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どう打つの?森  作者: 工場長
東二局・このままいけば卒業できそうです
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第二十七話 地雷を踏まれたらふざけるな

「……俺は普通の……」

「……私はイチゴ味……」

「……私は抹茶なんだけどなぁ……」

 誰が示し合わせたわけでもなく三人同時に叫ぶ。

「どうしてみんな、八つ橋!?」


 葵塚学園麻雀部部室、修学旅行より戻った四人は、各自が麻雀部へ買ったお土産を出していた。そこへ和平・一香・杏子の三人が味こそ違え同じ八つ橋であることが発覚し先の三人の叫びに至る。

「三人で行動してなぜそうなるんだ?」

 直が呆れ声を出す。

「いや、俺は個人で食べるものかなぁって……」

「私もそう思っていたけど、わへい君」

「森君、それは私も」

 同じ理由であることにため息を吐く三人。

「まあ、味は違うんだからいいじゃないか」

 と、直はこの日のためにと用意しておいた小さな冷蔵庫に三人のお土産を入れる。

(どんどん雀荘化していくなあ……)

 そう思いながら和平は辺りを見回す。

 お絞りを蒸す機械は卓掃に必要だからと早い段階で部室にあり、その場でお湯を沸かして注げるポットもある。カップ焼きそばが無いのは、すでに学園内の購買で売っている場所があるからだ。

 ホワイトボードと長机・パイプ椅子がなんとか「学校の部室」という体裁を保っているといってよい。


「ところで立花先生はみんなに何を買ってきたんですか?」

 杏子が尋ねると、直は一瞬動きを止めた。

 側に置いていた自分のカバンからお土産を探り、箱の一部だけ出して和平たちに見せる。

「これだ、見てわかるだろ?」

 そこには「チョコレート」と書かれていた。

「チョコレートですか……、気がつきませんでした」

「こう八つ橋が被ると普通のお菓子がありがたいですね」

 和平と一香が感心の声を出すと

「だろ? 京都で八つ橋はありきたり過ぎるからちょっと違うものを、な」

直は得意気に微笑みながら大切そうに抱えたお土産を冷蔵庫に入れる。

「そういえば私たちが八つ橋を買ったお店だけど、チョコレート味とパイナップル味の八つ橋も置いてあったよね?」

 杏子が一香にふとした疑問を呟いたその瞬間、直は勢いよく冷蔵庫を閉めた。


「みんなお帰りー」

 大学の授業を終えた凛が、おそらく廊下に漏れる会話で四人の帰りに気がついたのだろう、笑顔で部室に入ってきた。

「おーう、凛ちゃんお留守番ご苦労」

 直が冷蔵庫から素早く凛の元へ駆け寄る。その隙を突いて杏子が楽しそうな笑みを浮かべて冷蔵庫の中を開けようとするが

「三石! 部を代表して校長室に挨拶に行って来い!」

 直の突然の命令に

「えーっ、そんなぁ……」

 杏子は叱られた子犬のように大人しくなると

「じゃあ行ってきまーす……。普通に挨拶に行けばいいんですね?」

 と、部屋を出る間際に直に尋ねる。

「ああ、行けば分かる」

「はーい」

 杏子が出て行った扉を見ながら、和平は冷蔵庫の中身を察知した。

 しかし、それを直に確認するのは地雷を踏むようなものだと逸る気持ちを抑える。


「先生、毎晩電話でお話した件なんですが……」

「ああ、えーと誰だっけ……、松茸?」

 凛が修学旅行の間に学校で起こった出来事を話そうとすると……。

「松岳四郎だ!!」

 驚くことに当の本人が現れた。

「ああ、そうだ。松岳だ……、ってお前授業中じゃないのか?」

 五人とって授業を受けているはずの生徒の乱入は不意打ちを受けた気分だ。教師である直はその最たるものだろう。

「あなたたち麻雀部が観光バスから降りたのを教室から見た途端にお腹が痛くなりました!」

 つまり仮病を理由に教室を抜け出したのだ。

「……もう一人お供を連れてか……」

「はい!」

 四郎の肩越しに茶色のボブヘアの女子生徒の顔が見える。

「俺たちは色部三菜に陸上部に戻ってほしいと、麻雀部に交渉しましたが残念ながら良い答えを得ることが出来ませんでした!」

 良い答えを返したどころか悪い回答すらしていない。麻雀部員全員が揃うまで無視を決め込んだのだ。その立役者である凛は少し口元を引きつらせながら笑顔で四郎たちを眺める。

 一香も初対面であることを差し引いてもかなり厳しい表情だ。突然の乱入と授業をサボったことが許せないのであろう。

「そこで、今日一緒に連れてきた粟田優子あわた ゆうこと俺とのコンビで麻雀対決をして、勝ったら三菜を陸上部に戻してもらいたい!!」


(何をとんでもないことを言い出すんだこいつは?)

 和平は声よりも先に足が出ていた。四郎のところまで歩くと、右手で壁を思い切り殴る。

 その音に四郎の顔が引きつった。付き合いで来た優子は目を瞑って怯えている。

「てめえ、ふざけるなよ……!」

「わへい君!」

 一香の叫びに次の行動をを止める和平。自分が冷静さを失っていないかを確かめる。

(大丈夫、出るのは言葉だけだ)

 自分自身に確信を得て和平は次なる言葉を吐く。

「この勝負に勝ったら三菜を戻せだと!? 三菜は俺たちやお前らにとっては優勝トロフィーなのか!?」

「え……?」

「分からないって顔しているな、だから『戻せ』なんて言えるんだ! 三菜は一人の人間だろうが! 彼女のやりたいこと、したいことを俺らが麻雀やって決めるなんてそんなひどい話があるか!?」

「麻雀やっている人間がずいぶん麻雀を卑下しているな!」

 四郎が蔑んだような笑みを浮かべる。和平に辛うじて残されていた冷静さは完全に失われた。

「わへい君、手はダメ!」

 一香が必死になって壁から離れた和平の右腕を押さえた。しかし抑えきれぬ衝動は腕の代わりに口から飛び出る。

「麻雀は『必ず人の将来や命や金を賭けなきゃいけない』モノじゃねえんだよ、馬鹿野郎が!! そんなことしなくても楽しく麻雀できるんだ。俺がここで作りたいのはそんな麻雀部だ! どうせお前は麻雀漫画で読んだ麻雀の知識しかないんだろ! それが……」


「はい、和君そこまででいいよー、後は先生に任せてー」

 凛が和平の左腕を掴む。そして一香と目を合わせて頷くと、一気に和平を後ろまで押し込む。

 女性二人が全力で、しかも直も襟を引っ張っていたら、いくら和平が男性であっても一気に四郎から引き離されてしまう。

「和君、話がちょっとズレたよ。それ以上ズレたら『漫画やアニメが犯罪を増加させる』なんて言っている過保護な親と一緒だよ、和君がその人たちと同じ思想なら謝るけど……」

 凛が耳元で囁く。和平は自分が四郎に向けてぶつけた内容を思い返し、冷静さを取り戻していく。

「……すまない、凛・清水さんありがとう」

 和平の力が抜けていく。


 和平が居た場所には直が立っている。後姿しか見えないが、他の者を寄せ付けまいとする激しい気合が感じられる。

「まあ部長が熱くなって叫んじゃったけど、私も彼と同じ考えだからお前らの提案は受け付けないよ」

 背中から出た気合とは対照的に出たのは落ち着いた声だった。

 激しい和平と冷静な直。二つの拒絶を喰らった四郎は最初の勢いをすっかり無くし。

「分かりました、帰ります。粟田さん、帰ろう」

 と、自分の腕を掴んでいる優子に声をかけ、立ち去ろうとしたが

「それで教室に戻って『お腹痛いの治りました』ってか。それは教師として見過ごせないな」

 四郎の左肩に手を置く直。

「ウソをついて授業をサボり、人の部室に押しかけてイチャモンつけるのは立派な罪だ。罰としてお前の悪事、全てここでバレろ」

 何を言っているのか分からない表情を浮かべる四郎。和平も一香も理解できずに顔を見合わせる。

 凛だけはなんとなく分かっているのか普段のニコニコとした表情だ。

「もうすぐ授業が終わる、お前の望みを半分叶えてやるよ」

 凛が麻雀卓に電源を入れた。

 その音を聞いた直は四郎たちの背後へと廻って小さな――しかし和平たちにも聞こえるようなはっきりとした――声を出す。

「座れ、そして麻雀をしろ」

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