農家へ無農薬の野菜を探しに行きました」

 彼女が帰り次第、野菜尽くしの魔法を詠う予定らしい。

(つまり無農薬野菜食い放題ってことか)

 それを聞いた和平は脳内に野菜料理を思い浮かべるが、野菜を切っただけのサラダしか出てこない。


 ふとあることを思い出した和平は通子を見る。

「ところで通子はなぜここに?」

「え?」

 通子は「何か問題でも?」と言わんばかりにスプーンを咥えながら和平を見る。

「いや、そんな可愛い表情をしても質問は引っ込めないから」

 照れながら和平は自らの手で顔を仰ぐ。

「私が通子先輩に相談していたんです。そしたら『先輩を通して立花先生に言ってみるのが一番偉い人への近道じゃない』って」

 つまり昨日の彩と詠子の呼び出しは通子が黒幕だったのだ。

 スプーンを離した通子が和平を見つめて

「私だって麻雀部の役に立ちたいんですよ、先輩。これでも将来のことを考えているのですから」

「将来のことって?」

「先輩たちが卒業したら……私と純ちゃんと正二君が麻雀部を引っ張るじゃないですか。今のうち後輩と仲良くしたり、または人を導いたりする経験をしたほうがいいかなぁって……」

「通子……」

 通子の言うとおりで麻雀部の二年生は通子・純・正二の三人しかいない。「麻雀プリティー」の動画で注目されたとはいえ、たまに見学に来る人もいるが入部までする人はいない。「麻雀部」と聞いて避けたり、訝しげに見る人は少なくなってはいるが。

 この状況で和平たちが卒業すると次は通子たちが部を引っ張ることになる。

(まあこの先どれだけ二年生が入っても、俺は初めからいる三人に任せるつもりだったけど……)

 和平としては当たり前と思っていた「次のリーダー」。通子はその自覚をしっかりと持ち、自分がそれに相応しくなるようにできる範囲でその準備をしていたのだろう。


「まあそんなに気張るなよ、通子」

 和平は優しく通子の頭を撫でる。すると突然

「その肩を襲いーしー臆病の虫よぉー、明るい天気の元に乾き物とな、れーい!」

 様々な音程の声が和平と通子たちに降り注いだ。

「えっ、何なに?」

「か、乾き物?」

 驚く和平と通子。彩は笑顔で

「たぶん通子先輩を元気つけるための魔法じゃないんですか」

「はい、一関さんにとって『来年の麻雀部』がプレッシャーにならないように魔法を詠いました」

 いつの間にか詠子が先に小さな星の付いた棒を持っている。

「あ、ありがとう……」

 戸惑いながら各部員に頭を下げる通子。するとカレーをかき混ぜていた部員が

仏陀ブッダの産まれし地より来たり様々な香味よー、この日の本の瑞穂とともにー民の舌で踊りませーいー!」

「カレーが食べごろのようですね」

 詠子が部員からお玉を引き受けてカレーをすくう。

 詠子率いる「詠唱魔術研究会」自慢のカレーは、彼女が「お礼」と言うに相応しく和平を幸せにさせるものであった。

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